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15.自覚してしまいました。
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「……美月は綺麗なんだから、そうやってもっと着飾ればいいのに」
キスの合間を縫って吐き出した熱っぽい息に混じり、レオンハルトの声がぽつりと呟く。
「――わ、私は、綺麗なんかじゃ……」
「じゃあ、言い直しましょう。美月は可愛い人です。君がそんな風に言うのは勝手ですけど、僕はそれ以上『なんか』などと自分を貶めるような言葉は、口にして欲しくはありませんから、それ以上言うとまたその口を塞ぎますよ?」
「……っ」
以前にも、自分を卑下するような言い回しをする美月をレオンハルトは窘めたことがあった。日本人は概ね謙遜するし、立場を尊重する為に自分を下げるような言い回しをする時があるが、美月の場合は殊に自分の容姿のことになると、自信がなさ過ぎることが彼は気に入ら無いようだ。
抱き締められた身体に回る彼の腕が、更に強く力を込める。
「ねぇ……美月、君はもっと自信を持って良いんですよ? 美月みたいな人は、他にはいないし、君がここへ戻って来てくれて、僕は嬉しい。僕は君にずっと、もう一度会いたかったんですから」
「レオンハルト……様?」
「……それと。もう、そろそろレオンと呼んではくれませんか?」
苦笑混じりにそう言って、レオンハルトが美月の華奢な身体を抱く腕を少し緩めると、彼女はレオンハルトを覗き込むようにして向き直った。
ずっと、自分には恋なんて……人を好きになることなんて無いと思っていた。
この世界に戻って来た自分を、『美月』と言う人間を、待ち望んでくれた。この人は、美月の絵だけでは無くて、自分も肯定してくれる。
会いたかったと言ってくれる。
こんなに胸がいっぱいになる感情を、自分が持つことになるなんて、思いもよらなかった。
美しい青の瞳が、美月を見ている。
互いの視線が絡めば、ただそれだけできゅっと胸が苦しくなる。
離れている間に、頭一つ分高くなった彼の顔を見つめ返しながら、口を開いた。どくどくと、先ほどから早鐘を打つ心臓の音も速さも、なかなか鎮まりそうも無い。
「……レオン様」
「様なんて、他人行儀ですね。レオンで良いんですよ。美月には、そう呼んで欲しい」
にこりと微笑んだレオンハルトが、美月に言い直すように促すから、彼女は躊躇いながらも彼の名を呼んだ。
「レオン」
「……はい」
レオンハルトは心底嬉しそうに笑いながら、美月の腕を引いて、その腕に再び抱き込む。
「ぅ、わわっ?」
「嬉しいです」
そう言って、抱き寄せた腕の中の美月に微笑みかけるレオンハルトの顔を見た時、美月の体温がぶわりと上がった気がした。
「――っ!?」
(心臓が……止まるかと思った……)
顔が熱い。耳が熱い。頭の中が瞬間沸騰したみたいに、ぐらぐらする。
何なんだ。レオン……は、この魅力的な人は。
金の髪も、青い瞳も、顔立ちも、見惚れるくらい綺麗な人だけど、それ以上に彼の……心底嬉しそうに笑った今の表情の方が、美月の鼓動を早めた。
「おや? 真っ赤ですね。可愛い」
「――……っ!!」
レオンハルトが余裕の表情を浮かべても、美月は彼から目を逸らすことが出来ない。
相変わらず心臓はばくばくと音を立てて、身体は心拍数が上がり過ぎて、ちょっと震えている。きゅうっと胸が切なく、痛くなる。
(ああ、だめだ。私、この人のこと好きだ……)
本当はとっくに惹かれていたのかもしれない。
それは、最初に出会った時から?
それとも、ここへ再び戻って来てから?
どちらでもいい。
今ので確信した。
(いつの間にか、私は彼を好きになってたんだ)
胸は早鐘を打っている。緊張もあるのだと思う。だけど、同時に、自分を抱き締めている思いの外硬い腕の心地良さに安心感も感じている。この感覚を何と言うのだろう?
