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第193話 絶望の再来
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ピコンという電子音が響き、望月ちゃんがモンスターチェッカーを起動したことを悟った。
けれど彼女の方を向く余裕はない。俺は目の前に在る脅威から、目を背けられない。
「なに……これ……」
そしてモンスターチェッカーで調べてすぐに、望月ちゃんはそう呟いた。
これまでは敵のステータスを確認するために使用していたモンスターチェッカー。
それを今回は、敵が「何であるのか」を確認するために使用したのだろう。
俺は望月ちゃんがどうしてそう呟いたのか、理由を知っている。
モンスターチェッカーが映し出した値を、見たことがある。
全てのステータスが「?」の文字で埋め尽くされた測定不能の値。
望月ちゃんも一度だけ見たことがある値は、目の前の存在が異常であるという証拠。
「Tier……0……?」
そういった名前の、絶望の表記だ。
「なんで……どういうこと?……」
望月ちゃんの視線が俺の背中に向けられているのを感じる。
感じたり感じなかったりするので、目の前の化け物と俺を見比べているんだろう。
彼女の疑問はよく分かる。
どうして過去を再現するにもかかわらず会ったことがないモンスターが目の前にいるのか。
どうして俺と似た姿をしているのか。どうしてTier0なのか。
それに対して、俺は気づかないふりをして考えを巡らせる。
いや、目の前の化け物から目を、意識を逸らすことを本能が拒絶した。
(落ち着け……落ち着け……ここは俺達の恐怖を再現する場所。
だからこいつはあの時の化け物じゃない。
それに深層ボスと同じ強さになるなら、本物よりも弱い筈だ)
そこまで考えながらも、同時にモンスターチェッカーに表示された「?」マークが頭を過ぎり、この化け物は例外なのではないかという考えも出てくる。
深層ボスならレベル1000の筈なのに、こいつはレベルが表示されていない。
『竜乃……さっきの、また行けるか……紫のブレスと黒雷の融合技、それにスールズを倒したときの引火。全部使うぞ……出し惜しみなんてなしだ』
『分かっているけど、大丈夫なの? あれ、あんたが前に言っていたTier0なんでしょ?
……勝てるの?』
これまでとは違い、やや気弱な声音で問い返す竜乃。
『やるしかないだろ。それに今の俺達は十分強くなった。だから、勝てるはずだ』
それに対して、俺は強気に答えた。
そうでもしないと、目の前の化け物に全てを持ってかれそうだった。
頭を過ぎる一つの言葉。
『分かるか?勝てるじゃない、勝つ』
それを思い出して、俺は内心で舌打ちした。
すでに無意識で、俺はリースの言葉通りにはいかなかったようだ。
(やめろ、余計なことを考えるな! 今はただ、目の前のこいつに集中しろ!)
モンスターチェッカーの表記。リースの言葉。
そういった余計な意識を全てそぎ落とし、目の前の黒い獣に集中する。
俺と似た姿をした、今の俺よりもさらに成長した漆黒の獣。
それを見て、気づいたときには地面を蹴っていた。
頭の中で無意識に紫電の弾の装填を終え、回している。
右前脚に紫電を纏わせ、間合いに入った時点で力の限り振るう。
氷堂の一撃の再現で放つ、強力な一撃。
並のモンスターならば、いや例え深層のボスでも大ダメージ必至の攻撃。
奴の体に爪が触れる。感じたのは切り裂く感触。
そしてすぐに、それは何かに弾かれる感触へと変わった。
(!? 傷が浅すぎる!?)
