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第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第89話 親睦会の会場へ

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 親睦会の当日、俺は準備を終えて屋敷の外でシアの事を待っていた。比較的暇な俺に比べてシアは忙しい身だ。だからアークゲート家で仕事をある程度片付けた後に俺の屋敷に来て、そこから馬車で向かう予定になっている。

 俺の屋敷から別邸までは距離があるけど、シアが馬車に魔法をかけてくれるらしく、かなりの速度が出て、短時間で向かうことが出来るらしい。事前に俺の屋敷から別邸までの所要時間を聞いたけど、あまりにも短くて驚いたくらいだ。

 ただ、指定された時間は親睦会の時間から見ると少し早いように思えた。最初は家でゆっくりするのかと思ったけど、確認したらこの時間に出たいみたいだ。ゆっくり向かって馬車の中を楽しみたいのかな? なんてターニャと話していたけど。

 だから俺の後にはターニャが控えているし、馬車の準備ももう整っていた。ちなみに今回の親睦会の会場はフォルス家が所持する別邸で行う。どんな場所なのか、俺はうっすらと記憶にあるくらいだけど、当然シアは行ったことがない。だからゲートの魔法が使えないため、今回は馬車というわけだ。

 凄く久しぶりの馬車だけど、まあたまには悪くないかなとも思う。ゲートに慣れているから少し不便ではあるけど、もし今後また親睦会を開催するようなことがあれば次回以降はゲートを使えるわけだし。

 そう思っていると、少し離れたところに金色の楕円が展開する。どうやらシアが着いたようだ。時間的にはまだ余裕があるし、予定より少し早めの出発になりそうだ。

 金色の光の中から出てくるのは俺の妻であるシア。彼女の姿を見て、真っ先にターニャが頭を下げた。

「おかえりなさいませ、奥様」

「おかえり、シア」

 そして、なぜかシアの後ろから自然な感じで歩いてきた姿を見て俺は少し驚いたけど、そっちにも声をかけた。

「それに……オーロラちゃん? どうしてここに?」

 そう声をかけると、オーロラちゃんは動きを止めてひどく驚いた様子で俺を見た。不思議に思っていると視界の端にいたシアも目を見開いて、背後からも声がした。

「旦那様? なにを言っているのですか?」

「え? 何がって、オーロラちゃんも来たから……あれ? オーロラちゃんって参加する予定だったっけ?」

 確か事前の話では俺とシアだけだった気がしたけど、なんか聞き間違えたかな。けどターニャは訝しげな表情で俺を見るばかり。

「? どうしたんですか旦那様。オーロラさんはここにはいませんよ」

「え? いやでもそこに……」

 そういって指を指すと、そこには困ったように笑みを浮かべるオーロラちゃん。え? 夢じゃなくて実際そこにいるよね? と思って戸惑っていると、シアが少しだけ手を動かした。

「……ノヴァお兄様には通じないんだね」

「え!? オ、オーロラさん!?」

 苦笑いで呟くオーロラちゃんと、驚くターニャの声。いったい何が起こっているのかよく分からなくて、頭の中で疑問が巡っているんだけど。

「さ、さっきまで居なかったのに、どうして急に!?」

「……え? そうなの?」

 どうやらターニャにはさっきまでオーロラちゃんが見えていなかったらしい。だから居ないなんてことを言っていたのか。ということは、こんなことが出来るのは一人しかいないわけで。

「……シア? どういうことなの?」

「あはは……そのですね、実はオーラにも今回の親睦会についてきてもらいたくて……それで姿や気配を消す魔法をかけていたんです。ですがノヴァさんには全然効果がないみたいですね」

「……そんな魔法があるんだ」

「姿、音、気配、全てを消しますね。流石に大騒ぎしたらバレますが、静かにしているのであればかなりの達人でなければ気づかれることはないかと。オーラにはこれを用いて会場の隅にいてもらうつもりでした。
 ……ですが、やはり私の魔法なのでノヴァさんには普通に見えていたんですね」

「……うーん? 私の魔力もちょっと混ぜてたはずなんだけどなぁ?」

 苦笑いするシアと少しだけ首を傾げるオーロラちゃん。姿や気配を消すなんていうめちゃくちゃ凄い魔法についてはなんとなく分かった。それ使えば色々と悪さが出来そうだけど、あまり考えないようにしよう。
 そうなると次に聞きたいことは。

「じゃあ、なんでオーロラちゃんを親睦会に?」

 個人的にはフォルス家の関係者が多く参加する場にオーロラちゃんが居ると互いに悪影響が出るから誘わないつもりだった。シアとはそんな話はしていないけど、彼女もそう思っているかなって思っていたんだけど。

「うーん……ちょっと必要になりそうなので。もちろんオーラの力を借りないのが一番ですが。それに親睦会という場に興味もありそうでしたし」

「私から頼んだの……お兄様、ダメ?」

 困ったように微笑むシアと、お願いをしてくるオーロラちゃん。正直シア一人でも強敵なのに、そこにオーロラちゃんが加わると俺も強くは言えないわけで。
 いや、この二人の組み合わせズルくない? 絶対に断れないじゃないか。

「で、でもフォルス家とアークゲート家の魔力は反発するでしょ? だからお互い悪影響なんじゃ……」

 ただこのまま受け入れるとちょっと負けた感じがするから、別の切り口から攻めてみる。別に負けてもいいけど、流石に悪影響については無視できない事だろう。
 オーロラちゃんが体調悪くなるのは嫌だし。

「あぁ、それは大丈夫です。オーラの魔力を私の魔力で抑え込むので。一人くらいなら覇気の影響を全く受けないようにできるはずです。ただまぁ、私の魔力を放出しすぎずに、さらにはオーラの魔力を抑えるので、私は少しだけ大変ですが」

「……そこまでしてオーロラちゃんを連れていく必要があるってこと?」

 聞く限りだと結構シアの負担が大きそうだけど、そうまでしてオーロラちゃんを連れていきたいなんて、今回の親睦会に何かありそうな雰囲気だ。
 そう聞くと、シアは俺の腰に差してある剣を一瞥して、俺達のさらに奥にある馬車を見た。

「細かい話は馬車の中で行うとして、まずは出発しましょう。今から向かえばちょうどいい時間の筈です」

「……? いや、ちょっと早く着くくらいじゃない?」

 親睦会の招待状を取り出して時間を確認するけど、やっぱり少し早いくらいだ。
 けどシアは真剣な表情で俺をじっと見て、静かに告げた。

「ゼロードが出した招待状の数はかなり多いです。ただその中で親睦会の開催時間の記載が違う物はノヴァさんの持つその1通だけでしょう。他のは、おそらく全てが少し早い時間で記載されています」

「……え?」

 意味が分からない。なぜそんなことをゼロードがするのか、まったく理由がない気がする。まさか俺が遅れることで、印象を悪くしたいのか?

「今回の件、全てが正確に分かっているわけではありませんが、言えることが一つだけあります」

 シアは俺に近づいて、右手を握った。そしてそのまま、馬車へと向かっていく。振り返って馬車に向かう俺の背中は、楽しそうなオーロラちゃんが押していた。

「ゼロードは、今回の親睦会で何か良からぬことを企んでいるようです」

 その言葉に、俺は生唾を飲みこんだ。けどどうしてだろう。あまり不安にはならなかった。
 俺の隣を歩いてくれるシアが、眩い程の輝きを放っているように見えたくらいだ。
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