魂選塔

中釡 あゆむ

文字の大きさ
上 下
18 / 246
ヒーロー

しおりを挟む
不意に音は止み、瞑った目蓋の裏が青黒くなった。目蓋をこじ開けさせ、青黒さは剥がれていって視界の外へ飛び出し、膜を貼った直後、破裂した音と共に俺は床へ落ちてしまった。


「よう、意気地無し」


声が聞こえたが動けなかった。目の前の景色は廃工場ではない。赤い絨毯が敷かれ、風船を並べた棚がある場所。……魂選塔だ。


呆然としていると横切った人に目を丸くした。


肉体を持った人間だった。気付けばみんな人間の形をしていた。


「……なんだ……? ここは……」


俺はまだ他の思い出でも見ているのだろうか。しかし覚えている記憶は、紛れもなく雪成との思い出を見る前の景色だった。


「ああ、一度思い出を見ると魂は自分の姿を思い出すんだ。お前ももう今は人間の形をしている」


店員が説明してくれる中、手を広げて見てみれば確かに少し焼けた小麦色の肌が視界に入る。頭に触れてみると髪があった。それに学ランを着ている。


思い浮かべなくてもわかる。細長の目、薄い唇をした顔。信じられない思いのまま、転がった巾着袋を手に取り、個数を確かめる。あと六つ。首を傾げた。


「四つ取ったのか?」


「そうだ。思い出によって通貨の数も変わる」


他に聞きたいことはないか。そう言いたげに店員はジッと俺を見てきた。しかしとりあえず思ったことを聞き出すとあとは雪成のことしか頭になかった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

Gゲーム

ちょび
ホラー
──参加する為の条件は【神】に選ばれること── 参加するだけで1000万円を貰える夢のようなゲーム「Gゲーム」。 特設されたガチャから出てくるミッションをこなせばさらに賞金が上乗せされ、上限もない。 但しミッションに失敗すると罰金があり、賞金が減額されてしまう。 Gゲームの最終目標は決められたエリアで1週間過ごす事。それだけ。 これは【神】に選ばれそんなゲームに参加した少年少女の物語。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

『オークヘイヴンの収穫祭』

takehiro_music
ホラー
人類学者エレノア・ミッチェルは、遠隔地の町オークヘイヴンに赴く。そこでは、古代から続く収穫祭が行われていたが、その祭りにはただの風習を超えた、何か得体の知れない力が潜んでいた。町に刻まれた奇妙なシンボル、住民たちの謎めいた言動、そして夜ごと響く不可解な声――エレノアが真実を探るうちに、現実そのものが歪み始める。 この町の収穫祭は、何世代にもわたり受け継がれてきた「儀式」の一部に過ぎないのか? それとも、人知を超えた力が世界のあり方を書き換えようとしているのか? 禁断の書物、隠された言語、そして儀式に秘められた意味を解き明かすうちに、エレノアは恐るべき選択を迫られることになる。 変容と犠牲、言語と現実の交錯する恐怖の中で、人間の理解を超えた真実が明らかになる――。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...