42 / 114
第2章 呪いを治す聖女
第42話 人を救えたレオと、アリエスの思い
しおりを挟む
急いでリベラに駆け付ければ、彼女を包む呪いの量は以前見た時よりも遥かに量を増していた。
前回見た時ですらあまり時間がないと言っていた。
それなら、今の状況が意味するものはリベラの死だ。
「ぐっ……」
右目が疼き、光景を見せてくる。
「っ! アリエス! アリエス!」
その痛みを振り切るように、白銀の少女の名を叫んだ。
この場所で呪いに犯されて死ぬリベラの光景など見る必要はない。
そんなものに、時間を奪われている場合じゃない。
坂の下で冒険者を治していたアリエスは慌てて駆けてきてくれた。
そしてシェラの腕の中に居るリベラを見るや否や、目を見開く。
「移し……たんですか……」
「アリエス!」
「っ……はい!」
一瞬動揺したアリエスだが、すぐにレオの声に反応し、弾けるように動く。
リベラの手を小さな両手で握り、祝福を発動させ、彼女の中の呪いを消そうとする。
「だめ……です……呪いの量が多すぎて……このままじゃ……」
レオは奥歯を強く噛みしめる。
左目が移しているリベラの呪いの総量は前回の数倍だ。
アリエスのお陰で少しずつ消えてはいるが、間に合わない。
このままでは、アリエスが呪いを消す前にリベラが死ぬ。
「シェラ……ごめんね……私っ……本当は呪いを移せるの……でもっ……おじさんっ……助けられなかった」
目を開き、シェラの名前を呼ぶリベラ。
その目には涙がたまり、目じりから一筋流れた。
過去に助けられなかったことと、その過去を伝えられなかったことの両方を、彼女はまだ悔いている。
「いいのっ……私、なんとなく分かっていたのっ……でも……でも……」
シェラは彼女の手を強く強く握り、涙のこぼれる目で語り掛ける。
「なんで移したの! こんなの、私もお父さんもやって欲しいなんて思ってない!
お父さんを助けてくれなかったとか、本当の事を言わなかったとか、そんなことで怒るわけない!」
首を横に振り、涙でくしゃくしゃになった顔でシェラはリベラに叫ぶ。
「でも、でもこれだけは許せない! 死なないで……死なないでよ!
私を一人にしないでよっ……なんで全部ひとりで抱えるのよ……頼ってよ! 話してよ!
リベラのばか……ばかっ!」
「ごめんね……ごめんねっ……」
弱々しい声のままシェラに答えるリベラ。
彼女の残された時間が少ないのは、誰の目にも明らかだった。
(なんとか……ならないのか……)
この状況に、レオは自問する。
アリエスは今なお祝福で呪いを治してくれているが、リベラの命は風前の灯火だ。
けれどリベラを救えるのはアリエスしか居ない。何もできない自分が、もどかしかった。
「アリエス……なんとか……なんとかならないか」
「……わたし以外にもう一人呪いを治せる人が居たとしても、もう……」
頼りの綱であるアリエスがお手上げである以上、自分に良い案が思い浮かぶはずもない。
アリエスは今も、ああでもないこうでもないと言いながら考えを巡らせてくれているが、答えは出ないようだ。
ここでリベラは終わるしかないのか。
「もう少し早ければ……せめて呪いを移す前なら……」
「呪いを……移す……」
レオの言葉にアリエスは目を見開いた。
ハッとした表情のままにリベラを見て、そしてレオを見て、顔を歪めた。
その表情の変化をレオは見逃さなかった。
「アリエス?」
「……っ」
「アリエス、方法があるなら教えてくれ!」
「で、ですがっ……」
「頼む……」
レオの必死の言葉にアリエスは目を伏せる。
言いたくないという気持ちが、全身から伝わってきた。
「だ、ダメです……こんな……こんなの――」
「アリエス!」
答えを言おうとしないアリエスに対して、レオは声を荒げる。
可能性が少しでもあるなら、レオはそれにかけたかった。
レオの言葉にアリエスは何かを堪えるように下を向く。
「……っ、リベラさん」
「……なに?」
自身の死を自覚し、やや力のない返事を返すリベラ。
「あなたが持っているのは呪いを移す祝福です。その祝福を他者から自分に移すことができるなら……おそらく……自分から他者に移すこともできるはずです」
その言葉に、リベラとシェラが目を見開いた。
「だめっ……私のは一気にしか移せない……だから、こんなの……移したら……」
「それはっ……でもっ……」
リベラもシェラもアリエスの意見を否定する。
リベラは生きたい。シェラはリベラに生きて欲しい。
けれどそれは、他者を奪ってでも叶えたい願いではない。
大切な人を失った彼女達だからこそ、その選択はできないのだろう。
――なら、奪われない他者なら?
