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第1章 呪いを恐れない奴隷少女
第22話 謎の足音
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日がちょうど落ちて夜になったころ。
ようやくレオとアリエスの二人は、廃屋近くまで戻ってきていた。
辺りは静まり返り、風で木々が揺れる音や動物たちが立てる音しか聞こえない。
アリエスの過去を聞いてから、二人は時折会話をするものの、雰囲気は少しぎこちなかった。
この状況を何とかしたいと思っていたレオだが、なかなか好転しなかった。
二人は共に時間を過ごしてきたものの、それは濃くても短いものだったからだ。
そんな時、アリエスの進む先にやや大きな岩が見えてくる。
その岩に歩き寄り、レオは右に、そしてアリエスは左に避けた。
前回来たときと全く同じ、自然な動き。
岩を避けたアリエスを見て、レオは思わず声をかけた。
「そういえば、アリエスは目が見えない状態でも、まるで見えているみたいに動いてたよね。
見えないヒントはあったけど、それに気づけなかったくらいだし」
宿屋の一室でも、彼女は普通に生活していた。
椅子の場所を把握して、それに座っていたし、ベッドも普通に使えていた。
慣れでなんとかなるものなのだろうか。
そんなことを思って聞くと、アリエスは「あぁ」と小さく呟いた。
「目は見えませんでしたが、その代わりに耳と感覚は凄く良かったんです。
特に祝福に関しては目が見えない状態で長いこと過ごしていたために、微小な量でも読み取れるようになりました。
知っていますか? 実は祝福って、空気にも含まれているんですよ。
本当に小さくて、何の力も持たないんですけどね」
「だから初めて会ったときに、俺の方を見ていたのか」
「はい、あんなに綺麗でいっぱいのキラキラ、初めて見ましたから」
たしかに、空気中の祝福を読み取れるなら、それが無いところには何かが在るということになる。
それなら宿屋の部屋をある程度自由に使うことはできるだろう。
一方で、置かれている物体が大雑把には分かるが、紙に書いてある内容は読み取れないに違いない。
見えているのではなく、モノを視ていると言った方が正しいだろう。
「でも目が見えるようになって、目を瞑っても祝福はあまり見えなくなっちゃいました。
耳も見えなかった頃より良いわけではないので、段々と昔みたいに戻っていくと思います」
今までのアリエスの超感覚は、視界を失った代償に彼女が得た物だったのだろう。
そして視界を取り戻した今、超人的な感覚は役目を終えて消えようとしている。
そうレオは結論付けた。
持っていたものを失うのは辛いことかもしれないが、目が見えるようになったことで出来ることも多くなるだろう。
それこそ、見えなかった時よりもはるかに多く。
アリエスは優秀だ。
だから、読み書きに関してもすぐに習得してしまうに違いない。
そこまで考えて、レオはふとあることを思い、アリエスに尋ねた。
「ちなみに、アリエスは文字の読み書きはできるの?」
「あ、はい、両方できます」
なんとなく予想していたが、やはりアリエスは文字を読むことも書くこともできるようだ。
それを聞いてレオは肩を落とした。
アリエスに教えられることが一つ減ってしまったことは、残念だ。
ちらりとアリエスを見ると、彼女はなぜレオが残念そうな顔をしているのか、心底不思議そうだった。
小さくだが首を傾げている。
その姿を見て、レオは再度質問をする。
「変身魔法を使っていたのは、自分を護るため?」
「はい、一応村では一番の美人さんって言われていましたし、先生からも可愛いと言われていたので……流石に幼い子供に対する誉め言葉みたいなものだと今は分かりますが」
絶対に誉め言葉ではなく、全員が本心で言っていたのだろうとレオは確信した。
少なくともレオから見て、アリエスはとても綺麗に映る。
どこか守ってあげたくなるような儚さがありながら、瞳には強い意志があり、凛としている。
そして聡明で、魔法の才能もある。
これは村でも人気者だっただろう。
「でも、多分本当の自分を捨てたかったんだと思います。
あの村に居たアリエスという少女はもう死んだんだって、そう思いたかったんだろうって」
「……アリエス」
それまでのほとんどを失い、残った自分の姿すら捨てるほど、彼女は追い詰められていたのだろう。
そのことを悟り、レオは思わず彼女の名前を呼んでしまう。
アリエスは空気が重くなったのを感じたのか、すぐに微笑んで否定しにかかる。
