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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから
第142話 惚れた弱み
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ある日、俺はオーロラちゃんを伴って王都を訪れていた。この後に控えるレイさんとベルさんの結婚式典に備えて、事前に会場を簡単に見ておこうと思ったからだ。オズワルド国王に謁見してその旨を伝えると実の息子の結婚は嬉しい事なのか、破顔して「ぜひやってくれ」と仰っていた。
ちなみにその後にオーロラちゃんを見て少しだけ顔をしかめていたけど、何か思うことがあるのかもしれない。
俺とオーロラちゃんは会場を一通り確認し、当日の様子やどこに人員を配置するかなども話した。詳細はシアと後日一緒に回りながら詰める予定だけど、それを事前にオーロラちゃんと出来たのはとても助かることだった。
実際、オーロラちゃんの指摘は鋭い時があって、俺も「確かになぁ」って思わされたくらいだ。オーロラちゃんがアークゲート家の中でも天才だって言われているのは知っていたけど、ここ最近は彼女の近くにいるのでそれがよく分かる。
彼女なら領主としても上手くやっていけるだろうし、将来的になるだろう分家の当主としても活躍するだろう。それこそ、シアと共にアークゲートの双璧、みたいな感じで言われる日も近いかもしれない。
すごいぞオーロラちゃん、俺も応援してるぞ。
さて、そんな事を思いつつ会場の下見を軽く終えた俺達は、どうせならという事で王都でゆっくりしてから帰ることになった。時間的にも夕方になっているし、軽くお茶をして、話をして帰るのも良いね、なんてことを話して二人で大通りを歩く。
そして通りの角を曲がったとき。
「あっ」
「おっと、すみません、大丈夫ですか?」
駆けてきた人にぶつかってしまって、その人が尻もちをついてしまった。慌てて手を差し伸べるけど、身に着けたフードから僅かに見えた髪色を見て、思わず呟いた。
「ベルさん……?」
「……? あ、ノヴァさん、すみません」
俺の手を掴んだのは、さっきまでオーロラちゃんと下見に行っていた会場の主役、ベルさんだった。正しく言えばマリアベル皇女。コールレイク帝国の皇女様である。
そんな彼女を転ばせてしまったのでちょっとだけ不安に思ったけど、怪我は無さそうだ。
「ベル、大丈夫か?」
ベルさんの背後から近づいてきたのは見知らぬ男性だった。彼はベルさんを心配そうに見ている。
一方でオーロラちゃんはベルさんに近づいて、念のためだと思うが回復魔法をかけてくれていた。それが分かると、ベルさんはにっこりと微笑んだ。
「ありがとうございます。大丈夫ですよ、どこも怪我していませんから」
「良かったです」
「あ……あぁ……ありがとう……」
お礼を言うベルさんに、安心して微笑むオーロラちゃん、そしてポツリと呟く男性を見て、俺は心の中で「あれ?」と思った。この感覚、どこかで……。
そう思って男性をじっと見ると、彼は「うぐっ」と言って視線を外した。
「で、そこの人はどうして変身魔法なんて使ってるのかなぁー?」
響いたのは、やや高めのオーロラちゃんの声だった。見てみると、彼女はジト目で男性を見ている。というか、今変身魔法って……そういうことか。
「はぁ……レイさん? なにやってるんですか?」
「……ひ、久しぶりだなノヴァくん」
そう言って男性は魔法を解いたのか、本当の姿――レイモンド王子の姿になった。苦笑いしているレイさんは、オーロラちゃんを見てその苦笑いをさらに引きつらせた。
「……アークゲートの天才相手じゃ、俺の変身魔法も形無しか」
「こうしてお会いするのは初めてですね、レイモンド王子。オーロラ・アークゲートです……ちなみに、ノヴァお兄様もなんとなく気づいていましたよ」
「あぁ、分かっていたよ、だからせめてもの抵抗で目線を外したんだが……というより、まさかこんなところで会うとはな」
「別に今までだって何回か会っているでしょう」
最初に会ったのはこの王都だったし、その後も王城や、俺の屋敷に来てくれたことだってあったはずだ。なのにどうして会いたくなかったような態度をとるのか疑問に思っていると、レイさんの横から非難の声が上がった。
「レイさん、せっかくお友達に会ったのですから、もっと嬉しそうな顔をするべきですよ。ノヴァさんはとても良い人ではありませんか。オーロラさんについては良く知りませんが、レティシア様の妹君だけあってとても聡明そうで……私、ぜひ仲良くなりたいです」
「ベ、ベルが言うなら……」
二人の会話を見て、俺は「おや?」と思った。レイさんはいつもはどちらかというとやる気がなかったり、人を試すような物言いをするけど、ベルさんに対してはやけに丁寧に、いや大切に接している気がする。
そのことをオーロラちゃんも感じたのか、隣で彼女はにやりと笑った。
「あらあら? 貴族界隈では食えない人として有名なレイモンド王子も、惚れた人には弱いんですねー」
「っ!」
オーロラちゃんの煽りにレイさんは睨みを利かせたけど、その後すぐに嬉しそうな声が響いた。
「レイさんには本当に良くしてもらっていて……私、幸せ者です……」
「…………」
少し顔を赤くして、けど幸せそうにそう呟くベルさんと、彼女を見てそっぽを向くものの耳まで赤いレイさん。まんざらでもない様子の二人が、そこにはいた。
「あー」
これにはオーロラちゃんも何も言えなくなったのか、遠くを見るような目になっていた。まあ、気持ちは分からなくもない。
それにしても、と思って二人を見る。
ベルさんから話を聞いたときは、あのレイさんと結婚して大丈夫かと思ったけど、こうして見てみるといつものレイさんとはまるで別人だった。
視線はずっとベルさんに向いていて彼女を気にかけている様子だし、雰囲気も柔らかい。ベルさんという姫を守る騎士のようにも映るくらいだ。
このレイさんとベルさんなら、これから先も上手くやっていけるかもしれないなんて、そんなことを思った。
ベルさんは落ち着いたようで、俺とオーロラちゃんの二人を見て首をかしげる。
「そう言えば、ノヴァさんはどうして王都に? なにか用事ですか?」
「うん、二人の結婚式典の警備に任じられたから、その下見を簡単にしてきたところだよ」
「まあ、私達のために……本当にありがとうございます」
深く頭を下げたベルさん、その隣でレイさんも小さく「ありがとう」と言っていた。同じように小さく「いえ」と返したところで、ベルさんが勢いよく頭を上げた。
「そうだ、よろしければ一緒にお茶でもしませんか? わざわざ私達のために王都に来ていただいたんですから、ぜひ持たせてください。この前のお礼も兼ねて」
「え、えっと……?」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
ちょっと困ってレイさんを見た俺だけど、その後すぐにオーロラちゃんが賛同してしまった。口出しできなくなった俺とレイさんを他所に、二人はどの店に行くかを相談し始める。
二人は初対面らしいけど、そう思えないほどだった。
すぐに行き先は決まったらしく、俺達にもお店の場所や名前を共有してくる。オーロラちゃんから詳細も聞かされて、とくに問題はなかったから了承した。
ちなみにレイさんは二つ返事でOKだった。
「では行きましょう」
「久しぶりに行くなぁ……ノヴァお兄様、今から行くところも結構おいしいお店だから、期待しててね」
オーロラちゃん、俺、レイさん、ベルさんの順に左から並んで大通りを歩く。その途中で、俺はレイさんと顔を見合わせて、お互いに苦笑いした。
ちなみにその後にオーロラちゃんを見て少しだけ顔をしかめていたけど、何か思うことがあるのかもしれない。
俺とオーロラちゃんは会場を一通り確認し、当日の様子やどこに人員を配置するかなども話した。詳細はシアと後日一緒に回りながら詰める予定だけど、それを事前にオーロラちゃんと出来たのはとても助かることだった。
実際、オーロラちゃんの指摘は鋭い時があって、俺も「確かになぁ」って思わされたくらいだ。オーロラちゃんがアークゲート家の中でも天才だって言われているのは知っていたけど、ここ最近は彼女の近くにいるのでそれがよく分かる。
彼女なら領主としても上手くやっていけるだろうし、将来的になるだろう分家の当主としても活躍するだろう。それこそ、シアと共にアークゲートの双璧、みたいな感じで言われる日も近いかもしれない。
すごいぞオーロラちゃん、俺も応援してるぞ。
さて、そんな事を思いつつ会場の下見を軽く終えた俺達は、どうせならという事で王都でゆっくりしてから帰ることになった。時間的にも夕方になっているし、軽くお茶をして、話をして帰るのも良いね、なんてことを話して二人で大通りを歩く。
そして通りの角を曲がったとき。
「あっ」
「おっと、すみません、大丈夫ですか?」
駆けてきた人にぶつかってしまって、その人が尻もちをついてしまった。慌てて手を差し伸べるけど、身に着けたフードから僅かに見えた髪色を見て、思わず呟いた。
「ベルさん……?」
「……? あ、ノヴァさん、すみません」
俺の手を掴んだのは、さっきまでオーロラちゃんと下見に行っていた会場の主役、ベルさんだった。正しく言えばマリアベル皇女。コールレイク帝国の皇女様である。
そんな彼女を転ばせてしまったのでちょっとだけ不安に思ったけど、怪我は無さそうだ。
「ベル、大丈夫か?」
ベルさんの背後から近づいてきたのは見知らぬ男性だった。彼はベルさんを心配そうに見ている。
一方でオーロラちゃんはベルさんに近づいて、念のためだと思うが回復魔法をかけてくれていた。それが分かると、ベルさんはにっこりと微笑んだ。
「ありがとうございます。大丈夫ですよ、どこも怪我していませんから」
「良かったです」
