花懐古

柚木音哉

文字の大きさ
上 下
8 / 13

8.連理 Ⅱ  *R18*

しおりを挟む
 あなたがあなたであることが、私にとっての奇跡だと思う。

「春花、あんたに一つだけ黙っていたことがある」

「んっ……な、に?」
 唇を合わせながら彼が言った言葉に、春花は清十郎を見上げた。紅くなった目尻の潤んだ瞳と上気した頬が、清十郎の瞳を捉える。
「俺は……花菱の国主の血族なんだ。力が強いのはその所為で、花菱の血筋には多かれ少なかれ神の力が宿る。この不知火城は、俺の城だ。浅見は臣下に下った時の姓。俺の名前は、浅見清十郎忠直と言う」

「は?!」

 春花の快楽に熟れた頭の中の熱さが引き波のようにすうっとひいた。
 今、この人すごいこと言わなかった?
 この城の殿様に、春花は今だに会ったことは無かった。城下の者達は、清十郎をここの殿様と知らずに接しているのか。と、問えば、
「俺の血脈が絡むと色々とややこしいんだ」
 などと返事が返って来た。国主の一族って、結構な地位があるのでは無いのか?

「改めて問おう。この浅見清十郎忠直に嫁いで来てくれるか?」

「あ、あの……ちょっと待って! 確認するけど、他に奥様が居たりは……」 
 側室だとか正室だとか、この世界ではどうか知らないが、現代日本で育った春花は一夫多妻には流石に抵抗がある。子を成すことが女の役目、などと言われることもあった戦国の世であれば、それも有り得るかもしれない。
「おらん。面倒な女は嫌いだが、俺が惚れてるのはあんただけだ」
「でも、お殿様だったらその……」
 急にもじもじとしだした春花に、清十郎は更に口説き落とす。焦れたようにその手を己の一回り大きな手で包み込むように組み、握り伏せると、額がくっつきそうなほど顔を近くに寄せ、欲情で掠れてしまった声でそっと囁いた。

「あんたが、欲しい」

 ああ、狡い。
 その一言で、もう、この人が何者であっても良い気がした。そもそも春花はこの世界の人間では無い。
 元々、彼らの理からは外れた人間なのだから、縛られる必要もまた無いのだ。

「…………はい」

 春花が答えると、柔らかく幸せそうな笑みを浮かべて清十郎が笑った。
 この人は滅多に笑わないからこそ、その優しい笑みを目にすると、つい、胸がときめいてしまうのだ。きゅん、と身体の奥が潤むように疼いた。
 その笑みを、春花は一生忘れないだろう。
「はるか」
 小袖の裾をそっと割り開き、 ごつごつとした大きく暖かい手が滑らかな内腿をなぞる。ぞわぞわと背筋を滑る快感は、霊を視る時に伝うものとは全く違い、春花の身体の奥がジュクジュクと熱を上げていく。その場所を触って欲しいのに、清十郎はその場所を敢えて触れずに脚先に唇を落とした。踝から脹脛、膝裏、内腿に唇を落とし、肝心な場所に触れない。
「……ぁ…清十郎さまっ……んぁ…ッ…」
「どこを触って欲しい?」
 焦れて腰が揺れる。分かっているのに、この男は意地悪く笑い、こちらを見下ろしている。刺激が欲しくて、その場所から溢れ出す蜜を止められ無い。
 この人が見ている、それだけでその場所は涎を垂らしてひくひくと蠢き、蜜を増やしてこの男が欲しいと、身体が勝手に受け入れる準備をするのだ。
「まだ触れてないのにこんなに濡らしているのか」
「…ッ……ゃッ…見ないで……! 恥ずかし…っ」
 春花にとって、初めてのことであるのに。
「……あんた、本当に可愛いな……」
 いつもは「面白い」と言う、この男が、可愛いと形容したことに驚いて、潤んだ瞳で見上げれば、清十郎はこくりと唾を呑む。