確実にクリティカルヒットしたにも関わらず、化け物は傷一つ負っていない。
力の限り切り裂いたのに大したダメージは見受けられない。
次の瞬間、視界から化け物の右前脚が消えた。
同時に体を衝撃が突き抜け、視界が回転。訳の分からぬままぐるぐると世界が回る。
吹き飛ばされたと分かった時にはもう遅く、背中が強烈な痛みを訴えるとともに視界が土煙に染まった。
どうやら奴に足で攻撃されたらしい。
しかも俺のようにちゃんとした攻撃ではない。
単純に前脚で邪魔者を払うだけの、簡単な動作だ。それだけで俺は体を投げ出された。
『竜乃ぉぉおおおおお! 放てぇぇぇええええ!』
地面に倒れ込むと同時に、俺は叫んだ。
もうどうすればいいのかなど分からない。ただ、がむしゃらに何かをするしかなかった。
紫電の出力を上げて土煙を晴らせば、ちょうど竜乃が紫のブレスを放つタイミングだった。
それに合わせて最大火力で黒雷を射出。
漆黒の雷は紫の炎と混じり合い、威力を増す。
クイーンを倒した俺と竜乃の必殺の一撃。
それが斜め上空から飛来し、化け物を飲み込んだ。
燃やし尽くす。破壊し尽くす。そう言った攻撃だ。
何かで防がなければ、否、何かで防いでも大ダメージの連携攻撃の筈だ。
それなのに。
化け物は、立っていた。
防御もなく、体を動かすことなく、ただ何もなく、雷と炎の中に立っていた。
(…………)
あまりにも異常な光景に、俺も竜乃も途中で攻撃を撃つのを辞めてしまった。
通用しない。俺と竜乃二人の力を合わせても、届かない。
(――っ!)
視界の隅に望月ちゃんの姿を入れたことで、我に返る。
今俺は吹き飛ばされ、竜乃は上空にいる。化け物と望月ちゃんを阻むものは何もない。
地面を素早く蹴り、望月ちゃんの前へ。
彼女を護る様に位置取り、威嚇として唸りながらも化け物のこれまでに違和を覚えていた。
(なんで……こいつ……)
そして無機質な化け物の瞳と目が合って、答えに行きつく。
(そうだ……これはダンジョンが俺達の恐怖を再現しているだけ。
だから本体じゃないんだ。きっとあの時よりも弱い筈。
なら……ならこれに勝て――いや、勝つ!)
気合を入れ直し、再び俺は仕掛ける。地面を蹴って、あたりの風景を置き去りにする。
走り、加速し、頭の中で魔法の準備を完了させて間合いに入る。
寸前でさらに紫電の弾を込め、回す。
化け物をかく乱するために、さらにスピードを上げて後ろに。
目にも止まらぬスピードをもって化け物の後を取り、同時に魔法を発動。
火の超級魔法、ブレイズエンド。
わざとらしく、背後から撃たれたことが分かる様な角度で射出する。
斜めに大地から噴き出す火の柱。内部で爆発を繰り返す、全てを灰燼と化す柱。
しっかりと化け物が飲み込まれるまで見届け、さらに弾を込めて回す。
そろそろ紫電の弾の限界が来るにも関わらずまだ仕掛けるのは、これで終わるとは到底思っていないからだ。
俺は今化け物の後ろに回り込んだ。そして分かりやすいように後ろから魔法の攻撃をした。
ならこの状況でもう一度回り込み、正面から攻撃を仕掛ければ、それは普通では捉えきれない攻撃となる。
目の前から消えてどこから攻撃が来るか分からないときに、正面から仕掛ける。
これを予測するのは、感情の入っていない今の化け物には無理だと、そう読んでの事。
(ここだっ!)
素早く元の位置に戻り、右前脚に再び力を入れる。
さっきは届かなかった。だが今回はスピードを乗せ、紫電のみならず黒雷も乗せる。
文字通りの全力を叩きこんでやる。
(!?)