「俺に、移せ」
レオの言葉に、アリエスの顔がくしゃくしゃに歪んだ。
涙目のまま目を見開いたシェラが生気の抜けた声を出す。
「なにを……言って……」
「俺なら呪いに耐えられるはずだ。もうそれしか方法はない」
レオはこの場で取れるたった一つの方法を告げ、リベラの手を握った。
リベラは涙ながらに首を横に振り、拒絶の意を示す。
「だめ……だめっ……そんなの……」
「俺を信じろ。呪いなんて、なんとかするから」
「レオ様、わたしがすぐに治します。どれだけ時間をかけても、限界を迎えても、必ず治しますから……だからっ……」
「いいんだ。ありがとう、アリエス」
ありがとう、俺のしたいことを分かってくれて。
そう言った意味で彼女を見れば、アリエスは泣きそうな顔を伏せてしまった。
「やれ」
「でも……でもっ……」
「さっきも言っただろ。俺は呪いなんかじゃ死なない」
少しでもリベラを安心させるために体内の祝福を完全に開放する。
力の渦が巻き起こり、4人を優しく包む。
その光を見て、リベラは目を見開き、「綺麗」と呟いた。
「信じてっ……いいの?」
「ああ」
「助かって……いいのっ?」
「ああ、もういいんだ。もう一人で抱え込まなくていい」
目をシェラに向ける。彼女はしっかりと頷き、リベラの手を強く握った。
自らの祝福に翻弄され、お世話になった人を失い、そしてその秘密を抱え続けてきた聖女は、最後の最後にようやく求めてくれた。
「信じる……お願いレオさん、助けて……たすけてっ」
「ああ」
意味は得た。助けを求められた。
ならば、あとはそれに答えるのみ。
勇者としてではなく、ただのレオとして、「目に見える」リベラを救う。
リベラと繋がった手を通じて、彼女の体内に蓄積した呪いがレオに流れ込んでくる。
普段ならば祝福により妨げられるはずのそれを、レオは意図的に受け入れた。
次々と入ってくる、暗く重い感覚。あれだけ絶好調だった体が、ついに不調を訴える。
だが、それがどうした。
リベラからすべての呪いを受け取った瞬間、レオは自分自身に命じる。
呪いを、踏みつぶせと。
それだけで体中の全ての祝福は反応し、体内にある異物に対して行動を起こす。
まるで泥水を小さな壺に押し込めるかのように、それを凝縮させる。
消えはしない。けれど、それならおとなしくしていろ。
体内にただ在るだけの存在になれ。お前が何をしようとも構わない。
けれどそれで、俺の体を少しでも害せると思うな。
少なくともお前は、右目とは違い捉えられる、正常な呪いなのだから。
「……大丈夫だ」
全てが終わり、レオはゆっくりと口にする。
それを聞いて体が楽になったリベラは起き上がり、手を強く握った。
「ごめんなさいっ……ごめんなさいっ……」
「レオさん……ごめんなさいっ……でも、ありがとうっ……」
「いいんだ。俺はなんともないから」
泣きじゃくるリベラとシェラに対し、レオはそう告げ、自分の右手を握って開いてを繰り返す。
祝福は呪いを完全に押さえ込んでいる。これなら戦闘に支障はなさそうだ。
多少出力は落ちるかもしれないが、そこまで弱体化するわけではない。
それに呪いに関してもアリエスが時間をかけて治してくれるはずだ。
いつか体内から完全に消えるだろうから、問題はない。
レオが視線を向けると、アリエスは俯いたままで小さく頷いた。
「残りの怪我人は2人ですね。わたしが治療してきますので、レオ様はここに。
シェラさん、もし薬などを持っていたらそちらの方に使ってあげてください」
「は、はい……」
流石アリエス、とレオは舌を巻く。
今の一連の動作だけでやって欲しいことをくみ取ってくれたようだ。
