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第2章 呪いを治す聖女
第36話 自分達にしか出来ないことを
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路地裏の屋根のある無人の商店のような場所で、リベラは溜息を吐く。
先ほど蹲ったためにシスター服の膝のあたりは土で汚れてしまっていて、頬にも涙の跡が残ってしまっていた。
レオはリベラに清掃の魔法をかけ、彼女の服と体から汚れを取り払った。
リベラは最初驚いていたが、やがて小さく礼を述べた。
そうしてしばらくして、探るようにレオに尋ねた。
「……その、孤児院をどうするの? 聖女として以外に、私に出来る事なんてないんだけど。
その、お金を寄付してくれるっていうのも申し訳ないし……」
「昔に戻す」
やや見当違いなリベラの発言に対してレオは答えるが、彼女はしっくりと来ていないようだ。
無理はない。今この状況を打破できるのはたった一人の少女で、彼女に一番近いからこそレオもなんとかできるのではと思っているのだから。
アリエスがレオに続けるように、これからの方針を説明する。
「支援金は領主の時は普通に支払われていたんですよね?
だったら街を治めるのが領主に戻れば、再び支援金が支払われて解決するはずです」
「そ、それは分かるけど、どうやって?
領主様が病に伏せているから、領主代理が代わりに治めているんだけど……」
「アリエス」
戸惑うようなリベラの声を聞いて、レオはアリエスの方に視線を向ける。
傷や病、そして呪いを癒す祝福を持つ唯一の少女は頷き返した。
彼女はリベラに近づき、シスター服に包まれた左手を両手で優しく包む。
リベラはアリエスの方を向いたが、次の瞬間、驚きで目を見開いた。
「……嘘」
レオの目が、まばゆい純白の光を視認する。
アリエスの体から溢れた幻想的な光は、リベラの体へと吸い込まれるように入っていく。
それと同時に、呪いを見抜く目が、リベラを包む黒い靄が少しだけだが薄まるのを確認した。
(……やっぱり、アリエスは)
彼女が呪いを治せることを疑っていたわけではない。
けれど、呪いを見抜ける祝福で実際に呪いが消えていく光景を見るのは初めてだ。
そしてそれは癒されているリベラからすればさらに大きな衝撃だろう。
今、彼女の目には自分を救ってくれる、奇跡のような白い光が映っているはずだ。
「……これでリベラさんの体に溜まっていた呪いはほんの少しですが消えたはずです」
ゆっくりと消える白い光に合わせて白銀の少女がそう呟く。
リベラは今もなお、アリエスを信じられないものを見るような目で見つめている。
「本物の……完全な……呪いを癒す祝福……」
唖然とした表情でも、なんとか絞り出した言葉。
リベラではなれなかった、夢の中にしか存在しない本物の聖女。
そんな意味が言葉には込められていたのかもしれないが、当の本人であるアリエスは首を横に振った。
「完全なんてありません。
わたしはリベラさんの呪いを消すことができますが、あなたの体に蓄積された呪いの量は膨大で、一部しか消すことはできません。
リベラさんが本当の意味で元通りになるには、これから先ずっと祝福で癒し続けなければなりません。
そして……リベラさんはもう呪いを移してはいけません。もっと時間がかかっちゃいますからね」
アリエスの存在は、今のリベラにとって、大きなバケツの底に空いた小さな穴のようなものだ。
時間をかければバケツの中の泥水は小さな穴を通って出て行くだろう。
けれどその際に、また大量の泥水をバケツに入れればバケツが空になるのに時間がかかる。
入れすぎれば、バケツそのものから溢れてしまうかもしれない。
そういった意味でアリエスは言ったのだろうとレオは感じた。
けれどアリエスはちらりと一瞬だけレオを見て、そして悲しげに微笑んだ。
チクリと胸が一瞬痛んだ気がしたけれど、レオはそれを無意識で無視した。
「……ありがとう」
小さく呟かれたリベラの言葉。
完全でなくても、今まで溜まっていくだけだった泥水が消えた。
それがリベラの心に光をもたらしたのは紛れもない事実だった。
一段落着いたのか大きく息を吐いて、リベラはアリエスに目を向ける。
空色の瞳に、銀色が映りこむのが見えた。
「それにしても、アリエスさんってひょっとして良いところのご令嬢さん?
