41 / 114
第2章 呪いを治す聖女
第41話 彼女達の絶望の過去を壊せ
しおりを挟む
前日に領主の病と呪いを治したレオとアリエスは、当初の目的を達成したということで比較的穏やかな翌日を迎えられていた。
数日間だがレオの心をあれだけ苦しめた悪夢の光景は今日は再現されず、本当の意味でリベラを救えたということが分かった。
そのため二人にとってしなければならないことは無いのだが、昼前から街の外に出ようとしていた。
大通りを歩きながら、多くの人が慌ただしく北に向かって走っていく様子が横目で見える。
「……上手くいったみたいだな」
「そうですね。おそらく今頃、領主の屋敷では彼が回復した事を医師を呼んで確認しているところだと思います。これでリベラさんの孤児院も助かるでしょう」
「あぁ、ならあとは一本角の魔物を倒さないとな」
領主を治した段階で、アリエスとレオに出来ることは終わったはずだった。
けれどレオはさらにその先を選んだ。
リベラとシェラを苦しめてきた元凶である一本角の魔物を討伐する、という選択を。
その魔物がどこに居るかは分からないけれど、少なくともこの街に居る間は、可能な限り探してみようと考えたからだ。
ずっとは無理だが、せめて今日明日くらいはとレオは考えていた。
二人は街を出て南下し、周辺の魔物を手当たり次第に刈っていく。
とはいえ剣を振るうのはレオのみで、アリエスはいつものように戦闘が終わるまでは待機という流れだった。
「……にしても、目撃情報もないなんてな」
「…………」
魔物を倒しながらレオは呟く。
ふと背後に視線を向けると、アリエスは白い結界の中で何かを考え込んでいるようだった。
「……アリエス?」
「レオ様、ふと思ったのですが、わたし達は一本角の魔物を探して南側へとやってきました。
確かにここから南下すると、タイル山脈に行き当たります。
山脈は強力な魔物も棲みついているということで、その頂上付近に居る可能性も考慮してのことです」
それは朝にアリエスから聞いたこと。
この大陸の東側であるカマリやハマルはタイル山脈と隣接しており、そこに強力な魔物が住んでいる。
今はもうないアリエスの村では、魔物から身を護るために姿を隠す魔法を村全体にかけるということもしていたらしい。
そのため、最も可能性のある南側を選んだ筈だ。
けれどアリエスは、どこか自分の選択に納得がいっていないようだった。
「ただ今になって思うのですが、もしも山脈に生息しているならもっと目撃情報があるのではないでしょうか。
ハマルの街は山脈からすれば近いですし、法国の首都であるレーヴァティからカマリの街に行く際には、必ず山脈に沿った道を行きます。
それなのにここまで目撃情報が無いということは、場所が違う可能性もあるのかなと」
「そういった場所があるのか?」
レオの言葉に、アリエスは考え込む。
「カマリの東西は大河に橋が架かっていて、王都と帝国との往来に使われています。
以上の点から、東西で住処があるならばこちらも目撃情報がある筈です。
けれど北には大河が流れているだけで、その大河のさらに先は人の往来がなかったはずです。
そこは少しでも北上すれば、宵闇の谷へと行きついてしまいますから」
「アルゴルか」
大陸の東側、その地方でも北にはアルゴルが広がっている。
魔王ミリアが治めていた城のある地域にして、砂嵐が年中絶えない荒野と砂漠の領域。
確かにあの付近ならば、誰の目にとまることもないだろう。
いくら深い谷で隔絶されているとはいえ、誰も好き好んで、魔王の領域に近づこうとはしないはずだ。
確かにそこなら、長らく目撃情報がない一本角の魔物が居てもおかしくはない。
アリエスの予想は、的を射ているように思えた。
「なら、今からでも北に――」
――ズキンッ
不意に、右目に恐ろしい痛みが走った。
内部から火で炙られているような感覚。視界が暗転し、昨日は見たが今日は見なかった光景が蘇る。