そう思った俺の頭の中は、上から降ってきた衝撃により真っ白になる。
視界はそれとは対照的に黒く染まり、そして。
次の瞬間には地面が映っていた。
全身には鋭い痛みが絶えず駆け抜けていて、動かせそうにない。
『ぐっ……』
うめき声をあげるだけで、体の内部に激痛が走る。
まるで肺を焼かれたかのような。息をするだけで、胸が痛い。
視界に映る俺の体には、ところどころに「黒い」電流が流れている。
感電している体を見て、見覚えのあるものだと気づいた。
俺の必殺技、黒雷だ。
けれど彼女の方を向く余裕はない。俺は目の前に在る脅威から、目を背けられない。
「なに……これ……」
そしてモンスターチェッカーで調べてすぐに、望月ちゃんはそう呟いた。
これまでは敵のステータスを確認するために使用していたモンスターチェッカー。
それを今回は、敵が「何であるのか」を確認するために使用したのだろう。
俺は望月ちゃんがどうしてそう呟いたのか、理由を知っている。
モンスターチェッカーが映し出した値を、見たことがある。
全てのステータスが「?」の文字で埋め尽くされた測定不能の値。
望月ちゃんも一度だけ見たことがある値は、目の前の存在が異常であるという証拠。
「Tier……0……?」
そういった名前の、絶望の表記だ。
「なんで……どういうこと?……」
望月ちゃんの視線が俺の背中に向けられているのを感じる。
感じたり感じなかったりするので、目の前の化け物と俺を見比べているんだろう。
彼女の疑問はよく分かる。
どうして過去を再現するにもかかわらず会ったことがないモンスターが目の前にいるのか。
どうして俺と似た姿をしているのか。どうしてTier0なのか。
それに対して、俺は気づかないふりをして考えを巡らせる。
いや、目の前の化け物から目を、意識を逸らすことを本能が拒絶した。
(落ち着け……落ち着け……ここは俺達の恐怖を再現する場所。
だからこいつはあの時の化け物じゃない。
それに深層ボスと同じ強さになるなら、本物よりも弱い筈だ)
そこまで考えながらも、同時にモンスターチェッカーに表示された「?」マークが頭を過ぎり、この化け物は例外なのではないかという考えも出てくる。
深層ボスならレベル1000の筈なのに、こいつはレベルが表示されていない。
『竜乃……さっきの、また行けるか……紫のブレスと黒雷の融合技、それにスールズを倒したときの引火。全部使うぞ……出し惜しみなんてなしだ』
『分かっているけど、大丈夫なの? あれ、あんたが前に言っていたTier0なんでしょ?
……勝てるの?』
これまでとは違い、やや気弱な声音で問い返す竜乃。
『やるしかないだろ。それに今の俺達は十分強くなった。だから、勝てるはずだ』
それに対して、俺は強気に答えた。
そうでもしないと、目の前の化け物に全てを持ってかれそうだった。
頭を過ぎる一つの言葉。
『分かるか?勝てるじゃない、勝つ』
それを思い出して、俺は内心で舌打ちした。
すでに無意識で、俺はリースの言葉通りにはいかなかったようだ。
(やめろ、余計なことを考えるな! 今はただ、目の前のこいつに集中しろ!)
モンスターチェッカーの表記。リースの言葉。
そういった余計な意識を全てそぎ落とし、目の前の黒い獣に集中する。
俺と似た姿をした、今の俺よりもさらに成長した漆黒の獣。
それを見て、気づいたときには地面を蹴っていた。
頭の中で無意識に紫電の弾の装填を終え、回している。
右前脚に紫電を纏わせ、間合いに入った時点で力の限り振るう。
氷堂の一撃の再現で放つ、強力な一撃。
並のモンスターならば、いや例え深層のボスでも大ダメージ必至の攻撃。
奴の体に爪が触れる。感じたのは切り裂く感触。
そしてすぐに、それは何かに弾かれる感触へと変わった。
(!? 傷が浅すぎる!?)
