魔王討伐の勇者は国を追い出され、行く当てもない旅に出る ~最強最悪の呪いで全てを奪われた勇者が、大切なものを見つけて呪いを解くまで~

紗沙

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第3章 神に愛された女教皇

第46話 宗教総本山、レーヴァティ

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 レーヴァティの街に着き、馬車を降りたときにレオが感じたことは暑さだった。
 振り返り、手を伸ばし、アリエスの手を掴んで彼女を支える。
 地面に足を付けたアリエスも同じことを感じたのか、顔を顰めた。

「少し暑いですね。レーヴァティは南にゾスマ熱地帯があるので気温が高いとは聞いていましたが、ここまでとは……」

「レーヴァティに来るのは初めて? 皆、最初は暑さに驚くの。
 でも南はもっと暑いらしいよ。私は行ったことないけどね」

 レオとアリエスのやり取りを馬車の中から呆れた顔で見ていたリベラは、彼らの後に続いて降りながら説明をする。
 まるでレーヴァティに来たことがあるような物言いに、レオは聞いてみることにした。

「リベラはここに来たことがあるのか?」

「あるよ、孤児院の関係で何回かだけどね」

 そういえば馬車の中でリベラの孤児院はこのレーヴァティの教会と関係があると言っていた。
 そんなことを思い出したとき、リベラは遠くを指さした。

「ほら、あれを見て。あれがこの街にある教会の総本山」

 リベラが指さした先には、巨大な建造物がそびえ立っていた。
 低階層部分は一つにまとまっているようだが、高階層は三つに分かれていて、それぞれは同じ高さで、まるで塔のようだ。

「……まさかと思いますが、教皇が3人だからあんな造りなのですか?」

「あはは、そのまさかだよ」

 呆れるようなアリエスの質問に対して、リベラは苦笑いで答える。

「権力に上下差が出ないように同じ高さですか……徹底していますね」

「まあ、実際に教皇様達の間には差はないみたいだけどね。
 ……で、とりあえず宿屋でいいの? それとも何か食べる?」

「宿屋だ」

 何をするにも、まずは拠点の確保が重要だ。
 カマリの街のようにシェラみたいな人物が経営する宿があればよいのだが、流石に望みは薄いだろう。

 ちらりとアリエスを見れば、彼女は頷いてくれた。
 さて、ここでは何泊出来る事やら。
 そんな事を思いながら、レオ達は看板を頼りに宿へと足を踏み出した。



 ×××



「すみませんが……4泊までとさせてください……」

「……いえ、十分です。ありがとうございます」

 すまなそうに頭を下げる宿屋の店主に対し、アリエスは落胆した様子で返事をする。
 ハマルの街と同じように交渉を行った彼女だったが、成果はあまり変わらず、4泊5日が限界だった。
 こちらを振り返り、目じりを下げているアリエスを見て、レオはゆっくりと首を横に振った。

 彼女の交渉がなければそもそも泊まれるかどうかすら怪しいのだ。
 だからアリエスが謝る必要も、自分に対して負い目を感じる必要もないとレオは考えている。

「……それで、部屋はいかがしますか?」

「あ、大部屋一つでお願いします」

 今までレオとアリエスは同じ部屋で過ごしてきた。
 長く一緒に居た二人にとってはそれが当然であり、これからも変わらない常識だった。
 けれど、それは二人にとっての常識であり、彼女にとってはそうではない。

「え? ちょ、ちょっと待ってよアリエス。
 同じ部屋って……せ、せめて二部屋取って分けるべきでしょ?」

「……何を言っているのですか? 一部屋の方が安く済むじゃないですか」

 リベラの言っていることが心の底から分からないといった様子でアリエスは首を傾げる。

「い、いやそうだけど……で、でもそこはさ……」

「? いったい何を言っているんですか?」

 このままでは埒が明かないと思ったのか、リベラは視線をアリエスからレオに移す。

「レ、レオ……分かるよね? 私の言っていること。部屋、分けるべきだよね?」

「……今までと同じでいいと思うが」

 というよりも、レオからすればアリエスと相部屋だったことしかないので、別の選択肢を提示されても困るのだ。
 それに、右目の呪いでうなされたときにはアリエスに手を握ってもらうと少し楽になるので、そういった意味でも別の部屋というのは困る。
 なにより当のアリエスがその案を採用しないし、金額という明確な理由がある以上、レオがリベラの意見に賛成することはできなかった。

 しかしリベラはレオの発言を聞き、目を見開く。

「……ま、まさかと思うけど、今までずっと同じ部屋?」

「以前カマリの街でも、わたし達の部屋に入ってきたじゃないですか」

 シェラと和解し、一本角の魔物を討伐した後のことをアリエスは持ち出すが、リベラは頭を押さえて、溜息を吐いた。

「いや、普通にアリエスが別の部屋からレオの部屋に来てたって思うでしょ……」

「……なぜリベラはそこまで反対なのですか?
 理由があるなら分けるのもやぶさかでは……なるほど」

「…………」

 不意に、宿屋の空気が重くなったような気がした。
 心なしか宿屋の店主も冷や汗をかいているように見える。
 レオもまた、どこか寒気を感じていた。

「リベラ、よく聞きなさい。レオ様は最高の主です……そんな低俗なこと、絶対にしません。
 わかりましたか?」

「…………」

 有無を言わせない迫力が、今のアリエスにはあった。
 リベラはコクコクと強く頷き、それを見てアリエスは満足げに微笑み、店主へと目を向ける。

「一部屋でお願いします」

「は、はい」

 怯えたような様子で店主は頷き、すぐに引き出しから鍵を取り出してカウンターに置いた。

「よ、四人用の部屋です……ご、ごゆっくりどうぞ……」

「……いや、私間違ってないし……二人の関係性が特殊なだけで……」

 ぶつぶつ何かを呟いているリベラを無視し、レオとアリエスは階段を上り、鍵に付いた札に書かれた番号の部屋へと入る。
 中は広く、店主の言う通り4つのベッドが配置されていた。

「いつまで不貞腐れているのですか。
 レオ様がそういった方ではないと、リベラもよく分かっているはずですが」

 今もまだ不満げなリベラに対し、アリエスは告げる。
 しかし、そういった方でないとはどういう意味だろうか。

「……はぁ、分かっているよ。
 初めて会ったとき、綺麗だと思ったし、私これでも結構勘は鋭い方だからさ。
 でもなんか私が言わないとダメみたいな感じがしちゃうの」

「……なんですかそれ」

「あなた達が非常識ってことだよ……まあ、宿に関してはもう何も言わないから気にしないで」

 少し疲れたように言うリベラに対し、レオは首を傾げるものの誰も疑問に答えてはくれなかった。

「……で、宿を確保したら次は冒険者組合?」

「はい、そのつもりです」

「そう、じゃあそれが終わったら教会に行ってみるといいかも。
 レオの呪いに関して、解けるかどうか教えてくれるはずだよ」

 教会という言葉を聞いて、馬車から降りたときに見た巨大な建造物を思い描く。
 あそこに行けば、何か呪いを解く手立てが分かるだろうか。
 どうもそんな気はしないが、それでも何か手掛かりを掴まなくてはいけない。

 自分の呪いを解くまで、安寧の日々は訪れないのだから。
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