魔王討伐の勇者は国を追い出され、行く当てもない旅に出る ~最強最悪の呪いで全てを奪われた勇者が、大切なものを見つけて呪いを解くまで~

紗沙

文字の大きさ
上 下
46 / 114
第3章 神に愛された女教皇

第46話 宗教総本山、レーヴァティ

しおりを挟む
 レーヴァティの街に着き、馬車を降りたときにレオが感じたことは暑さだった。
 振り返り、手を伸ばし、アリエスの手を掴んで彼女を支える。
 地面に足を付けたアリエスも同じことを感じたのか、顔を顰めた。

「少し暑いですね。レーヴァティは南にゾスマ熱地帯があるので気温が高いとは聞いていましたが、ここまでとは……」

「レーヴァティに来るのは初めて? 皆、最初は暑さに驚くの。
 でも南はもっと暑いらしいよ。私は行ったことないけどね」

 レオとアリエスのやり取りを馬車の中から呆れた顔で見ていたリベラは、彼らの後に続いて降りながら説明をする。
 まるでレーヴァティに来たことがあるような物言いに、レオは聞いてみることにした。

「リベラはここに来たことがあるのか?」

「あるよ、孤児院の関係で何回かだけどね」

 そういえば馬車の中でリベラの孤児院はこのレーヴァティの教会と関係があると言っていた。
 そんなことを思い出したとき、リベラは遠くを指さした。

「ほら、あれを見て。あれがこの街にある教会の総本山」

 リベラが指さした先には、巨大な建造物がそびえ立っていた。
 低階層部分は一つにまとまっているようだが、高階層は三つに分かれていて、それぞれは同じ高さで、まるで塔のようだ。

「……まさかと思いますが、教皇が3人だからあんな造りなのですか?」

「あはは、そのまさかだよ」

 呆れるようなアリエスの質問に対して、リベラは苦笑いで答える。

「権力に上下差が出ないように同じ高さですか……徹底していますね」

「まあ、実際に教皇様達の間には差はないみたいだけどね。
 ……で、とりあえず宿屋でいいの? それとも何か食べる?」

「宿屋だ」

 何をするにも、まずは拠点の確保が重要だ。
 カマリの街のようにシェラみたいな人物が経営する宿があればよいのだが、流石に望みは薄いだろう。

 ちらりとアリエスを見れば、彼女は頷いてくれた。
 さて、ここでは何泊出来る事やら。
 そんな事を思いながら、レオ達は看板を頼りに宿へと足を踏み出した。



 ×××



「すみませんが……4泊までとさせてください……」

「……いえ、十分です。ありがとうございます」

 すまなそうに頭を下げる宿屋の店主に対し、アリエスは落胆した様子で返事をする。
 ハマルの街と同じように交渉を行った彼女だったが、成果はあまり変わらず、4泊5日が限界だった。
 こちらを振り返り、目じりを下げているアリエスを見て、レオはゆっくりと首を横に振った。

 彼女の交渉がなければそもそも泊まれるかどうかすら怪しいのだ。
 だからアリエスが謝る必要も、自分に対して負い目を感じる必要もないとレオは考えている。

「……それで、部屋はいかがしますか?」

「あ、大部屋一つでお願いします」

 今までレオとアリエスは同じ部屋で過ごしてきた。
 長く一緒に居た二人にとってはそれが当然であり、これからも変わらない常識だった。
 けれど、それは二人にとっての常識であり、彼女にとってはそうではない。

「え? ちょ、ちょっと待ってよアリエス。
 同じ部屋って……せ、せめて二部屋取って分けるべきでしょ?」

「……何を言っているのですか? 一部屋の方が安く済むじゃないですか」

 リベラの言っていることが心の底から分からないといった様子でアリエスは首を傾げる。

「い、いやそうだけど……で、でもそこはさ……」

「? いったい何を言っているんですか?」

 このままでは埒が明かないと思ったのか、リベラは視線をアリエスからレオに移す。

「レ、レオ……分かるよね? 私の言っていること。部屋、分けるべきだよね?」

「……今までと同じでいいと思うが」

 というよりも、レオからすればアリエスと相部屋だったことしかないので、別の選択肢を提示されても困るのだ。
 それに、右目の呪いでうなされたときにはアリエスに手を握ってもらうと少し楽になるので、そういった意味でも別の部屋というのは困る。
 なにより当のアリエスがその案を採用しないし、金額という明確な理由がある以上、レオがリベラの意見に賛成することはできなかった。

