上 下
71 / 114
第3章 神に愛された女教皇

第71話 彼女は、神をみつけた

しおりを挟む
 ここは、どこだろう。
 懐かしい草木の匂いがする。少し目を開けば、温かい白が目に入る。
 温かい、気持ちいい、安心する。まるでお母さんに抱きしめられたときみたいだ。

 眠くなってくる。
 ぼやけた視界に一瞬だけ移ったのは、輝く銀色の女の子だった。
 あぁ、この子が神様なんだ。そう思った。自分の事を助けてくれる、神様。

 ――あれ?

 でも、神様は自分をあの地獄から救ってくれた金髪の男の人だったはずだ。
 この銀色の子じゃない。でも、お父さんもお母さんも神様は一人だって言ってた。
 でもこれだと神様は二人で、でもそれじゃあ皆が言う神様と違くて。
 え?……え?

 ――あぁ、そっかぁ

 皆が言ってた神様は違ったんだ。あんなの神様じゃないよ。
 本当の神様は金髪の男の人なんだ。だから神様は一人じゃないの。
 でも銀色の子も神様……? うーん……えっと……あっ!

 分かった。女神様だ。



 ×××



 リベラに街で服を買ってきてもらい、パインを着替えさせたレオ達は彼女を背負ったまま街へと入った。
 背にパインを背負っていることで一瞬怪訝な顔をされたが、フードをかぶせていたので顔は確認できなかったはずだし、アリエスとリベラも居るということで不審に思って声をかけてくる人は居なかった。

 いつも通りアリエスの素晴らしい手腕で宿屋を確保し、パインをベッドに寝かせて一息ついたときの事。

「んっ……」

 身じろぎをして、パインが目を覚ました。
 ゆっくりと目を開けて、ぼーっと天井を見つめる。

(こうして改めて見ると、ルシャにそっくりだな)

 桃色の長い髪といい、薄紫の瞳といい、その豊満なボディラインといい、パインはルシャそのままだった。
 双子と言っても差し支えないくらいに似ている。違うところと言えば、髪が波打っていることと、性格くらいか。

 そんな彼女に、すぐ横に居たアリエスは心配そうに声をかけた。

「目が覚めましたか……自分が誰だか、分かりますか?」

 パインはアリエスを見て、何も言わずにぼーっとする。
 まだ意識が朦朧としているのかもしれない。そんな事を思ったが。

「パイン・レプラコーンです、女神様」

「……はい?」

 声までルシャに似ていたのはさておき、告げられた言葉が衝撃的だった。
 レオは一瞬言葉を失ったが、アリエスも同じようで思わず聞き返してしまっている。

 パインはアリエスの言葉に、もう一度口を開いた。

「パイン・レプラコーンです、女神様」

「…………」

 聞き取れなかったと勘違いしたのか、一言一句違わずに復唱したパイン。
 まだ目が覚めて間もないものの、まっすぐな目でアリエスを見つめるその視線に揺らぎはまったくない。

「えっとですね……パインさんはレーヴァティの教会の地下で捕まっていたのですが、わたし達が助けました。
 行く当てもないと思ったので連れてきてしまったのですが、よろしかったでしょうか?」

「はい、構いません」

 状況を説明したアリエスに対して、パインは迷うことなく答えた。
 それは今の状況を確認するであったり、レオ達が誰かを伺うようなものではなく、完全なる受容だった。

「あの……敬語は辞めてください。わたしよりも年上だと思いますし……」

「……いえ、女神様にそんなこと」

「そ、その女神というのも……アリエスと呼んで頂ければ……」

「女神さまの名前を呼ぶなんてできません」

「……えっと、パインさん、地下での出来事は覚えてる?」

 パインとアリエスのやり取りに収拾がつかなくなったと思ったリベラは助け舟を出した。
 声をかけたリベラを見たパインは、じーっと彼女を見つめる。

「……?」

「あ、私はリベラ、よろしくね」

「信徒リベラだね。お姉ちゃんはパイン。よろしく」

「……え? え? え?」

 アリエスと違って急に敬語を外されたこと。
 リベラ「信徒」と呼ばれたこと。
 そして自分を「お姉ちゃん」と呼称したこと。
 それらの情報が一気に押し寄せてきて、リベラは動きが止まった。
 頭の容量が限界を越えたという言い方が正しいだろう。そんな彼女を無視してパインは続ける。

「もちろん覚えてるよ。絶体絶命なお姉ちゃんを救ってくれた神様のこと。
 それに森の中で私を救ってくれた女神さまの事も。
 神様、女神様、本当にありがとうございました」

 深々と頭を下げるパインを見て、レオは頭が痛くなってきた。

「えっと、レオ様が神様で、わたしが女神様で、リベラが信徒で……?」

 流石のアリエスも話についていけないのか頭にいくつもの「?」マークを浮かべた状態でうんうんと唸っている。
 そしていち早く回復したリベラがパインに尋ねた。

「え、えっと……あなた法国の生まれだよね?
 教会に囚われていたけど、信徒だったんじゃないの?
 なのにその、レオを神様とか、アリエスを女神って……」

「神様と女神様を名前で呼ぶのはダメ!」

 リベラがレオとアリエスを名前で呼んだ瞬間に、パインはくわっと怒った表情をする。
 まるで悪さをした子供を叱るような表情だった。

「いや、構わない」

「はい、構いません」

 話がややこしくなると思ったレオは口を挟む。
 アリエスも同じようなことを思ったのか同様にすると、パインはすっと表情を戻した。

「……皆が信じている神様は偽物。本物の神様はそこにいらっしゃる金髪の方」

「……一応教会の神様は一人の筈なんだけど」

「だからそれは偽物なの。だからこちらの銀の方が女神様。これが本物の神様達」

 一寸の疑いすらないまっすぐはっきりとした発言に、レオは狂気を見た。
 だって自分よりもどう見ても年上の女性が、自分の事を神様と呼んで崇めてくるのだ。
 狂気以外の何物でもない。

「……もはやなんでもありかよ」

 思わず呟いたリベラの気持ちに、レオは共感した。

「ま、まあ良いのではないでしょうか……よろしくお願いします、パインさん」

「はい、女神様」

「……う、うん」

 苦笑いを隠し切れないアリエス。
 なにがあってパインがこんなことになったのかは分からないが、とりあえずは良しとした。

「……え、レオが神でアリエスが女神なのに私は信徒なの? 嘘でしょ?」

 ポツリと聞こえたリベラの言葉は、無視した。

 この後、アリエスは自分たちの旅の目的と、自分たちの力について説明した。
 少しレオの説明の部分で力が入る個所もあったが、今回は勇者であることや、呪いの見せる光景も説明できていた。
 ちなみにその間、パインは一言一句聞き逃すまいと目を見開いて瞬きせずに目を見開いて話を聞いていて、アリエスが少し引いていた。

 最後の最後に、この話を誰にも言いふらさないで欲しいとアリエスが言うと、「この身に誓います。言いふらしたら死にます」と返されて絶句していた。
 あの目は本当にやる目だよ、とリベラが耳打ちをしてくれたが、何とも言えない気持ちになった。

 第3章 神に見捨てられた少女 完
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

処理中です...