確かに気品が溢れているように見えなくもないし……そうするとレオさんは騎士?」
「……え?」
突然のリベラの言葉に、レオは思わず声を上げてしまった。
アリエスはその美貌と銀髪により神秘的な雰囲気を纏っていて、良いところの令嬢に見えなくもないし、レオもその風貌から騎士というイメージがぴったりではある。
しかし、そんなことは外部から彼ら二人を見た感想であり、当然レオ達からすれば思ってもないことだった。
「いえ、わたしはレオ様の奴隷です。ほら」
アリエスはリベラの勘違いを解くために、橙の首布をずらして奴隷の首輪を見せた。
これで二人の関係性は分かっただろう。
令嬢と騎士というロマンチックなものではなく、主と奴隷という関係であると。
しかし、アリエスの首輪を見た瞬間に、リベラの瞳に怒りの炎が宿った。
「っ! あなたね、こんな子を奴隷にしてどういうつもりなの!」
「……え?」
食って掛かってきたリベラに対して、レオは戸惑いの声を上げるしかなかった。
奴隷という身分があまり良くないものであるというのはなんとなく気づいているが、アリエスはそれでいいと言ってくれている。
それゆえに何と答えようか迷っていると、二人の間に話題の中心であるアリエスが割って入った。
「レオ様は素晴らしい主人です。わたしは彼の奴隷であることを誇りに思います。
レオ様を否定するのは何人であっても許しません」
「……えぇ?」
揺らぎなど全くない、まっすぐな言葉にリベラは戸惑いの表情を浮かべ、アリエスとレオを交互に何度も見た。
彼女からすれば奴隷という身分で悲しい思いをしているアリエスを思いやっての事なのだが、当の本人からここまで否定されてはどうすればいいのか分からなくなるのだろう。
やがて、彼女はアリエスを見て体を少し震わせ、コクコクと頷いた。
「ま、まあ、そういう関係もあるのかもしれないよね」
「あります」
「あるよね!」
何故かやや強めに言い直したリベラを見てレオは首を傾げるものの、どうやら誤解は解けたようなので助かったと内心で胸を撫で下ろす。
(俺一人じゃリベラに何と説明すればいいのか分からなかったけど、間にアリエスが入ってくれて助かった)
実は力任せな解決手段しか取っていないのだが、アリエスに対してそんなことを思うレオの考えを訂正する人材は残念ながらここには居なかった。
レオはアリエスとリベラの二人を見て、ふと思ったことを口にした。
「……リベラさんは俺の呪いをそこまで恐れていないよな?」
「レオさんの呪いが怖くないって言えば噓になるけど、私は今までたくさんの呪いを見てきたし、その呪いを体の中に入れてきた。だからちょっとはマシなのかも。
それに、呪いから目を背けるなんて、私には出来ないよ」
「そうか、ありがとう。なら、全てが終わった後に一緒に来ないか。
俺たちと一緒に居れば、そのうちリベラの体に溜まった呪いもなくなるだろ」
チラリとアリエスに目を向けてみれば、彼女も賛成なようで頷いている。
しかしリベラは何かを考え込んでいる様子で、やがて首を横に振った。
「……全部、終われば……ちょっと、考えさせてほしいかな」
「そうか、もし良いと思ったら声をかけてくれ。
この後領主をアリエスの力で治す必要があるから、もうしばらくこの街に居ると思う」
リベラに対して念を押した。
彼女の体を蝕む呪いをなんとかするにはアリエスが必要だと、そう思ったから。
曇り空は一時的だったらしく、レオが念を押した瞬間にはさらに強い夕日が射し込んだ。
その光にリベラは照らされ、金の髪が光を反射させる。
正面に立つアリエスの銀髪と相まって、二つの光がレオには眩しく見えた。
「ありがとう。そのときは声をかけさせてもらうよ……それじゃあ、私はもう行くね」
手を軽く振って、リベラは歩き出す。
夕日に照らされた道を歩き、陰になった路地裏の道へと、まるで闇に溶けるかのように消えていってしまった。
その様子を同じように陰になった建物の影から、レオはじっと見続けていた。
(リベラさんは呪いを治せるのではなく、呪いを移せる祝福を持っていた)
彼女の真実を頭で思い返したとき、レオの中に一つの疑問が思い浮かんだ。
――なら、アリエスも同じ?
