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第107話 原始の精霊対策会議
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天元の華が死線を潜り抜けて中層ボスの情報を持ち帰って来てくれた翌日。
俺達は前日と同じようにTier2ダンジョンの中に居た。
簡易テントの中には神宮さんと優さんの他に、天元の華の面々も居る。
優さんは愛花さんの事を心配しているのか、時折チラチラとその姿を確認していた。
昨日も配信が終わるや否や愛花さんの使用している東京の賃貸に急いで向かったくらいだ。
愛花さんの体にはどこにも怪我は見受けられないが、心配で仕方がないのだろう。
簡易なテーブルを使用せず、円形になって座り込んだ探索者達。
その中には、もちろん俺や竜乃、そして明さんのテイムモンスターであるトータスも居る。
「なんかこういうのって、映画とかで見る作戦会議って感じでいいよね!」
「お前には緊張感っていうものがないのか……」
「えぇー、なんでさ、いいじゃーん」
ぷくりと頬を膨らませる優梨愛さんと、そんな彼女に対してため息を吐く明さん。
その関係性が、まるで親子のように俺の目には映った。
「ほら、気持ちを切り替えて始めるぞ。望月さん、今日集まったのは他でもない、俺達が昨日挑んだ原始の精霊についてだ」
「配信は見てくれていたのは知っているけれど、実際に戦ったわたし達からも色々と話をしておいた方が良いかなと思いまして」
武田夫婦が穏やかな笑みを浮かべると、愛花さんも真剣な表情で頷いた。
それに続けるように、口を開く。
「特に第2形態に関しては、突破するためにここに居る全員で知恵を出し合う必要があるかなと思っています」
全員が頷くのを確認してから、愛花さんは話を続ける。
「ではまずは軽く第1形態から。敵は1体で、主な戦闘手段は格闘戦によるものです。
攻撃の威力の高さや防御の反応スピードなどは高水準ですが、2つの地域を突破している探索者パーティなら勝てると思いました。こちらはそこまで脅威ではありません」
「竜乃ちゃんや虎太郎君なら、絶対に勝てるってことだよ!」
満面の笑みでこちらに手を振ってくる優梨愛さん。
非常にテンションが高く、可愛らしいのは良いことですが、その二つ横に居る明さんが青筋浮かべてますよ。
「そして問題の第2形態ですが、姿かたちは第1形態から変化はありませんでした。
まず、どのタイミングで形態が変わるのか把握できないのはいやらしいところです」
「……精霊の形態が変わったと思われるタイミングで、虎太郎君が大きく吠えていました。
私達には分からなくても、虎太郎君には精霊の変化するタイミングが分かるのかもしれません」
「なんと」
目を見開き、愛花さんは俺へと視線を向ける。
目に見えて分かるわけではないが、配信では精霊が魔法を連発するようになる前に感じたことがあった。
精霊が一つ上のステージに上がり、俺から見ても強敵だと思えるほど強くなったと。
さらに加えるならば俺は精霊の体内で魔力が急速に生成されて放たれているのも感じ取れている。
いずれにせよ、精霊の第2形態変更のタイミングは大丈夫そうだ。
「なるほど……では次に第2形態について。姿は変わらず、精霊自身の攻撃パターンはそこまで変わりません。ですがご存じの通り、魔法を連発してきます。ここに来る前にパーティで配信を見直したのですが、あれはおそらく巨大な樹から供給されているのではないかと思っています」
「奥にそびえる巨大な樹ですよね。なら、それを破壊すれば……?」
「いや、難しいだろう。あれだけ大きいのを破壊するのもそうだが、おそらくあれは中層に根付いた環境のようなものだ。ボス部屋の壁を破壊できないのと同じように、無理と見ていいだろう」
「そう……ですよね……」
