ダンジョンのモンスターになってしまいましたが、テイマーの少女が救ってくれたので恩返しします。

紗沙

文字の大きさ
上 下
17 / 214

第17話 夢にまで見た関係と、もう一体のテイムモンスター

しおりを挟む
 望月ちゃんとの運命的な出会い。
 最初に会ったときも、再び目にしたときも運命的だったが、今回は次元が違う。

 そんな出会いで俺が出来ることは、一つしかない。

(これが……俺の気持ち!)

 すたっと姿勢を正し、ゆっくりと体を地面に下ろす。
 顎も腹も足も、ぺたーっと地面につけた。

 俺の体が大きいために、ここまでやっても視線の高さは座っている望月ちゃんと同じくらいだ。
 全身全霊の伏せを行うことで敵意は一切ないという事を表明する、完璧なポーズだった。

 じっと望月ちゃんを見てみれば、驚いていた彼女はゆっくりと近づいてくる。
 腕に竜乃を抱えているために、気遣いながらの移動に彼女の優しさを感じた。

 そうして触れ合えるくらいの距離に来た彼女は恐る恐る手を伸ばす。
 その手を、俺はじっと待ち続ける。

 噛みつくことはもちろん、体を少しでも振るわせることすらしない。
 良い飼い獣とは、飼い主を怖がらせてはいけないのだ。

 しかし望月ちゃんの手のひらが触れた瞬間に、あまりの気持ちよさに目を見開いてしまった。
 彼女に触れられることを全身が喜んでいるような、そんな感覚だ。

「大変、怪我してる……」

 その声が聞こえてすぐ、温かい光に包まれた。
 体が進化して大きくなっても覚えている、いや忘れるはずのない光。

 それが、初めて会ったときのように傷を治していく。
 元々彼女と繋がったために減っていた傷は、すぐに綺麗さっぱりなくなった。

 ほぅ、と安心して息を吐く音が聞こえた。
 首を少しだけ動かし、首筋に触れる彼女と目を合わせる。

「君は……あのときの子……なんだよね?」

 ゆったりとした、かみ砕くような質問に対して俺ははっきりと頷く。

(そうだよ。俺が、あのとき君が助けてくれた――)

「ありがとう!」

 しみじみとした俺の独白は突然の望月ちゃんの行動で止められた。
 彼女は空いている腕で俺の首筋に抱き着いてきた。

 女の子特有の柔らかさと甘い香りに、頭がくらくらする。
 探索者の時にはこんな経験はなかったし、色々な感覚が鋭くなった今の俺にとって、彼女は劇薬と同じだった。

(お……おぉ……おおぉ……)

「君が居なかったら私も竜乃ちゃんもどうなっていたか……本当にありがとう……」

 あまりの感動で悶えている俺に対して、望月ちゃんは心の底から感謝を告げていた。
 それを感じて、正気に戻る。

(……たった一人と一匹で、竜乃と一緒に頑張ってきたんだもんな)

 浅倉に捨てられ、気絶した竜乃を抱えて、どれだけ怖かったことだろう。どれだけ寂しかったことだろう。

 それでも彼女は最後まで竜乃を抱え続けた。
 そしてモンスターであるはずの俺にすら感謝を述べている。

 俺から離れて涙を拭う彼女を見て、本当に綺麗な心の持ち主なんだという事がよく分かった。

「あ! そ、そうだ! これ勝手につけちゃってごめんね、すぐに返すから……」

 思い出したかのように望月ちゃんは左手首に嵌めたブレスレットを外そうとする。
 しかし外し方がよく分からないのか、あたふたとしていた。

 その様子を見て、俺はブンブンと首を横に振る。

「……え?」

 動きを止めた望月ちゃんに対して、もう一度強く首を横に振った。
 それはもう君のものだと、君に付けて欲しいと伝わるように。

 やがて思いが伝わったのか、望月ちゃんは小さな声で呟いた。

「私が……持っていていいの?」

(持っていてというか、貰ってくれ!)

 首が取れそうなほど縦に振る。
 推しに貢ぎ物をするような気持ちで、受け取ってくれた方が嬉しい。

 しかしそこで望月ちゃんは思いもよらない行動に出た。

「ほ、本当? あ、ありがとう……えへへ」

 感謝を述べた後にブレスレットを右手の指で撫でで、嬉しそうに微笑んだのだ。
 遠くから見た頃がないくらいに、可愛い笑みだった。

(え? 天使? 天使なの?)

 ぽげーっと見ることしか出来ない俺だったが、望月ちゃんはさらにもう一つの事に気づいた。
 俺と彼女の間に出来た、白い線だ。

「うぇえ!? 嘘、勝手にテイムしちゃってる!? いつの間に……ご、ごめんね、すぐに解放するから!」

(いやいや! そのままで! テイムしたままでお願いします! もう本当に!)

 端末を操作し始めた彼女に見えるように何度も首を横に振る。
 しかしどれだけ大きく首を振ってみてもこの状況に混乱しているのか、彼女は俺に気づかなかった。

(テイムしたままで! テイムしたままで! テイム! テイム!)

 何度も念じてみても指は止まらなかったのだが、しばらくしてようやく望月ちゃんの指が止まった。
 気づいてくれたか、そう思ったとき。

「……あれ? テイム、してない?」

 端末から視線を外した望月ちゃんは俺と目を合わせ、そして白い線を見る。
 訳が分からないと言わんばかりに、頭を抱え始めた。

「え? いや、そもそも竜乃ちゃんと契約してるから君とは契約できない筈で……で、でもラインは出来てるし君も強くなってるし……うぇえ!?」

(……確かに)

 望月ちゃんの発言に俺も思い出す。
 そもそも、モンスターテイマーは一匹のモンスターとしか契約できない。

 それはこれまで一つの例外のない、当然のルールだ。
 けれど望月ちゃんと俺の間には、確かに俺達しか見えない線が見えている。

 この線がテイマーとモンスターの間にある線だと、確信できる。
 そしてその線があることは元パーティメンバーの言葉からも明らかだ。

「んー? 端末見るとテイムしてない。でもすっごくテイムしている気がする。不思議……」

 端末と白い線と俺を何度も見る望月ちゃん。
 俺は思わず、立ち上がって彼女に近づいた。

 頭を下げ、彼女のわき腹付近にこすりつける。
 獣としての本能が、そうさせた。

「……も、もしかしてだけど、そのままで……いいの?」

 恐る恐る、だが期待の籠った声音に頭を上げてしっかりと一回だけ頷く。
 すると望月ちゃんはぱぁっと顔を明るくした。

「ほ、本当!? 本当にいいの!? 君みたいな凄い子が、助けてくれるの!?」

『あぁ、任せてくれ』

 短く唸って頷けば、望月ちゃんははしゃぐように喜んでくれる。
 ブレスレットの時よりも喜ばれ、俺も幸せを感じた。

 その時だった。俺のうめき声のせいなのか、気絶していた竜乃が目を覚ました。
 じっとそちらを見てみれば、望月ちゃんもそれに気づいたようだった。

「あ、竜乃ちゃん! 大丈夫? さっきは無理させちゃってごめんね……」

 竜乃はぼんやりと望月ちゃんを見上げた後にゆっくりと俺の方を見て、そして。

『ぎゃああああああ! モンスターぁぁぁぁぁああああ!』

 目を見開き、大きな声で叫んだ。
 その言葉の意味が分かり、俺は思わず。

『しゃ、しゃべったぁぁぁぁあああああ!』

 そう叫び返してしまった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。 ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。 瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。 始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...