弾かれるように隣に立つ白銀の少女の方に向き、金色の左目で彼女を見る。
きょとんとした顔をしている彼女の体を包むのはリベラのものとは違う白い輝き。
その輝きで呪いの黒い靄は見えないけれど、ひょっとしたらリベラの時と同じく祝福の光が呪いの靄を消しているのかもしれない。
そう思い、呪いを看破する祝福を最大限まで強め、逆に祝福を見抜く力を弱めた。
眩く輝いていた少女の光が弱まり、段々と元の輪郭に戻っていく。
その途中で黒は一切現れなかった。
「……レオ様」
そして、どこかジトっとした目で見ている白銀の少女だけが残った。
「わたしは本当に呪いを治せる祝福を所持しています。
だから自分の両目を治せましたし、先ほどリベラさんも治せたじゃないですか」
驚いたことに、この一連の流れの意味を目の前の少女は正確に見抜いていた。
彼女の観察眼からすれば容易なのかもしれない。
いや、レオをよく見ているからこそ気づけたのかもしれないが。
「……そう……だよな……」
考えすぎだと思い、レオは内心で胸を撫で下ろす。
アリエスの言う通りであるし、レオの目をもってしても呪いは確認されなかった。
彼女は呪われていない。
「でも、心配してくれてありがとうございます。
……ところで、リベラさんの死の光景についてはこれで解決できそうですね。
リベラさんの死因が呪いを移すことなら、その行為をやめさせればその未来が訪れることはありませんから」
「そうだな。そのためにも領主の病を治しに行こう」
時刻は夕暮れ時でまだ時間がある。今から領主の病を治しても明日にはならないだろう。
その後にリベラが本当の意味で救われるかどうかは彼女次第になってしまったが。
――それでも、その日が一日でも早く来ればいい。
レオはアリエスを連れて路地裏へと足を踏み出す。
リベラの時間を得る為に。
そして彼女が少しでも早く自分を救えるように、そう祈りを込めて。
先ほど蹲ったためにシスター服の膝のあたりは土で汚れてしまっていて、頬にも涙の跡が残ってしまっていた。
レオはリベラに清掃の魔法をかけ、彼女の服と体から汚れを取り払った。
リベラは最初驚いていたが、やがて小さく礼を述べた。
そうしてしばらくして、探るようにレオに尋ねた。
「……その、孤児院をどうするの? 聖女として以外に、私に出来る事なんてないんだけど。
その、お金を寄付してくれるっていうのも申し訳ないし……」
「昔に戻す」
やや見当違いなリベラの発言に対してレオは答えるが、彼女はしっくりと来ていないようだ。
無理はない。今この状況を打破できるのはたった一人の少女で、彼女に一番近いからこそレオもなんとかできるのではと思っているのだから。
アリエスがレオに続けるように、これからの方針を説明する。
「支援金は領主の時は普通に支払われていたんですよね?
だったら街を治めるのが領主に戻れば、再び支援金が支払われて解決するはずです」
「そ、それは分かるけど、どうやって?