その時、レオは知る。呪いは昨日の夜、悪夢を見せなかったのではなく、新しい悪夢に切り替える期間だったのだと。
右目に映ったのは、多数の墓のある場所で倒れたシェラの横で、一本角の魔物にリベラの首が噛み千切られる光景だった。
声を上げなかったのはつい先日まで、同じ痛みを覚えていたからだろう。
油断していなければ同じ痛みに右目を抑えることはあっても、うずくまる程ではない。
「レオ様……まさか……」
「っ……アリ……エスっ……今すぐカマリの街に戻ろう。シェラさんの行き先を聞くんだ」
レオは痛みが引き始めた瞬間に、行動を開始する。
まだ痛みはあるが、立ち止まっている場合ではない。
素早くアリエスにかけた結界の祝福を解除し、彼女を横抱きにして走り出す。
アリエスもなるべくレオの邪魔にならないように暴れず、祝福でレオの痛みや疲労を少しでも治そうとしてくれる。
森を高速で駆け抜けながら、レオは見えた光景を話す。
「見たのはリベラさんが一本角の魔獣に殺される光景だ。
すぐ近くにはシェラさんも居て、どこかの墓地のような場所だった」
「それなら、おそらく今日シェラさんが向かったお墓だと思います!
カマリの街の冒険者組合に行ってください。そこならシェラさんの向かった先が分かるはずです!」
胸の中のアリエスの返事を聞き、レオは森の中を駆け抜ける。
たった一度しか見ていないけれど、あの光景は確かに昼間の光景だった。
もうすでに昼にはなっている。間に合うかどうか、分からない。
×××
カマリの街の冒険者組合でシェラの父の墓の位置を聞いたレオは、再びアリエスを抱えて疾走していた。
馬車ならば時間のかかる距離でも、今のレオならば問題なく走破できる。
とはいえかかる負担がすさまじいので、アリエスの事は常に気にかけ、さらに祝福で護らなくてはならないが。
それでも、北の集合墓地にたどり着くまでにそこまで時間はかからなかった。
「っ、アリエス! 頼む!」
「はい!」
けれど、遅かった。
目の前には、地面に倒れ伏す剣士の冒険者。ピクリとも動かない彼を見て、レオはアリエスに声をかけた。
彼女を優しく下ろせば、アリエスは足早に冒険者に近づいていく。
その様子を見届け、レオは坂の上に視線を向ける。
あの冒険者はまだ息があった。襲われてからそこまで時間は経っていないはずだ。
そう考え、一気に坂を跳び越えたその先で。
まさに光景と同じ景色が視界に入った。
座り込むリベラに噛みつこうとする一本角の魔物。
目線を向けたときには、もうリベラの輝くような金の髪は黒に呑まれる寸前だった。
咄嗟に右手が動き、彼女に祝福をぶつける。
この街に来て新たに作成したばかりの鎧の祝福を発動し、リベラを包む。
「っ」
けれど、それでも魔獣は気にすることなくリベラの首に噛みついた。
彼女の首を噛み千切る勢いで、彼女に死をもたらそうとした。
それがどうしても許せなくて、許せなくて。
レオは、壊すことにした。
イメージは、破壊。
その瞬間、鎧の祝福は新たな力を獲得する。
害意をもって攻撃をした相手を吹き飛ばし、傷つけるという新たな力を。
レオの祝福は発動し、それに牙を立てた一本角の獣ははるか遠くに吹き飛ばされ、地面を転がった。
それを見てレオは全身の祝福を開放。剣を取り出し、たった一歩でリベラの前まで移動する。
「遅くなった」
そう告げたレオは剣を携え、一歩一歩、前に進む。
一本角の魔物はレオの姿を認め、立ち上がり、威嚇をしながら警戒を強めている。
その姿を見て、レオの剣を持つ手に力が入った。
――壊す
人だとか魔物だとか、そんなことは関係が無い。
ただ、レオの前で彼にとって目に見える救える命を奪う相手を許してはおけない。
確実に壊す。
剣の刀身が光り輝き、夜空を映す。
カイルやヘレナ、他の勇者たちが持つものと同じ分類の装備が、この世に顕現する。
