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第2章 呪いを治す聖女
第44話 最強に唯一並ぶ勇者
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翌日、レオとアリエスは準備をして宿屋を後にする。
昨夜も呪いの光景を見なかったために、精神的にはだいぶ余裕があった。
日の光を浴びながらゆっくりと振り返れば、宿屋の入り口にはシェラが立っている。
「こんにちはシェラさん、長らくお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ本当にありがとうございます。
にしても、シスター服でないリベラは新鮮ね」
シェラはアリエスにそう答えると、横に立つリベラへと視線を向けて感想を告げる。
宿屋の前で合流した彼女は、いつものシスター服ではなく動きやすい服装に着替えていた。
肘先まである上着に、ひざ下まであるスカート、その上から路地裏で出会ったときにしていた外套を身に着けていた。
恰好の違いもそうだが、足に着ける長めのブーツが、いつもの彼女との違いを生み出していた。
「まあ、流石にあの服のままでは旅はできないからね。
アリエス、向かうのはレーヴァティだったよね? 一応馬車の予約しておいたよ」
「ありがとうございます」
リベラの言葉にレオも内心で感謝を告げる。
「それじゃあ、シェラさん、お世話になりました」
「世話になった」
「はい。またいつでも来てくださいね。大歓迎です」
シェラにも軽く会釈をして、一行は歩き出す。
最後までリベラは名残惜しそうにシェラと手を振りあっていた。
「良かったんですか?」
「ん? なにが?」
シェラが見えなくなり、手を振るのを辞めた段階でアリエスが話を振った。
「孤児院に関しては分かりましたが、シェラさんとはもう少し居たいものかと」
「居たくないって言えば嘘になるけど……でも、シェラはいつもあそこに居てくれるから。
でも、二人は違うでしょ? それに私はあなた達の助けになりたいし……」
「……そうですか。改めて、よろしくお願いします」
「ふふっ、よろしく」
会話の内容で一部分からないことがあるものの、二人の仲は悪くはなさそうなのでレオは安心した。
この調子なら、楽しい旅になりそうだ。
王都で追放を言い渡されたときはこんなことになるなんて思ってもいなかった。
あれからアリエスと出会い、彼女の秘密を知って、心を通じ合って。
そしてカマリの街ではシェラとリベラという目に見える人を救うこともできた。
穏やかな気持ちに、表情に出ない程度に雰囲気を和らげながら借馬車の店に向かう道を曲がる。
「みつけた」
そして聞こえた声にレオは立ち止まった。
咄嗟に前に出て、アリエスとリベラを護るように位置取る。
なぜここに居るのか、なぜ自分の前に居るのか、それらは分からないけれど。
ふんわりとした灰色の髪に、黒のシャツ。膝まである長いスカートに、ダボっとした灰色のコート。
黒いシャツやブーツはヘレナが身に着けていたものと似ている。
しかし、少女には明確な違いがある。
個人が勇者候補生であるヘレナの黒一色と違い、その少女の色は黒よりもレオの白に近い灰色だった。
その少女は、ただ立っているだけだが、常人ならざる威圧感を出している。
圧力で、近くには誰も居なかった。
いや、こんな重圧の中で普通にしているのは不可能だ。
現にアリエスもリベラも、恐怖で震えあがっている。
「……シェイミ」
真正面から彼女の重圧を相殺すれば、背後でアリエスとリベラが必死に息を吸う音が聞こえる。
レオのそんな芸当にも、シェイミは顔色一つ変えずにじっと彼を見ているだけだ。
否、シェイミは顔色を変えないのではなく、レオと同じで表情の変化が少ないのだ。
少なくとも、レオは彼女が笑っているところを見たことがない。
それどころか怒りも悲しみも、安らぎすらだ。
レオ自身、自分が表情に出にくい人間だと理解しているが、シェイミはそれをはるかに超える。
「聞いた……魔物倒した」
「……ああ」
「自分……遅かった」
「……っ」
レオは一本角の魔物と戦ったが、もしその場にシェイミが居れば殺し合いになったはずだ。
流石のシェイミも街中で武装を展開はしない筈。
それだけに、もっと早ければ街の外で殺せたのに、と言ったところか。
もし戦うとして、アリエスとリベラを庇いつつならば敗北は必至だ。
「…………」
さらに強大な重圧がレオ達を襲う。
(まずいっ……)
レオは初めて、背中に冷たいものが当たる感覚を覚えた。
「そこをどいてくれ……俺たちは次の街に行く」
冷静に、しかしはっきりと大きな声で言葉を発しつつも、レオは半ばやり合う覚悟を決めていた。
「せいぜい……仲良くすれば」
しかしシェイミは重圧をかき消すと、そのまま踵を返して去っていく。
その後ろ姿からも威圧感をしっかりと感じ、レオは緊張している心を解けない。
(今は街中だから戦わずに済んだけど……もし街の外で出会えば……)
「ね、ねえ、レオ……あれ……なんなの?」
誰ではなく、なにという質問にレオは内心で苦笑いする。
目線を向ければ、リベラはなんとか言葉を発せられているものの、体は少し震えていた。
「レオ様……ま、まさかあの人が……」
「ああ、そうだ。名前をシェイミ」
アリエスは以前レオから聞いた話を思い出したのだろう。
シェイミに向けられた重圧を思い出し、震えながらも納得がいったように尋ねる。
それは質問しながらも、答えは分かっているかのようだった。