領主様が病に伏せているから、領主代理が代わりに治めているんだけど……」
「アリエス」
戸惑うようなリベラの声を聞いて、レオはアリエスの方に視線を向ける。
傷や病、そして呪いを癒す祝福を持つ唯一の少女は頷き返した。
彼女はリベラに近づき、シスター服に包まれた左手を両手で優しく包む。
リベラはアリエスの方を向いたが、次の瞬間、驚きで目を見開いた。
「……嘘」
レオの目が、まばゆい純白の光を視認する。
アリエスの体から溢れた幻想的な光は、リベラの体へと吸い込まれるように入っていく。
それと同時に、呪いを見抜く目が、リベラを包む黒い靄が少しだけだが薄まるのを確認した。
(……やっぱり、アリエスは)
彼女が呪いを治せることを疑っていたわけではない。
けれど、呪いを見抜ける祝福で実際に呪いが消えていく光景を見るのは初めてだ。
そしてそれは癒されているリベラからすればさらに大きな衝撃だろう。
今、彼女の目には自分を救ってくれる、奇跡のような白い光が映っているはずだ。
「……これでリベラさんの体に溜まっていた呪いはほんの少しですが消えたはずです」
ゆっくりと消える白い光に合わせて白銀の少女がそう呟く。
リベラは今もなお、アリエスを信じられないものを見るような目で見つめている。
「本物の……完全な……呪いを癒す祝福……」
唖然とした表情でも、なんとか絞り出した言葉。
リベラではなれなかった、夢の中にしか存在しない本物の聖女。
そんな意味が言葉には込められていたのかもしれないが、当の本人であるアリエスは首を横に振った。
「完全なんてありません。
わたしはリベラさんの呪いを消すことができますが、あなたの体に蓄積された呪いの量は膨大で、一部しか消すことはできません。
リベラさんが本当の意味で元通りになるには、これから先ずっと祝福で癒し続けなければなりません。
そして……リベラさんはもう呪いを移してはいけません。もっと時間がかかっちゃいますからね」
アリエスの存在は、今のリベラにとって、大きなバケツの底に空いた小さな穴のようなものだ。
時間をかければバケツの中の泥水は小さな穴を通って出て行くだろう。
けれどその際に、また大量の泥水をバケツに入れればバケツが空になるのに時間がかかる。
入れすぎれば、バケツそのものから溢れてしまうかもしれない。
そういった意味でアリエスは言ったのだろうとレオは感じた。
けれどアリエスはちらりと一瞬だけレオを見て、そして悲しげに微笑んだ。
チクリと胸が一瞬痛んだ気がしたけれど、レオはそれを無意識で無視した。
「……ありがとう」
小さく呟かれたリベラの言葉。
完全でなくても、今まで溜まっていくだけだった泥水が消えた。
それがリベラの心に光をもたらしたのは紛れもない事実だった。
一段落着いたのか大きく息を吐いて、リベラはアリエスに目を向ける。
空色の瞳に、銀色が映りこむのが見えた。
「それにしても、アリエスさんってひょっとして良いところのご令嬢さん?
確かに気品が溢れているように見えなくもないし……そうするとレオさんは騎士?」
「……え?」
突然のリベラの言葉に、レオは思わず声を上げてしまった。
アリエスはその美貌と銀髪により神秘的な雰囲気を纏っていて、良いところの令嬢に見えなくもないし、レオもその風貌から騎士というイメージがぴったりではある。
しかし、そんなことは外部から彼ら二人を見た感想であり、当然レオ達からすれば思ってもないことだった。
「いえ、わたしはレオ様の奴隷です。ほら」
アリエスはリベラの勘違いを解くために、橙の首布をずらして奴隷の首輪を見せた。
これで二人の関係性は分かっただろう。
令嬢と騎士というロマンチックなものではなく、主と奴隷という関係であると。
しかし、アリエスの首輪を見た瞬間に、リベラの瞳に怒りの炎が宿った。
「っ! あなたね、こんな子を奴隷にしてどういうつもりなの!」
「……え?」
食って掛かってきたリベラに対して、レオは戸惑いの声を上げるしかなかった。
奴隷という身分があまり良くないものであるというのはなんとなく気づいているが、アリエスはそれでいいと言ってくれている。
それゆえに何と答えようか迷っていると、二人の間に話題の中心であるアリエスが割って入った。
「レオ様は素晴らしい主人です。わたしは彼の奴隷であることを誇りに思います。
レオ様を否定するのは何人であっても許しません」
「……えぇ?」
揺らぎなど全くない、まっすぐな言葉にリベラは戸惑いの表情を浮かべ、アリエスとレオを交互に何度も見た。
彼女からすれば奴隷という身分で悲しい思いをしているアリエスを思いやっての事なのだが、当の本人からここまで否定されてはどうすればいいのか分からなくなるのだろう。
