ダンジョンのモンスターになってしまいましたが、テイマーの少女が救ってくれたので恩返しします。

紗沙

文字の大きさ
上 下
24 / 214

第24話 一方で配信は伸び悩んでいるようです

しおりを挟む
 あれから少し時間が経ち、今はお昼くらいだろうか。
 俺達はまだ探索者用のテントに居た。

 今俺と竜乃は望月ちゃんに貰ったテイムモンスター用のフードを食べている。
 テイムモンスターは餌をあげなくても死なないのだが、関係を良くするためにもフードの使用はテイマー達に推奨されていた。

 テイムモンスターを愛する望月ちゃんがそれをしないわけがなく、貰うのもこれが初めてではない。
 探索者だった頃はドッグフードみたいだなと思っていたのだが。

 これ、滅茶苦茶旨いのである。
 見た目はドッグフードなのに、味は高級料亭の料理みたいだ。

 そんなの食べたことないけど、まあ要はそのくらい美味しいということ。
 例えこれをくれなくても望月ちゃんへの好感度はMAXだが、くれたものはありがたく頂くのだ。

『ねえ、虎太郎。今回のボス戦、勝てると思う?』

 ふと、隣でドラゴン用のフードを食べていた竜乃が聞いてきた。
 彼女の視線は椅子に座って端末と睨めっこしている望月ちゃんに向いている。

『……勝てると思うけど、なんで?』

 今も望月ちゃんは最終確認として、アーマー・ベアの知らない攻撃がないかを動画で探している。
 すでに俺達にボスの攻撃手段は説明したし、望月ちゃんの頭に入っているのは疑うまでもない。

 望月ちゃん、竜乃の両名のステータス的にも問題はない。
 二人だけで挑むなら厳しいが、俺が居るなら負ける可能性はほぼ0だと考えている。

 もちろん探索に絶対などはないが、敗北する理由は思い当たらなかった。

(それこそ……上層のボスが何らかの拍子に変わるとかじゃない限りは……)

 ふと思い出したのは隠し部屋でのモンスターハウス。
 あそこでのダンジョンの挙動は少しおかしかった。

 さらに登場したスールズの群れなど、イレギュラー要素が多すぎた。
 あれと同じようなことがもし起こってしまったら。

(例えば……このダンジョンの下層ボスが上層ボスの部屋で出現したら、今の俺達では絶対に勝て――)

『理奈がね、昨日言ってたのよ。上層ボスに挑むときに、配信に載せられたらなって』

 俺の考えは、竜乃の言葉で止められる。
 もしもの可能性を考えるよりも、目の前の起こっている問題の方が重要だ。

『望月ちゃんが?』

 望月ちゃんが配信を始めてから、2週間程度が経っていると思われる。
 けれど未だに人気に火はついていないようだ。

 毎日俺との探索が終わった後に竜乃と二人で行っているらしいが、竜乃からは良い話を聞いたことがなかった。

(ボス配信か……)

 配信者にとってボスを討伐する配信というのは人気が出やすい。
 それこそあの女のような有名ダンチューバーならば、ボス討伐の動画だけでかなりの再生数を稼ぎ、切り抜きという見せ場を抽出した動画も有志によって多く作られるだろう。

 だが、話を聞く限りだと望月ちゃんは見てくれる人がまだまだ少ない段階。
 ボス討伐配信をしたとしても、効果が出るかは怪しいところだ。

(まぁ、でも。やりたいとも思うよなぁ)

 だがそれでも、やりたいという気持ちは理解できた。
 そのボス配信という道を俺が妨げてしまったのも、申し訳なく思う。

『今回もこれまでと同じ。理奈はちゃんと調べて、しっかりと準備をしてくれている。
 でも自分の配信っていう不安要素があるのも事実。
 だからちょっと心配なのよ。もちろん、理奈自身の配信が普段の探索に影響を与えていないのは分かってはいるんだけどね』

 竜乃の言葉に納得する。竜乃は不安なのだろう。
 探索者の精神的な不安定は、探索の結果に影響する。

 それは上位の探索者であっても同じだ。
 俺のパーティでは無かったが、交流のあるパーティではメンバーの精神的不調を考慮して、探索そのものを延期したこともあったという。

 けれどそれは意思疎通ができるパーティだからこその話。
 望月ちゃんと会話が出来ない竜乃と俺は別の事が出来るはずだ。

『例え望月ちゃんが不安定でも、俺とお前でアーマー・ベアを倒せばいいのさ。
 できるだろ、お姉さん?』

 得意げな顔をして笑って見せると、竜乃は驚いたように目を見開いた。

『……言うじゃない。できるわよ。虎太郎こそ、理奈に夢中になって痛い一撃を貰わないでよね?』

『そんなへましないよ……多分』

『言い切りなさいよ……』

 呆れて溜息を吐く竜乃に、小さく笑って返す。
 彼女から視線を外して望月ちゃんに目線を戻せば、まだ真剣に端末と向き合っていた。

 今回のボス挑戦に関しては、余程の事がなければ問題なく勝利できるだろう。
 だから話は、その後だ。

(中層に行って……それでも望月ちゃんの配信が上手くいかない場合は……)

 一度カメラドローンを壊してしまった負い目はある。
 それに望月ちゃんも俺を配信に出そうとはしないだろう。

 それでもしっかりと態度で説得すれば、あるいは。

(まぁ、俺が配信に参加して人気に火が付けばいいんだけど……)

 見ているだけの俺だが、配信がそんな簡単ではないのではないかと思う。
 けれど新しい風が吹かせられるなら、それもいいかもしれない。

『いずれにせよ、上層ボスを倒してからだな』

『なんか言った?』

「よし、二人とも、そろそろ行こう」

 竜乃に呟きを聞かれたところで、望月ちゃんが端末の電源を落として立ち上がった。

 俺に聞いていた竜乃も、望月ちゃんの行動で準備をし始める。
 彼女の中では、先ほどの俺の呟きはどこかへ行ってしまったのだろう。

 時間的には昼過ぎといったところか。
 今からボス部屋に向かい、上層ボスを討伐する。

 竜乃お姉さんの不安を解消して、二人を喜ばせるとしよう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。 ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。 瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。 始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...