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第4章 魔王の影を払う少女
第75話 実力を測るための決闘
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「遅れて悪かったな。俺はバラン・エクスフィールド。こっちはエリシア・ラックだ」
レオの前の席に座った金髪の男性が自己紹介をする。
彼はバランという名前らしく、驚いたことにレオの目を見て話をしてくる。
瞳の奥には恐怖の感情が見えるが、それを抑え込んで話しているようだ。
「……レオだ」
短い返事をすると、バランは深く頷いて笑みを浮かべた。
「いやー、受付嬢から話は聞いたけど、なかなかの実績だな。
あんたみたいな冒険者が来てくれると、この国も安泰だよ」
「……いや、その……いいのか?」
親しげに話しかけてくるバランに対してレオは思わず聞いてしまう。
彼はレオの呪いを恐れていないように見えるが、それでも目には恐怖の感情が見える。
レオの言葉にバランは笑顔を苦笑いに変えて、申し訳なさそうな顔をした。
「……悪い。正直言うと、あんたの右目は恐い。
でもそれはあんたのせいではないだろう。だから、大丈夫だ。
ちょっと怖がっちまうのは、悪いがな」
正直に話してくれたバランに対して、レオはかなりの好感を抱いた。
これまで出会った人で、自ら恐怖を口にする人は居なかった。
けれどバランはレオの右目を恐ろしいと形容したうえで、それでも構わないと言ったのだ。
それが、嬉しかった。
「……レオと呼んでくれ」
「……よろしく、レオ。
ああそうだ。俺には非戦闘員が一人いるんだ。
依頼を受けるにあたって同行させる予定なんだが、そこは大目に見てくれると嬉しい」
「構わない。それはこっちも同じだ」
バランの非戦闘員がメイド一人なのに対して、レオ側には三人も居るのだ。
そこに対して文句を言うつもりなど毛頭なかった。
ちらりと視線をバランの横に座る少女、エリシアに向ける。
彼女はレオとバランの話を聞いていないようで、じっと虚空を眺めているようだった。
視線に気づいたのか、全く反応を返さないエリシアの代わりにバランが答える。
「あぁ、エリシアもつい最近この街に来て、ちょうど一人だったから声をかけたんだ。
見慣れない剣技を使うけど、実力は俺が保証する」
「……そうか」
短く返事をしたものの、レオはバランの言葉を疑ってはいなかった。
エリシア・ラック。そう呼ばれた少女は腰に二振りの剣を携えている。
柄に特殊な装飾が施された鞘の形状的に曲線を描く剣のようで、確か刀という名前の武器だったはずだ。
服装もここら辺では見ない少し変わったものだが、彼女もまたバランと同じく相当な実力を持っていることが伺える。
その力を身に着けるまでに、彼女のように小柄な少女がどれだけの戦地を見てきたのか。
フード付きの黒い外套が、ゆらゆらと揺れていた。
「……男一人に、女二人」
何か思うところがあるのか、リベラが小声でつぶやいたのを聞いた。
「……わたし達も同じですけどね」
アリエスの返事も耳に入る。
バランとエリシアには聞こえない程度の声量で話しているようだが、内容を聞いても意味は理解できなかった。
「それじゃあレオ、本題に入ろう。
この街を騒がせている黒い鎧の魔物について。
俺達はその出で立ちが歩兵のように見えるから、黒い鎧の兵士と呼んでいる。
そして俺はこの魔物に一度遭遇している」
真剣な表情へと切り替えたバランに目を向けるレオ。
「その時は無様にも負けて撤退しちまったけどな。
けれどエリシアとレオの二人を考慮するなら、勝てるかもしれない」
勝てるかもしれない、という言葉にレオは内心で少しだけ不満を抱いた。
それは隣に座るアリエスやリベラも同じだったのだろう。
勝てるかもではなく、勝てるとレオは確信している。
魔王城の門番と同じくらいの強さならば、レオにとって黒い鎧の兵士を倒すのは容易い。
