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第4章 魔王の影を払う少女
第82話 彼女の持つ戦闘の才能
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武器屋で必要なものを買い占め、南の街はずれの草原でレオ達は座り込んでいた。
彼らが囲む中心には二振りの刀が置かれている。
一つは白い柄に白い鞘で、柄の端には勾玉のようなものが紐で括りつけられていた。
もう一つは対照的に黒の柄に黒の鞘で、柄の端には何もない。
どちらもそれなりの名刀であることは一瞥すれば分かる。
手入れもしているようだが、追いつかなくなっているのだろうか?
「この刀はいつから?」
「……ずっと前から」
エリシアの言葉を聞いて納得し、黒い刀を手に取る。
刃は見事な出来ではあるが、やはり年季を感じさせる。
「……それは多分、エリーが生まれる前からある」
「なるほど」
エリシアが手にする前から魔物を斬ってきたのだろう。
手入れが追い付かなくなるのも納得の年季ものだ。再構成をした方が早いだろう。
そう結論付けたレオは武器屋で購入した材料を広げ、その中で一番良さそうなものを選んだ。
それを刃へと押し付け、祝福を開放させる。
「…………」
レオの普通とはまるで違う武器の研磨を、エリシアはただ黙って見ていた。
もしも知らない人がこの光景を見たならば、もっと真剣に研いでくれと言ってくるに違いない。
多少は信用してくれているということだろうか。
材料の構成そのものを祝福で強化し、素材そのものが変わってしまう段階まで引き上げたのちに、それを刃へと流し込む。
レオが手にした材料に呼応するかのように、エリシアの黒い刀が眩い光を発し始める。
黒い刀の刃の材質をさらに硬くし、欠けた部分を補うように材料を流し込んでいく。
(懐かしいな)
他の誰もできない手腕を行使しつつ、レオは感傷に浸った。
ザ・ブロンドを手にする前は自分の剣を同じように研磨したものだ。
この世ならざる現在の武器では必要ないためにしばらくしていなかったが、やはり武器を触っているときというのは心が躍る。
やがて刀の光は眩さを減らし、レオの手には小さくなってしまった材料と、刃が完全に戻った黒い刀が収まっていた。
太陽の光を反射させながら刃に傷や修復しきれていない部分がないか確認し、自分の仕事が完璧だと確信したレオはそれをエリシアへと差し出した。
「…………」
彼女は何も言わずに柄を握る。
けれど天に向けた刃を見る目は輝いているように見えた。
いつもは空虚な瞳の中にわずかだが光があるような、そんな気がした。
「……ありがとう」
言葉短く、そして先ほど見た光は嘘だったように消えた瞳でエリシアは礼を告げる。
しかし、その雰囲気が柔らかいことと、背後の尻尾がゆっくりとだが揺れていることをレオの目は捉えていた。
どうやら、喜んでくれているらしい。
「これでよければ白い方もやるが、いいか?」
「……おねがい」
エリシアから許可を得たので白い刀も同じように行えば、二振りの刀は長年使ってきたとは思えない程、輝きを取り戻した。
二つの刀を掲げ、握り具合を確かめたり刃を擦りあっている様子を見ながら、レオは内心で穏やかな笑みを浮かべた。
エリシアは相変わらずの無表情であるものの、雰囲気は喜びの色で満ちていたし、尻尾も少しだけ動きを速くしていた。
「……ねえレオ、あの刀、大丈夫なの? レオの力入れて、凄いことになったりしてない?」
そんなエリシアの様子を眺めていたリベラは小さな声でレオに耳打ちする。
どうやらリベラはレオの祝福が刀を別次元のものに変えていないか心配しているようだ。
「大丈夫だよ」
「……そう」
リベラは最初こそ納得いっていないようだったが、やがて「戦闘に関することでレオが言うことだし」と呟いて離れていった。
心配性だなぁと思いつつ、レオはエリシアに視線を戻す。
二振りの刀がリベラの言うように「凄い」というほど強化されたわけではない。
あくまでちょっと強化されたくらいである。