シェラに指示を出して、彼女は怪我をした冒険者の方に歩いていく。
「レオさん……大丈夫……なのっ?」
今なお泣いているリベラを安心させるために、レオは微笑む。
体は問題ないし、右目も光景を映さない。
それに、今までずっと見ていた死からリベラを救うこともできた。
(目に見える人を救うっていうのは、やっぱり難しいな……)
本当に大変だった。リベラを救うために、持てる全てを使ったと言ってもいい。
どれか一つでも、誰か一人でも欠けていれば無理だっただろう。
難しくて、大変で、辛くて、けれど。
「悪くない」
目に見える二人目を救ったレオの心は、晴れ渡っていた。
×××
怪我をして意識を失っている冒険者を治し終え、アリエスは上げていた腕を静かに下ろす。
「…………」
右の拳を強く握りしめ、拳を頭上に掲げ、そのまま強く振り下ろした。
拳は地面にぶつかるものの、音を立てることはない。ただジンッとした痛みが伝わるだけだ。
「わたしは……わたしはっ……」
嗚咽のような声を絞り出す。
何のための祝福だ、と自分自身を殴りたくなる衝動に駆られる。
レオを治すこともできず、リベラも救うこともできず、結局できたのはレオに呪いを移すという最悪の方法を提示することだけ。
救ってもらった主を苦しめて彼の願いを叶えるなど、なんと恩知らずか。
アリエスはレオに救われて変わった。
目は見えるようになり、新しく祝福を開花させた。活動的になり、よく笑うようになった。
けれど、たった一つだけ彼女の中で変わらないものがある。
アリエスは昔も、そして今でさえ、自分のことが一番嫌いだ。
前回見た時ですらあまり時間がないと言っていた。
それなら、今の状況が意味するものはリベラの死だ。
「ぐっ……」
右目が疼き、光景を見せてくる。
「っ! アリエス! アリエス!」
その痛みを振り切るように、白銀の少女の名を叫んだ。
この場所で呪いに犯されて死ぬリベラの光景など見る必要はない。
そんなものに、時間を奪われている場合じゃない。
坂の下で冒険者を治していたアリエスは慌てて駆けてきてくれた。
そしてシェラの腕の中に居るリベラを見るや否や、目を見開く。
「移し……たんですか……」
「アリエス!」
「っ……はい!」
一瞬動揺したアリエスだが、すぐにレオの声に反応し、弾けるように動く。
リベラの手を小さな両手で握り、祝福を発動させ、彼女の中の呪いを消そうとする。
「だめ……です……呪いの量が多すぎて……このままじゃ……」
レオは奥歯を強く噛みしめる。
左目が移しているリベラの呪いの総量は前回の数倍だ。
アリエスのお陰で少しずつ消えてはいるが、間に合わない。
このままでは、アリエスが呪いを消す前にリベラが死ぬ。
「シェラ……ごめんね……私っ……本当は呪いを移せるの……でもっ……おじさんっ……助けられなかった」
目を開き、シェラの名前を呼ぶリベラ。
その目には涙がたまり、目じりから一筋流れた。
過去に助けられなかったことと、その過去を伝えられなかったことの両方を、彼女はまだ悔いている。
「いいのっ……私、なんとなく分かっていたのっ……でも……でも……」
シェラは彼女の手を強く強く握り、涙のこぼれる目で語り掛ける。
「なんで移したの! こんなの、私もお父さんもやって欲しいなんて思ってない!
お父さんを助けてくれなかったとか、本当の事を言わなかったとか、そんなことで怒るわけない!」
首を横に振り、涙でくしゃくしゃになった顔でシェラはリベラに叫ぶ。
「でも、でもこれだけは許せない! 死なないで……死なないでよ!
私を一人にしないでよっ……なんで全部ひとりで抱えるのよ……頼ってよ! 話してよ!
