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ヒーロー
二
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下品な笑い声が俺たちを囲み、遠ざかっていく。俯いている雪成に俺は膝をついたまま掴みかかった。
「なんで渡した」
「……晴人には、分からないよ。君はいつも正しいから。弱いところなんてないんだ。ぼくには、たくさんあるんだよ」
山ほど言いたいことはあるのに、顔を上げた雪成の顔は、殴られたみたいにボロボロに見え、言葉を詰まらせた。
雪成は俺を突き飛ばし、走り出した。追いかけることが出来なかった。彼を追いかけるように景色も俺から遠ざかっていった。
ところが今度は灰色が俺へ迫り、取り囲んだ。色は形を作り、廃工場と化す。俺は、身体が鎖で巻かれている痛みに気付く。ついた膝が硬く冷たかった。
「やめろっ!」
付いて出た言葉の先には、ホームレスを囲んだ男たちと、バットを持った雪成がいた。雪成は気がついた俺に視線を寄越すがすぐに逸らした。
「さあ、ユキナリ。このじじいをてめえの手で殺せ。……おい、ヒーローよ。お前はそこで見てろ、お前には見殺しという罪を被せてやるよ」
「なんで渡した」
「……晴人には、分からないよ。君はいつも正しいから。弱いところなんてないんだ。ぼくには、たくさんあるんだよ」
山ほど言いたいことはあるのに、顔を上げた雪成の顔は、殴られたみたいにボロボロに見え、言葉を詰まらせた。
雪成は俺を突き飛ばし、走り出した。追いかけることが出来なかった。彼を追いかけるように景色も俺から遠ざかっていった。
ところが今度は灰色が俺へ迫り、取り囲んだ。色は形を作り、廃工場と化す。俺は、身体が鎖で巻かれている痛みに気付く。ついた膝が硬く冷たかった。
「やめろっ!」
付いて出た言葉の先には、ホームレスを囲んだ男たちと、バットを持った雪成がいた。雪成は気がついた俺に視線を寄越すがすぐに逸らした。
「さあ、ユキナリ。このじじいをてめえの手で殺せ。……おい、ヒーローよ。お前はそこで見てろ、お前には見殺しという罪を被せてやるよ」
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