「俺が勝てるかどうか分からない、この世でたった一人の勇者だ」
願わくば、もう会いたくない勇者の名でもある。
第2章 呪いを移す聖女 完
昨夜も呪いの光景を見なかったために、精神的にはだいぶ余裕があった。
日の光を浴びながらゆっくりと振り返れば、宿屋の入り口にはシェラが立っている。
「こんにちはシェラさん、長らくお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ本当にありがとうございます。
にしても、シスター服でないリベラは新鮮ね」
シェラはアリエスにそう答えると、横に立つリベラへと視線を向けて感想を告げる。
宿屋の前で合流した彼女は、いつものシスター服ではなく動きやすい服装に着替えていた。
肘先まである上着に、ひざ下まであるスカート、その上から路地裏で出会ったときにしていた外套を身に着けていた。
恰好の違いもそうだが、足に着ける長めのブーツが、いつもの彼女との違いを生み出していた。
「まあ、流石にあの服のままでは旅はできないからね。
アリエス、向かうのはレーヴァティだったよね? 一応馬車の予約しておいたよ」
「ありがとうございます」
リベラの言葉にレオも内心で感謝を告げる。
「それじゃあ、シェラさん、お世話になりました」
「世話になった」
「はい。またいつでも来てくださいね。大歓迎です」
シェラにも軽く会釈をして、一行は歩き出す。
最後までリベラは名残惜しそうにシェラと手を振りあっていた。
「良かったんですか?」
「ん? なにが?」
シェラが見えなくなり、手を振るのを辞めた段階でアリエスが話を振った。
「孤児院に関しては分かりましたが、シェラさんとはもう少し居たいものかと」
「居たくないって言えば嘘になるけど……でも、シェラはいつもあそこに居てくれるから。
でも、二人は違うでしょ? それに私はあなた達の助けになりたいし……」
「……そうですか。改めて、よろしくお願いします」
「ふふっ、よろしく」
会話の内容で一部分からないことがあるものの、二人の仲は悪くはなさそうなのでレオは安心した。
この調子なら、楽しい旅になりそうだ。
王都で追放を言い渡されたときはこんなことになるなんて思ってもいなかった。
あれからアリエスと出会い、彼女の秘密を知って、心を通じ合って。
そしてカマリの街ではシェラとリベラという目に見える人を救うこともできた。
穏やかな気持ちに、表情に出ない程度に雰囲気を和らげながら借馬車の店に向かう道を曲がる。
「みつけた」
そして聞こえた声にレオは立ち止まった。
咄嗟に前に出て、アリエスとリベラを護るように位置取る。
なぜここに居るのか、なぜ自分の前に居るのか、それらは分からないけれど。
ふんわりとした灰色の髪に、黒のシャツ。膝まである長いスカートに、ダボっとした灰色のコート。
黒いシャツやブーツはヘレナが身に着けていたものと似ている。
しかし、少女には明確な違いがある。
個人が勇者候補生であるヘレナの黒一色と違い、その少女の色は黒よりもレオの白に近い灰色だった。
その少女は、ただ立っているだけだが、常人ならざる威圧感を出している。
圧力で、近くには誰も居なかった。
いや、こんな重圧の中で普通にしているのは不可能だ。
現にアリエスもリベラも、恐怖で震えあがっている。
「……シェイミ」
真正面から彼女の重圧を相殺すれば、背後でアリエスとリベラが必死に息を吸う音が聞こえる。
レオのそんな芸当にも、シェイミは顔色一つ変えずにじっと彼を見ているだけだ。
否、シェイミは顔色を変えないのではなく、レオと同じで表情の変化が少ないのだ。
少なくとも、レオは彼女が笑っているところを見たことがない。
それどころか怒りも悲しみも、安らぎすらだ。
レオ自身、自分が表情に出にくい人間だと理解しているが、シェイミはそれをはるかに超える。
「聞いた……魔物倒した」
「……ああ」
「自分……遅かった」
「……っ」
レオは一本角の魔物と戦ったが、もしその場にシェイミが居れば殺し合いになったはずだ。
流石のシェイミも街中で武装を展開はしない筈。
それだけに、もっと早ければ街の外で殺せたのに、と言ったところか。
もし戦うとして、アリエスとリベラを庇いつつならば敗北は必至だ。
「…………」
さらに強大な重圧がレオ達を襲う。
(まずいっ……)
レオは初めて、背中に冷たいものが当たる感覚を覚えた。
「そこをどいてくれ……俺たちは次の街に行く」
冷静に、しかしはっきりと大きな声で言葉を発しつつも、レオは半ばやり合う覚悟を決めていた。
「せいぜい……仲良くすれば」
しかしシェイミは重圧をかき消すと、そのまま踵を返して去っていく。
その後ろ姿からも威圧感をしっかりと感じ、レオは緊張している心を解けない。
(今は街中だから戦わずに済んだけど……もし街の外で出会えば……)
「ね、ねえ、レオ……あれ……なんなの?」
誰ではなく、なにという質問にレオは内心で苦笑いする。
目線を向ければ、リベラはなんとか言葉を発せられているものの、体は少し震えていた。
「レオ様……ま、まさかあの人が……」
「ああ、そうだ。名前をシェイミ」
アリエスは以前レオから聞いた話を思い出したのだろう。
シェイミに向けられた重圧を思い出し、震えながらも納得がいったように尋ねる。
それは質問しながらも、答えは分かっているかのようだった。
「俺が勝てるかどうか分からない、この世でたった一人の勇者だ」
願わくば、もう会いたくない勇者の名でもある。
第2章 呪いを移す聖女 完
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