違う個体でそれよりもはるかに強く、シェイミと同じくらいの実力を所持しているとなれば話は別だが。
しかしバランはそんなレオ達の心の機微には気づかないようで事情を話し続ける。
「簡単に経緯を話すと、このアルティスは昔から魔物の被害が多くてな。
俺達冒険者や勇者の力を借りて倒してきたんだが、少し前から魔物が段々と強力になり始めた。
そしてつい先日登場したのが黒い鎧の兵士だ」
はぁ、と溜息を吐いてバランは一呼吸着く。
彼も以前から魔物の討伐に当たっていたのだろう、声の中には疲れがにじみ出ていた。
「最初は盗賊崩れが適当な甲冑でも身に纏って悪さしているのかと思ったんだけどな。
戦いの最中にヘルムの中に剣を突き刺したんだが、手ごたえがなかったんだ。
っていうわけで、とりあえず魔物認定して今に至るって感じだ」
「その兵士の黒い靄というのは?」
「甲冑の隙間から出ているものだな。
量が多すぎて、体全体を包むような感じになっている不気味な靄さ。
一応注意して観察したが、呪いではなさそうだった」
ここまで聞いた内容は全てレオが魔王城で討伐した魔物の特徴と一致している。
嫌な予感がし始めた。
「……その魔物の得物は?」
「身の丈くらいのハルバードだ」
「そうか」
レオは静かに告げて沈黙する。
魔王ミリアの城に居た魔物でほぼ確定だ。
今のところ何一つ違っている情報がない。
「本当なら明日には討伐と行きたいところだが、困ったことに黒い鎧は神出鬼没でどこにいるか分からなくてな。
それにせっかくパーティを組むんだ。それならまずは連携を確かめないとな。
ってわけで明日は適当な依頼を全員でいくつか受けてみて色々と確認をしたいんだが、問題ないか?」
「…………」
自分にだけ聞いてくるバランに対してレオはエリシアに目を向けて沈黙する。
今まで彼女は声を発することなくただこの場に居るだけだ。
アリエス達も言葉を発していないが、エリシアは戦闘をする冒険者で関係者の筈。
彼女の許可は得なくていいのかと思ったのだが。
「……かまわない」
それは小さいものの、鈴を転がしたような澄んだ声だった。
しかし目線はレオにもバランにも向けることなく、遠くに向けられている。
「……エリシアはこんな調子で俺が頑張って決めたことに全面的に賛成なんだ。
特に反対意見もなければ追加意見もない。
助かるには助かるけど、な」
苦笑いするバランは、今までもエリシアの扱いに苦労してきたのだろう。
多くを語らないエリシアは自分やシェイミのように特定の機関に属するのに向いているように思える。
そんな彼女を気に掛けるバランに、彼の面倒見の良さを実感した。
「分かった。俺としても問題はない」
「…………」
話に対して文句はないために、レオは正直にそう話した。
しかし、バランは真剣な顔のままレオをじっと見る。
何も言わず、レオの中の何かを見ているようだった。
「……今までやってきた依頼も、そして今日持ち込んだ魔石も見せてもらった。
レオは思った以上に軽装で、それでいて体や鎧に傷も見当たらない。
正直に答えてくれ……レオはどれだけ強いんだ?」
バランの探るような言葉に、レオは言葉に詰まる。
答えなど決まっているが、それを目の前の男に直接告げていいのか。
しかしそれでも、答えが変わらないために口を開こうとしたとき。
「誰よりも」
問いに答えたのは隣に座る白銀の少女だった。
「この世界の誰よりも、レオ様は強いです」
思わず顔をそちらに向けてみれば、アリエスが一点も曇らぬ瞳でまっすぐにバランを見つめている。
その隣に座るリベラもパインも、同じような目をしている。
彼女達は、自分の強さを信じてくれている。
そのことに、レオの心が温かくなった。
「……アリエスの言う通り、誰よりも強い」
はっきりと、思っていたことを口にする。
「……そうか。周りにそこまで思われているっていうのは、羨ましいな」
言葉を受けたバランはどこか感傷に浸るような表情をして呟いた。
その言葉の節々が少し気になったが、何も言わなかった。
「なら、その強さを見せて欲しい。まだ時間はあるか?