なお、この場合の「ちょっと」はレオ基準とする。
「神様の力が入った刀……神刀……はっ! それはつまり、神具ということなのでは――」
「はいはーい、パインはちょっと黙ってようねー」
何故か急にエリシアの刀を喉から手が出るほど欲しそうな目で見はじめたパインを止めるリベラの構図を視界の隅に入れつつ、レオは思案する。
じたばたする羽交い絞めされたパインには慣れてしまったので、今考えるのはエリシアのこと。
今もそうだが、彼女は戦いに関してかなり興味というか、熱意があるように見える。
表には出ないけれど、今も彼女は嬉しそうな雰囲気を出していて、加えて戦闘時はピリピリとした武人特有の闘気をみなぎらせている。
バランもそのくくりには入るのだが、エリシアはバランをはじめとする冒険者とは何かが違う気がしていた。
どちらかというと自分に近いような、そんな気がする。
「エリシア、もっと強くなりたくはないか?」
だからだろう、自然とそんな言葉が出ていた。
レオからすれば、エリシアはどこか放っておけないのだ。
声を掛けられたエリシアは刀からレオへと空虚な瞳を向ける。
雰囲気が明るくなったように見えたのも一瞬で、すぐにそれは収まってしまった。
その切り替えはあまりにも早く、レオの動体視力をもってしても感じ間違えたと思うくらいだった。
「……強く、してくれるの?」
その言葉には、レオでは測り知れないほどの複雑な感情が込められているように思えた。
だからこそレオは何も言わず、ただしっかりと頷くことで返答とした。
「…………」
じっと視線をぶつけあうレオとエリシア。
二人の雰囲気に、アリエス達が少しそわそわした雰囲気を見せ始めた時。
「……お願い」
エリシアが小さくだが、答えてくれた。
レオは内心で安堵の息を吐く。
「ああ、わかった」
「……エリーは強くあれと言われたし、そうありたい」
珍しく長いエリシアの呟きに、レオは心のどこかで引っ掛かりを覚えた。
強くあれと言われたし強くありたい。それは、彼女の本心なのだろう。
だから彼女は刀を直すことで喜んでくれたし、戦闘に対して熱意を出している。
けれど、黒い鎧との戦いで見せた死ぬことを恐れるようなあの姿。
そして今の言葉の節々に見えた、その言葉をあざ笑うような感情。
それらが、エリシアをただの戦いが好きな少女ではないとレオに訴えていた。
×××
平原で向かい合い、レオとエリシアは対峙する。
エリシアの両手にはレオが修復した刀。
そしてレオの手には、いつもの剣が握られていた。
「……それ、使うの?」
眉を吊り上げ、レオの剣を見るエリシア。
その瞳には、どこか恐れのようなものが映っていた。
「え? ああ、使い慣れているからな」
「……殺さないでね」
「も、もちろん」
会話の不思議さに内心で首を傾げつつも、レオは間違ってエリシアを殺すほどの力を出すつもりはないために、はっきりと返答した。
エリシアはレオの返事に恐怖を霧散させ、刀を抜き放って構える。
その構えを見て、レオは自分の意見を少し変えた。
(我流かと思ったけど、かすかに元の型のようなものが見える)
黒い鎧との戦いを見てレオはエリシアの剣技を我流だと判断していたが、こうして正面から見てみるとそれは少し間違いのように思われた。
元々習得している型があって、それをエリシアなりに戦闘の中で進化させたように見受けられる。
「いつでもいいよ」
レオがそう告げた瞬間、エリシアは地面を蹴って迫る。
常人ならば目を見張る程の脚力を乗せた刃が風を切り、レオの首を捉えんとする。
人間にとって致命的な急所を狙った速く鋭い一撃。
しかし、レオからすればそれは遅すぎる。
「……っ!?」
あっさりと剣で防いだ時に、珍しくエリシアが目を見開いた。
しかし、その驚きが防がれたことではないことはレオにも分かっていた。
彼女はすぐに距離を取り、興味深そうな瞳を右手の白い刀に向けている。
「……これ」
これまでの刀との違いに驚いているのだろう。
レオも昔だが、感じたことがある。
刃こぼれした刀と修復した刀は、大きすぎる違いがあるのだ。
