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第159話 VS世界一
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京都のTier2中層。人の来ない隠された滝つぼで、俺達とリースは対峙している。
一見フレンドリーに見えるリースの言動。
しかし一方で、その視線は俺を捉えて離さない。
瞳の奥の気持ちは伺い知れないが、俺にとって良いものではないように思えてならない。
一向に口を開かないリースにしびれを切らしたのか、氷堂が咎めるように言った。
「師匠、この後はどうする? ここでも一緒に探索する?」
いや、とリースは返答する。
「こんな階層で探索なんてしない。たとえTier1の上層でもお断りだね」
「……なら、何をしにここに来た?」
「見極めに来た」
「見極めに?」
「ああ、そうだとも」
不敵に笑い、リースは顎で俺を示した。
氷堂たちの視線が、リースから俺へと移る。
「エマから話を聞いた。日本に面白い探索者がいるとね。
気になって調べてみれば、何やら面白い獣がいるじゃないか。なるほど、確かにこれは強い」
「……あなたがそれだけで、日本に来るとは思えない」
リースを警戒したように氷堂は告げる。
視線が、俺から氷堂へと移った。
「この獣がただの強者とは格が違うことは、お前が一番よく知っているだろう」
「…………」
リースは氷堂から意識と視線を俺へと移す。
「手合わせをしよう。私はこの獣が、どれほどのものなのかを確かめるために来た。
それには、刃を交えるのが手っ取り早い」
未だにリースのことは測りかねているが、氷堂の師匠ということだけは分かる。
思考回路が、そっくりだ。
『…………』
話の流れはよく分からないことになっているが、問いかけられている。
世界一と刃を交えるかどうか。世界一の背中を借りるか否か。
それなら、答えは一つしかない。
こんな機会など、滅多に訪れるものではないのだから。
『受けて立つ』
小さく吠えれば、挑発的な笑みを浮かべたリースは今度は氷堂に声をかけた。
「ほう、よく出来た獣だ。お前はどうする?」
氷堂はピクリと反応し、俺を見る。
じっと目を合わせる事、数秒。氷堂はリースに再び視線を戻し、口を開いた。
「否定。1対1の手合わせに入るのは、無粋」
答えを聞き、リースは笑う。
「決まりだな」
「あ、あの!」
またしてもリースと氷堂の間に入る望月ちゃん。
やや緊張している節はあるものの、言わなければならないという強い意志を感じさせた。
「虎太郎君は私のテイムモンスターです。だから、私も一緒に戦っていいですか?」
「……テイムモンスター、か」
そう呟いて、リースは少しだけ考え込んだ。
「構わない。とはいえこの獣への支援のみにするといい。誤って殺しかねないからね」
「……獣じゃないです。虎太郎君です」
どうやら俺の呼び方が気に入らないらしく、望月ちゃんはじろりとリースを見た。
「…………」
リースは表情一つ変えず、一言も発さずに歩き始める。
望月ちゃんの意見を聞き入れるつもりはないと、背中が語っていた。
少し離れたところでリースは止まり、振り返る。
右手に刀を出現させ、握り締めて振るった。
その姿に、今までに感じたことがない程の何かを感じ取った。
これまでも相手が強いと感じることはあった。
けれどここまで、実力差があることを分からせられたことはない。
望月ちゃんが何重にも支援魔法をかけてくれても、それは変わらなかった。
「あぁ、そうだ。そっちはTier1深層到達だったかな?なら――」
そう言って左手を広げる。そこに光が集まり、収まったのは長めの漆黒の銃。
デザートイーグルという銃がある。大型の銃で、撃つだけで肩が持っていかれる代物だ。
実物を見たことはないものの、流石に今リースの手に収まっている銃よりは小さいだろう。
そう思わせるくらいには、左手の銃は存在感があった。
「このくらいで十分か」
そう言って、リースは銃を俺に向ける。
黒いロングコートが靡き、続くリースの言葉が鮮明に耳に響いた。
「本気でやれよ獣。さもないと、手合わせとはいえ死ぬぞ?」
『っ!』
その言葉に触発されたのかは分からない。
けれど次の瞬間には、頭の中で素早く3発を込めて回し始めていた。
岩の地面を蹴りつつ、3発全てを回し終え、紫電をオーラにして纏う。
全速力を出し、一直線にリース目がけて駆けた。
リースの最初の一発が、先ほどまでいた場所に撃ち込まれたのを確認した
リースの左手が緩やかに動き、2発発砲。
俺目がけて飛ぶ1発を避けるために右に動けば2発目が当たる。
だから左に当然のごとく避けようとして、頭がうるさい程の警報を鳴らした。
全力で、俺の頭が赤信号を点滅させている。
咄嗟に、俺は右に跳んだ。2発目が来ると分かっていたはずの右に。
そして、駆け抜けた。弾丸が岩に撃ち込まれる音は、2発とも左側から響いた。
「ほう?」
どういう手品か知らないが、銃口が向いている方向と無関係に着弾するのだろう。
それならリースの動きよりも、今まで培ってきた自分の勘を信じるべきだ。
リースは空に向けて一発発砲し、次に腕を下げて俺を狙う。
(今、弾丸出たか?)