けれどそれは同じ分類であるだけで、この世界でレオしか所持していない唯一の武器。
黒い魔獣はその剣を見て、角に呪いの光を収束させる。
時間をかけずに集まり、一条の光がレオと魔獣の間に流れる。
まるで黒い流れ星のような破滅の光。
(こんなものか)
剣を上から下へ、迫ってくる光に対して上から叩き落とすかのように振り下ろす。
ただそれだけで、人を死へ至らせるほどの呪いを内包した光線はレオの剣の刀身が映し出す、どこに繋がっているかも分からない夜空へと消える。
自分の必殺の一撃が通用しないことに、獣であるはずの魔獣ですら動きを止めている。
その赤い眼は見開かれ、まるで信じられないとばかりに体は僅かだが震えていた。
その様子を見て、レオは内心で溜息を吐く。
(この程度なら、受けても問題はなかったな)
確かに、恐るべき呪いだった。
普通の人間相手ならば誰でも呪い殺すことができる程強力な呪いだろう。
けれど、レオからしてみれば児戯に過ぎない。
例え剣を使わず体で受けたとしても、レオの祝福を突破できるとは思えなかった。
現実を認められない獣は再度威嚇を行い、地面を素早く蹴る。
冒険者の剣士を一撃で吹き飛ばした、全体重をかけた突進。
仮にそれが防がれたとしても、まだ自分には爪がある。牙もある。
そんなことを思ったのだろう。
目にも止まらぬスピードで黒い魔獣は地を駆け、レオの白銀の胸当て目がけて角をぶつけようと体ごと突撃する。
「…………」
その全身全霊の攻撃を、レオは黒い獣に認識できぬ速さで避け、そのまま剣で獣の腹目がけて振り抜く。
夜空の剣はいとも容易く獣の肉を斬り裂き、全く抵抗を感じさせない動きで背中まで突き抜けた。
上半身と下半身を両断される致命傷の一撃を、黒い獣は視認できなかっただろう。
剣が自分の体を斬り裂く光景どころか、レオが剣を振るい、そして振るい終わった動きすら捉えられなかったはずだ。
ただ気づいたときには自分の体は二つに分かれていて、力なく地面へと落ちるだけだった。
(終わりだ)
完全に一本角の魔物が壊れたことを認識し、レオは剣を再封印し、収納する。
振り返って見下ろしてみれば、黒い獣は灰になって消えている最中で、その消えゆく体の奥から血のような深紅の結晶が覗き始めていた。
レオに立ち向かった敵の、これまでと同じ当然の末路だった。
「終わ――」
「レオさん! リベラをっ……リベラを助けてっ!」
終わったぞ。そうレオはリベラに声を掛けようとした。彼女を安心させるために。
けれどその言葉はシェラの大声によって遮られる。
駆けつけたときには意識を失っていた彼女はレオが戦っている間に意識を取り戻したのだろう。
今はリベラを抱え、必死の表情でレオに訴えかけている。
腕の中のリベラに外傷はない。けれど、レオの呪いを見抜く祝福は捉えた。
彼女の姿が見えないくらい大きく膨れ上がった、呪いの黒い靄を。
数日間だがレオの心をあれだけ苦しめた悪夢の光景は今日は再現されず、本当の意味でリベラを救えたということが分かった。
そのため二人にとってしなければならないことは無いのだが、昼前から街の外に出ようとしていた。
大通りを歩きながら、多くの人が慌ただしく北に向かって走っていく様子が横目で見える。
「……上手くいったみたいだな」
「そうですね。おそらく今頃、領主の屋敷では彼が回復した事を医師を呼んで確認しているところだと思います。これでリベラさんの孤児院も助かるでしょう」
「あぁ、ならあとは一本角の魔物を倒さないとな」
領主を治した段階で、アリエスとレオに出来ることは終わったはずだった。
けれどレオはさらにその先を選んだ。
リベラとシェラを苦しめてきた元凶である一本角の魔物を討伐する、という選択を。
その魔物がどこに居るかは分からないけれど、少なくともこの街に居る間は、可能な限り探してみようと考えたからだ。
