魔王討伐の勇者は国を追い出され、行く当てもない旅に出る ~最強最悪の呪いで全てを奪われた勇者が、大切なものを見つけて呪いを解くまで~

紗沙

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第3章 神に愛された女教皇

第56話 教会の裏事情

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 明かりのない教会の内部をサマカが進んでいく。
 彼は手に最低限の明かりを持ち、さらに辺りを見回して慎重に移動していた。
 何かやましいことをしようとしているのは間違いなかった。

「今日で尻尾は出さないかもしれないと思っていましたが、運がいいですね」

「夕方の時も思ったけど、これ本当にバレないんだね……」

 アリエスとリベラが思い思いの事を口にしたところで、サマカがとある一室に入った。
 レオ達は扉になるべく息をひそめて近づき、中の様子を探る。
 反応は3つ。いずれも扉からは離れているようだ。

 アリエス達と目配りで意思疎通を図り、レオは音を消して扉を開く。
 先に二人を入れ、ゆっくりとした動作で扉を閉めた。
 祝福の力は完璧で、サマカが開けたときは音を立てていた扉は開いてから閉じるまで一切の音を出さなかった。

 部屋の中は倉庫のような場所で、物が乱雑に配置されていた。
 そしていくつかの棚をゆっくりと越えた先に、彼らは居た。
 サマカ枢機卿と、同じく枢機卿の服を着た二人の男女が向かい合っている。

「知らない枢機卿ですね」

 アリエスの言う通り、サマカと向かい合う二人の枢機卿はルシャの側にも、ザウラクの部屋にも居なかった。
 つまり、ガーランド教皇の派閥に属する枢機卿だろう。

「困るなサマカ枢機卿。勝手に我らの力を使っただけでなく、それを失うとは。
 ガーランド教皇様もお怒りだ。君の派閥移動は、まだまだ叶いそうにないね」

「……だから以前からガーランド教皇様に利する情報を提供すると言っているだろう」

 棚の陰から三人を観察する。
 サマカと会話しているのは自信に満ち溢れた一人の男性だった。
 彼の言葉から、彼とその横の女性がガーランド教皇派閥に属していることは間違いなさそうだ。
 それに、サマカが派閥を移そうとしていることも。

 サマカはとっておきの情報があるようだが、彼と会話する男性は溜息をついた。

「ならその情報を今すぐにでもいいたまえ。
 そうすればガーランド教皇様にも通せると何度も言っているが?」

「……ライネル枢機卿、あなたには話せない。
 これは私がガーランド教皇様の派閥に正式に移った後に、教皇様に直々に話さねばならぬことだ」

「ならば今回も答えは同じだ。君の望みは叶わない」

 ライネル枢機卿と呼ばれた男はサマカを見定めるような目で見る。
 けれどその中には、彼を下に見るような感情が明らかに見て取れた。

「……もう諦めたらどうですか、サマカ枢機卿」

 ライネル枢機卿の横に立つ女性が、サマカに向けて嫌悪感を隠すことなく告げる。
 それは確執めいたものが二人の間にあることを感じさせた。

「貴様、私が見つけてやったのにガーランド教皇様に気に入られたからといって随分と偉そうになったな? なあユリス?」

「……っ」

 サマカの馬鹿にするような発言に、はっきりとユリスと呼ばれた女性の顔が歪んだ。
 今にも殺さんばかりにサマカを睨みつけ、拳を震わせている。
 そんな怒りを歯牙にもかけず、鼻で笑うサマカ。

「……サマカ枢機卿、ユリス枢機卿は確かに君が見つけた逸材だ。
 だが彼女はもはや君の部下でもない。言葉には気を付けたまえ」

「…………」

 サマカは何も言わないが、不服に思っているのは雰囲気からも掴めた。
 彼はそのまま踵を返し、その場から歩き去ろうとする。

「……また三日後に、この場で」

「ああ、構わんよ」

 苛立った様子でサマカは足早にその場を後にする。
 大きな音を立てて扉を閉めたのを聞いて、レオは秘密裏に会っているんじゃないのかと内心で溜息を吐いた。

「……感情にあそこまで支配されるとは、どこまでいっても愚物か」

「……ライネル枢機卿、サマカ枢機卿を教皇様に引き合わせたりしませんよね?」

 残ったライネルとユリスが会話を始める。
 サマカの行動にレオと同じようなことを思ったであろうライネルに対し、ユリスは縋るように彼を見た。

「いや、やつは愚物だが、祝福は群を抜いて優秀だ。
 簡単に引き合わせるわけにはいかなかったが、そろそろ頃合いだろう。
 次回でやつの望みを叶えてやろう」

「そ、そんな……ま、待ってください……」

 ライネルの言葉に対し、ユリスはまるで懇願するように声を絞り出す。

「何をそこまで。やつの祝福は使える。
 今引き合わせれば十分我らに恩義も感じるだろう。
 ザウラク教皇様の囲っている勇者に我らの私兵が倒されたことは痛手だが、既に死んでいる連中から我らにはたどり着けまい。
 それに……奴の言う情報とやらに興味がある。それがあのファイ枢機卿を蹴落とせるものであることを祈るばかりだ」

「で、ですがそれはライネル枢機卿に対してのみであって……」

「ああ、そういうことか」

「……あ、ああ……」

 凍えるほど冷たい目で、ライネルはユリスを見た。
 まるで道端に転がる石ころを見るような目だ。その目を直に受けて、ユリスは震えはじめた。

「君と奴との間に何があったのかは知らないが、そんなものは知ったことではない。
 派閥に比べれば、些細なことだ」

「そんな……ものって……」

「いくぞ」

「……はい」

 がっくりとうなだれたユリスを引き連れて、ライネルは部屋を後にする。
 後には、ただ扉の締まる音だけが静かな空間に響き渡った。

「……なんか、私の信じていた教会像がことごとく壊れていくんだけど」

「……聞いているだけでも疲れてしまうような会話でしたね」

 しばらくして、ぐったりした様子でリベラとアリエスは告げる。
 特にリベラはこれまで教会に抱いていた幻想が打ち砕かれて、衝撃を受けているようだった。

「ただ、ザウラク教皇の言っていたことは正しかったですね」

 アリエスの言う通り、サマカはガーランド教皇派閥に鞍替えをしようとしていた。
 これで裏は取れたわけなのだが、どこかアリエス達は納得のいかない顔をしている。

「繋がらなくない?」

「……?」

 リベラの発言に内心で首を傾げると、アリエスが答えてくれた。

「レオ様の見た光景に繋がらないんです。
 確かにサマカ枢機卿は牢屋のような場所を知っていて、そしてガーランド教皇派閥に移ろうとしている。
 でも派閥を移った時点でサマカ枢機卿の目的も、ガーランド教皇の目的も達成されているんです。
 ルシャ教皇を殺害する意味がない」

(確かに……その通りだ)

 レオは今までサマカ枢機卿がルシャの死の原因だと感じていた。
 けれど彼の秘密にしていたことを知り、目的を知っても、それはルシャの死に繋がらない。

「……とりあえず宿屋に戻りましょう。もう夜も更けてきました。
 レオ様の右目の件もありますから」

「……ああ、そうだね」

 アリエスの言葉に頷いて、レオ達は宿屋へと戻る。
 またあの地獄のような光景を見る為に。
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