「ぁあああッ……ンぁ……っぁん!」

 ふいに温かくヌルりとした感触が、春花の秘所を覆う。蜜を啜られ、ざらついた舌を入れられ、その花弁の上にある小さな突起に歯を当てられた。身体が自分の意思とは別にヒクついて背中が弓なりに仰け反る。
 くちくちと卑猥な水音が自分の耳にいやらしく聴こえて来て、そのせいで益々蜜が溢れた。その場所に彼の唇が吸い付き、小さな突起を舌先で突かれると、身体の奥から蜜が溢れ、それをまたこの男が啜る。
 頭がふわふわしてくる。どうにかなりそうだ。
 身体中が熱くて、熱くて、その熱を逃がす方法が欲しくて、腰が勝手に揺れてしまうのを止められ無い。
「あぁぁッ……んン!」
 ヌプりと、何かが春花の中に挿入された時は耐えられず、声を上げてしまった。それが彼の指だと気づいたのは、ややあってのことだ。花芯を親指でくりくりと弄りながら、彼の太く長い指が抜き差しされる度に水音が大きくなっていく。
 やがて、くの字に曲げられた指先が、その一箇所を擦る度に、大きく喘ぐ春花を見ながら彼は自身の下半身に熱が集まり、赤黒い分身が力強く漲るのを感じていた。
「早く……あんたの中に、挿入はいりたい」
 反り返って先走りの液を垂らしながら、清十郎の長くて太い反り返った肉茎が花芯に触れると、その熱さと刺激だけで春花は意識が飛びそうになる。ぐちゅぐちゅと泡立つ、自身と彼の蜜を潤滑剤がわりに互いの性器を擦り合わせると、春花の腰はそうとは知らずに、その甘い快楽を追うように淫らに動く。
「ぁ、これ、なんか……熱いっ…清十郎さまもっ…ぁあッ! これ、気持ちッ…はぁっ…ィイ?」
「あぁ……気持ちいい。もう…」
 息を詰め、呻くような清十郎の声が耳を擽り、春花の子宮がきゅんとした。
「春花……挿入いれるぞ」
 ざわざわと背筋を、甘い戦慄が感覚が走る。小さく頷く彼女の蜜壷が潤んだままぱくぱくとヒクついて、彼の訪れを待ち望みながら、涎を垂れ流している。
「はるか……」
 蜜を纏わり付かせ、清十郎の臨戦態勢の熱く反り返った肉茎が、春花の入口に宛てがわれ、その白い片脚を肩に担がれると息を呑む間も無く、一気に挿入されていく。
「ッぁあああ!」
 重く、身体に打ち込まれた楔が、春花の狭い蜜壷をめりめりと拓く。
「……ッ……」
 清十郎の息が乱れ、その美しい顔には汗が滲んでいる。熱く蕩けているのに中は狭く、ざらざらとした春花の膣内の、ぎゅうぎゅうと畝るような動きに持って行かれそうになるのを堪え、そのぽってりとした唇を荒い仕草で奪った。
「清十郎……さまぁっ……ッ」
 春花は初めての痛みに瞳を潤ませ、清十郎に抱きつく。繋がった箇所が熱く、ひりつように痛んだが、それを上回る幸福感に視界が潤む。
 今、春花は一人、では無い。
 二人であるものが、隙間無く繋がっている。
 私は、この人だけのもの。
 この人は、私だけのもの。
 湧き上がる幸福感はどこから来るのか。誤魔化すように、細い腕が清十郎の背中を抱え込み、しがみつく。彼と自分の間で押し潰された大きく柔らかな乳房が清十郎の欲情を煽り、赤く尖った乳首が清十郎の熱く硬い肌に触れる度、春花の中が熱く疼いた。

 痛みはまだあるのだろうが、彼女と繋がる自身の肉茎が埋まるその狭く熱い中の感触が気持ち良過ぎて、清十郎は堪えるように歯をくいしばっていた。先程から煽られ続けた身体中が性感帯になったように敏感に反応し、快楽を追ってしまうのをやめられ無い。肩口に感じる彼女の息遣いですら愛おしい。愛おしいから、続けたい。
「……動いても、大丈夫か?」
 切羽詰まった彼の声に、春花は無言で頷き、その背中に回す腕に力を込めた。
 正直、痛みと圧迫感と、重く子宮近くにまで届くそれが苦しい。だけど、繋がっていることが嬉しくて、それすらも愛しくて、彼を離したくなかった。

「……ぁあアッ……んっ……ひぁっ……」

 それでも、少し馴れて来たのか、先ほどよりもずっと甲高いあえかな声があがる。
 肉のぶつかる音に混じり、粘着質な水音と、はぁはぁという互いの激しい息遣いに加え、己の舌足らずな嬌声がこの小さな部屋の中で嫌に大きく聞こえ、それがまた恥ずかしくて、一層の蜜を溢れさせた。
 清十郎から揺すられる度に、たぷたぷと跳ね回るように揺れる白く大きな乳房を下から掬うように捏ねて揉みしだき、その熟れた尖端を吸い上げながら、自身を突き立てられれば、春花は背中を駆け巡る甘い快楽に腰をくねらせて喘いだ。
 大きく腰を捏ねくり回すように突き、深く、時に浅く、激しく抽送される彼自身の張り出た部分が、やがてある一点を擦る度、既に快楽に染まった春花の、更に信じられ無いほどの快楽を引き摺り出して行く。その場所を擦り上げる度に、春花の中が清十郎から離れまいと追い縋る。甲高く声を上げてしまうのを、やめられない。春花は焼き切れた理性の中で甘く、甘く、艶やかな声で喘ぐ。
「あっ……ぁあっ! そ、そこは…ッ……ひぁ、らめっ……あぁあ!」
 春花が彼の腰に脚を巻きつけると、清十郎は深く深く自身を何度も突き入れた。
 絹を裂くような甲高い声で、彼女は啜り泣きながら果てた。
「……ッ!!」
 春花の膣内が清十郎を搾り取るようにぎゅうぎゅうと収縮し、ついに、清十郎も春花の中で振りたくるように腰を動かし、自らの子種を吐き出した。

 びくん、びくんとイっしたばかりで小刻みに痙攣する春花の中で、熱い飛沫が吐き出されているのを感じながら、春花はもう一度いっしてしまった。長く射精をしながら、中を更に突き上げ、ようやく清十郎は春花の中から出て行く。粘ついた銀糸が繋がっていた部分から糸を引き、膣内に収まり切らなかった互いの蜜の混じり合って泡立ったものと、白い精液がこぷりと流れ出て、春花は気を失いながら身体をひくつかせる。

 清十郎の欲はまだ治まり切らなかったが、それでも、惚れた女をその腕に抱き込むと、満足げに目を閉じた。

しおりを挟む

処理中です...