空へと放った一発。しかし音は聞こえたものの、弾は射出されていないように思えた。
それなら、次の一手は。
頭に弾を3発込め、回す。これで合計の弾数は6。
今の俺が何発までなら意識を保っていられるのか分からないが、おそらく10を越えないあたりが限界だろう。
まだ余力を残して、さらに駆ける。
出せるだけの力は出している。東京のTier1中層で出会った白い虎を圧倒したスピードはもう出ている。
けれど、それをさらに超えるスピードでリースが動き、発砲している。
彼女との距離を詰めるだけの間に、リースは数々の手を打ってくる。
どれだけ駆けてもなかなか埋まらないくらいに、距離が遠く感じた。
(来るっ!)
姿勢を低くし、全身の稼働を最大限に。
リースが2発目を撃つと同時に、彼女までの間にある空間が歪んだ。
風ではない。もっとヤバい何かが、空間を歪めている。
それらが刃になって、襲い掛かってくる。
考えることを放棄し、体に全てを任せて俺は駆けた。
右、右、左、右、上と不規則な軌道を描きながら、それでも戦いで研ぎ澄まされた俺の体は勝手に反応してくれる。
その間に、魔力は込められるだけ込めた。
『これで、どうだ!』
上から降る刃を風の魔法で自身を後押しさせて避け、事前に準備していた魔法を発動する。
これまで何度も使用してきた雷の上級魔法、トールハンマー。
今回は強敵対策として展開時間を極限まで早くした、足止めがメインの一撃。
岩場に黄色い線が走り、リースを囲もうとする。
それよりも速く、リースは後ろに跳んだ。
トールハンマーによる攻撃は期待した足止めすらできずに終わった。
『そこだ!』
だが、それでいい。
元より世界最強の探索者をトールハンマーで捉えられるなんて思っていない。
前に出ても、後ろに下がっても、追撃の手は準備してあった。
さっきから体内にためていた魔力を解放。
火の超級魔法、ブレイズエンドが素早く展開し、火柱がリースの背後で打ちあがる。
跳躍しているためにこのままでは火柱にリースは突っ込む形になる。
どんな探索者でも、空中はリスクが伴う。そう考えたが。
「とても賢く、打つ手も悪くない」
リースが、膝を曲げて刀を構える。
その足は、空気を捉えているように見えた。まさか、何もない場所を足場にする気か。
予感は的中する。
リースは音を置き去りにして空気を蹴り、前に出る。刀でトールハンマーを一刀両断。
(あぁ、本当に)
氷堂と言い、ラファエルといい、人外の領域者達は予想外の事をしてくる。
本当に困ったものだ。けれど。
――それを少しでも予想できるようになってきた
口を大きく開き、吠える姿勢で放つ。
相手は俺の速さについてきて、魔法をものともせず、さらに宙を自由に動き回るような化け物。
なら魔法でもなんでもない、特殊な技ならどうか。
竜乃のブレスのように黒い雷が光速で、かつ爆音を鳴り響かして撃ち出された。
一見フレンドリーに見えるリースの言動。
しかし一方で、その視線は俺を捉えて離さない。
瞳の奥の気持ちは伺い知れないが、俺にとって良いものではないように思えてならない。
一向に口を開かないリースにしびれを切らしたのか、氷堂が咎めるように言った。
「師匠、この後はどうする? ここでも一緒に探索する?」
いや、とリースは返答する。
「こんな階層で探索なんてしない。たとえTier1の上層でもお断りだね」
「……なら、何をしにここに来た?」
「見極めに来た」
「見極めに?」
「ああ、そうだとも」
不敵に笑い、リースは顎で俺を示した。
氷堂たちの視線が、リースから俺へと移る。
「エマから話を聞いた。日本に面白い探索者がいるとね。
気になって調べてみれば、何やら面白い獣がいるじゃないか。なるほど、確かにこれは強い」
「……あなたがそれだけで、日本に来るとは思えない」
リースを警戒したように氷堂は告げる。
視線が、俺から氷堂へと移った。
