魔王討伐の勇者は国を追い出され、行く当てもない旅に出る ~最強最悪の呪いで全てを奪われた勇者が、大切なものを見つけて呪いを解くまで~

紗沙

文字の大きさ
上 下
54 / 114
第3章 神に愛された女教皇

第54話 三教皇の一人、ザウラク

しおりを挟む
 目の前に急に現れた二人の勇者に、レオは訝しげに彼らを見た。

「スイードにメリナ?」

 けれど二人はレオに目を向けることもなく、ただその場に佇むばかり。
 そして、ほぼ同時に双子の勇者は口を開いた。

「「サマカ枢機卿について話があります。ついてきてください」」

「……は?」

 ついさっきまでアリエス達と話していたサマカを出され、戸惑うレオ。
 しかしスイード達はレオ達の事を気にすることもなく、踵を返して進んでいく。
 アリエスと顔を見合わせるものの、彼女に頷かれ、レオは着いていくことに決めた。

 大通りから路地裏に入り、教会とは真逆の方向へと向かう。

 二人の勇者はこちらを振り返ることなく進んでいくが、気配は感じているのだろう。
 そうしてしばらく歩き、レオ達は大きな邸宅へと案内された。

「……ここは?」

「「私達の関係者を紹介します」」

 スイードとメリナの二人は振り返ることなくそう告げ、正門から中に入る。
 門番は二人の勇者を見て敬礼していたので、関係者というのは間違いないだろう。
 カマリの街の領主の邸宅と同じくらいの大きさの屋敷に入り、正面の階段を上る。

 二階の東側へと向かい、そのまま一番奥の一室へと案内された。
 スイードはノックもすることなく扉を開け、中へと入る。
 レオもそれに続くと、部屋の中には数人の人物が居た。

「……へぇ、こりゃあ確かにすごい呪いだねぇ」

 執務机の向こうに座っていたのは黒髪を短く切りそろえた神父服を着た男性だった。
 恰幅がよく、年齢は40代くらいだろうか、レオを見ようとしているものの、その瞳には恐怖が見て取れる。
 ふと、男性が円形の紋章のようなものを首から下げているのに気づいた。
 同じようなものを、ルシャも身に着けていた気がする。

 部屋には3人。先ほどの男性の後ろに、まるで彼を警護するように直立する筋骨隆々の男性と、眼鏡をかけた女性。
 そして部屋の長椅子に寝そべり、戦場における略地図を弄っている少女が一人。
 彼らはファイやサマカと同じ服装をしているため、枢機卿なのだろう。

「で、スイード君、メリナちゃん、彼が君の言うレオ殿でいいのかい?」

「「はい」」

 ルシャと同じネックレスを首から下げる男性の質問に、二人は声を被らせて答える。
 へぇ、と呟いた男性は立ち上がり、頭を下げた。

「こんにちはレオ殿、私は教皇ザウラクだ」

 やはり、とレオは思った。
 枢機卿の服に身を包んだ後ろに立つ2人と長椅子で寝そべっている少女。
 彼らから、男性が教皇ではないかと思っていたところだ。

 首から下げるネックレスは教皇の証なのだろうか。
 このレーヴァティに居る三人の教皇の内の二人目との急な邂逅。
 確かにアリエス達からルシャ以外の教皇については軽く聞いていたが、名前までは知らなかった。

「……どういうことだ?」

 ただ、そんな教皇が自分に接近してくる理由が分からず、レオは単刀直入に聞く。
 返ってきたのは、ザウラクの真剣な表情だった。

「宿屋では失礼した。同じ教会の一員としてサマカ枢機卿の代わりに謝罪をするよ。
 宿の店主には追い出されていないかい?」

 一瞬このザウラクという男が黒幕かと思ったものの、どうやら彼は無関係らしい。
 あくまでも同じ教会に属するから謝罪をしているようだ。

「ああ、宿の店主には良くしてもらっている」

「そうか、それは良かった」

 視線を合わせることなくザウラクは歩き出し、執務机の前まで移動し、そこに腰を預けた。
 手を合わせ、ピリピリとした雰囲気が部屋に満ちる。

「スイード君から話は聞いている。あなたは勇者の中でも別格だと。
 だからこそ、サマカ枢機卿の事について情報を提示したいんだ」

「……協力しろということでしょうか」

 今まで黙っていたアリエスが声を上げると、ザウラクは彼女をじっと見る。
 そして首を横に振った。

「いや、あくまでも情報を提示したいだけだよ。
 スイード君から、レオ殿は絶対にサマカ枢機卿を許さないであろうことは聞いている。
 ただ、彼で止まっては困るんだよ」

 ザウラクの言葉を、レオは理解ができなかった。
 サマカが怪しいことは理解しているし、彼がルシャに対して何か危害を加えるならそれを止めなくてはならない。
 だが、そこで止まっては困るとはどういうことか。

