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 「うーん?」

 戴冠式に出ず倉庫の整理をしてた俺が振り返れば、顔面蒼白にした母さんが胸に結構なサイズの紙もって立ってた。

「何って、何が?」
「これ、これよ!」

 母さんが手にしてた紙を俺の眼前に広げて見せた。俺は、ハテナのままだ。どうして、何故、──。

「俺じゃん」

 その紙には、鏡を見たか、と思うくらいそっくりに俺が描かれてた。そして、下には仰々しい文字が添えられている。「このような者を見たり知っている、という場合は即刻国王直下部隊に情報提供すべし。有力情報をもたらした者にはその確かさに応じて金を与える」

「ナニコレ?」
「大変よ……! この村中の人間がアンタのことを知ってる。街にしょっちゅう出入りしてる卵屋のファギーも魚屋のニコラもみんな金をもらったって……! きっとすぐ此処に兵隊が来るよ! さあ、言って。アンタ何をしたの。ああ、可愛いファビアン」
「……何も、してない……」

 ここでは。この世界では。

 悪いことはしてない筈だ。

 本当だ。本当なんです。

 信じて下さい。

 俺は、泣き叫ぶ母さんと、俺を倉庫から引きずり出して幌馬車に投げ込む兵隊さんの固い横顔を交互に見ながら訴えた。だけど、誰も何も言っちゃくれない。何、もしかして、ここの世界の人って、俺の前世からの転生者ばっかりで出来てたりすんの。だから、今まで干上がって水不足に困ってた地域に急にため池が作られて灌漑施設整ったりするわけ──。

 ……では、なかった。

 俺は、城に連れてかれてその豪華さに目を瞠りながらビビリ倒してる最中、会えるわけない、でも会えるなら誰よりもう一回会いたい奴に会った。

「……」
「……」

 俺とそいつ、いや、その方、いやいやいやいや、新国王は、10秒ぐらい、見つめ合ってた。俺は柔らかい敷布の上で両脇を兵士に抱えられながら、新国王は、金銀で縁取られた玉座の上から。俺は見上げ、新国王は見下ろしてた。そして、新国王の形が良い薄い唇が動いた。

「さくら」

多分、俺以外分からなかったと思う。兵士たちは「国王! お探しの者をお連れしました!」と三秒後に怒声を浴びせられることも知らず誇らしげに俺を力いっぱい掴んでたから。

「その者から手を放せ! 無礼者めが! 余はかように扱えとは指示しておらぬ!」
「へ……」

 兵士たちの力が抜け、俺はぺちゃんと座り込む。新国王──いや、もういいや、安曇野。安曇野だ──は玉座から立ち上がり、やたら幅が広い階段を駆け下りて来た。

「さくら……! さくら!」

 そうして、俺をぎゅっと抱きしめた。あの、電車の線路の上で、俺にそうしたみたいに。

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