魂選塔

中釡 あゆむ

文字の大きさ
上 下
4 / 246
魂選塔

しおりを挟む
 モンスターの亡骸の口から出て来たライさんを見て、声も出せずに固まってしまう。
だってそれもそうだろう、死んだと思っていた人がいきなり目の前に出て来て平静を装える人がいるわけない。

「ラ、ライさん……?」
「ん?あぁ……、レース君何故君がここにいるんだい?首都に行った筈じゃなかったかな」
「あ、えっと……」
「顔が真っ青だね、暫くゆっくり深呼吸して落ち着いた方がいい、落ち着くまで待ってるからね」

 ライさんはそういうと中にある袋のような物を口から外すと綺麗に折りたたんでいく。
とりあえず言われたように深呼吸をして、少しずつ気持ちは落ち着いては来たけど……冷静になる程彼がどうしてあの超広範囲を灰にする攻撃の中で生き残れたのかが疑問に思ってしまう。

「さて、落ち着いたかい?」
「……はい」
「なら良かった、とりあえずレース君の事だからどうして俺が生きているのか気になっているのだろうから……先にそっちを答えるよ、さっき出て来た袋に付与された魔術と能力のおかげだよ」

 手に持った袋をぼくに見せてそういうけれど、あれは多分【空間収納】の魔術が付与された魔導具だと思う。
ただ素材が布だから燃えたら意味が無いと思うし、それ以上に空間収納の中に人が入れる何て聞いた事が無い。

「……空間収納に人が入れるの?」
「勿論入れるさ、ただ本来であれば術者が中に入ったら最後……出てこれないという意味ではとても危険だね」
「そうなんだ……、なら魔導具が壊れてしまったら出てこれないんじゃ?」
「そこはトキに付与して貰った能力のおかげだね、ハスと組む事が多いから俺の着る服や道具には【不燃】という一定時間燃えないようになっているんだ」
「あぁ……ハスの戦い方はいつも周辺に炎をばらまくから、確かに必要かも」

 たまたまそういう火属性や、その派生形に対して耐性がある装備をしていたから助かったという事だったみたいだ。
そのおかげで今こうして生きているのだから、本当に良かったと思う。

「ただこの能力は発動してから魔力が尽きるまでの間決して燃える事が無い変わりに、非常に燃費が悪くてね……使えても半刻が限度だよ」
「一時間も使えるなら充分な気がするけど?」
「君はまだ体験してないから分からないと思うけど、ハスの特性【陽炎】は周囲の温度を急上昇させ近づく事さえ困難な状況を作り出すからね、状況次第では半刻でも足りない位だよ」
「一緒に戦ってる時に使ってるの見なかったけど……そんなに危険なんだ」

 本当にそんな能力があるなら、使われた時に耐える事が出来るだろうか……。
……ただアキラさんと一緒に行動していた際に使っていただろうし、もしかしたら何らかの方法があるのかもしれない。
例えば自身の属性を纏ってみるとかだろうか、雪の魔力で冷気を纏えば熱気に耐えられるかも、ハスと合流したら相談してみようかな。

「それにしても驚いたよ、俺がアンデッドの身体を詳しく調べていたら、ドラゴンのアンデッドが現れてね」
「周囲に人のアンデッドもいたから危なかったんじゃ?」
「人のアンデッドに関しては雷の魔術で、筋肉を収縮させて動けないようにしておいたから問題無かったけど、ドラゴンに関しては不意を突かれたから反応に遅れたよ」
「……よくその状態で生き残れたね?」
「俺もそう思うよ、あの時遠くから閃光が近づいて来るのに気づいて咄嗟にドラゴンの口に魔導具をひっかけて中に入らなかったら間違いなく死んでたよ、そういう意味ではこの個体に感謝しないとね」

 そう言ってドラゴンの方を向くと深く頭を下げて動かなくなる。

「ライさん?」 
「ん?あぁ、そういえばメセリーにはこの風習は無かったね、栄花では死者に向けて目を閉じてお辞儀をした後暫く心の中で感謝の気持ちを伝える風習があるんだよ、君の育った国だと死者は直ぐに火葬した後に魔術で圧縮して魔力の篭った宝石にするんだったよね」
「そうらしいけど、身近で亡くなった人を見たこと無いから……経験した事は無いかな」

 メセリーでは亡くなった人を宝石にする事で、その人が生前使えた魔術を込められた魔力の量に応じて使えるようになるらしい。
過去に【魔王】ソフィア・メセリーに、歴代の魔王の遺体を宝石に加工して指輪にしたものを見せて貰った時は綺麗に見えたけど、何時かはぼくも誰かを宝石にする日が来るのだろうか。
育ての親であるカルディア母さんか、又は老いて死別することになったダートかカエデのどちらかかもしれないし、無いとは思うけどルードとの戦いで死んだらぼくがそうなるかもしれない。