さまざまな方向から刀を見ていたエリシアだが、すぐに首を横に振り、再び戦闘へと意識を切り替えたのが分かった。
同時に背後からリベラの刺すような視線が背中に突き刺さるのも感じたが、レオは無視した。
何をそんなに怒っているのだろうか。
「……ごめん、取り乱した」
「ああ、いいぞ」
短く言葉を交わせば、また戦いが再開される。
エリシアは持ち前の俊敏さを存分に使い、さまざまな角度からレオに斬りこむ。
その全ての斬撃を的確に防ぎながら、レオは内心で改善できる点を思い浮かべていった。
打ち合いは長い時間続いた。
その間、レオは全ての攻撃を息一つ上がることなく防ぎきった。
けれど全力で打ち込んだエリシアは息が上がってきている。
「もういいよ」
そう告げるとエリシアは攻撃を止め、少しだけ離れた。
荒くなっていた息もすぐに整えていたため、どうやらまだ余裕はありそうだ。
「うん、エリシアの実力は冒険者の中でずば抜けてると思う。
戦い方次第だけど、バランにだって勝つこともできるはずだ。
でも改善できる点が2つある」
「…………」
エリシアは黙ったままじっとレオの言葉に耳を傾けている。
それは聞くことを放棄しているのではなく、むしろ一言一句聞き逃さないようにしているように思えた。
「まず1点目、エリシアは速いけどたまに攻撃が雑になるんだ。
以前黒い鎧との戦いを見た時も思ったけど、まだ敵を見きれていない。
どこに刀を打ち込めば一番良いか、どこなら敵が反応しづらいか、そういったことを考えると、より効率的に戦えると思う」
「相手の事を、よく見る」
食い気味に返してくるエリシアに少し気おされつつも、レオは続けた。
「そして2点目。速い戦士にありがちだけど、一撃が軽い。
とはいえそれを重くすると逆に速さが失われるから、事前に準備出来る強大な一撃を持つのがおススメだ」
2点目に関しては同じような答えをカイルやスイードに一度話したことがある。
結果として彼らはその強力な一撃を星域装備にしてしまったために、レオの意図はくみ取られなかったのだが。
「例えば、今身体強化に使っている魔法の一部を刀の刃に流し込んで強化するとか」
右手に持った剣を持ち上げ、刃に指を沿わせて魔力を送り込む。
レオの持っている剣が光り輝き、その鋭さを増したことをエリシアに見せると同時、反発するような力を感じてレオは指を離した。
「こんな感じ」
「……なるほど」
相変わらずの無表情に空虚な瞳だが、雰囲気は凛としている。
嬉しいことにどちらの指摘もエリシアの助けになったようだ。
ここから先、それらを物にできるかどうかは彼女次第ではあるが。
そんな事を思ったのち、レオは魔力に反発した自分の剣へと視線を下ろす。
ザ・ブロンドは他の力を嫌う。
今のように魔力のみならず、祝福すらこの剣は受け入れない。
拒絶するかのように、反発する力を放出するのが常だった。
「…………」
エリシアはレオの目の前で白い刀に指を沿わせ、彼がやったのと同じように魔力を流し始める。
金色の光が刃を包むものの、それはレオが行ったときよりは薄く、暗く、不安定だった。
指を離し、難しそうな雰囲気を出したエリシアに対して、レオは内心で苦笑いをした。
「何度もやっていればそのうち出来るようになる。
体には魔力を流せるんだから、あとは武器に魔力を流すことに慣れるだけさ」
「……頑張る」
短く言って、エリシアは再び魔力を流す作業へと戻ろうと指を刃へと動かす。
かと思いきや、不意にその動きを止め、じっとレオを見つめた。
「……?」
「…………」
しかし結局はエリシアは何も言うことなく、視線を自分の刀へと落とした。
何かを聞こうとしているのではないかと思ったものの、結局レオはエリシアに聞くことはなく、彼女の訓練を眺め続けた。
彼らが囲む中心には二振りの刀が置かれている。
一つは白い柄に白い鞘で、柄の端には勾玉のようなものが紐で括りつけられていた。
もう一つは対照的に黒の柄に黒の鞘で、柄の端には何もない。
どちらもそれなりの名刀であることは一瞥すれば分かる。
手入れもしているようだが、追いつかなくなっているのだろうか?
