11 / 237
第1章 宿敵の家の当主を妻に貰うまで
第11話 ひったくり被害
しおりを挟む
サリアの街の露店通りに向かう途中、俺達の間には一言も会話がなかった。こっそりと覗き見るようにシアの様子を伺ってみれば、彼女は緊張した面持ちできつく口を閉じていた。
あぁ、同じなんだ。きっと彼女も俺と同じように緊張しているんだ。初めて会ったときから、俺とシアが似ているのは変わらないんだな。そう思って笑ってしまった。
「え? な、なにかありましたか?」
驚き、戸惑うシア。その様子が10年前に見たシアと変わらない事を知って、俺は少しだけ安心した。
「いや、父上とかはシアの事を決して失礼のないように、とか、恐ろしい人のように言うんだ」
「……そうですか、フォルス家が」
やはり自分の事を悪く言われるのは心に来るものがあるのか、少しだけ俯くシア。少しでも彼女の悲しみを続かせないために、俺は間髪を入れずに口を開いた。
「でも、やっぱりこうして話してみるとシアはシアだ。あの路地裏で出会ったときのままだ」
「……ノヴァさん」
顔を上げて、驚いているシアに微笑みかける。
「今日は楽しもう!」
「はい!」
お互いに微笑みあって、俺達は緊張した気持ちを霧散させて露店通りに出た。
父上の屋敷があるサリアの街には露店が多く出ているので、そこをシアと一緒に回る。昔からの知り合いのおじさんからお菓子を貰うときに「別嬪さんの彼女連れてるじゃねえか」と揶揄われたり、ちょっとした遊戯の露店でシアが無双したり、アクセサリー屋で綺麗なモノを見つけて盛り上がったりした。
穏やかで優しい気質のシアはサリアの街の人ともすぐに仲良くなり、おばさんからはサービスをされたりしていた。そんな楽しい昼下がりをシアと一緒に過ごした。
ふと、買ったものを立ち止まって二人で食べているときに露店の樽の中に雑に入れられている剣に目がいった。視線が惹きつけられた理由は特にない。しいて言うなら、俺の人生に剣というものが密接な関係だったからか。けどシアにはすぐに気付かれてしまった。
「やっぱり、剣は気になりますか?」
「え? あぁ、フォルス家直伝の覇気は使えないけど、それでも剣は好きだからね」
「剣の腕だけなら、一族の中でも上の方だと聞いています」
「でも実際には剣の腕だけじゃないからなぁ。覇気を使われたら、手も足も出ないよ。 まあ、今となっては覇気が使えないからこうしてシアと一緒にいれるわけで、ちょっと感謝してるけど」
思っていることをそのまま口にすれば、シアは微笑んだ。ただそれは、ちょっと影のあるような微笑みだったけど。
彼女は視線を街の人々に移す。道行く人達や露店の人々を目にしながら、彼女は静かに口を開いた。
「そう言って頂けたら、私も嬉しいです」
その言葉を最後に、俺達の間に沈黙が落ちる。
何を話していいのか分からなくなったとき、通りの方から大きな声が聞こえた。怒号のような声と「誰か捕まえてー!」という叫び声。それを聞いて、考えるよりも先に俺は走り出していた。
すぐに通りに出れば、遠くからこちらに走ってくる男性の人影がある。その手には袋が抱えられていて、さらにその後ろでは、妙齢の女性が必死の形相で男性を追いかけていた。
ひったくりか。状況を判断した俺はすばやく目線を外し、剣の売られている露店へと走った。
「おっさん! これ借りるぞ!」
「お、おう!」
顔なじみのおっさんに声をかけて、樽から剣を拝借する。一般的な鞘付きの剣だが、特に問題は無さそうだった。
同じように通りに出てきたシアを横目に地面を蹴る。このとき、俺はシアが手を伸ばしていることが位置的に見えなかった。それを確認する前に意識を集中させて駆け抜けてしまった。
身を低くして、剣を下段に構えて男に正面から向き合う。男は俺の事に気づいたものの、速度を緩めるつもりはないらしい。けど、それでいい。俺はタイミングを見計らってさらに強く地面を蹴って、男の背後まで駆け抜ける。そして、振り向き際に鞘を男の首筋に力の限りに打ち付けた。
「ぐえ!?」
汚い悲鳴を上げて男が地面に倒れ込む。それを立ち止まって確認した瞬間に、パチンッという音が聞こえた。