やがて、彼女はアリエスを見て体を少し震わせ、コクコクと頷いた。
「ま、まあ、そういう関係もあるのかもしれないよね」
「あります」
「あるよね!」
何故かやや強めに言い直したリベラを見てレオは首を傾げるものの、どうやら誤解は解けたようなので助かったと内心で胸を撫で下ろす。
(俺一人じゃリベラに何と説明すればいいのか分からなかったけど、間にアリエスが入ってくれて助かった)
実は力任せな解決手段しか取っていないのだが、アリエスに対してそんなことを思うレオの考えを訂正する人材は残念ながらここには居なかった。
レオはアリエスとリベラの二人を見て、ふと思ったことを口にした。
「……リベラさんは俺の呪いをそこまで恐れていないよな?」
「レオさんの呪いが怖くないって言えば噓になるけど、私は今までたくさんの呪いを見てきたし、その呪いを体の中に入れてきた。だからちょっとはマシなのかも。
それに、呪いから目を背けるなんて、私には出来ないよ」
「そうか、ありがとう。なら、全てが終わった後に一緒に来ないか。
俺たちと一緒に居れば、そのうちリベラの体に溜まった呪いもなくなるだろ」
チラリとアリエスに目を向けてみれば、彼女も賛成なようで頷いている。
しかしリベラは何かを考え込んでいる様子で、やがて首を横に振った。
「……全部、終われば……ちょっと、考えさせてほしいかな」
「そうか、もし良いと思ったら声をかけてくれ。
この後領主をアリエスの力で治す必要があるから、もうしばらくこの街に居ると思う」
リベラに対して念を押した。
彼女の体を蝕む呪いをなんとかするにはアリエスが必要だと、そう思ったから。
曇り空は一時的だったらしく、レオが念を押した瞬間にはさらに強い夕日が射し込んだ。
その光にリベラは照らされ、金の髪が光を反射させる。
正面に立つアリエスの銀髪と相まって、二つの光がレオには眩しく見えた。
「ありがとう。そのときは声をかけさせてもらうよ……それじゃあ、私はもう行くね」
手を軽く振って、リベラは歩き出す。
夕日に照らされた道を歩き、陰になった路地裏の道へと、まるで闇に溶けるかのように消えていってしまった。
その様子を同じように陰になった建物の影から、レオはじっと見続けていた。
(リベラさんは呪いを治せるのではなく、呪いを移せる祝福を持っていた)
彼女の真実を頭で思い返したとき、レオの中に一つの疑問が思い浮かんだ。
――なら、アリエスも同じ?
弾かれるように隣に立つ白銀の少女の方に向き、金色の左目で彼女を見る。
きょとんとした顔をしている彼女の体を包むのはリベラのものとは違う白い輝き。
その輝きで呪いの黒い靄は見えないけれど、ひょっとしたらリベラの時と同じく祝福の光が呪いの靄を消しているのかもしれない。
そう思い、呪いを看破する祝福を最大限まで強め、逆に祝福を見抜く力を弱めた。
眩く輝いていた少女の光が弱まり、段々と元の輪郭に戻っていく。
その途中で黒は一切現れなかった。
「……レオ様」
そして、どこかジトっとした目で見ている白銀の少女だけが残った。
「わたしは本当に呪いを治せる祝福を所持しています。
だから自分の両目を治せましたし、先ほどリベラさんも治せたじゃないですか」
驚いたことに、この一連の流れの意味を目の前の少女は正確に見抜いていた。
彼女の観察眼からすれば容易なのかもしれない。
いや、レオをよく見ているからこそ気づけたのかもしれないが。
「……そう……だよな……」
考えすぎだと思い、レオは内心で胸を撫で下ろす。
アリエスの言う通りであるし、レオの目をもってしても呪いは確認されなかった。
彼女は呪われていない。
「でも、心配してくれてありがとうございます。
……ところで、リベラさんの死の光景についてはこれで解決できそうですね。
リベラさんの死因が呪いを移すことなら、その行為をやめさせればその未来が訪れることはありませんから」
「そうだな。そのためにも領主の病を治しに行こう」
時刻は夕暮れ時でまだ時間がある。今から領主の病を治しても明日にはならないだろう。
その後にリベラが本当の意味で救われるかどうかは彼女次第になってしまったが。
――それでも、その日が一日でも早く来ればいい。
レオはアリエスを連れて路地裏へと足を踏み出す。
リベラの時間を得る為に。
そして彼女が少しでも早く自分を救えるように、そう祈りを込めて。
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ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
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