ダンジョンのモンスターになってしまいましたが、テイマーの少女が救ってくれたので恩返しします。

紗沙

文字の大きさ
上 下
33 / 214

第33話 一人の探索者の終わり

しおりを挟む
 望月ちゃんの用意した探索者用のテントの中。
 簡易的な椅子と机を配置し、望月ちゃんと優さんは向かい合って座る。

 俺は机の横に伏せて聞き耳を立てることにした。
 ちなみに竜乃は俺の感触が気に入ったのか、上に乗って羽を休めている。

 あの……重いんで――

『虎太郎?』

『好きなだけ休んでくれ』

 女性に体重の話はNGなのは人間でもモンスターでも変わらないという事を知った虎太郎です。

「それでその……た、探索者を辞めるって……」

「……実は前から決めていたことなんだ。だから望月ちゃんは気にしなくてもいいよ。
 急にこんなこと言ってごめんね」

「い、いえ……でも……どうしてか聞いてもいいですか?」

 おずおずと質問する望月ちゃん。
 俺自身も彼女と同じ質問を投げたい気持ちはあるが、優さんが何かを抱えていることにも、なんとなく気づいていた。

「んー、何から話したものかな。まず騙していたことを謝らないとなんだけど、僕はTier1ダンジョンまで探索したことがあるんだ」

 優さんはもう一つ上の、日本最高ランクのダンジョン挑戦者のようだ。
 だが俺の予想が正しければ、彼女はおそらく。

「といっても、パーティで組んだ人のお陰でTier2ダンジョンを突破したようなものなんだ。
 ずっとその人と一緒にダンジョンに潜ってきたから、自分が強くなったと勘違いした。
 そして行けるところまで行って、もう無理だと悟った。
 僕は、Tier1ダンジョンはおろかTier2ダンジョンの下層ボスにすら挑むには力不足だと」

 彼女は、探索者だった頃の俺と同じ、限界を迎えた探索者だ。

「それに、実は探索しているよりも見ている方が楽しいんだ。
 望月ちゃん達の配信も、最初から見返したりしているんだよ」

 微笑む優さん。
 彼女の笑みは寂しげではある。けれどどこか吹っ切れたような印象がある。

(……あ)

 その表情を見て、俺の脳裏を一人の女性が過ぎった。
 そういえば彼女も、君島だった。

(優さんのお姉さんは……多分、君島愛花きみしまあいかだ)

 日本に居る上位パーティの一つ、「天元の華」。
 短い期間でダンジョンの階層を一気に突破し、Tier1ダンジョンに到達したそのパーティのリーダーを務めるのが、君島愛花。

 剣士としても日本国内で上位の実力を持つ、探索者。

 なら優さんは、かつては天元の華に在籍していたことになる。
 家族として、ずっと一緒に居た姉がどんどん強くなり、一方で自分は中々強くならない。

 そんな優さんの焦りや悔しさはどれほどのものか。

(……俺よりも……辛いだろうな)

 優さんと君島愛花の間に何があったのかは知らない。
 けれど、優さんが色々考えて、悩んで、そして探索者を辞めるという決意をしたことだけは分かる。

 あれは本当に悩んで、苦しんで、その果てで見つけた答えが納得できないものでも、少しでも楽になったときに出る笑顔だから。

「……分かりました。残念ですが、そういうことなら……」

 名残惜しそうではあるが、探索者を辞めるとあっては引き留めることもできない。
 そんな残念そうな望月ちゃんを、優さんは一転して真面目な顔でじっと見た。

「望月ちゃん。僕からも一つ、話がある」

 彼女はチラリと俺と竜乃を見て、そして望月ちゃんを見た。

「この前の土日に一緒に戦うだけで分かった。
 君達はどこまでも強くなれる。このダンジョンも越えて、Tier1ダンジョンにだって行ける。
 望月ちゃんと竜乃ちゃんと虎太郎君には……その素質がある」

「…………」

「うん。僕が今まで見た中で一番可能性があると思う。
 だから、一緒に誰かと組むこと自体が君達の妨げになるかもしれない。
 君達と同じくらいのスピードで成長できる人でないなら……パーティは組まない方が良いかもしれないよ」

「組まないで……私達で……」

 優さんの言葉には一理ある。
 パーティ内部で実力差が出て、解散するなんてよくある話だ。

 俺の体はおそらくダンジョン内最強のTier0モンスター。
 そしてそんな俺と望月ちゃんは繋がっていて、そして望月ちゃんと竜乃も繋がっている。

 俺たち三人だからこそ、ここまで早く成長出来ているという意見には納得だ。

「……大丈夫。望月ちゃん達はもう立派なパーティだよ。
 虎太郎君、竜乃ちゃん、望月ちゃん。この三人で、君達はどこまでも強くなれる筈さ。
 ……君の目的のためにも、ね」

「……そう、ですよね」

(……ん?)

 望月ちゃんの目的?
 そんなものがあるとは初耳だ。

 俺はてっきり、彼女がダンジョン探索とテイムモンスターが好きでダンジョンに潜っていると思っていた。
 しかし、何か別の目的があったのか?

『竜乃、望月ちゃんの目的ってなんだ?』

『さぁ、聞いたことないわね』

 どうやら竜乃も知らないらしい。
 うーん、気になる。

「これまでのように、何か探索で役に立ちそうな情報があれば真っ先に教えるよ。
 探索者を辞めるから、時間もできるだろうしね」

「……はい、ありがとうございます」

「うん……頑張ってね、望月ちゃん。ふぅ……最後のダンジョンだし、少しゆっくりしてから帰ろうかな」

「探索者テントでゆっくりするならいつでも歓迎なので来てください!」

「はは、たまにはそうさせてもらうよ」

 真面目な話も終わり、楽しそうな雰囲気で会話をする二人を見ながら、ふと思う。
 今の俺は、ダンジョンの中での望月ちゃんしか知らないことを。

 彼女がダンジョンの外で、現実世界で、何を思い、何をして、そしてどんなことを経験してきたかを、経験しているかを、一切知らない。
 別に全てを知りたいとまでは思わないけれど、知りたいことを聞くことすらできないのは少しもどかしい。

(望月ちゃんの……目的……)

 それを教えてくれれば、何か協力できるかもしれないのに。
 そんなことを、何も知らない俺は思ってしまった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

神様の願いを叶えて世界最強!! ~職業無職を極めて天下無双する~

波 七海
ファンタジー
※毎週土曜日更新です。よろしくお願い致します。  アウステリア王国の平民の子、レヴィンは、12才の誕生日を迎えたその日に前世の記憶を思い出した。  自分が本当は、藤堂貴正と言う名前で24歳だったという事に……。  天界で上司に結果を出す事を求められている、自称神様に出会った貴正は、異世界に革新を起こし、より進化・深化させてほしいとお願いされる事となる。  その対価はなんと、貴正の願いを叶えてくれる事!?  初めての異世界で、足掻きながらも自分の信じる道を進もうとする貴正。  最強の職業、無職(ニート)となり、混乱する世界を駆け抜ける!!  果たして、彼を待っているものは天国か、地獄か、はたまた……!?  目指すは、神様の願いを叶えて世界最強! 立身出世!

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

辻ダンジョン掃除が趣味の底辺社畜、迷惑配信者が汚したダンジョンを掃除していたらうっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう

なっくる
ファンタジー
ダンジョン攻略配信が定着した日本、迷惑配信者が世間を騒がせていた。主人公タクミはダンジョン配信視聴とダンジョン掃除が趣味の社畜。 だが美少女アイドルダンジョン配信者の生配信に映り込んだことで、彼の運命は大きく変わる。実はレアだったお掃除スキルと人間性をダンジョン庁に評価され、美少女アイドルと共にダンジョンのイメージキャラクターに抜擢される。自身を慕ってくれる美少女JKとの楽しい毎日。そして超進化したお掃除スキルで迷惑配信者を懲らしめたことで、彼女と共にダンジョン界屈指の人気者になっていく。 バラ色人生を送るタクミだが……迷惑配信者の背後に潜む陰謀がタクミたちに襲い掛かるのだった。 ※他サイトでも掲載しています

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

なんか黄金とかいう馬鹿みたいなスキルを得たのでダラダラ欲望のままに金稼いで人生を楽しもうと思う

ちょす氏
ファンタジー
 今の時代においてもっとも平凡な大学生の一人の俺。 卒業を間近に控え、周りの学生たちは冒険者としてのキャリアを選ぶ中、俺の夢はただひとつ、「悠々自適な生活」を送ること。 金も欲しいし、時間も欲しい。 程々に働いて程々に寝る……そんな生活だ。 しかし、それも容易ではなかった。100年前の事件によって。 そのせいで現代の世界は冒険者が主役の時代となっていた。 ある日、半ば興味本位で冒険者登録をしてみた俺は、予想外のスキル「黄金」を手に入れる。 「はぁ?」 俺が望んだのは平和な日常を送るためだが!? 悠々自適な生活とは程遠い、忙しない日々を送ることになる。

異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト
ファンタジー
魔王を倒し、邪神を滅ぼし、五年の冒険の果てに役割を終えた勇者は地球へと帰還する。 しかし、遂に帰還した地球では何故か三十年が過ぎており……しかも、何故か普通に魔術が使われており……とはいえ最強な勇者がちょっとおかしな現代日本で無双するお話です。

処理中です...