「話を戻します。まず精霊が撃つ魔法に関しては中級から超級まで、さらに属性も幅広いです。それぞれが詠唱などの準備を必要とせず、さらに精霊はノーモーションで放ってきます。見てから避けなくてはならないという事ですね」
「次から次に色んな魔法を放ってきてさ、本当、魔法のバーゲンセールかって感じだよねー」
「普通のセールなら私も好きなんだけどねぇ……」
「和香、乗らなくていいから」
優梨愛さんが話をやや脱線させ、和香さんがそれを加速させる。
明さんが苦笑いで二人を止めようとしているあたり、初めての事ではないのだろう。
苦労しているというのが、俺の目からでも見て分かった。
「ただ、配信を確認していて思ったことがあります。おそらくですが、超級魔法を連発は出来ない事、そしてグランドウェイブのみ二度放っていることから使えるのはグランドウェイブだけかもしれないと」
「ただこれはあくまでも希望的な予想だ。あの精霊が他にも超級魔法を隠し持っている可能性は十分にある」
「明さんの言う通りです。またこちらも希望的な予想ではあるのですが、あの精霊は魔法を放ってからそれが終わるまで次の魔法が発動できないのではないかと思います。戦闘中も感じていましたが、魔法が発射されてから消えるまで次の魔法は放たれませんでしたし、セイクリッド・レインに関しては途中で中断していましたから」
超級魔法に関してはともかく、後者の予想に関しては俺も思っていたことだ。
魔法を連発できるなら、数々の魔法で畳みかければ良い。
例えば、最後の愛花さんがグランドウェイブを突破したときは最たる例だろう。
あのとき、精霊は背後から愛花さんを魔法で狙わなかった。
それはきっと、まだグランドウェイブの魔法が終了していなかったからではないだろうか。
(途中で中断するにしても、ある程度は魔法を発動していないと無理みたいな感じか?)
セイクリッド・レインは中断したが、グランドウェイブは中断しなかった。
あるいは超級魔法は中断できないと考えても良いか。
「それともう一つ、精霊の扱う魔法に関しては威力、技の範囲ともに驚異的ですが、私達が使う魔法と変わりはありません。
この黒夜には魔力を込めることで数分に一振りだけ魔法を破壊できる力があるのですが、これで破壊できましたから」
「……本当、お姉ちゃんにその刀渡しておいて良かった」
「ありがとうね、優」
お互いに微笑みあい、眩しいばかりの姉妹愛を見せつけてくる。
以前は姉との関係にぎくしゃくしていたらしい優さんだが、今ではそれが嘘のようだ。
「ということは、竜乃ちゃんの蒼いブレスも鍵になりそうですね。もちろん虎太郎君の力も」
ここまでの話を聞いて考え込んでいた我らが飼い主様が、口を開いた。
「そうですね。私達から提供できる情報は以上です。
……望月ちゃん、ボスにはいつ挑む予定なの?」
それまでの丁寧な口調から変わり、優さんに対して語り掛けるようないつもの口調で愛花さんは望月ちゃんに尋ねる。
「……今日にもう少し皆さんの配信を見直して、それで明日挑もうかなと。
中層ボス部屋の前までは行ったこともありますから」
「そう、分かった。ここまで来た望月ちゃんなら準備とかは問題ないと思う。
でもよく聞いて。もしも危険になったら昨日の私達みたいにすぐ逃げてね」
「……はい」
経験者からの一言は重い。
けれど愛花さんは微笑み、頷いた。
「でも、もし勝てそうならそのまま倒しちゃえ。
望月ちゃん達は関東で一番強いって妹が言う君達ならできるよ」
「違うよお姉ちゃん、望月ちゃん達は日本一強くなるんだよ」
「ふふっ、そうだったね」
これから先の戦いなど全く気にしないような、和やかな雰囲気。
それを受けて、望月ちゃんもはっきりと答えた。
「はいっ! 愛花さんの仇を討ちます!」
「いや、私生きているんだけどな」
「いや、そ、そういう意味じゃなくてですね……」
すぐさまツッコミを入れた愛花さんに対して慌てる望月ちゃん。
その様子がおかしかったのか、簡易テントの中には笑顔が溢れた。
その日は解散となり、俺達は天元の華の動画をループで何度も再生する。