「まぁ、いずれ経験する事になるよ」
「ライさんは経験した事あるの?」
「勿論あるさ、栄花騎士団の任務で殉職した仲の良かった団員の葬式とかね……ってつい話が長くなって変な所に行ってしまったね」
「いえ、結構来てて楽しかったから大丈夫だよ」
「そう言って貰えると嬉しいけど、今はそれよりもどうしてここがこうなって、首都に行った筈の君が俺を探しに来たんだい?」

……ライさんの質問に答えるように、彼に会う前に【滅尽】アナイス・アナイアレイトとの間に起きた事や、その後のぼく達の行動について話すのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】女神は推考する

仲 奈華 (nakanaka)
歴史・時代
父や夫、兄弟を相次いで失った太后は途方にくれた。 直系の男子が相次いて死亡し、残っているのは幼い皇子か血筋が遠いものしかいない。 強欲な叔父から持ち掛けられたのは、女である私が即位するというものだった。 まだ幼い息子を想い決心する。子孫の為、夫の為、家の為私の役目を果たさなければならない。 今までは子供を産む事が役割だった。だけど、これからは亡き夫に変わり、残された私が守る必要がある。 これは、大王となる私の守る為の物語。 額田部姫(ヌカタベヒメ) 主人公。母が蘇我一族。皇女。 穴穂部皇子(アナホベノミコ) 主人公の従弟。 他田皇子(オサダノオオジ) 皇太子。主人公より16歳年上。後の大王。 広姫(ヒロヒメ) 他田皇子の正妻。他田皇子との間に3人の子供がいる。 彦人皇子(ヒコヒトノミコ) 他田大王と広姫の嫡子。 大兄皇子(オオエノミコ) 主人公の同母兄。 厩戸皇子(ウマヤドノミコ) 大兄皇子の嫡子。主人公の甥。 ※飛鳥時代、推古天皇が主人公の小説です。 ※歴史的に年齢が分かっていない人物については、推定年齢を記載しています。※異母兄弟についての明記をさけ、母方の親類表記にしています。 ※名前については、できるだけ本名を記載するようにしています。(馴染みが無い呼び方かもしれません。) ※史実や事実と異なる表現があります。 ※主人公が大王になった後の話を、第2部として追加する可能性があります。その時は完結→連載へ設定変更いたします。  

無能な陰陽師

もちっぱち
ホラー
警視庁の詛呪対策本部に所属する無能な陰陽師と呼ばれる土御門迅はある仕事を任せられていた。 スマホ名前登録『鬼』の上司とともに 次々と起こる事件を解決していく物語 ※とてもグロテスク表現入れております お食事中や苦手な方はご遠慮ください こちらの作品は、 実在する名前と人物とは 一切関係ありません すべてフィクションとなっております。 ※R指定※ 表紙イラスト:名無死 様

視える僕らのルームシェア

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

意味が分かると怖い話 完全オリジナル

何者
ホラー
解けるかなこの謎ミステリーホラー

君との空へ【BL要素あり・短編おまけ完結】

Motoki
ホラー
一年前に親友を亡くした高橋彬は、体育の授業中、その親友と同じ癖をもつ相沢隆哉という生徒の存在を知る。その日から隆哉に付きまとわれるようになった彬は、「親友が待っている」という言葉と共に、親友の命を奪った事故現場へと連れて行かれる。そこで彬が見たものは、あの事故の時と同じ、血に塗れた親友・時任俊介の姿だった――。 ※ホラー要素は少し薄めかも。BL要素ありです。人が死ぬ場面が出てきますので、苦手な方はご注意下さい。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

彷徨う屍

半道海豚
ホラー
春休みは、まもなく終わり。関東の桜は散ったが、東北はいまが盛り。気候変動の中で、いろいろな疫病が人々を苦しめている。それでも、日々の生活はいつもと同じだった。その瞬間までは。4人の高校生は旅先で、ゾンビと遭遇してしまう。周囲の人々が逃げ惑う。4人の高校生はホテルから逃げ出し、人気のない山中に向かうことにしたのだが……。

近くて便利!スプーキーリサイクル

中靍 水雲
ホラー
スプーキーリサイクル そこはいらないものを買い取ってくれるお店。 何を買い取っているのかって? それは、人の恐怖———! おそろしい恐怖体験と、それにまつわる物。 それを買取り、お金に変えてくれるのだ。 今日もまた、スプーキーリサイクルに来客があった。 ひとりは、トウヤという恐怖体験をした少年だ。 そして、もうひとり。 おびえるトウヤに「ついてきてくれ」と言われ、仕方なく来店した少年、サクマだ。 いよいよ、買い取り査定がはじまる。 ぽつぽつとトウヤが恐怖体験を語り出す。 (話を盛ってもムダ。店主は気づいてしまうよ。何しろ、店主はただの店主ではないからね) トウヤの話が終わった、そのときだった。 突然トウヤは、謎の人物によって神隠しされてしまう。 戸惑うサクマに、スプーキーリサイクルの店主が言った。 「いっしょにトウヤを助けよう。そのためには、もっともっと、たくさんの恐怖を買い取らないといけないけれどね——」 そう、鬼の店主・ルドンは言った。 表紙イラスト:ノーコピーライトガールさま

処理中です...