ずっとは無理だが、せめて今日明日くらいはとレオは考えていた。
二人は街を出て南下し、周辺の魔物を手当たり次第に刈っていく。
とはいえ剣を振るうのはレオのみで、アリエスはいつものように戦闘が終わるまでは待機という流れだった。
「……にしても、目撃情報もないなんてな」
「…………」
魔物を倒しながらレオは呟く。
ふと背後に視線を向けると、アリエスは白い結界の中で何かを考え込んでいるようだった。
「……アリエス?」
「レオ様、ふと思ったのですが、わたし達は一本角の魔物を探して南側へとやってきました。
確かにここから南下すると、タイル山脈に行き当たります。
山脈は強力な魔物も棲みついているということで、その頂上付近に居る可能性も考慮してのことです」
それは朝にアリエスから聞いたこと。
この大陸の東側であるカマリやハマルはタイル山脈と隣接しており、そこに強力な魔物が住んでいる。
今はもうないアリエスの村では、魔物から身を護るために姿を隠す魔法を村全体にかけるということもしていたらしい。
そのため、最も可能性のある南側を選んだ筈だ。
けれどアリエスは、どこか自分の選択に納得がいっていないようだった。
「ただ今になって思うのですが、もしも山脈に生息しているならもっと目撃情報があるのではないでしょうか。
ハマルの街は山脈からすれば近いですし、法国の首都であるレーヴァティからカマリの街に行く際には、必ず山脈に沿った道を行きます。
それなのにここまで目撃情報が無いということは、場所が違う可能性もあるのかなと」
「そういった場所があるのか?」
レオの言葉に、アリエスは考え込む。
「カマリの東西は大河に橋が架かっていて、王都と帝国との往来に使われています。
以上の点から、東西で住処があるならばこちらも目撃情報がある筈です。
けれど北には大河が流れているだけで、その大河のさらに先は人の往来がなかったはずです。
そこは少しでも北上すれば、宵闇の谷へと行きついてしまいますから」
「アルゴルか」
大陸の東側、その地方でも北にはアルゴルが広がっている。
魔王ミリアが治めていた城のある地域にして、砂嵐が年中絶えない荒野と砂漠の領域。
確かにあの付近ならば、誰の目にとまることもないだろう。
いくら深い谷で隔絶されているとはいえ、誰も好き好んで、魔王の領域に近づこうとはしないはずだ。
確かにそこなら、長らく目撃情報がない一本角の魔物が居てもおかしくはない。
アリエスの予想は、的を射ているように思えた。
「なら、今からでも北に――」
――ズキンッ
不意に、右目に恐ろしい痛みが走った。
内部から火で炙られているような感覚。視界が暗転し、昨日は見たが今日は見なかった光景が蘇る。
その時、レオは知る。呪いは昨日の夜、悪夢を見せなかったのではなく、新しい悪夢に切り替える期間だったのだと。
右目に映ったのは、多数の墓のある場所で倒れたシェラの横で、一本角の魔物にリベラの首が噛み千切られる光景だった。
声を上げなかったのはつい先日まで、同じ痛みを覚えていたからだろう。
油断していなければ同じ痛みに右目を抑えることはあっても、うずくまる程ではない。
「レオ様……まさか……」
「っ……アリ……エスっ……今すぐカマリの街に戻ろう。シェラさんの行き先を聞くんだ」
レオは痛みが引き始めた瞬間に、行動を開始する。
まだ痛みはあるが、立ち止まっている場合ではない。
素早くアリエスにかけた結界の祝福を解除し、彼女を横抱きにして走り出す。
アリエスもなるべくレオの邪魔にならないように暴れず、祝福でレオの痛みや疲労を少しでも治そうとしてくれる。
森を高速で駆け抜けながら、レオは見えた光景を話す。
「見たのはリベラさんが一本角の魔獣に殺される光景だ。
すぐ近くにはシェラさんも居て、どこかの墓地のような場所だった」
「それなら、おそらく今日シェラさんが向かったお墓だと思います!