「いえ、でも今はこの姿が好きです。レオ様のお陰です。
以前の姿になることもできますが、今のわたしは、元のわたしとして過ごしていきたいと思っていますよ」
「……そっか」
小さく微笑み、レオは空を見上げる。
少し思うところはあるものの、自分のこれまでの行いが、形はどうあれアリエスが前を向くきっかけになれたのなら、それは喜ばしいことだ。
そんなことを思いながら、ふと以前のアリエスの姿に思いを馳せる。
たしかにあのアリエスは今のアリエスとは姿かたちが大きく違う。
けれど、そんな彼女も嫌いではなかった。
特に。
「……あの耳、可愛かったけどな」
アリエスの心に反応しているのか分からないが、時折ピコピコ動いていた耳に意識が向かってしまったことが何回かある。
それをちょっと惜しいと思ったのだが。
「あの……レオ様」
不意に声をかけられ、そちらを向くと、アリエスは顔を少し赤くして顔を背けていた。
「その……わたし……まだ耳が良くてですね」
「……え?」
意味を理解して、レオは思わず聞き返してしまった。
けれどアリエスはそれが言ったことを理解されていないと感じたのだろう。
少し早口になって、続きを口にする。
「一部だけ、変身魔法というのもできます。こ、こんなふうに」
その瞬間、アリエスの頭を光が包み、彼女の髪色に合わせた銀色の耳が現れる。
月明かりに照らされる獣耳の少女。
たとえその耳が偽物だとしても、それは本物のように動く。
「…………」
「……っ、い、行きますよレオ様! 廃屋はすぐそこです!」
思わず見とれてしまったレオを見て恥ずかしくなったのだろう。
アリエスは真っ赤な顔で変身魔法を解除すると、我先にと歩き出した。
「……あぁ、行こう」
微笑み、レオも歩くスピードを速める。
二人は、何も言わずに月下の森を歩く。
けれどそこに重々しい雰囲気はなく、二人は穏やかな雰囲気に包まれていた。
×××
しばらく歩いて二人は廃屋へとたどり着いた。
昨日と同じ状態のボロ家。
レオの最後の攻撃により半壊しているものの、倒壊はしていなかった。
部屋の場所は分かっているので屋内には入らずに、外側から戦いが起こった居間へと回り込む。
瓦礫を踏み越え、二人はこの場所へと再び戻ってきた。
「あ、ありました。良かったです。レオ様、あれが魔石と呼ばれるものです」
部屋の隅に転がっている赤い石を遠くから見つけ、アリエスは指をさす。
二人でそちらに近づいてみれば、手のひらよりも一回り大きなゴツゴツした赤い結晶が、床に落ちていた。
レオはそれを拾い上げる。
ずっしりと重量があるが、レオからすれば持つのに苦労はしなかった。
赤というよりも、血のような濃い色をした、どこか不吉な色の結晶だ。
「魔物はこの魔石というものを落とします。
これを冒険者組合に持っていけば依頼完了です」
「……あぁ、そういえば兵士がこんな赤い石を拾っていたな」
あれは戦利品を回収していたのかと、レオは今知った。
同時に、どれだけ自分が敵を倒すことにしか興味が無かったのかも。
「あれ?でもその時の石はこんなに大きくなかったけど」
兵士が拾っていたのは手のひらに収まる程の赤い石だったはずだ。
ここまで大きいのは、あまり見たことがあまりない。
ひょっとすると。
「はい、大きさは魔物により異なりますから。
弱ければ小さいですし、強ければ大きいです」
「なるほど」
予想通りの言葉がアリエスから返ってきて、レオは頷く。
たしかにレオが今まで見た中では、もっと大きな赤い石もあれば、小さなものもあった。
大きさが魔物の強さと、そして魔石そのものの価値に直結するのだろう。
「今まで敵を壊すことしか考えてなかったからなぁ。色々教えてくれて助かるよ」
「……いえ……他に聞きたいことはありますか? なんでも聞いてくださいね。
わたしに分かることだったら、できるだけ丁寧に伝えますので」
「とりあえず大丈夫だよ。さて、じゃあハマルに戻ろうか」
「……そうですね……ふぁあ」
眠そうに欠伸をしてウトウトとしはじめたアリエス。
その様子に、レオは穏やかな雰囲気で空を見上げる。
月ははるか上空にある。夜も更けてきているが、朝まではまだ時間があるだろう。
「夜も遅いし、ここら辺で良いところを見つけて、少し寝てから行こうか」
「……すみません、昨日から寝てないので……レオ様は大丈夫なんですか?」
やや眠そうに目を細めながらアリエスはレオに尋ねる。
昨日の夜から激動の一日だったので、寝る暇がなかったのも仕方のないことだ。
そう思い、レオは質問に答える。
「俺は慣れているからね」
口にはしないが、あと2日くらいなら不眠不休で活動できる。
