魔王討伐の勇者は国を追い出され、行く当てもない旅に出る ~最強最悪の呪いで全てを奪われた勇者が、大切なものを見つけて呪いを解くまで~

紗沙

文字の大きさ
上 下
6 / 114
第1章 呪いを恐れない奴隷少女

第6話 信頼できる人を探して、奴隷商館へ

しおりを挟む
 レオは宿屋のベッドで目を覚ます。
 あれから店主が用意してくれた夕食を食べてすぐ、レオは眠りについた。
 眠れば嫌なことは忘れられる。
 少なくとも眠っている間は、レオは心をすり減らさなくて済んだ。

 しかし、部屋の窓から差し込む光は、活動時間が来たことを嫌というほどに伝えてくる。

 ベッドから起き上がり、レオは立ち上がる。
 体はいつも通り絶好調で、今日も最高のパフォーマンスができるだろう。
 心はもうボロボロだが。

 立ち上がったレオは自分の寝ていたベッドと自分に魔法をかける。
 衣服を清潔にする魔法。
 この魔法を教えてくれたのは、エバだった。
 それをかなり改良したのだが、これで身の回りの世話はかなり楽になった。

「街に……出るか」

 この宿屋に居てもできることはない。
 王城での当てはなくなった。
 ならば気は進まないが、最初に考えた冒険者や、傭兵か。
 王都を歩き回り、当てを見つけなければ。

 レオは王都を詳しくは知らない。
 知っているのは王城と、自分達勇者が過ごす宿舎くらいだ。
 その宿舎も、今更向かう気にもなれないが。

 部屋を出て廊下を歩き、階段をゆっくりと降りる。
 受付には、誰も居なかった。
 レオ以外が使用しないのだ。
 それならばいつまでも店主が受付に居る必要もないのだろう。
 何とも言えない気持ちで受付を見ながら、レオは宿屋の出口の扉に手をかける。

 扉を開けば、まばゆい光がレオを照らす。
 日は昇り切っていて、昼も過ぎた頃くらいだろうか、大分眠っていたようだ。
 昨日の一件が、そこまで効いたのか。

 そんなことを思いながら、レオは宿屋の扉を閉める。
 その際に、不意に路地裏の男性と目が合った。

「…………」

「…………」

 彼は昨日と同じ場所で、同じように、同じような目でレオを見つめていた。
 昨日は苛立ちを感じたその視線。
 しかし一晩おいた感情は、比較的落ち着いている。

 いや、疲れきっている。
 レオは視線を男から外し、大通りへ足を踏み出した。

 歩いていて感じるのは昨日と同じ視線。
 恐れ、好奇心、気持ち悪さ、嫌悪感。
 そういったものがレオの心に突き刺さる。

「いやねぇ……せめてあの気持ち悪い目だけでも隠してくれないかしら」

(それが出来たら苦労しないよ……)

「早くこの都から出て行ってくれよ」

(言われなくても、一週間後にはもう居ないさ……)

 嫌でも聞こえてくる言葉に、反応してしまうレオ。
 傷つき、疲れた心でも、苦しいという感情は消えない。

(……俺が、護った部分だってある筈なのに)

 悲しげにレオは内心で呟く。
 怒りを抱かないと言えば嘘になる。
 しかし一晩明けたレオの中にはそれを内面に抱くだけの気力もなくなっていた。
 昨日ほどの怒りは、もう抱けない。

(どうすれば……いいんだろうな)

 空を見上げて、レオは思う。
 もう誰にも必要とされていない。
 誰も頼れない。
 こんな状況で、なぜ自分は生きているのか、そんな思いさえ抱き始める。

 このまま王都から出て、魔物にでも襲われて死んでしまおうか。
 そんな思いが出てくるくらいには、レオは追い詰められていた。

「なんて……死ねるわけもないか」

 自虐気味に乾いた笑みを漏らす。
 仮にも元だが最強の勇者だ。
 どれだけ襲われようと、そこら辺の魔物の攻撃では死ぬことなどありえないだろう。
 自ら命を絶とうとしたところで、祝福に生かされるのは目に見えている。

 さて、ならどうするか。いったいどうすればいいのか。

 そんなことを思いながら、ふと目線を遠くに投げる。
 大通りに並び立つ、大きな店と看板。
 宿屋や酒場、武器屋、防具屋、道具屋などの文字が並ぶ。
 その中に文字のない、一つの記号を見つける。

(あれは……)

 そのまま同じペースで足を進め、看板の近くまで。
 描かれていたのは記号と矢印。
 そちらの方向を見れば、路地裏へ続く道が見えてくる。

 看板が示す記号は、見たことがある。
 以前野営をしていた時に兵士の一人が地面に書いていた記号。

 それは、確か奴隷商の館を示すものだったはずだ。
 思い出す。その兵士が詳しく話をしていた。あのとき、彼は何を言っていたか。

(たしか、人と契約を結び……何かをする?そういう文化があるって……)

 その兵士は、奴隷は逆らわないから良いと言っていた。
 その時はよく分からなかったが。

(それは……裏切らない……信頼できるということか……?)