「あ……あぁ……ありがとう……」
お礼を言うベルさんに、安心して微笑むオーロラちゃん、そしてポツリと呟く男性を見て、俺は心の中で「あれ?」と思った。この感覚、どこかで……。
そう思って男性をじっと見ると、彼は「うぐっ」と言って視線を外した。
「で、そこの人はどうして変身魔法なんて使ってるのかなぁー?」
響いたのは、やや高めのオーロラちゃんの声だった。見てみると、彼女はジト目で男性を見ている。というか、今変身魔法って……そういうことか。
「はぁ……レイさん? なにやってるんですか?」
「……ひ、久しぶりだなノヴァくん」
そう言って男性は魔法を解いたのか、本当の姿――レイモンド王子の姿になった。苦笑いしているレイさんは、オーロラちゃんを見てその苦笑いをさらに引きつらせた。
「……アークゲートの天才相手じゃ、俺の変身魔法も形無しか」
「こうしてお会いするのは初めてですね、レイモンド王子。オーロラ・アークゲートです……ちなみに、ノヴァお兄様もなんとなく気づいていましたよ」
「あぁ、分かっていたよ、だからせめてもの抵抗で目線を外したんだが……というより、まさかこんなところで会うとはな」
「別に今までだって何回か会っているでしょう」
最初に会ったのはこの王都だったし、その後も王城や、俺の屋敷に来てくれたことだってあったはずだ。なのにどうして会いたくなかったような態度をとるのか疑問に思っていると、レイさんの横から非難の声が上がった。
「レイさん、せっかくお友達に会ったのですから、もっと嬉しそうな顔をするべきですよ。ノヴァさんはとても良い人ではありませんか。オーロラさんについては良く知りませんが、レティシア様の妹君だけあってとても聡明そうで……私、ぜひ仲良くなりたいです」
「ベ、ベルが言うなら……」
二人の会話を見て、俺は「おや?」と思った。レイさんはいつもはどちらかというとやる気がなかったり、人を試すような物言いをするけど、ベルさんに対してはやけに丁寧に、いや大切に接している気がする。
そのことをオーロラちゃんも感じたのか、隣で彼女はにやりと笑った。
「あらあら? 貴族界隈では食えない人として有名なレイモンド王子も、惚れた人には弱いんですねー」
「っ!」
オーロラちゃんの煽りにレイさんは睨みを利かせたけど、その後すぐに嬉しそうな声が響いた。
「レイさんには本当に良くしてもらっていて……私、幸せ者です……」
「…………」
少し顔を赤くして、けど幸せそうにそう呟くベルさんと、彼女を見てそっぽを向くものの耳まで赤いレイさん。まんざらでもない様子の二人が、そこにはいた。
「あー」
これにはオーロラちゃんも何も言えなくなったのか、遠くを見るような目になっていた。まあ、気持ちは分からなくもない。
それにしても、と思って二人を見る。
ベルさんから話を聞いたときは、あのレイさんと結婚して大丈夫かと思ったけど、こうして見てみるといつものレイさんとはまるで別人だった。
視線はずっとベルさんに向いていて彼女を気にかけている様子だし、雰囲気も柔らかい。ベルさんという姫を守る騎士のようにも映るくらいだ。
このレイさんとベルさんなら、これから先も上手くやっていけるかもしれないなんて、そんなことを思った。
ベルさんは落ち着いたようで、俺とオーロラちゃんの二人を見て首をかしげる。
「そう言えば、ノヴァさんはどうして王都に? なにか用事ですか?」
「うん、二人の結婚式典の警備に任じられたから、その下見を簡単にしてきたところだよ」
「まあ、私達のために……本当にありがとうございます」
深く頭を下げたベルさん、その隣でレイさんも小さく「ありがとう」と言っていた。同じように小さく「いえ」と返したところで、ベルさんが勢いよく頭を上げた。
「そうだ、よろしければ一緒にお茶でもしませんか? わざわざ私達のために王都に来ていただいたんですから、ぜひ持たせてください。この前のお礼も兼ねて」
「え、えっと……?」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
ちょっと困ってレイさんを見た俺だけど、その後すぐにオーロラちゃんが賛同してしまった。口出しできなくなった俺とレイさんを他所に、二人はどの店に行くかを相談し始める。
二人は初対面らしいけど、そう思えないほどだった。
すぐに行き先は決まったらしく、俺達にもお店の場所や名前を共有してくる。オーロラちゃんから詳細も聞かされて、とくに問題はなかったから了承した。
ちなみにレイさんは二つ返事でOKだった。
「では行きましょう」
「久しぶりに行くなぁ……ノヴァお兄様、今から行くところも結構おいしいお店だから、期待しててね」
オーロラちゃん、俺、レイさん、ベルさんの順に左から並んで大通りを歩く。その途中で、俺はレイさんと顔を見合わせて、お互いに苦笑いした。
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