確実にクリティカルヒットしたにも関わらず、化け物は傷一つ負っていない。
力の限り切り裂いたのに大したダメージは見受けられない。
次の瞬間、視界から化け物の右前脚が消えた。
同時に体を衝撃が突き抜け、視界が回転。訳の分からぬままぐるぐると世界が回る。
吹き飛ばされたと分かった時にはもう遅く、背中が強烈な痛みを訴えるとともに視界が土煙に染まった。
どうやら奴に足で攻撃されたらしい。
しかも俺のようにちゃんとした攻撃ではない。
単純に前脚で邪魔者を払うだけの、簡単な動作だ。それだけで俺は体を投げ出された。
『竜乃ぉぉおおおおお! 放てぇぇぇええええ!』
地面に倒れ込むと同時に、俺は叫んだ。
もうどうすればいいのかなど分からない。ただ、がむしゃらに何かをするしかなかった。
紫電の出力を上げて土煙を晴らせば、ちょうど竜乃が紫のブレスを放つタイミングだった。
それに合わせて最大火力で黒雷を射出。
漆黒の雷は紫の炎と混じり合い、威力を増す。
クイーンを倒した俺と竜乃の必殺の一撃。
それが斜め上空から飛来し、化け物を飲み込んだ。
燃やし尽くす。破壊し尽くす。そう言った攻撃だ。
何かで防がなければ、否、何かで防いでも大ダメージの連携攻撃の筈だ。
それなのに。
化け物は、立っていた。
防御もなく、体を動かすことなく、ただ何もなく、雷と炎の中に立っていた。
(…………)
あまりにも異常な光景に、俺も竜乃も途中で攻撃を撃つのを辞めてしまった。
通用しない。俺と竜乃二人の力を合わせても、届かない。
(――っ!)
視界の隅に望月ちゃんの姿を入れたことで、我に返る。
今俺は吹き飛ばされ、竜乃は上空にいる。化け物と望月ちゃんを阻むものは何もない。
地面を素早く蹴り、望月ちゃんの前へ。
彼女を護る様に位置取り、威嚇として唸りながらも化け物のこれまでに違和を覚えていた。
(なんで……こいつ……)
そして無機質な化け物の瞳と目が合って、答えに行きつく。
(そうだ……これはダンジョンが俺達の恐怖を再現しているだけ。
だから本体じゃないんだ。きっとあの時よりも弱い筈。
なら……ならこれに勝て――いや、勝つ!)
気合を入れ直し、再び俺は仕掛ける。地面を蹴って、あたりの風景を置き去りにする。
走り、加速し、頭の中で魔法の準備を完了させて間合いに入る。
寸前でさらに紫電の弾を込め、回す。
化け物をかく乱するために、さらにスピードを上げて後ろに。
目にも止まらぬスピードをもって化け物の後を取り、同時に魔法を発動。
火の超級魔法、ブレイズエンド。
わざとらしく、背後から撃たれたことが分かる様な角度で射出する。
斜めに大地から噴き出す火の柱。内部で爆発を繰り返す、全てを灰燼と化す柱。
しっかりと化け物が飲み込まれるまで見届け、さらに弾を込めて回す。
そろそろ紫電の弾の限界が来るにも関わらずまだ仕掛けるのは、これで終わるとは到底思っていないからだ。
俺は今化け物の後ろに回り込んだ。そして分かりやすいように後ろから魔法の攻撃をした。
ならこの状況でもう一度回り込み、正面から攻撃を仕掛ければ、それは普通では捉えきれない攻撃となる。
目の前から消えてどこから攻撃が来るか分からないときに、正面から仕掛ける。
これを予測するのは、感情の入っていない今の化け物には無理だと、そう読んでの事。
(ここだっ!)
素早く元の位置に戻り、右前脚に再び力を入れる。
さっきは届かなかった。だが今回はスピードを乗せ、紫電のみならず黒雷も乗せる。
文字通りの全力を叩きこんでやる。
(!?)
そう思った俺の頭の中は、上から降ってきた衝撃により真っ白になる。
視界はそれとは対照的に黒く染まり、そして。
次の瞬間には地面が映っていた。
全身には鋭い痛みが絶えず駆け抜けていて、動かせそうにない。
『ぐっ……』
うめき声をあげるだけで、体の内部に激痛が走る。
まるで肺を焼かれたかのような。息をするだけで、胸が痛い。
視界に映る俺の体には、ところどころに「黒い」電流が流れている。
感電している体を見て、見覚えのあるものだと気づいた。
俺の必殺技、黒雷だ。
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