俺と、模擬戦をしてくれ」
「……構わない」
バランとしてもレオの言葉を鵜呑みには出来ないのだろう。
ただの言葉だけで伝わるとは思っていない。
戦いの中に身を置くものならば、戦いの中で決めるというのはレオとしても同じこと。
「裏に広い場所があるんだ。そこを使おう」
バランの言葉に、レオはしっかりと頷いた。
×××
もう日も暮れ始めているために、冒険者組合の裏手は誰も人が居なかった。
目の前に広がるのは何も置かれていないただの広い空間。
おそらく冒険者たちはこの場で決闘や戦闘の訓練をするのだろう。
「それじゃあ始めよう。審判を頼む」
「かしこまりました」
バランは付き人のメイドに声を掛け、レオから少し離れた場所まで移動する。
相対するようにレオも反対側へと移動すれば、二人の間にメイドが立った。
「本気で来てくれ。決着は片方が敗北を認めるか、審判が試合を停止するまでだ」
腰から剣を抜きながら告げるバランに対してしっかりと頷き、レオも空間から剣を取り出す。
魔法の行使にバランは目を見張っていたが、手にした剣をみて怪訝な表情になった。
「……俺は本気でと頼んだはずだが?」
やや怒気の混じった声を耳にして、レオは首を横に振った。
「形状は普通の剣だが、これが俺の武器だ」
解放していないザ・ブロンドは装飾の少ない両刃剣で、地味な風貌をしている。
正直、そこらへんの武器屋で売っていてもおかしくはないのだが、レオからすればこれを越える武器は存在しない。
バランは納得いかない様子だったが、やがて何も言わずに剣を構えた。
(……本気、だな)
目を瞑り、レオは考える。
バランは本気を望んだ。ならば、それに応えないことは失礼にあたる。
念のためにアリエスに視線を向けてみれば、意図が伝わったのか彼女はしっかりと頷いてくれた。
「始めてください」
メイドが決闘の開始を宣言するのと同時。
レオは全身の力と祝福を開放し、剣に夜空ではなく宇宙を映す。
足に力を入れ、腕を動かし。
たった一歩で驚いた表情のバランとの距離を詰めて、その首に刃を突き付けた。
バランの瞳が素早く動き、レオの姿を捉える。
その瞳にあるものは驚愕と、そして大きな喜びの感情だった。
「……俺の負けだ」
バランの言葉を聞いて、レオは剣の宇宙を消し、少しだけ離れた。
「……いや、凄いな。全然見えなかった。
それに悪かったな、最初は普通の剣に見えたんだが、特別なものだったのか」
負けてしまったバランだが、彼には悔しさこそあれど、レオを憎むような気持はないようだった。
ただ素直にレオを称賛している、いや感心しているといった雰囲気だ。
「レオ、お前は間違いなく強いよ。少なくとも俺が測れないほどには、だ。
そんなお前が訪れてくれたこの国は本当に幸運だな。黒い鎧の討伐、よろしく頼む」
「ああ」
差し出された手を握り返し、しっかりと握手をする。
その際に不意に視線を感じてそちらを向けば、エリシアと目が合った。
何も映さない瞳だが、彼女はしっかりとレオを見ているようだった。
「にしてももう夜だな。
それじゃあ、明日は昼くらいにこの冒険者組合の入り口で待ち合わせにしよう」
「ああ、了解した」
空を見上げながら呟いたバランの方を向いて返事をする。
その後すぐにエリシアに目を向けたが、彼女は用が終わったとばかりに冒険者組合の方へ向かってしまっていた。
さっきのは勘違いだったのかと、一瞬そう思うくらい彼女の足取りに迷いはない。
「エリシアはいつもああなんだ。じゃ、また明日」
バランも手を上げて冒険者組合の方に向かって行ってしまう。
彼の後ろを頭を深く下げたメイドが追うように駆けていくのが印象的だった。
彼らと入れ替わるように、アリエス達が歩き寄ってくる。
先頭を歩いていたリベラが、彼らの背中をじっと見続けていた。
「なんか、ちょっと変わった人たちだったね。
冒険者の人って、もうちょっとなんていうかおおらか? まあバランさんはおおらかだったけど……」
リベラが言いたいのはエリシアの事だろう。
彼女は余計なことはほとんど口にしなかった。
