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第89話 似たもの同士
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ここは東京のTier2ダンジョンの上層。
入口付近で呼び出された俺と竜乃は、望月ちゃんに続いて、探索者用のテントに入る。
後ろには優さんと神宮さんが続いた。
3人は簡易テーブルに、俺と竜乃は床に並んで伏せる。
「早速始めましょう。まずは望月さん、上層突破おめでとうございます。あまり心配はしていませんでしたが、とりあえずは一安心ですね」
「ありがとうございます」
神宮さんの言葉に望月ちゃんが返事をする。
俺達が東京のTier1ダンジョン上層をクリアしたのが昨日だったのだが、神宮さんはすぐに予定を付けてくれたようだ。
「本当におめでとう、望月ちゃん。実力的にはずっと前に抜かれてたけど、ダンジョンの攻略具合もついに抜かれちゃったな」
「優さんもありがとうございます」
あははと笑う優さん。その笑顔には暗い色はない。
それが分かっているのか、望月ちゃんも喜色の混じった声で受け入れていた。
「それにしても、すみませんわざわざTier2ダンジョンに足を運んでいただいて。流石にTier2ダンジョンの下層ボスは倒していないので……」
「あ、いえ、全然大丈夫です!」
神宮さんの言う通り、俺達は今東京のTier2ダンジョン上層に居る。
俺達の進行度ならTier1ダンジョンで打ち合わせをするべきなのかもしれないが、優さんはともかく神宮さんはTier1ダンジョンに入る資格を持っていないらしい。
専属職員はパーティにつくものの、探索者として実力があることとは別問題だ。
以前の俺の担当者も、探索者としてはさっぱりでTier3ダンジョンで打ち合わせをしていたくらいだ。
神宮さんはTier3は攻略しているという事だろう。
Tier1はともかくTier2はどこのダンジョンでも入れるので、打ち合わせにはちょうど良い。
「本題ですが、お二人は中層についてどのくらい知っていますか?」
そして話はTier1中層へと移る。
「調べはしたのですが、あまり情報が出てこなくて……」
「かなり深くまで調べたので多少はという感じです。ただ、京都の情報が多すぎて……」
勉強熱心な望月ちゃんも、俺達のバックアップ担当の優さんも中層の情報を多くは入手していないらしい。
深層まで進んでいる京都ならともかく、東京では仕方がない事だろう。
理由としてはいくつかある。
第一に、東京の中層がまだ攻略中であることがあげられる。
中層はこれまでのどの層よりも広大なのだが、その全てを回り切った探索者は居ないだろう。
それどころか記憶が正しければボスに挑んだ探索者も居なかったはずだ。
情報そのものが不足している。
そして第二に、探索者からもたらされた情報を政府が一般公開していない。
パーティについている専属職員に対して、ダンジョン内にどういったものがあったかといった説明はするし、場所に関しては動画という形で提供することもあるのだが、それらは政府内でのみ共有される。
なら探索者側は情報を一般公開しないのかという話になるのだが、すでに一度専属職員に長い時間をかけて説明しているので、それをもう一度外部に公開しようとする人が居ない。
俺達のように配信をつけている人も居ないわけではないが、プライベートな問題もあってぶつ切りだったり、編集後の動画を上げる場合がほとんどだ。
もっと言うと、ほとんどの上位探索者はそんなことをしているくらいなら探索をする。
情報は専属職員から得られるから、一般に公開する労力を惜しむのだ。
「では私の方から簡単に説明します。まず中層ですが、層の広さは関東では最大のものとなっています。広大な領域は一般的なTier2ダンジョン下層の5倍以上。そして内包している施設の数は6つです」