時には止め、時には戻し、そうすることで短い配信から取れるだけの情報を得た。
そして翌日、関東のTier1中層ボス2度目の戦いの日を迎える。
俺達は前日と同じようにTier2ダンジョンの中に居た。
簡易テントの中には神宮さんと優さんの他に、天元の華の面々も居る。
優さんは愛花さんの事を心配しているのか、時折チラチラとその姿を確認していた。
昨日も配信が終わるや否や愛花さんの使用している東京の賃貸に急いで向かったくらいだ。
愛花さんの体にはどこにも怪我は見受けられないが、心配で仕方がないのだろう。
簡易なテーブルを使用せず、円形になって座り込んだ探索者達。
その中には、もちろん俺や竜乃、そして明さんのテイムモンスターであるトータスも居る。
「なんかこういうのって、映画とかで見る作戦会議って感じでいいよね!」
「お前には緊張感っていうものがないのか……」
「えぇー、なんでさ、いいじゃーん」
ぷくりと頬を膨らませる優梨愛さんと、そんな彼女に対してため息を吐く明さん。
その関係性が、まるで親子のように俺の目には映った。
「ほら、気持ちを切り替えて始めるぞ。望月さん、今日集まったのは他でもない、俺達が昨日挑んだ原始の精霊についてだ」
「配信は見てくれていたのは知っているけれど、実際に戦ったわたし達からも色々と話をしておいた方が良いかなと思いまして」
武田夫婦が穏やかな笑みを浮かべると、愛花さんも真剣な表情で頷いた。
それに続けるように、口を開く。
「特に第2形態に関しては、突破するためにここに居る全員で知恵を出し合う必要があるかなと思っています」
全員が頷くのを確認してから、愛花さんは話を続ける。
「ではまずは軽く第1形態から。敵は1体で、主な戦闘手段は格闘戦によるものです。
攻撃の威力の高さや防御の反応スピードなどは高水準ですが、2つの地域を突破している探索者パーティなら勝てると思いました。こちらはそこまで脅威ではありません」
「竜乃ちゃんや虎太郎君なら、絶対に勝てるってことだよ!」
満面の笑みでこちらに手を振ってくる優梨愛さん。
非常にテンションが高く、可愛らしいのは良いことですが、その二つ横に居る明さんが青筋浮かべてますよ。
「そして問題の第2形態ですが、姿かたちは第1形態から変化はありませんでした。
まず、どのタイミングで形態が変わるのか把握できないのはいやらしいところです」
「……精霊の形態が変わったと思われるタイミングで、虎太郎君が大きく吠えていました。
私達には分からなくても、虎太郎君には精霊の変化するタイミングが分かるのかもしれません」
「なんと」
目を見開き、愛花さんは俺へと視線を向ける。
目に見えて分かるわけではないが、配信では精霊が魔法を連発するようになる前に感じたことがあった。
精霊が一つ上のステージに上がり、俺から見ても強敵だと思えるほど強くなったと。
さらに加えるならば俺は精霊の体内で魔力が急速に生成されて放たれているのも感じ取れている。
いずれにせよ、精霊の第2形態変更のタイミングは大丈夫そうだ。
「なるほど……では次に第2形態について。姿は変わらず、精霊自身の攻撃パターンはそこまで変わりません。ですがご存じの通り、魔法を連発してきます。ここに来る前にパーティで配信を見直したのですが、あれはおそらく巨大な樹から供給されているのではないかと思っています」
「奥にそびえる巨大な樹ですよね。なら、それを破壊すれば……?」
「いや、難しいだろう。あれだけ大きいのを破壊するのもそうだが、おそらくあれは中層に根付いた環境のようなものだ。ボス部屋の壁を破壊できないのと同じように、無理と見ていいだろう」
「そう……ですよね……」
「話を戻します。まず精霊が撃つ魔法に関しては中級から超級まで、さらに属性も幅広いです。それぞれが詠唱などの準備を必要とせず、さらに精霊はノーモーションで放ってきます。見てから避けなくてはならないという事ですね」
「次から次に色んな魔法を放ってきてさ、本当、魔法のバーゲンセールかって感じだよねー」
「普通のセールなら私も好きなんだけどねぇ……」
「和香、乗らなくていいから」
優梨愛さんが話をやや脱線させ、和香さんがそれを加速させる。
明さんが苦笑いで二人を止めようとしているあたり、初めての事ではないのだろう。
苦労しているというのが、俺の目からでも見て分かった。
「ただ、配信を確認していて思ったことがあります。おそらくですが、超級魔法を連発は出来ない事、そしてグランドウェイブのみ二度放っていることから使えるのはグランドウェイブだけかもしれないと」
「ただこれはあくまでも希望的な予想だ。あの精霊が他にも超級魔法を隠し持っている可能性は十分にある」
「明さんの言う通りです。またこちらも希望的な予想ではあるのですが、あの精霊は魔法を放ってからそれが終わるまで次の魔法が発動できないのではないかと思います。戦闘中も感じていましたが、魔法が発射されてから消えるまで次の魔法は放たれませんでしたし、セイクリッド・レインに関しては途中で中断していましたから」
超級魔法に関してはともかく、後者の予想に関しては俺も思っていたことだ。
魔法を連発できるなら、数々の魔法で畳みかければ良い。
例えば、最後の愛花さんがグランドウェイブを突破したときは最たる例だろう。
あのとき、精霊は背後から愛花さんを魔法で狙わなかった。
それはきっと、まだグランドウェイブの魔法が終了していなかったからではないだろうか。
(途中で中断するにしても、ある程度は魔法を発動していないと無理みたいな感じか?)
セイクリッド・レインは中断したが、グランドウェイブは中断しなかった。
あるいは超級魔法は中断できないと考えても良いか。
「それともう一つ、精霊の扱う魔法に関しては威力、技の範囲ともに驚異的ですが、私達が使う魔法と変わりはありません。
この黒夜には魔力を込めることで数分に一振りだけ魔法を破壊できる力があるのですが、これで破壊できましたから」
「……本当、お姉ちゃんにその刀渡しておいて良かった」
「ありがとうね、優」
お互いに微笑みあい、眩しいばかりの姉妹愛を見せつけてくる。
以前は姉との関係にぎくしゃくしていたらしい優さんだが、今ではそれが嘘のようだ。
「ということは、竜乃ちゃんの蒼いブレスも鍵になりそうですね。もちろん虎太郎君の力も」
ここまでの話を聞いて考え込んでいた我らが飼い主様が、口を開いた。
「そうですね。私達から提供できる情報は以上です。
……望月ちゃん、ボスにはいつ挑む予定なの?」
それまでの丁寧な口調から変わり、優さんに対して語り掛けるようないつもの口調で愛花さんは望月ちゃんに尋ねる。
「……今日にもう少し皆さんの配信を見直して、それで明日挑もうかなと。
中層ボス部屋の前までは行ったこともありますから」
「そう、分かった。ここまで来た望月ちゃんなら準備とかは問題ないと思う。
でもよく聞いて。もしも危険になったら昨日の私達みたいにすぐ逃げてね」
「……はい」
経験者からの一言は重い。
けれど愛花さんは微笑み、頷いた。
「でも、もし勝てそうならそのまま倒しちゃえ。
望月ちゃん達は関東で一番強いって妹が言う君達ならできるよ」
「違うよお姉ちゃん、望月ちゃん達は日本一強くなるんだよ」
「ふふっ、そうだったね」
これから先の戦いなど全く気にしないような、和やかな雰囲気。
それを受けて、望月ちゃんもはっきりと答えた。
「はいっ! 愛花さんの仇を討ちます!」
「いや、私生きているんだけどな」
「いや、そ、そういう意味じゃなくてですね……」
すぐさまツッコミを入れた愛花さんに対して慌てる望月ちゃん。
その様子がおかしかったのか、簡易テントの中には笑顔が溢れた。
その日は解散となり、俺達は天元の華の動画をループで何度も再生する。
時には止め、時には戻し、そうすることで短い配信から取れるだけの情報を得た。
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