カマリの街の冒険者組合に行ってください。そこならシェラさんの向かった先が分かるはずです!」
胸の中のアリエスの返事を聞き、レオは森の中を駆け抜ける。
たった一度しか見ていないけれど、あの光景は確かに昼間の光景だった。
もうすでに昼にはなっている。間に合うかどうか、分からない。
×××
カマリの街の冒険者組合でシェラの父の墓の位置を聞いたレオは、再びアリエスを抱えて疾走していた。
馬車ならば時間のかかる距離でも、今のレオならば問題なく走破できる。
とはいえかかる負担がすさまじいので、アリエスの事は常に気にかけ、さらに祝福で護らなくてはならないが。
それでも、北の集合墓地にたどり着くまでにそこまで時間はかからなかった。
「っ、アリエス! 頼む!」
「はい!」
けれど、遅かった。
目の前には、地面に倒れ伏す剣士の冒険者。ピクリとも動かない彼を見て、レオはアリエスに声をかけた。
彼女を優しく下ろせば、アリエスは足早に冒険者に近づいていく。
その様子を見届け、レオは坂の上に視線を向ける。
あの冒険者はまだ息があった。襲われてからそこまで時間は経っていないはずだ。
そう考え、一気に坂を跳び越えたその先で。
まさに光景と同じ景色が視界に入った。
座り込むリベラに噛みつこうとする一本角の魔物。
目線を向けたときには、もうリベラの輝くような金の髪は黒に呑まれる寸前だった。
咄嗟に右手が動き、彼女に祝福をぶつける。
この街に来て新たに作成したばかりの鎧の祝福を発動し、リベラを包む。
「っ」
けれど、それでも魔獣は気にすることなくリベラの首に噛みついた。
彼女の首を噛み千切る勢いで、彼女に死をもたらそうとした。
それがどうしても許せなくて、許せなくて。
レオは、壊すことにした。
イメージは、破壊。
その瞬間、鎧の祝福は新たな力を獲得する。
害意をもって攻撃をした相手を吹き飛ばし、傷つけるという新たな力を。
レオの祝福は発動し、それに牙を立てた一本角の獣ははるか遠くに吹き飛ばされ、地面を転がった。
それを見てレオは全身の祝福を開放。剣を取り出し、たった一歩でリベラの前まで移動する。
「遅くなった」
そう告げたレオは剣を携え、一歩一歩、前に進む。
一本角の魔物はレオの姿を認め、立ち上がり、威嚇をしながら警戒を強めている。
その姿を見て、レオの剣を持つ手に力が入った。
――壊す
人だとか魔物だとか、そんなことは関係が無い。
ただ、レオの前で彼にとって目に見える救える命を奪う相手を許してはおけない。
確実に壊す。
剣の刀身が光り輝き、夜空を映す。
カイルやヘレナ、他の勇者たちが持つものと同じ分類の装備が、この世に顕現する。
けれどそれは同じ分類であるだけで、この世界でレオしか所持していない唯一の武器。
黒い魔獣はその剣を見て、角に呪いの光を収束させる。
時間をかけずに集まり、一条の光がレオと魔獣の間に流れる。
まるで黒い流れ星のような破滅の光。
(こんなものか)
剣を上から下へ、迫ってくる光に対して上から叩き落とすかのように振り下ろす。
ただそれだけで、人を死へ至らせるほどの呪いを内包した光線はレオの剣の刀身が映し出す、どこに繋がっているかも分からない夜空へと消える。
自分の必殺の一撃が通用しないことに、獣であるはずの魔獣ですら動きを止めている。
その赤い眼は見開かれ、まるで信じられないとばかりに体は僅かだが震えていた。
その様子を見て、レオは内心で溜息を吐く。
(この程度なら、受けても問題はなかったな)
確かに、恐るべき呪いだった。
普通の人間相手ならば誰でも呪い殺すことができる程強力な呪いだろう。
けれど、レオからしてみれば児戯に過ぎない。