一体何があったのか思うよりも早く、倒れた男の向こう、少し離れた場所に立つシアと目が合った。手のひらをこちらへと向けたシアは目を見開き、やってしまったという表情をしている。
「ノヴァさん! ノヴァさん、すみません! け、怪我は!?」
慌てて取り乱したように駆けつけてくる彼女を見て、俺の頭の中には疑問が湧き出るばかりだ。どうして彼女が謝るのか分からないし、このひったくり相手に怪我をしてもいない。というか、こう言ってはなんだが、怪我をするほどの相手とは思えなかったし。けどシアは俺に近づくなり、とても心配そうな顔で体のあちこちを確認してくれている。
「あ、あの、シア? 俺は大丈夫だから……」
どこも異常はないと体の動きで示そうとして腕をあげたときに、腕に電流が走るのを目にした。
「お? おぉ?」
体中に流れる電流。でも痛みも痺れも全く感じない。体はいつも通りだし、問題なく動かせそうだ。どうなっているのか分からないけど、害は無さそうだと判断。
「…………」
でもシアは目を見開いて俺の体をじっと見ている。安心しているようだが、訝しげな表情が少し気になった。
「……とりあえず、この男を引き渡そうか」
「……はい」
俺の方をじっと見るシアの視線に耐え切れずに、とりあえず倒れているひったくり犯をどうにかしようと思った。
あぁ、同じなんだ。きっと彼女も俺と同じように緊張しているんだ。初めて会ったときから、俺とシアが似ているのは変わらないんだな。そう思って笑ってしまった。
「え? な、なにかありましたか?」
驚き、戸惑うシア。その様子が10年前に見たシアと変わらない事を知って、俺は少しだけ安心した。
「いや、父上とかはシアの事を決して失礼のないように、とか、恐ろしい人のように言うんだ」
「……そうですか、フォルス家が」
やはり自分の事を悪く言われるのは心に来るものがあるのか、少しだけ俯くシア。少しでも彼女の悲しみを続かせないために、俺は間髪を入れずに口を開いた。
「でも、やっぱりこうして話してみるとシアはシアだ。あの路地裏で出会ったときのままだ」
「……ノヴァさん」
顔を上げて、驚いているシアに微笑みかける。
「今日は楽しもう!」
「はい!」
お互いに微笑みあって、俺達は緊張した気持ちを霧散させて露店通りに出た。
父上の屋敷があるサリアの街には露店が多く出ているので、そこをシアと一緒に回る。昔からの知り合いのおじさんからお菓子を貰うときに「別嬪さんの彼女連れてるじゃねえか」と揶揄われたり、ちょっとした遊戯の露店でシアが無双したり、アクセサリー屋で綺麗なモノを見つけて盛り上がったりした。
穏やかで優しい気質のシアはサリアの街の人ともすぐに仲良くなり、おばさんからはサービスをされたりしていた。そんな楽しい昼下がりをシアと一緒に過ごした。
ふと、買ったものを立ち止まって二人で食べているときに露店の樽の中に雑に入れられている剣に目がいった。視線が惹きつけられた理由は特にない。しいて言うなら、俺の人生に剣というものが密接な関係だったからか。けどシアにはすぐに気付かれてしまった。
「やっぱり、剣は気になりますか?」
「え? あぁ、フォルス家直伝の覇気は使えないけど、それでも剣は好きだからね」
「剣の腕だけなら、一族の中でも上の方だと聞いています」
「でも実際には剣の腕だけじゃないからなぁ。覇気を使われたら、手も足も出ないよ。 まあ、今となっては覇気が使えないからこうしてシアと一緒にいれるわけで、ちょっと感謝してるけど」
思っていることをそのまま口にすれば、シアは微笑んだ。ただそれは、ちょっと影のあるような微笑みだったけど。
彼女は視線を街の人々に移す。道行く人達や露店の人々を目にしながら、彼女は静かに口を開いた。
「そう言って頂けたら、私も嬉しいです」
その言葉を最後に、俺達の間に沈黙が落ちる。
何を話していいのか分からなくなったとき、通りの方から大きな声が聞こえた。怒号のような声と「誰か捕まえてー!」という叫び声。それを聞いて、考えるよりも先に俺は走り出していた。
すぐに通りに出れば、遠くからこちらに走ってくる男性の人影がある。その手には袋が抱えられていて、さらにその後ろでは、妙齢の女性が必死の形相で男性を追いかけていた。
ひったくりか。状況を判断した俺はすばやく目線を外し、剣の売られている露店へと走った。