「……サマカ枢機卿は愚物だ。あれはルシャ教皇の威信に支えられているだけの俗物だよ。
 けれど、彼だけではここまで大掛かりなことはできないし、なにより私達が彼を蹴落とすことができているはずなんだ」

「……サマカ枢機卿を排除する機会はいくらでもあったのに、何者かに邪魔をされている、ということですか?」

 ザウラクの言葉に、アリエスが返す。
 教皇は白銀の少女を見て、目を見開いた。

「へぇ、驚かないんだね。薄々感づいていた感じかな?
 ……サマカ枢機卿は裏で、ある人物と繋がっているのではと私達は考えている」

 何やら話が大きくなってきた。
 今までは教会に潜入し、サマカを見張れば何かが分かるかもと思ったが、事はそう簡単でもなさそうだ。

「それが誰なのか分かっているのですか?」

「十中八九、ガーランドの爺さんだろうねぇ」

 ザウラクの言葉に、レオは内心で首を傾げる。
 ガーランドの爺さん、という人物に思い当たる節がなかったからだ。

「もう一人の教皇様だよ」

 それを感じ取ったのか、リベラが耳打ちをしてくれる。
 なるほど、三人の教皇の内、最後の一人か。

「それは確かなのですか?」

「情報の出どころは言えないけれど、サマカ枢機卿はガーランドの爺さんの派閥と頻繁に接触している。
 これは間違いない事実だ」

 アリエスの問いに、ザウラクははっきりと答えた。

 ふとそのとき、レオはあることに気づいた。
 横の長椅子に寝そべる少女は、先ほどまでは戦略図に視線を落としていたが、今はじっとアリエスを見ている。
 その瞳が、アリエスがよくする物事の本質を見極めようとするものに近いことを直感で感じた。

「まあ、そういうわけだからサマカ枢機卿をなんとかするのはいいけど、その背後のガーランドの爺さんのことも一応知っておいてくれよ。
 少なくとも、サマカ枢機卿の単独犯ではないってことだけでも」

 にやりと不敵な笑みを浮かべ、ザウラク教皇はそう告げる。
 どうやら、本当に情報をくれるだけらしい。

「……何の見返りも要求せずに、重要な情報をくれるんですね」

 しかし、レオと違って疑り深いアリエスはじっとザウラク教皇を見つめ、そう呟いた。
 その疑惑の視線を、ザウラク教皇は微笑みで受け止める。

「私は教会の腐敗を根本から断ち切りたいと思っているだけだよ。
 だからこそ、スイード君が高く評価するレオ殿にその役割を勝手に期待しているだけさ」

「…………」

 流石のレオでも、今のザウラクの発言が本心からではないことは分かる。
 アリエスは何も言わずに、ただじっと彼を見るばかりだ。

「分かりました。情報ありがとうございます」

「どういたしまして」

 アリエスの礼に対して作ったような笑みで、ザウラクは返す。
 話は終わったので、アリエスはレオに「行きましょう」と告げる。
 レオもそれに頷き、部屋を後にした。

 最後にチラリとスイードとメリナを見たが、彼らは何か言うわけでもなく、目を向けるわけでもなく、ただ立っているだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

実験施設から抜け出した俺が伝説を超えるまでの革命記! 〜Light Fallen Angels〜

朝日 翔龍
ファンタジー
 それはある世界の、今よりずっと未来のこと。いくつもの分岐点が存在し、それによって分岐された世界線、いわゆるパラレルワールド。これは、そ無限と存在するパラレルワールドの中のひとつの物語。  その宇宙に危機を及ぼす脅威や魔族と呼ばれる存在が、何度も世界を消滅させようと襲撃した。そのたびに、最強無血と謳われるレジェンド世代と称されたデ・ロアーの8人集が全てを解決していった。やがては脅威や魔族を封印し、これ以上は世界の危機もないだろうと誰もが信じていた。  しかし、そんな彼らの伝説の幕を閉ざす事件が起き、封印されていたはずの脅威が蘇った。瞬く間に不安が見え隠れする世界。そこは、異世界線へと繋がるゲートが一般的に存在し、異世界人を流れ込ませたり、例の脅威をも出してしまう。  そんな世界の日本で、実験体としてとある施設にいた主人公ドンボ。ある日、施設から神の力を人工的に得られる薬を盗んだ上で脱走に成功し、外の世界へと飛び出した。  そして街中に出た彼は恐怖と寂しさを覆い隠すために不良となり、その日凌ぎの生き方をしていた。  そんな日々を過ごしていたら、世界から脅威を封印したファイター企業、“デ・ロアー”に属すると自称する男、フラットの強引な手段で険しい旅をすることに。  狭い視野となんの知識もないドンボは、道中でフラットに教えられた生きる意味を活かし、この世界から再び脅威を取り除くことができるのであろうか。

処理中です...