「美月……」
再び唇を合わせた。そっと柔らかく、二人の隙間を埋めるように、唇を重ね、その後、ゆっくりと美月の瞼に唇を落とした。
「僕は、成長したでしょう?」
「……うん。成長し過ぎ」
「君も、前よりずっと綺麗になりました」
美月の頰に唇を押しつけ、レオンハルトが優しく微笑む。
「……レオンもかっこよくなった」
「今なら、僕を男として見てくれますか?」
覗き込むように自分を見る彼の視線が、美月の視線に合わせて尋ねてくる。
「……そんなの、とっくに……」
「とっくに?」
その先をまた口籠る美月に、レオンハルトは辛抱強く待っている。この先をどうするか考えているうちに、ふと、先ほどから、レオンハルトに良いように誘導されて、自分だけ恥ずかしい思いをしている気がして来た。
……なんか、悔しいんですけど。
「…………っ……なんでも無い」
美月が少し膨れてそっぽを向くと、レオンハルトは目を丸くして、次に。
「……くっ……はははは」
声に出して笑い出した。
「なっ……何で笑うの?」
「くくっ……いや、やっぱり美月は、なかなか手強いなと思って」
どこか胡乱げに彼を見る美月に、おかしくて仕方ないと言う様子でレオンハルトは、身体を震わせている。
「いや、失礼。僕は君のそういうところが好きですよ」
さらりと「好き」だと言われて、美月は一瞬口をぽかんと開けたが、それが揶揄われているのだと思い直し、また少しむくれた。
「……また、そんなこと言って……」
「揶揄ってなんていませんよ。本音です」
「じゃあ、それって、どういう――」
――コンコン。
「旦那様、申し訳ありません。王太子殿下より、急ぎの連絡が来ております」
美月がその真意を確かめようとした時、運悪くレオンハルトの侍従の声が掛かる。急ぎの要件であれば仕方の無いことだ。
「――ああ。わかった」
短く返事をしたレオンハルトが、美月から離れる。話を中断されて、二人は顔を見合わせた。
「この話はまた今度にしましょう。今回こそは、時間はあるでしょうし」
レオンハルトが離れたせいで、二人の間に隙間が空く。今まですぐ近くにあったぬくもりが消えて、何だか少し寂しい。
唇を重ねたのは、ついさっき。
甘い予感に身体を震わせたのも、胸が高鳴ったのも。
「絵の進み具合はどうですか?」
「えっ? ま、まあまあ……今は構図が決まらなくて、ずっと考えています」
突然絵の話を振られて、美月は少し面食らいながら、小下図に悩んでいることを正直に話す。
「じゃあ、近いうちにきっと休みをもぎ取りますから、一緒に過ごしましょう」
「え?! 休みとれるの?」
この仕事人間とも言えるレオンハルトが休みをとる?! 驚いて尋ねる美月に、レオンハルトは少々皮肉っぽく口元を歪めた。
「……良いんですよ。この半年は休み無く働いている上に、今日の僕の仕事は既に終わらせています。アルがわざわざ呼び出して来るなんて、きっと仕事絡みです。数日休みを取るぐらいは許されます」
「半年?!」
「ええ」
「半年も休んで無いの?!」
「……ええ。前に休みを取った時は、領地の行事に出席する為でしたから、確か半年……」
いや、それ全然休んで無いから!
と、心の中で美月が突っ込んだが、彼は平然としている。
仕事人間だとは思っていたが、ここまでとは思いもよらなかった。
「お休み……」
「ん?」
「お休み、ぜっったい貰って来てくださいね!」
美月が、レオンハルトの手を握りながら言うと、彼は最初は少し驚いて……その後に、どこか嬉しそうに大きく頷いた。
「ええ。君がそう言うなら、必ず」
キスの合間を縫って吐き出した熱っぽい息に混じり、レオンハルトの声がぽつりと呟く。
「――わ、私は、綺麗なんかじゃ……」
「じゃあ、言い直しましょう。美月は可愛い人です。君がそんな風に言うのは勝手ですけど、僕はそれ以上『なんか』などと自分を貶めるような言葉は、口にして欲しくはありませんから、それ以上言うとまたその口を塞ぎますよ?」
「……っ」
以前にも、自分を卑下するような言い回しをする美月をレオンハルトは窘めたことがあった。日本人は概ね謙遜するし、立場を尊重する為に自分を下げるような言い回しをする時があるが、美月の場合は殊に自分の容姿のことになると、自信がなさ過ぎることが彼は気に入ら無いようだ。
抱き締められた身体に回る彼の腕が、更に強く力を込める。
「ねぇ……美月、君はもっと自信を持って良いんですよ? 美月みたいな人は、他にはいないし、君がここへ戻って来てくれて、僕は嬉しい。僕は君にずっと、もう一度会いたかったんですから」
「レオンハルト……様?」
「……それと。もう、そろそろレオンと呼んではくれませんか?」
苦笑混じりにそう言って、レオンハルトが美月の華奢な身体を抱く腕を少し緩めると、彼女はレオンハルトを覗き込むようにして向き直った。
ずっと、自分には恋なんて……人を好きになることなんて無いと思っていた。
この世界に戻って来た自分を、『美月』と言う人間を、待ち望んでくれた。この人は、美月の絵だけでは無くて、自分も肯定してくれる。
会いたかったと言ってくれる。
こんなに胸がいっぱいになる感情を、自分が持つことになるなんて、思いもよらなかった。
美しい青の瞳が、美月を見ている。
互いの視線が絡めば、ただそれだけできゅっと胸が苦しくなる。
離れている間に、頭一つ分高くなった彼の顔を見つめ返しながら、口を開いた。どくどくと、先ほどから早鐘を打つ心臓の音も速さも、なかなか鎮まりそうも無い。
「……レオン様」
「様なんて、他人行儀ですね。レオンで良いんですよ。美月には、そう呼んで欲しい」
にこりと微笑んだレオンハルトが、美月に言い直すように促すから、彼女は躊躇いながらも彼の名を呼んだ。
「レオン」
「……はい」
レオンハルトは心底嬉しそうに笑いながら、美月の腕を引いて、その腕に再び抱き込む。
「ぅ、わわっ?」
「嬉しいです」
そう言って、抱き寄せた腕の中の美月に微笑みかけるレオンハルトの顔を見た時、美月の体温がぶわりと上がった気がした。
「――っ!?」
(心臓が……止まるかと思った……)
顔が熱い。耳が熱い。頭の中が瞬間沸騰したみたいに、ぐらぐらする。
何なんだ。レオン……は、この魅力的な人は。
金の髪も、青い瞳も、顔立ちも、見惚れるくらい綺麗な人だけど、それ以上に彼の……心底嬉しそうに笑った今の表情の方が、美月の鼓動を早めた。
「おや? 真っ赤ですね。可愛い」
「――……っ!!」
レオンハルトが余裕の表情を浮かべても、美月は彼から目を逸らすことが出来ない。
相変わらず心臓はばくばくと音を立てて、身体は心拍数が上がり過ぎて、ちょっと震えている。きゅうっと胸が切なく、痛くなる。
(ああ、だめだ。私、この人のこと好きだ……)
本当はとっくに惹かれていたのかもしれない。
それは、最初に出会った時から?