「おっさん! これ借りるぞ!」
「お、おう!」
顔なじみのおっさんに声をかけて、樽から剣を拝借する。一般的な鞘付きの剣だが、特に問題は無さそうだった。
同じように通りに出てきたシアを横目に地面を蹴る。このとき、俺はシアが手を伸ばしていることが位置的に見えなかった。それを確認する前に意識を集中させて駆け抜けてしまった。
身を低くして、剣を下段に構えて男に正面から向き合う。男は俺の事に気づいたものの、速度を緩めるつもりはないらしい。けど、それでいい。俺はタイミングを見計らってさらに強く地面を蹴って、男の背後まで駆け抜ける。そして、振り向き際に鞘を男の首筋に力の限りに打ち付けた。
「ぐえ!?」
汚い悲鳴を上げて男が地面に倒れ込む。それを立ち止まって確認した瞬間に、パチンッという音が聞こえた。
一体何があったのか思うよりも早く、倒れた男の向こう、少し離れた場所に立つシアと目が合った。手のひらをこちらへと向けたシアは目を見開き、やってしまったという表情をしている。
「ノヴァさん! ノヴァさん、すみません! け、怪我は!?」
慌てて取り乱したように駆けつけてくる彼女を見て、俺の頭の中には疑問が湧き出るばかりだ。どうして彼女が謝るのか分からないし、このひったくり相手に怪我をしてもいない。というか、こう言ってはなんだが、怪我をするほどの相手とは思えなかったし。けどシアは俺に近づくなり、とても心配そうな顔で体のあちこちを確認してくれている。
「あ、あの、シア? 俺は大丈夫だから……」
どこも異常はないと体の動きで示そうとして腕をあげたときに、腕に電流が走るのを目にした。
「お? おぉ?」
体中に流れる電流。でも痛みも痺れも全く感じない。体はいつも通りだし、問題なく動かせそうだ。どうなっているのか分からないけど、害は無さそうだと判断。
「…………」
でもシアは目を見開いて俺の体をじっと見ている。安心しているようだが、訝しげな表情が少し気になった。
「……とりあえず、この男を引き渡そうか」
「……はい」
俺の方をじっと見るシアの視線に耐え切れずに、とりあえず倒れているひったくり犯をどうにかしようと思った。
144
お気に入りに追加
1,604
あなたにおすすめの小説
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
【完結】復讐に燃える帝国の悪役令嬢とそれに育てられた3人の王子と姫におまけ姫たちの恋愛物語<キャラ文芸筆休め自分用>
書くこと大好きな水銀党員
恋愛
ミェースチ(旧名メアリー)はヒロインのシャルティアを苛め抜き。婚約者から婚約破棄と国外追放を言い渡され親族からも拷問を受けて捨てられる。
しかし、国外追放された地で悪運を味方につけて復讐だけを胸に皇帝寵愛を手に復活を遂げ。シャルティアに復讐するため活躍をする。狂気とまで言われる性格のそんな悪役令嬢の母親に育てられた王子たちと姫の恋愛物語。
病的なマザコン長男の薔薇騎士二番隊長ウリエル。
兄大好きっ子のブラコン好色次男の魔法砲撃一番隊長ラファエル。
緑髪の美少女で弟に異常な愛情を注ぐ病的なブラコンの長女、帝国姫ガブリエル。
赤い髪、赤い目と誰よりも胸に熱い思いを持ち。ウリエル、ラファエル、ガブリエル兄姉の背中を見て兄達で学び途中の若き唯一まともな王子ミカエル。
そんな彼らの弟の恋に悩んだり。女装したりと苦労しながらも息子たちは【悪役令嬢】ミェースチをなだめながら頑張っていく(??)狂気な日常のお話。
~~~~~コンセプト~~~~~
①【絶対悪役令嬢】+【復讐】+【家族】
②【ブラコン×3】+【マザコン×5】
③【恋愛過多】【修羅場】【胸糞】【コメディ色強め】
よくある悪役令嬢が悪役令嬢していない作品が多い中であえて毒者のままで居てもらおうと言うコメディ作品です。 くずのままの人が居ます注意してください。
完結しました。好みが分かれる作品なので毒吐きも歓迎します。
この番組〈復讐に燃える帝国の悪役令嬢とそれに育てられた3人の王子と姫とおまけ姫たちの恋愛物語【完結】〉は、明るい皆の党。水銀党と転プレ大好き委員会。ご覧のスポンサーでお送りしました。
次回のこの時間は!!