「この刀はいつから?」
「……ずっと前から」
エリシアの言葉を聞いて納得し、黒い刀を手に取る。
刃は見事な出来ではあるが、やはり年季を感じさせる。
「……それは多分、エリーが生まれる前からある」
「なるほど」
エリシアが手にする前から魔物を斬ってきたのだろう。
手入れが追い付かなくなるのも納得の年季ものだ。再構成をした方が早いだろう。
そう結論付けたレオは武器屋で購入した材料を広げ、その中で一番良さそうなものを選んだ。
それを刃へと押し付け、祝福を開放させる。
「…………」
レオの普通とはまるで違う武器の研磨を、エリシアはただ黙って見ていた。
もしも知らない人がこの光景を見たならば、もっと真剣に研いでくれと言ってくるに違いない。
多少は信用してくれているということだろうか。
材料の構成そのものを祝福で強化し、素材そのものが変わってしまう段階まで引き上げたのちに、それを刃へと流し込む。
レオが手にした材料に呼応するかのように、エリシアの黒い刀が眩い光を発し始める。
黒い刀の刃の材質をさらに硬くし、欠けた部分を補うように材料を流し込んでいく。
(懐かしいな)
他の誰もできない手腕を行使しつつ、レオは感傷に浸った。
ザ・ブロンドを手にする前は自分の剣を同じように研磨したものだ。
この世ならざる現在の武器では必要ないためにしばらくしていなかったが、やはり武器を触っているときというのは心が躍る。
やがて刀の光は眩さを減らし、レオの手には小さくなってしまった材料と、刃が完全に戻った黒い刀が収まっていた。
太陽の光を反射させながら刃に傷や修復しきれていない部分がないか確認し、自分の仕事が完璧だと確信したレオはそれをエリシアへと差し出した。
「…………」
彼女は何も言わずに柄を握る。
けれど天に向けた刃を見る目は輝いているように見えた。
いつもは空虚な瞳の中にわずかだが光があるような、そんな気がした。
「……ありがとう」
言葉短く、そして先ほど見た光は嘘だったように消えた瞳でエリシアは礼を告げる。
しかし、その雰囲気が柔らかいことと、背後の尻尾がゆっくりとだが揺れていることをレオの目は捉えていた。
どうやら、喜んでくれているらしい。
「これでよければ白い方もやるが、いいか?」
「……おねがい」
エリシアから許可を得たので白い刀も同じように行えば、二振りの刀は長年使ってきたとは思えない程、輝きを取り戻した。
二つの刀を掲げ、握り具合を確かめたり刃を擦りあっている様子を見ながら、レオは内心で穏やかな笑みを浮かべた。
エリシアは相変わらずの無表情であるものの、雰囲気は喜びの色で満ちていたし、尻尾も少しだけ動きを速くしていた。
「……ねえレオ、あの刀、大丈夫なの? レオの力入れて、凄いことになったりしてない?」
そんなエリシアの様子を眺めていたリベラは小さな声でレオに耳打ちする。
どうやらリベラはレオの祝福が刀を別次元のものに変えていないか心配しているようだ。
「大丈夫だよ」
「……そう」
リベラは最初こそ納得いっていないようだったが、やがて「戦闘に関することでレオが言うことだし」と呟いて離れていった。
心配性だなぁと思いつつ、レオはエリシアに視線を戻す。
二振りの刀がリベラの言うように「凄い」というほど強化されたわけではない。
あくまでちょっと強化されたくらいである。
なお、この場合の「ちょっと」はレオ基準とする。
「神様の力が入った刀……神刀……はっ! それはつまり、神具ということなのでは――」
「はいはーい、パインはちょっと黙ってようねー」
何故か急にエリシアの刀を喉から手が出るほど欲しそうな目で見はじめたパインを止めるリベラの構図を視界の隅に入れつつ、レオは思案する。
じたばたする羽交い絞めされたパインには慣れてしまったので、今考えるのはエリシアのこと。
今もそうだが、彼女は戦いに関してかなり興味というか、熱意があるように見える。
表には出ないけれど、今も彼女は嬉しそうな雰囲気を出していて、加えて戦闘時はピリピリとした武人特有の闘気をみなぎらせている。
バランもそのくくりには入るのだが、エリシアはバランをはじめとする冒険者とは何かが違う気がしていた。
どちらかというと自分に近いような、そんな気がする。
「エリシア、もっと強くなりたくはないか?」