 少なくとも兵士の話では、冒険者なんかよりもよほど良いと言っていた。
 あれはおそらく、戦時において背中を預けられるといった、そんな意味なのだろう。
 そうでなければ、命が掛かった戦場であんな話をするわけがない。

(……もう少しきちんと話を聞いておけばよかった)

 レオは昔の自分を責めた。
 あの時、兵士の言うことをしっかりと覚えていればここで迷うこともなかっただろう。
 戦いにおいて助けが必要ない自分には関係ないとそう思い、聞いていなかったのだ。

 けれど今この状況ならば、その館ならレオを導いてくれる誰かに出会えるかもしれない。

(それに戦いなら俺がすればいい……よし……行くか)

 どうせ行く当てもない。
 冒険者に声をかけるなら、まだ奴隷と契約した方がいいだろう。
 少なくともあの兵士は誰かに嘘をつくようなタイプではなかった。
 それにあの場で嘘をつく意味もない。

 奴隷に関して間違った認識をしながら、レオは路地裏に足を踏み入れる。

 その館は、路地裏の道を少し歩いた先に建っているようだ。
 少し迷いそうになる道を歩けば、数多くの呪われた人々とすれ違う。
 この世界には、呪われている人が相当数いると聞く。
 彼らは呪いと付き合って一生を過ごしている。
 それは今の自分と同じだろう。

 まあ、彼らには自分のように他者から強く拒絶反応を向けられることはないのだろうが。

 呪いが人から人に伝染しないのは遥か昔から分かっていることだ。
 だから呪いを受けているということが人から嫌厭される理由はならない。
 もし呪いのせいで嫌われるなら、それはそういった呪いを受けているたった一人の男だけだろう。

 そんなことを思いながら、たどり着いた館。
 入り口をノックをすれば、すぐに「どうぞ」という声が帰ってきた。
 やや重い扉を開けて、中へと入る。

 足を踏み入れ、後ろ手に扉を閉じれば、目の前には先ほどまでの路地裏とは似ても似つかない光景が広がった。
 内部は明かりでしっかりと照らされ、清潔に保たれ、受付のような作りになっている。
 そして奥には一人の男性が後ろに屈強な男性を複数引き連れて立っていた。

(四人か)

 その男たちに目を向けながら、レオは実力を測る。
 鍛え上げられている。
 普通の人間や、ある程度名の知れた冒険者程度ならば四人でなんとかなるだろう。
 ただし、レオ相手では彼らが世界の人口ほど居たところで足止めにもならない。

「よ、ようこそいらっしゃいました……勇者さま……」

 一番前に立つ男が引きつった笑みで挨拶をする。
 おそらくこの館の主だろう。
 レオが勇者ということを知っているようだ。

「俺を知っているのか?」

「勇者さまは今この街では有名人ですから……その、別の呼び方の方がよろしいですか?」

「いや、今のままで大丈夫だ」

 よそよそしい態度に、レオは居心地が悪くなる。
 エバ達が買い物している様子を遠くから観察したことはある。
 その時の店員は、完璧なほどの笑顔だった。
 けれど目の前の男は恐怖を隠しきれていない。

 いや、それが普通なのかもしれない。
 たとえ客として考えても、今の自分は恐ろしいのだろう。

「きょ、今日はどのような用件で?」

「奴隷……とやらと契約をしたい」

「け、契約ですか……失礼ですが、同じような奴隷商を利用したことはありますか?」

「いや、ない」

 笑顔のまま固まる男性。
 冷や汗がつつーっと流れているのが見えるくらいだ。
 彼はすぐそばの一室を指さした。

「そ、そこでお話ししましょう。立ち話もなんですから」

「助かる」

 指し示した部屋は会談用の部屋なのだろう。
 そこに先に入っていく男性。
 付き人の四人の男性のうち三人が中に入り、一人が扉を押さえてくれている。
 それを見てレオはやや歩くスピードを速めて部屋へと入った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...