ズーン………
帝国に一人男が過去を思い出す。彼は何事も……うまくいっておらずただただ運の悪い前世を思い出した。
「俺は……この力で世界を救う!! 邪魔をするな!!」
そう、彼は転生者。たった一つの能力を授かった転生者である。そんな彼の前に一人の少女のような姿が立ちはだかる。
「……あなたの力……浄化します」
「な、何!!」
「変身!!」
これは女神に頼まれたたった一人の物語である。
【魔法令嬢メアリー☆ヴァルキュリア】○月○日、日曜日夜9:30からスタート!!
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
“用済み”捨てられ子持ち令嬢は、隣国でオルゴールカフェを始めました
古森きり
恋愛
産後の肥立が悪いのに、ワンオペ育児で過労死したら異世界に転生していた!
トイニェスティン侯爵令嬢として生まれたアンジェリカは、十五歳で『神の子』と呼ばれる『天性スキル』を持つ特別な赤子を処女受胎する。
しかし、召喚されてきた勇者や聖女に息子の『天性スキル』を略奪され、「用済み」として国外追放されてしまう。
行き倒れも覚悟した時、アンジェリカを救ったのは母国と敵対関係の魔人族オーガの夫婦。
彼らの薦めでオルゴール職人で人間族のルイと仮初の夫婦として一緒に暮らすことになる。
不安なことがいっぱいあるけど、母として必ず我が子を、今度こそ立派に育てて見せます!
ノベルアップ+とアルファポリス、小説家になろう、カクヨムに掲載しています。
侯爵騎士は魔法学園を謳歌したい〜有名侯爵騎士一族に転生したので実力を隠して親のスネかじって生きていこうとしたら魔法学園へ追放されちゃった〜
すずと
ファンタジー
目指せ子供部屋おじさんイン異世界。あ、はい、序盤でその夢は砕け散ります
ブラック企業で働く毎日だった俺だが、ある日いきなり意識がプツンと途切れた。気が付くと俺はヘイヴン侯爵家の三男、リオン・ヘイヴンに転生していた。
こりゃラッキーと思ったね。専属メイドもいるし、俺はヘイヴン侯爵家のスネかじりとして生きていこうと決意した。前世でやたらと働いたからそれくらいは許されるだろう。
実力を隠して、親達に呆れられたらこっちの勝ちだ、しめしめ。
なんて考えていた時期が俺にもありました。
「お前はヘイヴン侯爵家に必要ない。出て行け」
実力を隠し過ぎてヘイブン家を追放されちゃいましたとさ。
親の最後の情けか、全寮制のアルバート魔法学園への入学手続きは済ましてくれていたけども……。
ええい! こうなったら仕方ない。学園生活を謳歌してやるぜ!
なんて思ってたのに色々起こりすぎて学園生活を謳歌できないんですが。
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
公爵令嬢の立場を捨てたお姫様
羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ
舞踏会
お茶会
正妃になるための勉強
…何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる!
王子なんか知りませんわ!
田舎でのんびり暮らします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる