ダンジョンのモンスターになってしまいましたが、テイマーの少女が救ってくれたので恩返しします。

紗沙

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第52話 最悪の日、俺は2体目に出会う

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 暗黒城を攻略し、ついにJDCランキングで目標の10位以内を達成した翌日。
 俺達はこれまでと変わらずダンジョンの下層に挑んでいた。

 しかし、昨日とは違い気持ちに余裕が出来たのか、望月ちゃんに緊張した雰囲気はない。
 竜乃もこれまではピリピリとした雰囲気を出してたが、今はそんな様子はない。

 これから先、JDCが終わるまでの5日間はこれまでと同じように探索を行う。
 けれどそれは順位をキープするためのもので、言ってしまえば消化試合のようなものだ。

 今現在も、配信をしながら下層を探索している。
 戦闘時はともかく、今のように敵を探して移動している最中にはコメントを返す余裕もあるくらいだ。

“モッチー! JDCのランキング更新されたよ! 9位おめでとう!”
“目標達成おめでとう!”
“めでたいことや!”
“あのモッチーがここまで来るなんてな………”
“初見です。ここはどこですか?”
“これで公式配信でモッチーが映るのか。感無量や”

 どうやらついさっきJDCのランキングが更新されたらしく、コメントも賑わっている。
 とはいえ昨日の暗黒城攻略からの9位の表示を視聴者達は見ているので、やや加速したと言ったところか。

 今なお望月ちゃんの配信の視聴者数は増えていて、大手ダンチューバーに並ぶくらいになっている。
 あの女の記念配信などで見たような数字を表示している配信ドローンが輝いて見える。

「あ……そういえば、政府から公式配信で私達の配信を映して良いかと聞かれました。
 初めてだったんでびっくりしましたけど、あんな感じなんですね」

 歩きながらコメントを拾った望月ちゃんが答える。
 おそらくはダンジョンに入る前に打診を受けたのだと思うが、公式配信への参加は確定的なようだ。

 これは今よりもさらに望月ちゃんが人気になるのは間違いないだろう。
 大天使望月エルの威光を全世界に轟かせるのだ。

“打診早くね?”
“まだランキング分からんけど、早く打診しないとモッチーにも都合があるからなぁ”

「もしTOP10から落ちてしまっても、配信は使ってくれるようです。
 もちろん、落ちるつもりなんてありませんよ。竜乃ちゃんと虎太郎君のために!」

“君、自分も人気になってることを理解した方が良いぞ”
“人気(別の意味で)”
“モチキチ……”
“モチキチ……”

 望月ちゃんのいつもの俺達へのありがたい愛に対して、コメントが加速する。
 モチキチ? 最近よく見るけれど、どういった意味なのだろうか。

「……あー……うーん……」

 そんな事を思っていると、なにかのコメントを拾ったらしい望月ちゃんが唸った。
 答えに窮しているが、困っているわけではなさそうだ。

“どうした?”
“モッチー?”
“望月さん?”
“なんかあった?”

「参考までにステータスを教えて欲しいっていうコメントが目に入りまして……。
 正確な数値までは教えられないんですけど、私のレベルはこの下層に挑戦する平均的な探索者くらいです」

 詳細な数値は、望月ちゃんのみならず配信者ならば基本的には答えてはくれない。
 けれどダンジョンのモンスターにはレベルが設定されているので、大まかに話すだけでも参考にはなるだろう。

“暗黒城攻略してそのくらいなん?”
“虎太郎の旦那ってもっと強いでしょ?”
“Tier2ダンジョンの下層に挑む探索者にあんな魔法使えないと思うけど”
“虎太郎の旦那って、レベル帯的にはどこなん? Tier1の中層くらい?”

「えっと……その……」

 先ほど以上に言葉に窮している望月ちゃん。
 その表情からは、「やっぱりこうなったか」という気持ちが読み取れた。

「ごめんなさい。分からないんです。私の方からは、虎太郎君のステータスって見れないんです」

 衝撃の告白に、コメント欄が加速する。

“見れない?”
“どゆこと?”
“そんなことある?”
“本当にテイムしてんのか?”

「はい。テイムできているのは間違いないんですけど、全く見えません。
 だから虎太郎君が具体的にどれくらい強いのかは分からなくてですね……でもすっごく強いのは間違いないです!」

 やや見当はずれの回答をする望月ちゃん。
 それに対して、納得するコメントが多く流れる。

“どういうことか分からんけど、虎太郎の旦那がモッチーの味方なことに変わりはないし”
“逆にステ見れないほど強い奴が助けてくれるって心強い”
“そうなんかぁ。めっちゃ強いから、ステータス知りたかったなぁ”

 数多くの視聴者は俺のステータスについて諦めてくれたようだ。
 俺自身、今の実力ならばTier1の上層では通用すると思うが、中層はキツイのではと考えている。

 まあ、俺から見てくれている人たちに伝えることは出来ないのだが。

“にしても、話変わるけど専属職員つくんかね。まだTier2だけど”

「専属職員……ですか?」

 次の話題を探していたところに気になるコメントを見つけたようで、望月ちゃんが拾った。
 たった一言口にしただけで、コメントが専属職員一色になる。

“Tier1に挑む探索者パーティには、それぞれ専属の政府職員が付くんよ”
“色々面倒な処理をしてくれたり、探索の手助けしてくれるらしいよ”
“モッチーはTier2ダンジョン探索者だけど、JDCのランキングで上位だからあり得るんじゃない?”
“事実モッチー以外のTOP100は全員Tier1ダンジョン探索者だしな”

 かつて探索者だった時にも、俺達のパーティについてくれた職員の人は居た。
 若い女性職員だったが、色々とダンジョンの情報をくれたり、事務周りを行ってくれていた。

 Tier1ダンジョンに挑んで専属の職員が付くと、自分達が上位の探索者だと思うようになったくらいだ。
 そのうち慣れてしまうことではあったのだが。

 個人的には、今回の件で望月ちゃんに専属職員がつくのではと思っている。
 あれは上位の探索者が快適に日本のダンジョンを攻略するために導入された制度だ。

 元Tier1ダンジョン探索者から見ても、今の望月ちゃんのダンジョン攻略に対する価値は計りしれないだろう。
 ようやく国が望月ちゃんのすばらしさに気づくのだ。ふはは。

(俺と竜乃と望月ちゃんで、どこまでも――)

 そんな夢を見たときに、まるでその夢から覚めるように明るい光が舞い込んできた。
 このダンジョンの下層は闇に包まれた世界。

 登場するモンスターは闇を連想させるモンスターばかりだ。
 だから最初は、下層を探索する別の探索者と出会ったのかと思った。

 ダンジョンは広大だが、別の探索者と出会うことがないわけではない。
 だが、そうではないとすぐに気付いた。

 光はライトにように照らしているのではなく、集まっている。
 何かを形作るように、何かが出現するかのように。

「……なに? あれ?」

 闇に閉ざされた下層に君臨する、神々しい光を放つ球体。
 銀のフォルムに、その周囲を回転する8つの光の帯。

『うそ……だろ?』

 俺はそれを知っている。
 けれど戦ったことはない。あるわけがない。あれが初めてだったから。

 俺が出会った黒い化け物を除く、世界で確認されている3体のTier0。
 あれはその内の1体だ。
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