アリエスは「すごいですね」と一言告げて、屋内から出ようとする。
彼女の後を追うように、レオも一歩を踏み出す。
歩き出そうとして、しかしその足が、止まった。
一方向をじっと見るレオ。
それは昨日アリエスが走り去った方向。
そちらに足早に移動する。
「……レオ様?」
突然の行動にアリエスも怪訝な声を上げるが、レオは答えることなく廃屋を出て、森の方へ向かう。
かと思いきや、その途中で止まり、ゆっくりと片膝をついた。
「どうしたんですか?」
レオの後ろからアリエスが小走りで駆け寄ってくる。
追いついたアリエスは彼の背中から地面を覗き込んだ。
そこには、二つの足跡が。
「……誰が、ここに来たみたいだ」
「……え? ええ?」
たしかに存在する二つの足跡。
一つはアリエスのものだろう。まっすぐに森へと向かっている。
もう一つは、アリエスと同じくらいの大きさだが、向きが違う。
アリエスの走り去った方向とは逆。
つまり、あの廃屋に向かった足跡だ。
おそらく、廃屋から自分達が来たのとは違う方向にさらに伸びているのだろう。
何者かがあの廃屋に向かい、なにかをして、去っていったということになる。
「で、でも魔石はありましたよ?」
「……流石に戦果を横取りするのは気が引けて、やめた……とか?」
レオは任務を崇高なものだと考えている。
強大な魔物を倒した戦績は、称えられるべきだ。
もしもこの足跡の人物を自分として考えてみると、他者の功績を奪うような真似は絶対にしないだろう。
そう思ってのレオの発言だったのだが、アリエスはどこか納得がいっていないようだ。
不思議そうな顔をしながら、うーん、うーんと唸っている。
やがて諦めたように、首を横に振った。
「考えても分かりませんね。
この足跡の人物がなんでこの廃屋を訪れたのかは分かりませんが、魔石は無事でしたし、とりあえず行きましょうか」
「そうだな。とりあえずどこか休める場所を探そう」
アリエスが考えても分からないことが、自分に分かるわけがない。
彼女の言う通り、ここにいても仕方ないので、レオは廃屋を後にする。
けれど魔石が目的でないなら誰が何のために、そしていつここを訪れたのだろうかとレオは思った。
ようやくレオとアリエスの二人は、廃屋近くまで戻ってきていた。
辺りは静まり返り、風で木々が揺れる音や動物たちが立てる音しか聞こえない。
アリエスの過去を聞いてから、二人は時折会話をするものの、雰囲気は少しぎこちなかった。
この状況を何とかしたいと思っていたレオだが、なかなか好転しなかった。
二人は共に時間を過ごしてきたものの、それは濃くても短いものだったからだ。
そんな時、アリエスの進む先にやや大きな岩が見えてくる。
その岩に歩き寄り、レオは右に、そしてアリエスは左に避けた。
前回来たときと全く同じ、自然な動き。
岩を避けたアリエスを見て、レオは思わず声をかけた。
「そういえば、アリエスは目が見えない状態でも、まるで見えているみたいに動いてたよね。
見えないヒントはあったけど、それに気づけなかったくらいだし」
宿屋の一室でも、彼女は普通に生活していた。
椅子の場所を把握して、それに座っていたし、ベッドも普通に使えていた。
慣れでなんとかなるものなのだろうか。
そんなことを思って聞くと、アリエスは「あぁ」と小さく呟いた。
「目は見えませんでしたが、その代わりに耳と感覚は凄く良かったんです。
特に祝福に関しては目が見えない状態で長いこと過ごしていたために、微小な量でも読み取れるようになりました。
知っていますか? 実は祝福って、空気にも含まれているんですよ。
本当に小さくて、何の力も持たないんですけどね」
「だから初めて会ったときに、俺の方を見ていたのか」
「はい、あんなに綺麗でいっぱいのキラキラ、初めて見ましたから」
たしかに、空気中の祝福を読み取れるなら、それが無いところには何かが在るということになる。
それなら宿屋の部屋をある程度自由に使うことはできるだろう。
一方で、置かれている物体が大雑把には分かるが、紙に書いてある内容は読み取れないに違いない。
見えているのではなく、モノを視ていると言った方が正しいだろう。
「でも目が見えるようになって、目を瞑っても祝福はあまり見えなくなっちゃいました。
耳も見えなかった頃より良いわけではないので、段々と昔みたいに戻っていくと思います」
今までのアリエスの超感覚は、視界を失った代償に彼女が得た物だったのだろう。
そして視界を取り戻した今、超人的な感覚は役目を終えて消えようとしている。
そうレオは結論付けた。