例え剣を使わず体で受けたとしても、レオの祝福を突破できるとは思えなかった。
現実を認められない獣は再度威嚇を行い、地面を素早く蹴る。
冒険者の剣士を一撃で吹き飛ばした、全体重をかけた突進。
仮にそれが防がれたとしても、まだ自分には爪がある。牙もある。
そんなことを思ったのだろう。
目にも止まらぬスピードで黒い魔獣は地を駆け、レオの白銀の胸当て目がけて角をぶつけようと体ごと突撃する。
「…………」
その全身全霊の攻撃を、レオは黒い獣に認識できぬ速さで避け、そのまま剣で獣の腹目がけて振り抜く。
夜空の剣はいとも容易く獣の肉を斬り裂き、全く抵抗を感じさせない動きで背中まで突き抜けた。
上半身と下半身を両断される致命傷の一撃を、黒い獣は視認できなかっただろう。
剣が自分の体を斬り裂く光景どころか、レオが剣を振るい、そして振るい終わった動きすら捉えられなかったはずだ。
ただ気づいたときには自分の体は二つに分かれていて、力なく地面へと落ちるだけだった。
(終わりだ)
完全に一本角の魔物が壊れたことを認識し、レオは剣を再封印し、収納する。
振り返って見下ろしてみれば、黒い獣は灰になって消えている最中で、その消えゆく体の奥から血のような深紅の結晶が覗き始めていた。
レオに立ち向かった敵の、これまでと同じ当然の末路だった。
「終わ――」
「レオさん! リベラをっ……リベラを助けてっ!」
終わったぞ。そうレオはリベラに声を掛けようとした。彼女を安心させるために。
けれどその言葉はシェラの大声によって遮られる。
駆けつけたときには意識を失っていた彼女はレオが戦っている間に意識を取り戻したのだろう。
今はリベラを抱え、必死の表情でレオに訴えかけている。
腕の中のリベラに外傷はない。けれど、レオの呪いを見抜く祝福は捉えた。
彼女の姿が見えないくらい大きく膨れ上がった、呪いの黒い靄を。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

実験施設から抜け出した俺が伝説を超えるまでの革命記! 〜Light Fallen Angels〜
朝日 翔龍
ファンタジー
それはある世界の、今よりずっと未来のこと。いくつもの分岐点が存在し、それによって分岐された世界線、いわゆるパラレルワールド。これは、そ無限と存在するパラレルワールドの中のひとつの物語。
その宇宙に危機を及ぼす脅威や魔族と呼ばれる存在が、何度も世界を消滅させようと襲撃した。そのたびに、最強無血と謳われるレジェンド世代と称されたデ・ロアーの8人集が全てを解決していった。やがては脅威や魔族を封印し、これ以上は世界の危機もないだろうと誰もが信じていた。
しかし、そんな彼らの伝説の幕を閉ざす事件が起き、封印されていたはずの脅威が蘇った。瞬く間に不安が見え隠れする世界。そこは、異世界線へと繋がるゲートが一般的に存在し、異世界人を流れ込ませたり、例の脅威をも出してしまう。
そんな世界の日本で、実験体としてとある施設にいた主人公ドンボ。ある日、施設から神の力を人工的に得られる薬を盗んだ上で脱走に成功し、外の世界へと飛び出した。
そして街中に出た彼は恐怖と寂しさを覆い隠すために不良となり、その日凌ぎの生き方をしていた。
そんな日々を過ごしていたら、世界から脅威を封印したファイター企業、“デ・ロアー”に属すると自称する男、フラットの強引な手段で険しい旅をすることに。
狭い視野となんの知識もないドンボは、道中でフラットに教えられた生きる意味を活かし、この世界から再び脅威を取り除くことができるのであろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる