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第1章 呪いを恐れない奴隷少女
第11話 呪いを解くために、西へ
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宿屋の一室で軽く準備をして、昨日と同じようにテーブルでアリエスと向かい合う。
時刻は昼前くらいか。
昨日よりも早く起きられたが、アリエスは休めたのかとレオは不安になった。
「昨日は……休めたか?」
「はい、久しぶりにベッドで寝ることができました。ありがとうございました」
「いや、ならいい……」
昨日感じた暗く冷たい雰囲気も、話してはならないような重圧も今のアリエスからは感じない。
そのことを確認し、レオは今後についてアリエスと情報を共有しようとする。
「今後の話なんだが、実はこの宿屋にはあと数日しか滞在できない。
というか、この王都にだけど」
「……そうなのですか?」
「あぁ、この呪いのせいで都から出て行けって言われているんだ……まあ、一週間の猶予があるだけマシだよ」
「…………」
アリエスの雰囲気に怒りの色が見え始める。
一瞬レオは慌てそうになるものの、それが自分に向けられたものではないということが分かり、とりあえず話を続けることにした。
「早速、力を借りたい。この後、西のどこに向かえばいいだろうか?」
レオの言葉に、アリエスは顎に手を置いて考え込む。
それを邪魔しないように、レオはじっと彼女を見つめる。
別にアリエスは別段美人というわけではない。
だが真剣に考え込んでくれる彼女の表情を、レオは凛々しいと感じていた。
しばらく考え込んだのちに、アリエスは口を開く。
「レオ様は呪いを解くのが目的です。
そのためには情報を集める必要があるでしょう……とはいえこの都には長いこと滞在できないので、別の街で行う必要があります。
ここから南西に進むと、ハマルという大きな街があるので、そこを目指してみるのはいかがでしょうか」
「……なるほど」
なるほどと言いながらも、レオはアリエスの提案に全面的に賛成だった。
むしろ適当に西に歩こうと思っていたレオからすれば、アリエスの現実的な意見はとても参考になる。
彼の中でのアリエスの評価が、ぐんっと上がった。
「移動には馬車を使うのが普通だと思われます。
ですがそれでもハマルまではここから距離がありますので、事前にこの都で準備をするのがよろしいかと。
必要なものを買い揃えなくてはなりませんが……その……お金の方は……」
「ああ、それなら問題ない。王城から貰っているから」
「そうですか、なら大丈夫そうですね。
それでは必要なものを伝えますので、紙に書いて頂いてもよろしいですか?」
金銭のことに関しては問題ないと告げると、アリエスはレオにメモを要求した。
レオは部屋を見渡し、少し離れた場所に紙と羽ペンを見つけると、椅子から立ち上がってそれを取りに行く。
アリエスの言葉通り、一枚だけ紙を手に取り、それらを持ってテーブルへと戻る。
アリエスはレオが着席したことを確認すると、必要なものを口に出し始めた。
それを紙に書きおろしていく。
彼女はどうやら文字が書けないようだ。
勇者として念のために文字を勉強してきてよかったとレオは感じた。
それと同時に、筆記という能力で博識なアリエスに貢献できることが嬉しかった。
やがて、アリエスは必要なものを全て伝え終わる。
「以上です。おそらく、これだけ物があれば問題なく旅ができると思われます」
「……すごいな」
書いた文字を見て、レオは思わず呟く。
アリエスが書きだしたものは、よく常識を知らないレオからしても必要だと思えるものばかりだった。
中には用途の分からない物もあるが、彼女は分かるのだろう。
書き込んだ紙を大事に懐にしまい、レオは立ち上がる。
「じゃあ今日はこれらを買いに行って、早いうちに都を出よう。」
「……かしこまりました」
アリエスという心強い味方を得たレオは、この都に居づらいというのもあってすぐに出立することを選んだ。
アリエスに関しても特に異論はないのだろう。
彼女も立ち上がる。
二人で、忘れ物がないことを確認する。
レオは一昨日から、アリエスに関しては昨日から部屋を訪れていたので、特に必要なものはなかった。
たった二日しか滞在しなかったが、悪くない部屋だった。
そうレオは感じた。
気持ちを入れ替え、レオは部屋を出る。
アリエスを引き連れ、廊下を歩く。
昨日一昨日と来たときには気づかなかったが、廊下は窓から光が差し込むような構造になっていて、明るくなっていた。
こんなことにも気づかないほどに追い詰められていたのかと、レオは内心で思わず笑ってしまった。
階段を降り、無人の受付を視界に入れ、その中に無遠慮に入る。
レオの行動に対して、アリエスは何も言わなかった。
昨日と同じようにコンコンとノックをすれば、今日は早めに扉が動いた。
店主は昨日と同じく部屋から出ようとはせずに、扉を少しだけ開ける。
「世話になった。これから出るつもりだ……迷惑をかけたな」
「そうですか! ご利用いただき、ありがとうございました!」
店主の男性は最初こそ不安そうにしていたものの、レオの言葉を聞くと瞳を輝かせた。
その態度の違いっぷりに、昨日のサルマンを見習ってほしいとさえレオは思ったくらいだ。
まあ、自分が悪いので口に出すことはしないが。
「お部屋はそのままで大丈夫ですので! それでは!」
そういって店主は部屋の中へと引っ込んでしまう。
あまりの徹底ぶりにレオは苦笑いしそうになるのを必死に堪えていた。
結局、店主とは一度も正面から顔を合わせることはなかった。
宿屋から出るために振り返る。
するとすぐ近くに居たアリエスと目が合った。
彼女はどこか納得がいかないような雰囲気を出していたが、特に何か言うわけではないようだ。
彼女の横を抜け、宿屋の入り口の扉を音を立てて開く。
数日間滞在した宿。
けれど、もう来ることもないだろう。
「世話になった」
そう告げ、宿屋の外に出る。
外に出てすぐに感じたのは、昨日と同じ強い日差しと、自分を見つめる呪われた男性。
いつもと同じ、王都の大通り。
けれど今のレオにはそのどれも心を動かしはしない。
今の彼には、後ろに心強い味方が居るのだから。
×××
その日はアリエスを連れて必要なものを買い占める為に時間を使った。
とはいえ量はそこまで多くはなく、ハマルでも買うことはできるということで、買い物は比較的早く終わった。
レオは買い物を楽しむどころか、した経験すらないために、紙に書いたものを要求するだけ。
そして頼みの綱であったアリエスに関しても、そんなレオに何も言わずについてくるだけだった。
以前、エバは色々と店員と話をしていたが、アリエスはその逆で全く話をしない。
ただ目的のものが手に入ればいいという、自分と似た彼女と居ることが今のレオにとっては楽だった。
途中で、『何か欲しいものはあるか?』と聞いたものの彼女は首を横に振って拒否した。
『いいえ、ありません』
本当に欲しいものがないような断り方だったので、レオはそれ以降アリエスに聞くことはなかった。
買い揃えたものはレオの魔法で武器と同じく異空間に収納した。
その魔法を店員は興味深く見ていたものの、結局そのことでレオに声をかけることはなかった。
必要なものを買い占めた後は馬車に乗るだけ。
買い物の時間は本当に早く、まだ日が暮れてもいなかった。
借馬車の施設に向かえば、ハマルに向かうのは問題ないとのことで、受け入れてくれた。
相変わらず目線はレオとは合わせてくれないが、向こうも商売である以上、金銭を受け取れば仕事はしてくれる。
それ以外に何かしてくれる、何か話をしてくれるといったことはないが、どちらかというとレオにとってはそんな風に干渉してくれない方が今は楽だった。
用意された馬車に乗り込み、レオは不意に振り返る。
それは彼にとって完全な無意識だった。
今までしてこなかったこと。彼は馬車の外に立つアリエスに左手を伸ばした。
どこか奴隷生活でまだ外に慣れていないように見える彼女の助けになれればと思ったのだろう。
「あ、ありがとうございます……」
アリエスはそう言って遠慮気味にレオの左手を握る。
相変わらず無表情だが、雰囲気が確かに柔らかくなったのをレオは感じた。
自分の左手の熱にどこか覚えがあるものの、それが何なのかまでは分からなかった。
そしてレオはアリエスを引き連れ、期限である一週間よりも数日早く、都を後にした。
時刻は昼前くらいか。
昨日よりも早く起きられたが、アリエスは休めたのかとレオは不安になった。
「昨日は……休めたか?」
「はい、久しぶりにベッドで寝ることができました。ありがとうございました」
「いや、ならいい……」
昨日感じた暗く冷たい雰囲気も、話してはならないような重圧も今のアリエスからは感じない。
そのことを確認し、レオは今後についてアリエスと情報を共有しようとする。
「今後の話なんだが、実はこの宿屋にはあと数日しか滞在できない。
というか、この王都にだけど」
「……そうなのですか?」
「あぁ、この呪いのせいで都から出て行けって言われているんだ……まあ、一週間の猶予があるだけマシだよ」
「…………」
アリエスの雰囲気に怒りの色が見え始める。
一瞬レオは慌てそうになるものの、それが自分に向けられたものではないということが分かり、とりあえず話を続けることにした。
「早速、力を借りたい。この後、西のどこに向かえばいいだろうか?」
レオの言葉に、アリエスは顎に手を置いて考え込む。
それを邪魔しないように、レオはじっと彼女を見つめる。
別にアリエスは別段美人というわけではない。
だが真剣に考え込んでくれる彼女の表情を、レオは凛々しいと感じていた。
しばらく考え込んだのちに、アリエスは口を開く。
「レオ様は呪いを解くのが目的です。
そのためには情報を集める必要があるでしょう……とはいえこの都には長いこと滞在できないので、別の街で行う必要があります。
ここから南西に進むと、ハマルという大きな街があるので、そこを目指してみるのはいかがでしょうか」
「……なるほど」
なるほどと言いながらも、レオはアリエスの提案に全面的に賛成だった。
むしろ適当に西に歩こうと思っていたレオからすれば、アリエスの現実的な意見はとても参考になる。
彼の中でのアリエスの評価が、ぐんっと上がった。
「移動には馬車を使うのが普通だと思われます。
ですがそれでもハマルまではここから距離がありますので、事前にこの都で準備をするのがよろしいかと。
必要なものを買い揃えなくてはなりませんが……その……お金の方は……」
「ああ、それなら問題ない。王城から貰っているから」
「そうですか、なら大丈夫そうですね。
それでは必要なものを伝えますので、紙に書いて頂いてもよろしいですか?」
金銭のことに関しては問題ないと告げると、アリエスはレオにメモを要求した。
レオは部屋を見渡し、少し離れた場所に紙と羽ペンを見つけると、椅子から立ち上がってそれを取りに行く。
アリエスの言葉通り、一枚だけ紙を手に取り、それらを持ってテーブルへと戻る。
アリエスはレオが着席したことを確認すると、必要なものを口に出し始めた。
それを紙に書きおろしていく。
彼女はどうやら文字が書けないようだ。
勇者として念のために文字を勉強してきてよかったとレオは感じた。
それと同時に、筆記という能力で博識なアリエスに貢献できることが嬉しかった。
やがて、アリエスは必要なものを全て伝え終わる。
「以上です。おそらく、これだけ物があれば問題なく旅ができると思われます」
「……すごいな」
書いた文字を見て、レオは思わず呟く。
アリエスが書きだしたものは、よく常識を知らないレオからしても必要だと思えるものばかりだった。
中には用途の分からない物もあるが、彼女は分かるのだろう。
書き込んだ紙を大事に懐にしまい、レオは立ち上がる。
「じゃあ今日はこれらを買いに行って、早いうちに都を出よう。」
「……かしこまりました」
アリエスという心強い味方を得たレオは、この都に居づらいというのもあってすぐに出立することを選んだ。
アリエスに関しても特に異論はないのだろう。
彼女も立ち上がる。
二人で、忘れ物がないことを確認する。
レオは一昨日から、アリエスに関しては昨日から部屋を訪れていたので、特に必要なものはなかった。
たった二日しか滞在しなかったが、悪くない部屋だった。
そうレオは感じた。
気持ちを入れ替え、レオは部屋を出る。
アリエスを引き連れ、廊下を歩く。
昨日一昨日と来たときには気づかなかったが、廊下は窓から光が差し込むような構造になっていて、明るくなっていた。
こんなことにも気づかないほどに追い詰められていたのかと、レオは内心で思わず笑ってしまった。
階段を降り、無人の受付を視界に入れ、その中に無遠慮に入る。
レオの行動に対して、アリエスは何も言わなかった。
昨日と同じようにコンコンとノックをすれば、今日は早めに扉が動いた。
店主は昨日と同じく部屋から出ようとはせずに、扉を少しだけ開ける。
「世話になった。これから出るつもりだ……迷惑をかけたな」
「そうですか! ご利用いただき、ありがとうございました!」
店主の男性は最初こそ不安そうにしていたものの、レオの言葉を聞くと瞳を輝かせた。
その態度の違いっぷりに、昨日のサルマンを見習ってほしいとさえレオは思ったくらいだ。
まあ、自分が悪いので口に出すことはしないが。
「お部屋はそのままで大丈夫ですので! それでは!」
そういって店主は部屋の中へと引っ込んでしまう。
あまりの徹底ぶりにレオは苦笑いしそうになるのを必死に堪えていた。
結局、店主とは一度も正面から顔を合わせることはなかった。
宿屋から出るために振り返る。
するとすぐ近くに居たアリエスと目が合った。
彼女はどこか納得がいかないような雰囲気を出していたが、特に何か言うわけではないようだ。
彼女の横を抜け、宿屋の入り口の扉を音を立てて開く。
数日間滞在した宿。
けれど、もう来ることもないだろう。
「世話になった」
そう告げ、宿屋の外に出る。
外に出てすぐに感じたのは、昨日と同じ強い日差しと、自分を見つめる呪われた男性。
いつもと同じ、王都の大通り。
けれど今のレオにはそのどれも心を動かしはしない。
今の彼には、後ろに心強い味方が居るのだから。
×××
その日はアリエスを連れて必要なものを買い占める為に時間を使った。
とはいえ量はそこまで多くはなく、ハマルでも買うことはできるということで、買い物は比較的早く終わった。
レオは買い物を楽しむどころか、した経験すらないために、紙に書いたものを要求するだけ。
そして頼みの綱であったアリエスに関しても、そんなレオに何も言わずについてくるだけだった。
以前、エバは色々と店員と話をしていたが、アリエスはその逆で全く話をしない。
ただ目的のものが手に入ればいいという、自分と似た彼女と居ることが今のレオにとっては楽だった。
途中で、『何か欲しいものはあるか?』と聞いたものの彼女は首を横に振って拒否した。
『いいえ、ありません』
本当に欲しいものがないような断り方だったので、レオはそれ以降アリエスに聞くことはなかった。
買い揃えたものはレオの魔法で武器と同じく異空間に収納した。
その魔法を店員は興味深く見ていたものの、結局そのことでレオに声をかけることはなかった。
必要なものを買い占めた後は馬車に乗るだけ。
買い物の時間は本当に早く、まだ日が暮れてもいなかった。
借馬車の施設に向かえば、ハマルに向かうのは問題ないとのことで、受け入れてくれた。
相変わらず目線はレオとは合わせてくれないが、向こうも商売である以上、金銭を受け取れば仕事はしてくれる。
それ以外に何かしてくれる、何か話をしてくれるといったことはないが、どちらかというとレオにとってはそんな風に干渉してくれない方が今は楽だった。
用意された馬車に乗り込み、レオは不意に振り返る。
それは彼にとって完全な無意識だった。
今までしてこなかったこと。彼は馬車の外に立つアリエスに左手を伸ばした。
どこか奴隷生活でまだ外に慣れていないように見える彼女の助けになれればと思ったのだろう。
「あ、ありがとうございます……」
アリエスはそう言って遠慮気味にレオの左手を握る。
相変わらず無表情だが、雰囲気が確かに柔らかくなったのをレオは感じた。
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