中層は本当に広い。ここまでの探索とは比にならないほどの時間がかかるだろう。
そして中層のテーマは。
「この中層のテーマは、精霊となっています」
多種多様な精霊が存在する楽園という設定だ。
ただし、探索者にとっては劣悪な環境であるが。
「自然豊かな階層に存在する6つの施設は、それぞれ地水火風光闇。
例えば火ならば絶えず噴火活動を続ける火山地帯が、水なら嵐吹き荒れる大海が施設となっています。
ボスに挑むには最低でも2つの施設を攻略する必要があります。ただ階層モンスターのレベルはかなり高く、現在挑戦している中で2つの施設を攻略しているパーティはありません」
「……そ、そんなに」
望月ちゃんの息を呑む音が聞こえた。
念のために捕捉をしておくと、2つの施設を攻略しているパーティは少ないが1つを攻略しているパーティはいくつかある。
俺が以前所属していたパーティも1つは攻略できた。
「調べているときに、Tier1は上層がチュートリアルといった言葉を見たと思います。あれは的を射た言葉です。望月さん、よく覚えておいてください。あなた達のTier1ダンジョン攻略はこれから始まるんです」
「望月ちゃん、僕もお姉ちゃんに聞いたから間違いないよ。ここから先出てくるフィールドモンスターは無垢の白球を越えるものも居るし、施設のボスに関してはクイーンすら軽く越えてくる。必要以上に怖がることはないけれど、よく覚えておいて欲しい」
「……はい」
「とはいえ望月さん達には強みもあります。テイマーの支援という意味では望月さんの右に出る探索者は居ないでしょうし、竜乃ちゃんもクイーン戦で覚醒したために、十分に渡り合える力を有しています」
良かった。望月ちゃんの負担になることばかり言うのかと思いきや、ここで神宮さんがプラスの言葉をくれた。
彼女の言う通り望月ちゃんは最高のテイマーだし、竜乃はシークレットスキル覚醒と進化により強さは十分だ。
「そして虎太郎君は、ほぼ全力が出せるこの層ならやってくれるはずです。ボスは分かりませんが、施設ボスと戦って圧倒できるくらいには」
いやぁ、それほどでもありますよ。
…………。
照れるのはここら辺にして、実際に中層でやっていけるかと聞かれると、行けると俺は答える。
なんなら実力的には下層にも足を踏み込んでいるんじゃないかとさえ感じているくらいだ。
俺が先陣を切って敵を倒し、望月ちゃんと竜乃を強くする。
そして強くなった俺達でさらに奥を目指す。この構図はいつまでも変わらない筈だ。
「……分かりました。今まで通り竜乃ちゃんと虎太郎君を信じて、突き進んでみます」
その意気だ。
「望月さん達なら大丈夫でしょう……さて、6つの施設ですが攻略するなら火、地、光、闇がおススメです。エースである虎太郎君が力を十分に発揮するには足場が不安定であったり、存在しない水や風は微妙ですからね。火の火山地帯は施設の中は高音で溶岩が流れていますが道はちゃんとあるみたいですし、闇の森は進みにくいという話を聞きますが、地上であることは変わりありませんから」
「……望月ちゃんと虎太郎君は雷の魔法をメインに使用するので、ひょっとしたら地の施設は相性が悪い可能性がありますね」
「なるほど、流石は君島さんですね。ただ施設は出入り自由ではあるので、そのことを念頭に置いたうえで遠くから様子を観察したり、少し中に入ってから決めるでもいいと思います」
「確かに、それでいいかもしれませんね」
「……い、色々見てみます」
議論を交わし合う神宮さんと優さんに圧され、望月ちゃんはやや戸惑い気味だ。
探索するのは俺達なんですけど、あなた達めっちゃ楽しそうですね。
「あ、そういえば望月さん、配信のモデレーターの権限って頂くことできますか? どうせなら望月さんのダンジョン探索中に優さんと意見を交わし合いながらしちょ……観察したいので」
しちょ?