「この獣がただの強者とは格が違うことは、お前が一番よく知っているだろう」
「…………」
リースは氷堂から意識と視線を俺へと移す。
「手合わせをしよう。私はこの獣が、どれほどのものなのかを確かめるために来た。
それには、刃を交えるのが手っ取り早い」
未だにリースのことは測りかねているが、氷堂の師匠ということだけは分かる。
思考回路が、そっくりだ。
『…………』
話の流れはよく分からないことになっているが、問いかけられている。
世界一と刃を交えるかどうか。世界一の背中を借りるか否か。
それなら、答えは一つしかない。
こんな機会など、滅多に訪れるものではないのだから。
『受けて立つ』
小さく吠えれば、挑発的な笑みを浮かべたリースは今度は氷堂に声をかけた。
「ほう、よく出来た獣だ。お前はどうする?」
氷堂はピクリと反応し、俺を見る。
じっと目を合わせる事、数秒。氷堂はリースに再び視線を戻し、口を開いた。
「否定。1対1の手合わせに入るのは、無粋」
答えを聞き、リースは笑う。
「決まりだな」
「あ、あの!」
またしてもリースと氷堂の間に入る望月ちゃん。
やや緊張している節はあるものの、言わなければならないという強い意志を感じさせた。
「虎太郎君は私のテイムモンスターです。だから、私も一緒に戦っていいですか?」
「……テイムモンスター、か」
そう呟いて、リースは少しだけ考え込んだ。
「構わない。とはいえこの獣への支援のみにするといい。誤って殺しかねないからね」
「……獣じゃないです。虎太郎君です」
どうやら俺の呼び方が気に入らないらしく、望月ちゃんはじろりとリースを見た。
「…………」
リースは表情一つ変えず、一言も発さずに歩き始める。
望月ちゃんの意見を聞き入れるつもりはないと、背中が語っていた。
少し離れたところでリースは止まり、振り返る。
右手に刀を出現させ、握り締めて振るった。
その姿に、今までに感じたことがない程の何かを感じ取った。
これまでも相手が強いと感じることはあった。
けれどここまで、実力差があることを分からせられたことはない。
望月ちゃんが何重にも支援魔法をかけてくれても、それは変わらなかった。
「あぁ、そうだ。そっちはTier1深層到達だったかな?なら――」
そう言って左手を広げる。そこに光が集まり、収まったのは長めの漆黒の銃。
デザートイーグルという銃がある。大型の銃で、撃つだけで肩が持っていかれる代物だ。
実物を見たことはないものの、流石に今リースの手に収まっている銃よりは小さいだろう。
そう思わせるくらいには、左手の銃は存在感があった。
「このくらいで十分か」
そう言って、リースは銃を俺に向ける。
黒いロングコートが靡き、続くリースの言葉が鮮明に耳に響いた。
「本気でやれよ獣。さもないと、手合わせとはいえ死ぬぞ?」
『っ!』
その言葉に触発されたのかは分からない。
けれど次の瞬間には、頭の中で素早く3発を込めて回し始めていた。
岩の地面を蹴りつつ、3発全てを回し終え、紫電をオーラにして纏う。
全速力を出し、一直線にリース目がけて駆けた。
リースの最初の一発が、先ほどまでいた場所に撃ち込まれたのを確認した
リースの左手が緩やかに動き、2発発砲。
俺目がけて飛ぶ1発を避けるために右に動けば2発目が当たる。
だから左に当然のごとく避けようとして、頭がうるさい程の警報を鳴らした。
全力で、俺の頭が赤信号を点滅させている。
咄嗟に、俺は右に跳んだ。2発目が来ると分かっていたはずの右に。
そして、駆け抜けた。弾丸が岩に撃ち込まれる音は、2発とも左側から響いた。
「ほう?」
どういう手品か知らないが、銃口が向いている方向と無関係に着弾するのだろう。
それならリースの動きよりも、今まで培ってきた自分の勘を信じるべきだ。
リースは空に向けて一発発砲し、次に腕を下げて俺を狙う。
(今、弾丸出たか?)