持っていたものを失うのは辛いことかもしれないが、目が見えるようになったことで出来ることも多くなるだろう。
それこそ、見えなかった時よりもはるかに多く。
アリエスは優秀だ。
だから、読み書きに関してもすぐに習得してしまうに違いない。
そこまで考えて、レオはふとあることを思い、アリエスに尋ねた。
「ちなみに、アリエスは文字の読み書きはできるの?」
「あ、はい、両方できます」
なんとなく予想していたが、やはりアリエスは文字を読むことも書くこともできるようだ。
それを聞いてレオは肩を落とした。
アリエスに教えられることが一つ減ってしまったことは、残念だ。
ちらりとアリエスを見ると、彼女はなぜレオが残念そうな顔をしているのか、心底不思議そうだった。
小さくだが首を傾げている。
その姿を見て、レオは再度質問をする。
「変身魔法を使っていたのは、自分を護るため?」
「はい、一応村では一番の美人さんって言われていましたし、先生からも可愛いと言われていたので……流石に幼い子供に対する誉め言葉みたいなものだと今は分かりますが」
絶対に誉め言葉ではなく、全員が本心で言っていたのだろうとレオは確信した。
少なくともレオから見て、アリエスはとても綺麗に映る。
どこか守ってあげたくなるような儚さがありながら、瞳には強い意志があり、凛としている。
そして聡明で、魔法の才能もある。
これは村でも人気者だっただろう。
「でも、多分本当の自分を捨てたかったんだと思います。
あの村に居たアリエスという少女はもう死んだんだって、そう思いたかったんだろうって」
「……アリエス」
それまでのほとんどを失い、残った自分の姿すら捨てるほど、彼女は追い詰められていたのだろう。
そのことを悟り、レオは思わず彼女の名前を呼んでしまう。
アリエスは空気が重くなったのを感じたのか、すぐに微笑んで否定しにかかる。
「いえ、でも今はこの姿が好きです。レオ様のお陰です。
以前の姿になることもできますが、今のわたしは、元のわたしとして過ごしていきたいと思っていますよ」
「……そっか」
小さく微笑み、レオは空を見上げる。
少し思うところはあるものの、自分のこれまでの行いが、形はどうあれアリエスが前を向くきっかけになれたのなら、それは喜ばしいことだ。
そんなことを思いながら、ふと以前のアリエスの姿に思いを馳せる。
たしかにあのアリエスは今のアリエスとは姿かたちが大きく違う。
けれど、そんな彼女も嫌いではなかった。
特に。
「……あの耳、可愛かったけどな」
アリエスの心に反応しているのか分からないが、時折ピコピコ動いていた耳に意識が向かってしまったことが何回かある。
それをちょっと惜しいと思ったのだが。
「あの……レオ様」
不意に声をかけられ、そちらを向くと、アリエスは顔を少し赤くして顔を背けていた。
「その……わたし……まだ耳が良くてですね」
「……え?」
意味を理解して、レオは思わず聞き返してしまった。
けれどアリエスはそれが言ったことを理解されていないと感じたのだろう。
少し早口になって、続きを口にする。
「一部だけ、変身魔法というのもできます。こ、こんなふうに」
その瞬間、アリエスの頭を光が包み、彼女の髪色に合わせた銀色の耳が現れる。
月明かりに照らされる獣耳の少女。
たとえその耳が偽物だとしても、それは本物のように動く。
「…………」
「……っ、い、行きますよレオ様! 廃屋はすぐそこです!」
思わず見とれてしまったレオを見て恥ずかしくなったのだろう。
アリエスは真っ赤な顔で変身魔法を解除すると、我先にと歩き出した。
「……あぁ、行こう」
微笑み、レオも歩くスピードを速める。
二人は、何も言わずに月下の森を歩く。
けれどそこに重々しい雰囲気はなく、二人は穏やかな雰囲気に包まれていた。
×××
しばらく歩いて二人は廃屋へとたどり着いた。
昨日と同じ状態のボロ家。
レオの最後の攻撃により半壊しているものの、倒壊はしていなかった。
部屋の場所は分かっているので屋内には入らずに、外側から戦いが起こった居間へと回り込む。
瓦礫を踏み越え、二人はこの場所へと再び戻ってきた。
「あ、ありました。良かったです。レオ様、あれが魔石と呼ばれるものです」
部屋の隅に転がっている赤い石を遠くから見つけ、アリエスは指をさす。
二人でそちらに近づいてみれば、手のひらよりも一回り大きなゴツゴツした赤い結晶が、床に落ちていた。
レオはそれを拾い上げる。
ずっしりと重量があるが、レオからすれば持つのに苦労はしなかった。
赤というよりも、血のような濃い色をした、どこか不吉な色の結晶だ。
「魔物はこの魔石というものを落とします。