それはバランに全てを任せているというよりも、そもそも興味が無いように思えた。
「まあ、色々と買わないといけないものもあるし、私たちも行こうか」
「ああ、そうだね」
リベラの言葉を受けて、レオ達もまた広場を後にする。
バランと出会い、彼に大きな好感を持ったレオ。
しかしどちらかというともう一人のエリシアの事が気がかりだった。
レオの前の席に座った金髪の男性が自己紹介をする。
彼はバランという名前らしく、驚いたことにレオの目を見て話をしてくる。
瞳の奥には恐怖の感情が見えるが、それを抑え込んで話しているようだ。
「……レオだ」
短い返事をすると、バランは深く頷いて笑みを浮かべた。
「いやー、受付嬢から話は聞いたけど、なかなかの実績だな。
あんたみたいな冒険者が来てくれると、この国も安泰だよ」
「……いや、その……いいのか?」
親しげに話しかけてくるバランに対してレオは思わず聞いてしまう。
彼はレオの呪いを恐れていないように見えるが、それでも目には恐怖の感情が見える。
レオの言葉にバランは笑顔を苦笑いに変えて、申し訳なさそうな顔をした。
「……悪い。正直言うと、あんたの右目は恐い。
でもそれはあんたのせいではないだろう。だから、大丈夫だ。
ちょっと怖がっちまうのは、悪いがな」
正直に話してくれたバランに対して、レオはかなりの好感を抱いた。
これまで出会った人で、自ら恐怖を口にする人は居なかった。
けれどバランはレオの右目を恐ろしいと形容したうえで、それでも構わないと言ったのだ。
それが、嬉しかった。
「……レオと呼んでくれ」
「……よろしく、レオ。
ああそうだ。俺には非戦闘員が一人いるんだ。
依頼を受けるにあたって同行させる予定なんだが、そこは大目に見てくれると嬉しい」
「構わない。それはこっちも同じだ」
バランの非戦闘員がメイド一人なのに対して、レオ側には三人も居るのだ。
そこに対して文句を言うつもりなど毛頭なかった。
ちらりと視線をバランの横に座る少女、エリシアに向ける。
彼女はレオとバランの話を聞いていないようで、じっと虚空を眺めているようだった。
視線に気づいたのか、全く反応を返さないエリシアの代わりにバランが答える。
「あぁ、エリシアもつい最近この街に来て、ちょうど一人だったから声をかけたんだ。
見慣れない剣技を使うけど、実力は俺が保証する」
「……そうか」
短く返事をしたものの、レオはバランの言葉を疑ってはいなかった。
エリシア・ラック。そう呼ばれた少女は腰に二振りの剣を携えている。
柄に特殊な装飾が施された鞘の形状的に曲線を描く剣のようで、確か刀という名前の武器だったはずだ。
服装もここら辺では見ない少し変わったものだが、彼女もまたバランと同じく相当な実力を持っていることが伺える。
その力を身に着けるまでに、彼女のように小柄な少女がどれだけの戦地を見てきたのか。
フード付きの黒い外套が、ゆらゆらと揺れていた。
「……男一人に、女二人」
何か思うところがあるのか、リベラが小声でつぶやいたのを聞いた。
「……わたし達も同じですけどね」
アリエスの返事も耳に入る。
バランとエリシアには聞こえない程度の声量で話しているようだが、内容を聞いても意味は理解できなかった。
「それじゃあレオ、本題に入ろう。
この街を騒がせている黒い鎧の魔物について。
俺達はその出で立ちが歩兵のように見えるから、黒い鎧の兵士と呼んでいる。
そして俺はこの魔物に一度遭遇している」
真剣な表情へと切り替えたバランに目を向けるレオ。
「その時は無様にも負けて撤退しちまったけどな。
けれどエリシアとレオの二人を考慮するなら、勝てるかもしれない」
勝てるかもしれない、という言葉にレオは内心で少しだけ不満を抱いた。
それは隣に座るアリエスやリベラも同じだったのだろう。
勝てるかもではなく、勝てるとレオは確信している。
魔王城の門番と同じくらいの強さならば、レオにとって黒い鎧の兵士を倒すのは容易い。