だからだろう、自然とそんな言葉が出ていた。
レオからすれば、エリシアはどこか放っておけないのだ。
声を掛けられたエリシアは刀からレオへと空虚な瞳を向ける。
雰囲気が明るくなったように見えたのも一瞬で、すぐにそれは収まってしまった。
その切り替えはあまりにも早く、レオの動体視力をもってしても感じ間違えたと思うくらいだった。
「……強く、してくれるの?」
その言葉には、レオでは測り知れないほどの複雑な感情が込められているように思えた。
だからこそレオは何も言わず、ただしっかりと頷くことで返答とした。
「…………」
じっと視線をぶつけあうレオとエリシア。
二人の雰囲気に、アリエス達が少しそわそわした雰囲気を見せ始めた時。
「……お願い」
エリシアが小さくだが、答えてくれた。
レオは内心で安堵の息を吐く。
「ああ、わかった」
「……エリーは強くあれと言われたし、そうありたい」
珍しく長いエリシアの呟きに、レオは心のどこかで引っ掛かりを覚えた。
強くあれと言われたし強くありたい。それは、彼女の本心なのだろう。
だから彼女は刀を直すことで喜んでくれたし、戦闘に対して熱意を出している。
けれど、黒い鎧との戦いで見せた死ぬことを恐れるようなあの姿。
そして今の言葉の節々に見えた、その言葉をあざ笑うような感情。
それらが、エリシアをただの戦いが好きな少女ではないとレオに訴えていた。
×××
平原で向かい合い、レオとエリシアは対峙する。
エリシアの両手にはレオが修復した刀。
そしてレオの手には、いつもの剣が握られていた。
「……それ、使うの?」
眉を吊り上げ、レオの剣を見るエリシア。
その瞳には、どこか恐れのようなものが映っていた。
「え? ああ、使い慣れているからな」
「……殺さないでね」
「も、もちろん」
会話の不思議さに内心で首を傾げつつも、レオは間違ってエリシアを殺すほどの力を出すつもりはないために、はっきりと返答した。
エリシアはレオの返事に恐怖を霧散させ、刀を抜き放って構える。
その構えを見て、レオは自分の意見を少し変えた。
(我流かと思ったけど、かすかに元の型のようなものが見える)
黒い鎧との戦いを見てレオはエリシアの剣技を我流だと判断していたが、こうして正面から見てみるとそれは少し間違いのように思われた。
元々習得している型があって、それをエリシアなりに戦闘の中で進化させたように見受けられる。
「いつでもいいよ」
レオがそう告げた瞬間、エリシアは地面を蹴って迫る。
常人ならば目を見張る程の脚力を乗せた刃が風を切り、レオの首を捉えんとする。
人間にとって致命的な急所を狙った速く鋭い一撃。
しかし、レオからすればそれは遅すぎる。
「……っ!?」
あっさりと剣で防いだ時に、珍しくエリシアが目を見開いた。
しかし、その驚きが防がれたことではないことはレオにも分かっていた。
彼女はすぐに距離を取り、興味深そうな瞳を右手の白い刀に向けている。
「……これ」
これまでの刀との違いに驚いているのだろう。
レオも昔だが、感じたことがある。
刃こぼれした刀と修復した刀は、大きすぎる違いがあるのだ。
さまざまな方向から刀を見ていたエリシアだが、すぐに首を横に振り、再び戦闘へと意識を切り替えたのが分かった。
同時に背後からリベラの刺すような視線が背中に突き刺さるのも感じたが、レオは無視した。
何をそんなに怒っているのだろうか。
「……ごめん、取り乱した」
「ああ、いいぞ」
短く言葉を交わせば、また戦いが再開される。
エリシアは持ち前の俊敏さを存分に使い、さまざまな角度からレオに斬りこむ。
その全ての斬撃を的確に防ぎながら、レオは内心で改善できる点を思い浮かべていった。
打ち合いは長い時間続いた。
その間、レオは全ての攻撃を息一つ上がることなく防ぎきった。
けれど全力で打ち込んだエリシアは息が上がってきている。
「もういいよ」
そう告げるとエリシアは攻撃を止め、少しだけ離れた。
荒くなっていた息もすぐに整えていたため、どうやらまだ余裕はありそうだ。
「うん、エリシアの実力は冒険者の中でずば抜けてると思う。
戦い方次第だけど、バランにだって勝つこともできるはずだ。
でも改善できる点が2つある」
「…………」
エリシアは黙ったままじっとレオの言葉に耳を傾けている。