リベラのばか……ばかっ!」
「ごめんね……ごめんねっ……」
弱々しい声のままシェラに答えるリベラ。
彼女の残された時間が少ないのは、誰の目にも明らかだった。
(なんとか……ならないのか……)
この状況に、レオは自問する。
アリエスは今なお祝福で呪いを治してくれているが、リベラの命は風前の灯火だ。
けれどリベラを救えるのはアリエスしか居ない。何もできない自分が、もどかしかった。
「アリエス……なんとか……なんとかならないか」
「……わたし以外にもう一人呪いを治せる人が居たとしても、もう……」
頼りの綱であるアリエスがお手上げである以上、自分に良い案が思い浮かぶはずもない。
アリエスは今も、ああでもないこうでもないと言いながら考えを巡らせてくれているが、答えは出ないようだ。
ここでリベラは終わるしかないのか。
「もう少し早ければ……せめて呪いを移す前なら……」
「呪いを……移す……」
レオの言葉にアリエスは目を見開いた。
ハッとした表情のままにリベラを見て、そしてレオを見て、顔を歪めた。
その表情の変化をレオは見逃さなかった。
「アリエス?」
「……っ」
「アリエス、方法があるなら教えてくれ!」
「で、ですがっ……」
「頼む……」
レオの必死の言葉にアリエスは目を伏せる。
言いたくないという気持ちが、全身から伝わってきた。
「だ、ダメです……こんな……こんなの――」
「アリエス!」
答えを言おうとしないアリエスに対して、レオは声を荒げる。
可能性が少しでもあるなら、レオはそれにかけたかった。
レオの言葉にアリエスは何かを堪えるように下を向く。
「……っ、リベラさん」
「……なに?」
自身の死を自覚し、やや力のない返事を返すリベラ。
「あなたが持っているのは呪いを移す祝福です。その祝福を他者から自分に移すことができるなら……おそらく……自分から他者に移すこともできるはずです」
その言葉に、リベラとシェラが目を見開いた。
「だめっ……私のは一気にしか移せない……だから、こんなの……移したら……」
「それはっ……でもっ……」
リベラもシェラもアリエスの意見を否定する。
リベラは生きたい。シェラはリベラに生きて欲しい。
けれどそれは、他者を奪ってでも叶えたい願いではない。
大切な人を失った彼女達だからこそ、その選択はできないのだろう。
――なら、奪われない他者なら?
「俺に、移せ」
レオの言葉に、アリエスの顔がくしゃくしゃに歪んだ。
涙目のまま目を見開いたシェラが生気の抜けた声を出す。
「なにを……言って……」
「俺なら呪いに耐えられるはずだ。もうそれしか方法はない」
レオはこの場で取れるたった一つの方法を告げ、リベラの手を握った。
リベラは涙ながらに首を横に振り、拒絶の意を示す。
「だめ……だめっ……そんなの……」
「俺を信じろ。呪いなんて、なんとかするから」
「レオ様、わたしがすぐに治します。どれだけ時間をかけても、限界を迎えても、必ず治しますから……だからっ……」
「いいんだ。ありがとう、アリエス」
ありがとう、俺のしたいことを分かってくれて。
そう言った意味で彼女を見れば、アリエスは泣きそうな顔を伏せてしまった。
「やれ」
「でも……でもっ……」
「さっきも言っただろ。俺は呪いなんかじゃ死なない」
少しでもリベラを安心させるために体内の祝福を完全に開放する。
力の渦が巻き起こり、4人を優しく包む。
その光を見て、リベラは目を見開き、「綺麗」と呟いた。
「信じてっ……いいの?」
「ああ」
「助かって……いいのっ?」
「ああ、もういいんだ。もう一人で抱え込まなくていい」
目をシェラに向ける。彼女はしっかりと頷き、リベラの手を強く握った。
自らの祝福に翻弄され、お世話になった人を失い、そしてその秘密を抱え続けてきた聖女は、最後の最後にようやく求めてくれた。
「信じる……お願いレオさん、助けて……たすけてっ」
「ああ」
意味は得た。助けを求められた。
ならば、あとはそれに答えるのみ。
勇者としてではなく、ただのレオとして、「目に見える」リベラを救う。
リベラと繋がった手を通じて、彼女の体内に蓄積した呪いがレオに流れ込んでくる。
普段ならば祝福により妨げられるはずのそれを、レオは意図的に受け入れた。
次々と入ってくる、暗く重い感覚。あれだけ絶好調だった体が、ついに不調を訴える。
だが、それがどうした。
リベラからすべての呪いを受け取った瞬間、レオは自分自身に命じる。
呪いを、踏みつぶせと。
それだけで体中の全ての祝福は反応し、体内にある異物に対して行動を起こす。
まるで泥水を小さな壺に押し込めるかのように、それを凝縮させる。
消えはしない。けれど、それならおとなしくしていろ。