違う個体でそれよりもはるかに強く、シェイミと同じくらいの実力を所持しているとなれば話は別だが。
しかしバランはそんなレオ達の心の機微には気づかないようで事情を話し続ける。
「簡単に経緯を話すと、このアルティスは昔から魔物の被害が多くてな。
俺達冒険者や勇者の力を借りて倒してきたんだが、少し前から魔物が段々と強力になり始めた。
そしてつい先日登場したのが黒い鎧の兵士だ」
はぁ、と溜息を吐いてバランは一呼吸着く。
彼も以前から魔物の討伐に当たっていたのだろう、声の中には疲れがにじみ出ていた。
「最初は盗賊崩れが適当な甲冑でも身に纏って悪さしているのかと思ったんだけどな。
戦いの最中にヘルムの中に剣を突き刺したんだが、手ごたえがなかったんだ。
っていうわけで、とりあえず魔物認定して今に至るって感じだ」
「その兵士の黒い靄というのは?」
「甲冑の隙間から出ているものだな。
量が多すぎて、体全体を包むような感じになっている不気味な靄さ。
一応注意して観察したが、呪いではなさそうだった」
ここまで聞いた内容は全てレオが魔王城で討伐した魔物の特徴と一致している。
嫌な予感がし始めた。
「……その魔物の得物は?」
「身の丈くらいのハルバードだ」
「そうか」
レオは静かに告げて沈黙する。
魔王ミリアの城に居た魔物でほぼ確定だ。
今のところ何一つ違っている情報がない。
「本当なら明日には討伐と行きたいところだが、困ったことに黒い鎧は神出鬼没でどこにいるか分からなくてな。
それにせっかくパーティを組むんだ。それならまずは連携を確かめないとな。
ってわけで明日は適当な依頼を全員でいくつか受けてみて色々と確認をしたいんだが、問題ないか?」
「…………」
自分にだけ聞いてくるバランに対してレオはエリシアに目を向けて沈黙する。
今まで彼女は声を発することなくただこの場に居るだけだ。
アリエス達も言葉を発していないが、エリシアは戦闘をする冒険者で関係者の筈。
彼女の許可は得なくていいのかと思ったのだが。
「……かまわない」
それは小さいものの、鈴を転がしたような澄んだ声だった。
しかし目線はレオにもバランにも向けることなく、遠くに向けられている。
「……エリシアはこんな調子で俺が頑張って決めたことに全面的に賛成なんだ。
特に反対意見もなければ追加意見もない。
助かるには助かるけど、な」
苦笑いするバランは、今までもエリシアの扱いに苦労してきたのだろう。
多くを語らないエリシアは自分やシェイミのように特定の機関に属するのに向いているように思える。
そんな彼女を気に掛けるバランに、彼の面倒見の良さを実感した。
「分かった。俺としても問題はない」
「…………」
話に対して文句はないために、レオは正直にそう話した。
しかし、バランは真剣な顔のままレオをじっと見る。
何も言わず、レオの中の何かを見ているようだった。
「……今までやってきた依頼も、そして今日持ち込んだ魔石も見せてもらった。
レオは思った以上に軽装で、それでいて体や鎧に傷も見当たらない。
正直に答えてくれ……レオはどれだけ強いんだ?」
バランの探るような言葉に、レオは言葉に詰まる。
答えなど決まっているが、それを目の前の男に直接告げていいのか。
しかしそれでも、答えが変わらないために口を開こうとしたとき。
「誰よりも」
問いに答えたのは隣に座る白銀の少女だった。
「この世界の誰よりも、レオ様は強いです」
思わず顔をそちらに向けてみれば、アリエスが一点も曇らぬ瞳でまっすぐにバランを見つめている。
その隣に座るリベラもパインも、同じような目をしている。
彼女達は、自分の強さを信じてくれている。
そのことに、レオの心が温かくなった。
「……アリエスの言う通り、誰よりも強い」
はっきりと、思っていたことを口にする。
「……そうか。周りにそこまで思われているっていうのは、羨ましいな」
言葉を受けたバランはどこか感傷に浸るような表情をして呟いた。
その言葉の節々が少し気になったが、何も言わなかった。
「なら、その強さを見せて欲しい。まだ時間はあるか?