 しかしリベラはレオの発言を聞き、目を見開く。

「……ま、まさかと思うけど、今までずっと同じ部屋?」

「以前カマリの街でも、わたし達の部屋に入ってきたじゃないですか」

 シェラと和解し、一本角の魔物を討伐した後のことをアリエスは持ち出すが、リベラは頭を押さえて、溜息を吐いた。

「いや、普通にアリエスが別の部屋からレオの部屋に来てたって思うでしょ……」

「……なぜリベラはそこまで反対なのですか?
 理由があるなら分けるのもやぶさかでは……なるほど」

「…………」

 不意に、宿屋の空気が重くなったような気がした。
 心なしか宿屋の店主も冷や汗をかいているように見える。
 レオもまた、どこか寒気を感じていた。

「リベラ、よく聞きなさい。レオ様は最高の主です……そんな低俗なこと、絶対にしません。
 わかりましたか?」

「…………」

 有無を言わせない迫力が、今のアリエスにはあった。
 リベラはコクコクと強く頷き、それを見てアリエスは満足げに微笑み、店主へと目を向ける。

「一部屋でお願いします」

「は、はい」

 怯えたような様子で店主は頷き、すぐに引き出しから鍵を取り出してカウンターに置いた。

「よ、四人用の部屋です……ご、ごゆっくりどうぞ……」

「……いや、私間違ってないし……二人の関係性が特殊なだけで……」

 ぶつぶつ何かを呟いているリベラを無視し、レオとアリエスは階段を上り、鍵に付いた札に書かれた番号の部屋へと入る。
 中は広く、店主の言う通り4つのベッドが配置されていた。

「いつまで不貞腐れているのですか。
 レオ様がそういった方ではないと、リベラもよく分かっているはずですが」

 今もまだ不満げなリベラに対し、アリエスは告げる。
 しかし、そういった方でないとはどういう意味だろうか。

「……はぁ、分かっているよ。
 初めて会ったとき、綺麗だと思ったし、私これでも結構勘は鋭い方だからさ。
 でもなんか私が言わないとダメみたいな感じがしちゃうの」

「……なんですかそれ」

「あなた達が非常識ってことだよ……まあ、宿に関してはもう何も言わないから気にしないで」

 少し疲れたように言うリベラに対し、レオは首を傾げるものの誰も疑問に答えてはくれなかった。

「……で、宿を確保したら次は冒険者組合?」

「はい、そのつもりです」

「そう、じゃあそれが終わったら教会に行ってみるといいかも。
 レオの呪いに関して、解けるかどうか教えてくれるはずだよ」

 教会という言葉を聞いて、馬車から降りたときに見た巨大な建造物を思い描く。
 あそこに行けば、何か呪いを解く手立てが分かるだろうか。
 どうもそんな気はしないが、それでも何か手掛かりを掴まなくてはいけない。

 自分の呪いを解くまで、安寧の日々は訪れないのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

実験施設から抜け出した俺が伝説を超えるまでの革命記! 〜Light Fallen Angels〜

朝日 翔龍
ファンタジー
 それはある世界の、今よりずっと未来のこと。いくつもの分岐点が存在し、それによって分岐された世界線、いわゆるパラレルワールド。これは、そ無限と存在するパラレルワールドの中のひとつの物語。  その宇宙に危機を及ぼす脅威や魔族と呼ばれる存在が、何度も世界を消滅させようと襲撃した。そのたびに、最強無血と謳われるレジェンド世代と称されたデ・ロアーの8人集が全てを解決していった。やがては脅威や魔族を封印し、これ以上は世界の危機もないだろうと誰もが信じていた。  しかし、そんな彼らの伝説の幕を閉ざす事件が起き、封印されていたはずの脅威が蘇った。瞬く間に不安が見え隠れする世界。そこは、異世界線へと繋がるゲートが一般的に存在し、異世界人を流れ込ませたり、例の脅威をも出してしまう。  そんな世界の日本で、実験体としてとある施設にいた主人公ドンボ。ある日、施設から神の力を人工的に得られる薬を盗んだ上で脱走に成功し、外の世界へと飛び出した。  そして街中に出た彼は恐怖と寂しさを覆い隠すために不良となり、その日凌ぎの生き方をしていた。  そんな日々を過ごしていたら、世界から脅威を封印したファイター企業、“デ・ロアー”に属すると自称する男、フラットの強引な手段で険しい旅をすることに。  狭い視野となんの知識もないドンボは、道中でフラットに教えられた生きる意味を活かし、この世界から再び脅威を取り除くことができるのであろうか。

処理中です...