それとも、ここへ再び戻って来てから?
どちらでもいい。
今ので確信した。
(いつの間にか、私は彼を好きになってたんだ)
胸は早鐘を打っている。緊張もあるのだと思う。だけど、同時に、自分を抱き締めている思いの外硬い腕の心地良さに安心感も感じている。この感覚を何と言うのだろう?
「美月……」
再び唇を合わせた。そっと柔らかく、二人の隙間を埋めるように、唇を重ね、その後、ゆっくりと美月の瞼に唇を落とした。
「僕は、成長したでしょう?」
「……うん。成長し過ぎ」
「君も、前よりずっと綺麗になりました」
美月の頰に唇を押しつけ、レオンハルトが優しく微笑む。
「……レオンもかっこよくなった」
「今なら、僕を男として見てくれますか?」
覗き込むように自分を見る彼の視線が、美月の視線に合わせて尋ねてくる。
「……そんなの、とっくに……」
「とっくに?」
その先をまた口籠る美月に、レオンハルトは辛抱強く待っている。この先をどうするか考えているうちに、ふと、先ほどから、レオンハルトに良いように誘導されて、自分だけ恥ずかしい思いをしている気がして来た。
……なんか、悔しいんですけど。
「…………っ……なんでも無い」
美月が少し膨れてそっぽを向くと、レオンハルトは目を丸くして、次に。
「……くっ……はははは」
声に出して笑い出した。
「なっ……何で笑うの?」
「くくっ……いや、やっぱり美月は、なかなか手強いなと思って」
どこか胡乱げに彼を見る美月に、おかしくて仕方ないと言う様子でレオンハルトは、身体を震わせている。
「いや、失礼。僕は君のそういうところが好きですよ」
さらりと「好き」だと言われて、美月は一瞬口をぽかんと開けたが、それが揶揄われているのだと思い直し、また少しむくれた。
「……また、そんなこと言って……」
「揶揄ってなんていませんよ。本音です」
「じゃあ、それって、どういう――」
――コンコン。
「旦那様、申し訳ありません。王太子殿下より、急ぎの連絡が来ております」
美月がその真意を確かめようとした時、運悪くレオンハルトの侍従の声が掛かる。急ぎの要件であれば仕方の無いことだ。
「――ああ。わかった」
短く返事をしたレオンハルトが、美月から離れる。話を中断されて、二人は顔を見合わせた。
「この話はまた今度にしましょう。今回こそは、時間はあるでしょうし」
レオンハルトが離れたせいで、二人の間に隙間が空く。今まですぐ近くにあったぬくもりが消えて、何だか少し寂しい。
唇を重ねたのは、ついさっき。
甘い予感に身体を震わせたのも、胸が高鳴ったのも。
「絵の進み具合はどうですか?」
「えっ? ま、まあまあ……今は構図が決まらなくて、ずっと考えています」
突然絵の話を振られて、美月は少し面食らいながら、小下図に悩んでいることを正直に話す。
「じゃあ、近いうちにきっと休みをもぎ取りますから、一緒に過ごしましょう」
「え?! 休みとれるの?」
この仕事人間とも言えるレオンハルトが休みをとる?! 驚いて尋ねる美月に、レオンハルトは少々皮肉っぽく口元を歪めた。
「……良いんですよ。この半年は休み無く働いている上に、今日の僕の仕事は既に終わらせています。アルがわざわざ呼び出して来るなんて、きっと仕事絡みです。数日休みを取るぐらいは許されます」
「半年?!」
「ええ」
「半年も休んで無いの?!」
「……ええ。前に休みを取った時は、領地の行事に出席する為でしたから、確か半年……」
いや、それ全然休んで無いから!
と、心の中で美月が突っ込んだが、彼は平然としている。
仕事人間だとは思っていたが、ここまでとは思いもよらなかった。
「お休み……」
「ん?」
「お休み、ぜっったい貰って来てくださいね!」
美月が、レオンハルトの手を握りながら言うと、彼は最初は少し驚いて……その後に、どこか嬉しそうに大きく頷いた。
「ええ。君がそう言うなら、必ず」
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