「はい、大丈夫です。あとでメールでやり取りしましょう」
「ありがとうございます……っしゃ」
…………。
「配信のコメント欄にも出てくるんですよね? 名前どうするんです?」
「そうですね。キミーにもじってカミーにしたら混乱させてしまうでしょうか?」
「うーん、流石に似すぎているかなと」
「では無難にミヤにしておきます。ふふふっ、実は少し前から優さんの事が羨ましかったんですよね。キミーパイセン、キミーパイセンって呼ばれているのがいいなぁって」
俺達そっちのけできゃっきゃうふふと配信に関する話をする神宮さん達を見ながら思う。
この人達、俺達の配信にハマりすぎじゃん、と。
入口付近で呼び出された俺と竜乃は、望月ちゃんに続いて、探索者用のテントに入る。
後ろには優さんと神宮さんが続いた。
3人は簡易テーブルに、俺と竜乃は床に並んで伏せる。
「早速始めましょう。まずは望月さん、上層突破おめでとうございます。あまり心配はしていませんでしたが、とりあえずは一安心ですね」
「ありがとうございます」
神宮さんの言葉に望月ちゃんが返事をする。
俺達が東京のTier1ダンジョン上層をクリアしたのが昨日だったのだが、神宮さんはすぐに予定を付けてくれたようだ。
「本当におめでとう、望月ちゃん。実力的にはずっと前に抜かれてたけど、ダンジョンの攻略具合もついに抜かれちゃったな」
「優さんもありがとうございます」
あははと笑う優さん。その笑顔には暗い色はない。
それが分かっているのか、望月ちゃんも喜色の混じった声で受け入れていた。
「それにしても、すみませんわざわざTier2ダンジョンに足を運んでいただいて。流石にTier2ダンジョンの下層ボスは倒していないので……」
「あ、いえ、全然大丈夫です!」
神宮さんの言う通り、俺達は今東京のTier2ダンジョン上層に居る。
俺達の進行度ならTier1ダンジョンで打ち合わせをするべきなのかもしれないが、優さんはともかく神宮さんはTier1ダンジョンに入る資格を持っていないらしい。
専属職員はパーティにつくものの、探索者として実力があることとは別問題だ。
以前の俺の担当者も、探索者としてはさっぱりでTier3ダンジョンで打ち合わせをしていたくらいだ。
神宮さんはTier3は攻略しているという事だろう。
Tier1はともかくTier2はどこのダンジョンでも入れるので、打ち合わせにはちょうど良い。
「本題ですが、お二人は中層についてどのくらい知っていますか?」
そして話はTier1中層へと移る。
「調べはしたのですが、あまり情報が出てこなくて……」
「かなり深くまで調べたので多少はという感じです。ただ、京都の情報が多すぎて……」
勉強熱心な望月ちゃんも、俺達のバックアップ担当の優さんも中層の情報を多くは入手していないらしい。
深層まで進んでいる京都ならともかく、東京では仕方がない事だろう。
理由としてはいくつかある。
第一に、東京の中層がまだ攻略中であることがあげられる。
中層はこれまでのどの層よりも広大なのだが、その全てを回り切った探索者は居ないだろう。
それどころか記憶が正しければボスに挑んだ探索者も居なかったはずだ。
情報そのものが不足している。
そして第二に、探索者からもたらされた情報を政府が一般公開していない。
パーティについている専属職員に対して、ダンジョン内にどういったものがあったかといった説明はするし、場所に関しては動画という形で提供することもあるのだが、それらは政府内でのみ共有される。
なら探索者側は情報を一般公開しないのかという話になるのだが、すでに一度専属職員に長い時間をかけて説明しているので、それをもう一度外部に公開しようとする人が居ない。
俺達のように配信をつけている人も居ないわけではないが、プライベートな問題もあってぶつ切りだったり、編集後の動画を上げる場合がほとんどだ。
もっと言うと、ほとんどの上位探索者はそんなことをしているくらいなら探索をする。
情報は専属職員から得られるから、一般に公開する労力を惜しむのだ。
「では私の方から簡単に説明します。まず中層ですが、層の広さは関東では最大のものとなっています。広大な領域は一般的なTier2ダンジョン下層の5倍以上。そして内包している施設の数は6つです」
中層は本当に広い。ここまでの探索とは比にならないほどの時間がかかるだろう。
そして中層のテーマは。
「この中層のテーマは、精霊となっています」
多種多様な精霊が存在する楽園という設定だ。
ただし、探索者にとっては劣悪な環境であるが。
「自然豊かな階層に存在する6つの施設は、それぞれ地水火風光闇。
例えば火ならば絶えず噴火活動を続ける火山地帯が、水なら嵐吹き荒れる大海が施設となっています。
ボスに挑むには最低でも2つの施設を攻略する必要があります。ただ階層モンスターのレベルはかなり高く、現在挑戦している中で2つの施設を攻略しているパーティはありません」
「……そ、そんなに」
望月ちゃんの息を呑む音が聞こえた。
念のために捕捉をしておくと、2つの施設を攻略しているパーティは少ないが1つを攻略しているパーティはいくつかある。
俺が以前所属していたパーティも1つは攻略できた。
「調べているときに、Tier1は上層がチュートリアルといった言葉を見たと思います。あれは的を射た言葉です。望月さん、よく覚えておいてください。あなた達のTier1ダンジョン攻略はこれから始まるんです」
「望月ちゃん、僕もお姉ちゃんに聞いたから間違いないよ。ここから先出てくるフィールドモンスターは無垢の白球を越えるものも居るし、施設のボスに関してはクイーンすら軽く越えてくる。必要以上に怖がることはないけれど、よく覚えておいて欲しい」
「……はい」
「とはいえ望月さん達には強みもあります。テイマーの支援という意味では望月さんの右に出る探索者は居ないでしょうし、竜乃ちゃんもクイーン戦で覚醒したために、十分に渡り合える力を有しています」
良かった。望月ちゃんの負担になることばかり言うのかと思いきや、ここで神宮さんがプラスの言葉をくれた。
彼女の言う通り望月ちゃんは最高のテイマーだし、竜乃はシークレットスキル覚醒と進化により強さは十分だ。
「そして虎太郎君は、ほぼ全力が出せるこの層ならやってくれるはずです。ボスは分かりませんが、施設ボスと戦って圧倒できるくらいには」
いやぁ、それほどでもありますよ。
…………。
照れるのはここら辺にして、実際に中層でやっていけるかと聞かれると、行けると俺は答える。
なんなら実力的には下層にも足を踏み込んでいるんじゃないかとさえ感じているくらいだ。
俺が先陣を切って敵を倒し、望月ちゃんと竜乃を強くする。
そして強くなった俺達でさらに奥を目指す。この構図はいつまでも変わらない筈だ。
「……分かりました。今まで通り竜乃ちゃんと虎太郎君を信じて、突き進んでみます」
その意気だ。
「望月さん達なら大丈夫でしょう……さて、6つの施設ですが攻略するなら火、地、光、闇がおススメです。エースである虎太郎君が力を十分に発揮するには足場が不安定であったり、存在しない水や風は微妙ですからね。火の火山地帯は施設の中は高音で溶岩が流れていますが道はちゃんとあるみたいですし、闇の森は進みにくいという話を聞きますが、地上であることは変わりありませんから」
「……望月ちゃんと虎太郎君は雷の魔法をメインに使用するので、ひょっとしたら地の施設は相性が悪い可能性がありますね」
「なるほど、流石は君島さんですね。ただ施設は出入り自由ではあるので、そのことを念頭に置いたうえで遠くから様子を観察したり、少し中に入ってから決めるでもいいと思います」
「確かに、それでいいかもしれませんね」
「……い、色々見てみます」
議論を交わし合う神宮さんと優さんに圧され、望月ちゃんはやや戸惑い気味だ。
探索するのは俺達なんですけど、あなた達めっちゃ楽しそうですね。
「あ、そういえば望月さん、配信のモデレーターの権限って頂くことできますか? どうせなら望月さんのダンジョン探索中に優さんと意見を交わし合いながらしちょ……観察したいので」
しちょ?
「はい、大丈夫です。あとでメールでやり取りしましょう」
「ありがとうございます……っしゃ」
…………。
「配信のコメント欄にも出てくるんですよね? 名前どうするんです?」
「そうですね。キミーにもじってカミーにしたら混乱させてしまうでしょうか?」
「うーん、流石に似すぎているかなと」
「では無難にミヤにしておきます。ふふふっ、実は少し前から優さんの事が羨ましかったんですよね。キミーパイセン、キミーパイセンって呼ばれているのがいいなぁって」
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