空へと放った一発。しかし音は聞こえたものの、弾は射出されていないように思えた。
それなら、次の一手は。
頭に弾を3発込め、回す。これで合計の弾数は6。
今の俺が何発までなら意識を保っていられるのか分からないが、おそらく10を越えないあたりが限界だろう。
まだ余力を残して、さらに駆ける。
出せるだけの力は出している。東京のTier1中層で出会った白い虎を圧倒したスピードはもう出ている。
けれど、それをさらに超えるスピードでリースが動き、発砲している。
彼女との距離を詰めるだけの間に、リースは数々の手を打ってくる。
どれだけ駆けてもなかなか埋まらないくらいに、距離が遠く感じた。
(来るっ!)
姿勢を低くし、全身の稼働を最大限に。
リースが2発目を撃つと同時に、彼女までの間にある空間が歪んだ。
風ではない。もっとヤバい何かが、空間を歪めている。
それらが刃になって、襲い掛かってくる。
考えることを放棄し、体に全てを任せて俺は駆けた。
右、右、左、右、上と不規則な軌道を描きながら、それでも戦いで研ぎ澄まされた俺の体は勝手に反応してくれる。
その間に、魔力は込められるだけ込めた。
『これで、どうだ!』
上から降る刃を風の魔法で自身を後押しさせて避け、事前に準備していた魔法を発動する。
これまで何度も使用してきた雷の上級魔法、トールハンマー。
今回は強敵対策として展開時間を極限まで早くした、足止めがメインの一撃。
岩場に黄色い線が走り、リースを囲もうとする。
それよりも速く、リースは後ろに跳んだ。
トールハンマーによる攻撃は期待した足止めすらできずに終わった。
『そこだ!』
だが、それでいい。
元より世界最強の探索者をトールハンマーで捉えられるなんて思っていない。
前に出ても、後ろに下がっても、追撃の手は準備してあった。
さっきから体内にためていた魔力を解放。
火の超級魔法、ブレイズエンドが素早く展開し、火柱がリースの背後で打ちあがる。
跳躍しているためにこのままでは火柱にリースは突っ込む形になる。
どんな探索者でも、空中はリスクが伴う。そう考えたが。
「とても賢く、打つ手も悪くない」
リースが、膝を曲げて刀を構える。
その足は、空気を捉えているように見えた。まさか、何もない場所を足場にする気か。
予感は的中する。
リースは音を置き去りにして空気を蹴り、前に出る。刀でトールハンマーを一刀両断。
(あぁ、本当に)
氷堂と言い、ラファエルといい、人外の領域者達は予想外の事をしてくる。
本当に困ったものだ。けれど。
――それを少しでも予想できるようになってきた
口を大きく開き、吠える姿勢で放つ。
相手は俺の速さについてきて、魔法をものともせず、さらに宙を自由に動き回るような化け物。
なら魔法でもなんでもない、特殊な技ならどうか。
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