これを冒険者組合に持っていけば依頼完了です」
「……あぁ、そういえば兵士がこんな赤い石を拾っていたな」
あれは戦利品を回収していたのかと、レオは今知った。
同時に、どれだけ自分が敵を倒すことにしか興味が無かったのかも。
「あれ?でもその時の石はこんなに大きくなかったけど」
兵士が拾っていたのは手のひらに収まる程の赤い石だったはずだ。
ここまで大きいのは、あまり見たことがあまりない。
ひょっとすると。
「はい、大きさは魔物により異なりますから。
弱ければ小さいですし、強ければ大きいです」
「なるほど」
予想通りの言葉がアリエスから返ってきて、レオは頷く。
たしかにレオが今まで見た中では、もっと大きな赤い石もあれば、小さなものもあった。
大きさが魔物の強さと、そして魔石そのものの価値に直結するのだろう。
「今まで敵を壊すことしか考えてなかったからなぁ。色々教えてくれて助かるよ」
「……いえ……他に聞きたいことはありますか? なんでも聞いてくださいね。
わたしに分かることだったら、できるだけ丁寧に伝えますので」
「とりあえず大丈夫だよ。さて、じゃあハマルに戻ろうか」
「……そうですね……ふぁあ」
眠そうに欠伸をしてウトウトとしはじめたアリエス。
その様子に、レオは穏やかな雰囲気で空を見上げる。
月ははるか上空にある。夜も更けてきているが、朝まではまだ時間があるだろう。
「夜も遅いし、ここら辺で良いところを見つけて、少し寝てから行こうか」
「……すみません、昨日から寝てないので……レオ様は大丈夫なんですか?」
やや眠そうに目を細めながらアリエスはレオに尋ねる。
昨日の夜から激動の一日だったので、寝る暇がなかったのも仕方のないことだ。
そう思い、レオは質問に答える。
「俺は慣れているからね」
口にはしないが、あと2日くらいなら不眠不休で活動できる。
アリエスは「すごいですね」と一言告げて、屋内から出ようとする。
彼女の後を追うように、レオも一歩を踏み出す。
歩き出そうとして、しかしその足が、止まった。
一方向をじっと見るレオ。
それは昨日アリエスが走り去った方向。
そちらに足早に移動する。
「……レオ様?」
突然の行動にアリエスも怪訝な声を上げるが、レオは答えることなく廃屋を出て、森の方へ向かう。
かと思いきや、その途中で止まり、ゆっくりと片膝をついた。
「どうしたんですか?」
レオの後ろからアリエスが小走りで駆け寄ってくる。
追いついたアリエスは彼の背中から地面を覗き込んだ。
そこには、二つの足跡が。
「……誰が、ここに来たみたいだ」
「……え? ええ?」
たしかに存在する二つの足跡。
一つはアリエスのものだろう。まっすぐに森へと向かっている。
もう一つは、アリエスと同じくらいの大きさだが、向きが違う。
アリエスの走り去った方向とは逆。
つまり、あの廃屋に向かった足跡だ。
おそらく、廃屋から自分達が来たのとは違う方向にさらに伸びているのだろう。
何者かがあの廃屋に向かい、なにかをして、去っていったということになる。
「で、でも魔石はありましたよ?」
「……流石に戦果を横取りするのは気が引けて、やめた……とか?」
レオは任務を崇高なものだと考えている。
強大な魔物を倒した戦績は、称えられるべきだ。
もしもこの足跡の人物を自分として考えてみると、他者の功績を奪うような真似は絶対にしないだろう。
そう思ってのレオの発言だったのだが、アリエスはどこか納得がいっていないようだ。
不思議そうな顔をしながら、うーん、うーんと唸っている。
やがて諦めたように、首を横に振った。
「考えても分かりませんね。
この足跡の人物がなんでこの廃屋を訪れたのかは分かりませんが、魔石は無事でしたし、とりあえず行きましょうか」
「そうだな。とりあえずどこか休める場所を探そう」
アリエスが考えても分からないことが、自分に分かるわけがない。
彼女の言う通り、ここにいても仕方ないので、レオは廃屋を後にする。
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何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
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転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
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