それは聞くことを放棄しているのではなく、むしろ一言一句聞き逃さないようにしているように思えた。
「まず1点目、エリシアは速いけどたまに攻撃が雑になるんだ。
以前黒い鎧との戦いを見た時も思ったけど、まだ敵を見きれていない。
どこに刀を打ち込めば一番良いか、どこなら敵が反応しづらいか、そういったことを考えると、より効率的に戦えると思う」
「相手の事を、よく見る」
食い気味に返してくるエリシアに少し気おされつつも、レオは続けた。
「そして2点目。速い戦士にありがちだけど、一撃が軽い。
とはいえそれを重くすると逆に速さが失われるから、事前に準備出来る強大な一撃を持つのがおススメだ」
2点目に関しては同じような答えをカイルやスイードに一度話したことがある。
結果として彼らはその強力な一撃を星域装備にしてしまったために、レオの意図はくみ取られなかったのだが。
「例えば、今身体強化に使っている魔法の一部を刀の刃に流し込んで強化するとか」
右手に持った剣を持ち上げ、刃に指を沿わせて魔力を送り込む。
レオの持っている剣が光り輝き、その鋭さを増したことをエリシアに見せると同時、反発するような力を感じてレオは指を離した。
「こんな感じ」
「……なるほど」
相変わらずの無表情に空虚な瞳だが、雰囲気は凛としている。
嬉しいことにどちらの指摘もエリシアの助けになったようだ。
ここから先、それらを物にできるかどうかは彼女次第ではあるが。
そんな事を思ったのち、レオは魔力に反発した自分の剣へと視線を下ろす。
ザ・ブロンドは他の力を嫌う。
今のように魔力のみならず、祝福すらこの剣は受け入れない。
拒絶するかのように、反発する力を放出するのが常だった。
「…………」
エリシアはレオの目の前で白い刀に指を沿わせ、彼がやったのと同じように魔力を流し始める。
金色の光が刃を包むものの、それはレオが行ったときよりは薄く、暗く、不安定だった。
指を離し、難しそうな雰囲気を出したエリシアに対して、レオは内心で苦笑いをした。
「何度もやっていればそのうち出来るようになる。
体には魔力を流せるんだから、あとは武器に魔力を流すことに慣れるだけさ」
「……頑張る」
短く言って、エリシアは再び魔力を流す作業へと戻ろうと指を刃へと動かす。
かと思いきや、不意にその動きを止め、じっとレオを見つめた。
「……?」
「…………」
しかし結局はエリシアは何も言うことなく、視線を自分の刀へと落とした。
何かを聞こうとしているのではないかと思ったものの、結局レオはエリシアに聞くことはなく、彼女の訓練を眺め続けた。
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朝日 翔龍
ファンタジー
それはある世界の、今よりずっと未来のこと。いくつもの分岐点が存在し、それによって分岐された世界線、いわゆるパラレルワールド。これは、そ無限と存在するパラレルワールドの中のひとつの物語。
その宇宙に危機を及ぼす脅威や魔族と呼ばれる存在が、何度も世界を消滅させようと襲撃した。そのたびに、最強無血と謳われるレジェンド世代と称されたデ・ロアーの8人集が全てを解決していった。やがては脅威や魔族を封印し、これ以上は世界の危機もないだろうと誰もが信じていた。
しかし、そんな彼らの伝説の幕を閉ざす事件が起き、封印されていたはずの脅威が蘇った。瞬く間に不安が見え隠れする世界。そこは、異世界線へと繋がるゲートが一般的に存在し、異世界人を流れ込ませたり、例の脅威をも出してしまう。
そんな世界の日本で、実験体としてとある施設にいた主人公ドンボ。ある日、施設から神の力を人工的に得られる薬を盗んだ上で脱走に成功し、外の世界へと飛び出した。
そして街中に出た彼は恐怖と寂しさを覆い隠すために不良となり、その日凌ぎの生き方をしていた。
そんな日々を過ごしていたら、世界から脅威を封印したファイター企業、“デ・ロアー”に属すると自称する男、フラットの強引な手段で険しい旅をすることに。
狭い視野となんの知識もないドンボは、道中でフラットに教えられた生きる意味を活かし、この世界から再び脅威を取り除くことができるのであろうか。
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