俺と、模擬戦をしてくれ」
「……構わない」
バランとしてもレオの言葉を鵜呑みには出来ないのだろう。
ただの言葉だけで伝わるとは思っていない。
戦いの中に身を置くものならば、戦いの中で決めるというのはレオとしても同じこと。
「裏に広い場所があるんだ。そこを使おう」
バランの言葉に、レオはしっかりと頷いた。
×××
もう日も暮れ始めているために、冒険者組合の裏手は誰も人が居なかった。
目の前に広がるのは何も置かれていないただの広い空間。
おそらく冒険者たちはこの場で決闘や戦闘の訓練をするのだろう。
「それじゃあ始めよう。審判を頼む」
「かしこまりました」
バランは付き人のメイドに声を掛け、レオから少し離れた場所まで移動する。
相対するようにレオも反対側へと移動すれば、二人の間にメイドが立った。
「本気で来てくれ。決着は片方が敗北を認めるか、審判が試合を停止するまでだ」
腰から剣を抜きながら告げるバランに対してしっかりと頷き、レオも空間から剣を取り出す。
魔法の行使にバランは目を見張っていたが、手にした剣をみて怪訝な表情になった。
「……俺は本気でと頼んだはずだが?」
やや怒気の混じった声を耳にして、レオは首を横に振った。
「形状は普通の剣だが、これが俺の武器だ」
解放していないザ・ブロンドは装飾の少ない両刃剣で、地味な風貌をしている。
正直、そこらへんの武器屋で売っていてもおかしくはないのだが、レオからすればこれを越える武器は存在しない。
バランは納得いかない様子だったが、やがて何も言わずに剣を構えた。
(……本気、だな)
目を瞑り、レオは考える。
バランは本気を望んだ。ならば、それに応えないことは失礼にあたる。
念のためにアリエスに視線を向けてみれば、意図が伝わったのか彼女はしっかりと頷いてくれた。
「始めてください」
メイドが決闘の開始を宣言するのと同時。
レオは全身の力と祝福を開放し、剣に夜空ではなく宇宙を映す。
足に力を入れ、腕を動かし。
たった一歩で驚いた表情のバランとの距離を詰めて、その首に刃を突き付けた。
バランの瞳が素早く動き、レオの姿を捉える。
その瞳にあるものは驚愕と、そして大きな喜びの感情だった。
「……俺の負けだ」
バランの言葉を聞いて、レオは剣の宇宙を消し、少しだけ離れた。
「……いや、凄いな。全然見えなかった。
それに悪かったな、最初は普通の剣に見えたんだが、特別なものだったのか」
負けてしまったバランだが、彼には悔しさこそあれど、レオを憎むような気持はないようだった。
ただ素直にレオを称賛している、いや感心しているといった雰囲気だ。
「レオ、お前は間違いなく強いよ。少なくとも俺が測れないほどには、だ。
そんなお前が訪れてくれたこの国は本当に幸運だな。黒い鎧の討伐、よろしく頼む」
「ああ」
差し出された手を握り返し、しっかりと握手をする。
その際に不意に視線を感じてそちらを向けば、エリシアと目が合った。
何も映さない瞳だが、彼女はしっかりとレオを見ているようだった。
「にしてももう夜だな。
それじゃあ、明日は昼くらいにこの冒険者組合の入り口で待ち合わせにしよう」
「ああ、了解した」
空を見上げながら呟いたバランの方を向いて返事をする。
その後すぐにエリシアに目を向けたが、彼女は用が終わったとばかりに冒険者組合の方へ向かってしまっていた。
さっきのは勘違いだったのかと、一瞬そう思うくらい彼女の足取りに迷いはない。
「エリシアはいつもああなんだ。じゃ、また明日」
バランも手を上げて冒険者組合の方に向かって行ってしまう。
彼の後ろを頭を深く下げたメイドが追うように駆けていくのが印象的だった。
彼らと入れ替わるように、アリエス達が歩き寄ってくる。
先頭を歩いていたリベラが、彼らの背中をじっと見続けていた。
「なんか、ちょっと変わった人たちだったね。
冒険者の人って、もうちょっとなんていうかおおらか? まあバランさんはおおらかだったけど……」
リベラが言いたいのはエリシアの事だろう。
彼女は余計なことはほとんど口にしなかった。
それはバランに全てを任せているというよりも、そもそも興味が無いように思えた。
「まあ、色々と買わないといけないものもあるし、私たちも行こうか」
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この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
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シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
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特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
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鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
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第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
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主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
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