魔王討伐の勇者は国を追い出され、行く当てもない旅に出る ~最強最悪の呪いで全てを奪われた勇者が、大切なものを見つけて呪いを解くまで~

紗沙

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第4章 魔王の影を払う少女

第114話 世界の果て

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 そこは、世界の果てだった。
 人の住まぬ地のさらに奥だった。
 人が住むことをしないのではなく、許されない地だった。

 人も、木々も、草木もない台地の上に築かれた城の姿はアルゴルの魔王城に似ていた。
 けれどその城にはアルゴルの魔王城と決定的な違いがある。
 アルゴルの魔王城はレオの手により無人で、人が入ることもない。

「……ふむ」

 しかしその城の一番奥には、一人の女性が玉座に腰を下ろしている。
 灰色の髪の間から、同じく灰色の瞳が鋭く光っている。
 彼女は緩慢な動きで玉座から立ち上がり、首を傾げた。
 長い灰色の髪が揺れているのが、闇の中なのにはっきりと見えた。

「アトが消えたか」

 エリシアの内部に居た、傑作とも言える呪いが消えたことに女性は苛立ってはいなかった。
 長い時間をかけて作り出したそれが何の効果も発揮できずに消されても、それに対して思うことはない。

「誰が?」

 妖艶な唇が動き、疑問を口にする。
 アトが消えたのは良い。彼女にとって大事なのは誰がそれを成したかである。
 勇者もどきならばどうでもいい。灰色の少女ならば興味がある。けれど。

「ミリアを消した勇者であることを願う」

 もしも彼であれば、嬉しいことはこれ以上ない。
 ニヤリと口角を上げ、邪悪な笑みを張り付けた女性は控えていた魔物に声をかける。

「銀天使を起動しろ。城に待機させておけ」

 頷いた魔物は、足早に謁見の間を飛び出していく。
 恐れているからではなく、そのように作られているからだ。
 魔物は地下へと向かい、命令通りに起動させるだろう。

 彼女の蒐集物の中でも最高傑作である、それを。

 日の光が永遠に射すことのない無人の城で、たった一人の人である彼女は待ち続ける。
 長い年月の中で得てしまった退屈を壊せる程の何か、あるいは誰かを。
 その姿は「灰色の女性」という呼び名がふさわしかった。

 第4章 魔王の影を背負う少女 完
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