体内にただ在るだけの存在になれ。お前が何をしようとも構わない。
けれどそれで、俺の体を少しでも害せると思うな。
少なくともお前は、右目とは違い捉えられる、正常な呪いなのだから。
「……大丈夫だ」
全てが終わり、レオはゆっくりと口にする。
それを聞いて体が楽になったリベラは起き上がり、手を強く握った。
「ごめんなさいっ……ごめんなさいっ……」
「レオさん……ごめんなさいっ……でも、ありがとうっ……」
「いいんだ。俺はなんともないから」
泣きじゃくるリベラとシェラに対し、レオはそう告げ、自分の右手を握って開いてを繰り返す。
祝福は呪いを完全に押さえ込んでいる。これなら戦闘に支障はなさそうだ。
多少出力は落ちるかもしれないが、そこまで弱体化するわけではない。
それに呪いに関してもアリエスが時間をかけて治してくれるはずだ。
いつか体内から完全に消えるだろうから、問題はない。
レオが視線を向けると、アリエスは俯いたままで小さく頷いた。
「残りの怪我人は2人ですね。わたしが治療してきますので、レオ様はここに。
シェラさん、もし薬などを持っていたらそちらの方に使ってあげてください」
「は、はい……」
流石アリエス、とレオは舌を巻く。
今の一連の動作だけでやって欲しいことをくみ取ってくれたようだ。
シェラに指示を出して、彼女は怪我をした冒険者の方に歩いていく。
「レオさん……大丈夫……なのっ?」
今なお泣いているリベラを安心させるために、レオは微笑む。
体は問題ないし、右目も光景を映さない。
それに、今までずっと見ていた死からリベラを救うこともできた。
(目に見える人を救うっていうのは、やっぱり難しいな……)
本当に大変だった。リベラを救うために、持てる全てを使ったと言ってもいい。
どれか一つでも、誰か一人でも欠けていれば無理だっただろう。
難しくて、大変で、辛くて、けれど。
「悪くない」
目に見える二人目を救ったレオの心は、晴れ渡っていた。
×××
怪我をして意識を失っている冒険者を治し終え、アリエスは上げていた腕を静かに下ろす。
「…………」
右の拳を強く握りしめ、拳を頭上に掲げ、そのまま強く振り下ろした。
拳は地面にぶつかるものの、音を立てることはない。ただジンッとした痛みが伝わるだけだ。
「わたしは……わたしはっ……」
嗚咽のような声を絞り出す。
何のための祝福だ、と自分自身を殴りたくなる衝動に駆られる。
レオを治すこともできず、リベラも救うこともできず、結局できたのはレオに呪いを移すという最悪の方法を提示することだけ。
救ってもらった主を苦しめて彼の願いを叶えるなど、なんと恩知らずか。
アリエスはレオに救われて変わった。
目は見えるようになり、新しく祝福を開花させた。活動的になり、よく笑うようになった。
けれど、たった一つだけ彼女の中で変わらないものがある。
アリエスは昔も、そして今でさえ、自分のことが一番嫌いだ。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

実験施設から抜け出した俺が伝説を超えるまでの革命記! 〜Light Fallen Angels〜
朝日 翔龍
ファンタジー
それはある世界の、今よりずっと未来のこと。いくつもの分岐点が存在し、それによって分岐された世界線、いわゆるパラレルワールド。これは、そ無限と存在するパラレルワールドの中のひとつの物語。
その宇宙に危機を及ぼす脅威や魔族と呼ばれる存在が、何度も世界を消滅させようと襲撃した。そのたびに、最強無血と謳われるレジェンド世代と称されたデ・ロアーの8人集が全てを解決していった。やがては脅威や魔族を封印し、これ以上は世界の危機もないだろうと誰もが信じていた。
しかし、そんな彼らの伝説の幕を閉ざす事件が起き、封印されていたはずの脅威が蘇った。瞬く間に不安が見え隠れする世界。そこは、異世界線へと繋がるゲートが一般的に存在し、異世界人を流れ込ませたり、例の脅威をも出してしまう。
そんな世界の日本で、実験体としてとある施設にいた主人公ドンボ。ある日、施設から神の力を人工的に得られる薬を盗んだ上で脱走に成功し、外の世界へと飛び出した。
そして街中に出た彼は恐怖と寂しさを覆い隠すために不良となり、その日凌ぎの生き方をしていた。
そんな日々を過ごしていたら、世界から脅威を封印したファイター企業、“デ・ロアー”に属すると自称する男、フラットの強引な手段で険しい旅をすることに。
狭い視野となんの知識もないドンボは、道中でフラットに教えられた生きる意味を活かし、この世界から再び脅威を取り除くことができるのであろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる