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第16話 白い糸、テイムの絆
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降り注ぐ漆黒の雨を体に受けながら、俺は内心で舌打ちをした。
ここよりも難易度の高いダンジョンなら、こういった状態異常スキルを同時に使ってくるモンスターの集団も存在する。
だがそれはあくまでも集団での範囲。
今回のモンスターハウスのような、それを超える数――群れでの話ではない。
さらに状態異常を解除するスキルやアイテムは、そのほとんどにしばらくの間状態異常無効が付く。
それゆえにモンスターが一斉に状態異常スキルを使ってきてもそこまで問題にはならないのだが、俺にとっては話が変わってくる。
(ここでまた、モンスターであることの弊害か……)
今の俺の体は探索者だった頃からは考えられないほど魔法の適性が高いくせに、回復や状態異常回復といった種類の魔法を一切使えなかった。
おそらくモンスターとしての性質なのだろう。
他者を傷つけるモンスターである以上、そういった魔法は使えないのではないだろうか。
この体になって唯一惜しいと思っていることだったが、こんな風に割を食う日が来るとは。
(それでも……できる限りやるしかない……)
自分を励ますように気合を入れるが、それも空元気のようなものだ。
体は重く、この環境では魔法だってまともなダメージは与えられない。
そんな、牙を抜かれた獣が他の獣からどんな目に合うか。
それから先は語るもおぞましい暴力の嵐だった。
体中に爪を、牙を立てられ、殴る蹴るの暴行。
じっくりと甚振るように俺のHPを削っていく。
精いっぱい抵抗した。
襲い掛かるスールズの内の何人かを倒すこともした。
ボルテックスの魔法で自分を巻き込んで、スールズを道ずれにしようともした。
けれど、倒せたのは初回の時よりも遥かに少ない、たった数匹だった。
俺がいくら強くなったとはいえ、体力は有限だ。
数という暴力の前に、屈せざるを得なかった。
(く……そ……)
そうして戦って、戦って、戦い続けて。
いつからか嬲られるだけになっても必死に抵抗し続け。
体にはもう感覚がなくなった。
痛みを受けすぎて、意識も朦朧としてきていた。
(この体になって良い事ばかりだけど、体力が多いから痛みが長引くのは悪い事だな……)
地面に伏せた状態でスールズからの暴力に耐えながら、俺はそんなことを考えていた。
今もスールズは、まだ死なないのかとうんざりした様子で俺を甚振ってくる。
(悪いな……どうやらお前達と違って頑丈さも異次元みたいだ)
その様子がおかしくて鼻で笑えば、怒った一匹のスールズが力の限りに俺を蹴り飛ばした。
なす術もなく宙を舞い、ごみ袋のように地面に叩きつけられる。
金属が地面に落ちる音を聞きながら、いよいよ迫った終わりを悟る。
それならば、せめて少しでも多く道連れに。
そう思ったときに、俺の背に温かい何かが触れた。
ゆっくりと顔を上げてみれば、ぼやけた視界にあの子の顔が映った。
まるであの時の再現のような光景に、思わず言葉を失ってしまった。
あの子はそのまま右手で何かを拾い上げた。
俺が以前モンスターハウスで手に入れた、腕輪だ。
どうやら吹き飛ばされたときに前足から外れてしまったらしい。
「これ……借りるね」
頷くことを忘れていたが、彼女はそれを待つことなく腕輪を左手首に嵌めた。
そして俺に再度触れ、祈るように目を閉じた。
『テイマーとテイムモンスターは白い線で繋がれるんですよ。
といっても、それはテイマーにしか見えないので先輩達には分からないと思いますが……』
探索者だった頃のパーティメンバーのテイマーの子が言っていたことを、不意に思い出した。
もしもあの子にもう一度会えたのなら、教えてあげたいくらいだ。
その線は、テイムモンスターからも見えるんだよって。
俺とあの子の間に、確かに白い線が繋がったのが、目に映った。
(これ……は……)
力が、溢れてくる。
まるで噴水のように。どこから湧いてくるのか分からないが。
傷が癒えるのではない。
俺が進化しているのではない。
俺という存在が、一つ次元を超えているようなそんな感覚。
視界がはっきりしてくる。
あの子の驚いている表情が、大きく映った。
(この子……まさか……)
思わず考えが頭を過ぎったが、それを無理やり頭から追い出し、俺は起き上がる。
思うことは沢山ある。
けれどそれらは全て、あいつらを片付けてからだ。
ふぅー、と息を吐き、俺はスールズ達を睨みつける。
雰囲気が変わったことを悟ったのか、スールズ達の多くが少し後ずさった。
相手の数に変化はない。
けれど、先ほどまであった「これでもう終わり」という感覚は消え去っていた。
大きく息を吐き、雄たけびを上げる。
それと同時に光の魔法を放つ。
先ほどまで降っていた黒い雨をかき消すような、白い光の雨がスールズ達に降り注ぐ。
光の上級魔法、セイクリッド・レイン。
先ほどまでの俺では使えなかった魔法だ。
極限まで魔力を凝縮した光の雨は、スールズの体を次々と貫いていく。
異常事態に気づいたスールズの内、俺の近くに居た数体は飛び掛かってくるものの。
『無駄だ』
四本足に力を入れて、素早く横方向に一回転。
飛び掛かったスールズ達を尻尾と爪で攻撃をしつつ吹き飛ばす。
地面を転がったスールズ達は、HPの全てを失い、消滅していく。
今までの俺とは違い、物理方面にも大幅な強化がなされているようだ。
少なくともスールズがこれまでの上層のモンスターと同じくらいに思えるくらいには、強くなっている。
そうなったのは、間違いなく。
室内とは思えないほど明るくなった部屋。
スールズの死体の山を確認し、俺はゆっくりと振り返る。
驚いた表情に、胸に抱いた白い竜。
そんな彼女、望月理奈と白い線が繋がっていることを確認し、俺は得意げな顔をしてみせた。
ここよりも難易度の高いダンジョンなら、こういった状態異常スキルを同時に使ってくるモンスターの集団も存在する。
だがそれはあくまでも集団での範囲。
今回のモンスターハウスのような、それを超える数――群れでの話ではない。
さらに状態異常を解除するスキルやアイテムは、そのほとんどにしばらくの間状態異常無効が付く。
それゆえにモンスターが一斉に状態異常スキルを使ってきてもそこまで問題にはならないのだが、俺にとっては話が変わってくる。
(ここでまた、モンスターであることの弊害か……)
今の俺の体は探索者だった頃からは考えられないほど魔法の適性が高いくせに、回復や状態異常回復といった種類の魔法を一切使えなかった。
おそらくモンスターとしての性質なのだろう。
他者を傷つけるモンスターである以上、そういった魔法は使えないのではないだろうか。
この体になって唯一惜しいと思っていることだったが、こんな風に割を食う日が来るとは。
(それでも……できる限りやるしかない……)
自分を励ますように気合を入れるが、それも空元気のようなものだ。
体は重く、この環境では魔法だってまともなダメージは与えられない。
そんな、牙を抜かれた獣が他の獣からどんな目に合うか。
それから先は語るもおぞましい暴力の嵐だった。
体中に爪を、牙を立てられ、殴る蹴るの暴行。
じっくりと甚振るように俺のHPを削っていく。
精いっぱい抵抗した。
襲い掛かるスールズの内の何人かを倒すこともした。
ボルテックスの魔法で自分を巻き込んで、スールズを道ずれにしようともした。
けれど、倒せたのは初回の時よりも遥かに少ない、たった数匹だった。
俺がいくら強くなったとはいえ、体力は有限だ。
数という暴力の前に、屈せざるを得なかった。
(く……そ……)
そうして戦って、戦って、戦い続けて。
いつからか嬲られるだけになっても必死に抵抗し続け。
体にはもう感覚がなくなった。
痛みを受けすぎて、意識も朦朧としてきていた。
(この体になって良い事ばかりだけど、体力が多いから痛みが長引くのは悪い事だな……)
地面に伏せた状態でスールズからの暴力に耐えながら、俺はそんなことを考えていた。
今もスールズは、まだ死なないのかとうんざりした様子で俺を甚振ってくる。
(悪いな……どうやらお前達と違って頑丈さも異次元みたいだ)
その様子がおかしくて鼻で笑えば、怒った一匹のスールズが力の限りに俺を蹴り飛ばした。
なす術もなく宙を舞い、ごみ袋のように地面に叩きつけられる。
金属が地面に落ちる音を聞きながら、いよいよ迫った終わりを悟る。
それならば、せめて少しでも多く道連れに。
そう思ったときに、俺の背に温かい何かが触れた。
ゆっくりと顔を上げてみれば、ぼやけた視界にあの子の顔が映った。
まるであの時の再現のような光景に、思わず言葉を失ってしまった。
あの子はそのまま右手で何かを拾い上げた。
俺が以前モンスターハウスで手に入れた、腕輪だ。
どうやら吹き飛ばされたときに前足から外れてしまったらしい。
「これ……借りるね」
頷くことを忘れていたが、彼女はそれを待つことなく腕輪を左手首に嵌めた。
そして俺に再度触れ、祈るように目を閉じた。
『テイマーとテイムモンスターは白い線で繋がれるんですよ。
といっても、それはテイマーにしか見えないので先輩達には分からないと思いますが……』
探索者だった頃のパーティメンバーのテイマーの子が言っていたことを、不意に思い出した。
もしもあの子にもう一度会えたのなら、教えてあげたいくらいだ。
その線は、テイムモンスターからも見えるんだよって。
俺とあの子の間に、確かに白い線が繋がったのが、目に映った。
(これ……は……)
力が、溢れてくる。
まるで噴水のように。どこから湧いてくるのか分からないが。
傷が癒えるのではない。
俺が進化しているのではない。
俺という存在が、一つ次元を超えているようなそんな感覚。
視界がはっきりしてくる。
あの子の驚いている表情が、大きく映った。
(この子……まさか……)
思わず考えが頭を過ぎったが、それを無理やり頭から追い出し、俺は起き上がる。
思うことは沢山ある。
けれどそれらは全て、あいつらを片付けてからだ。
ふぅー、と息を吐き、俺はスールズ達を睨みつける。
雰囲気が変わったことを悟ったのか、スールズ達の多くが少し後ずさった。
相手の数に変化はない。
けれど、先ほどまであった「これでもう終わり」という感覚は消え去っていた。
大きく息を吐き、雄たけびを上げる。
それと同時に光の魔法を放つ。
先ほどまで降っていた黒い雨をかき消すような、白い光の雨がスールズ達に降り注ぐ。
光の上級魔法、セイクリッド・レイン。
先ほどまでの俺では使えなかった魔法だ。
極限まで魔力を凝縮した光の雨は、スールズの体を次々と貫いていく。
異常事態に気づいたスールズの内、俺の近くに居た数体は飛び掛かってくるものの。
『無駄だ』
四本足に力を入れて、素早く横方向に一回転。
飛び掛かったスールズ達を尻尾と爪で攻撃をしつつ吹き飛ばす。
地面を転がったスールズ達は、HPの全てを失い、消滅していく。
今までの俺とは違い、物理方面にも大幅な強化がなされているようだ。
少なくともスールズがこれまでの上層のモンスターと同じくらいに思えるくらいには、強くなっている。
そうなったのは、間違いなく。
室内とは思えないほど明るくなった部屋。
スールズの死体の山を確認し、俺はゆっくりと振り返る。
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そんな彼女、望月理奈と白い線が繋がっていることを確認し、俺は得意げな顔をしてみせた。
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