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33..……顔見ればわかるよ。
しおりを挟む私を中心に張り巡らされた蜘蛛の糸。右に粘着く糸に左は触れたら闇魔法が発動する糸がある。他の糸も麻痺毒や鋭い糸なんかがあって私の身動きが取れなくされている。けれどそんな鬱陶しいモノは根本を消してしまえば良いわけで。
「はぁぁぁあっっ、ふっーーー!!」
思いっきり吸った空気と共に火を加えた竜の吐息を盛大に吹いてやれば邪魔な糸を一掃され視界は晴れやかだ。明瞭な目の前には私を見て固まった1人の男の姿が見えて、ついつい苛ついて顔を顰めた。
「っっ!!こんなんじゃ騙せないよっっ!ザザァ!!」
「っぅあ!?」
目の前に放とうとした魔法を急に逸らして上へと打ち上げると上空から短いザザの悲鳴が聞こえて私は目の前から上へと視線をずらした。
どうせ目の前にあるのはザザの糸で作ったザザの操り人形で、眷属がその操り人形の中に入れているみたいだが、私の気迫に負けて怯えて逃げることすら出来ていない。そんなの敵とは看做せないだろう。
「いったぁああ!!うわぁっ!!?」
上空でジタバタしてる本物のザザがどうやら自分の糸から落ちたらしく落下しているのが見える。これは勝負がついてしまったかとザザを受け止めるために手を伸ばすとストンとそこにザザが降ってきた。
何やら恥ずかしさを感じているのか焦ったように顔を真っ赤にしているザザに頭をごつんと一回打つけてみる。
「ッッ!!?イッッッタッッ!!わっ、割れっ…ッッ!!」
「ブッブー!割てません!ザザの負けだからお仕置きしただけ!もう!もうちょっと精巧な操り人形を作ればいいのに!あんなに雑に作って!中の眷属も役に立ってないよっ!?」
「っ…………。
連続攻撃をなんとか流して漸く出来た隙で作った奴ですし……。他のトラップ糸も出したのに全部燃やされてしまったし………。それにっ…ソフィア様が怖いって眷属が泣いてるんです。可哀想になりますよ……。」
「じゃあ眷属も鍛え直しだよ!私の気迫に耐えれないようじゃやっていけないよ!」
「……鬼。」
「なんだって?」
「…いや…すみません。なんでもないので降ろしてください……。」
私がザザを抱き上げたまま話しているもんだから周りの目が刺さって痛い。そんな目で見られたくはないのは私も同じだしそこは素直に従ってあげよう。
そう思いザザを腕から下ろすと不貞腐れたザザの顔が見えて、それが可笑しくてふふっと笑ってしまった。
4日前はあんなに死にそうな顔をしていたが今じゃすっかり生きてる顔だ。4日間ザザと共に鍛錬をした分が表情に出てきてる。意識が飛ばないようにしつつ恐れを抱ける程度に力を制限して鍛錬した甲斐があるってものだ。
このまま続けていけばザザはもっともっと強くなるだろう。アドバイスもダメ出しもきちんと吸収出来るこんな子がホレグレスに付いていたなんて勿体ない事だ。
私達が鍛錬に励む中、メリッサ、バロワはホレグレスへの聴取をしているらしい。いつもメリッサとバロワが担う業務には代わりの人を付けることが難しいみたいでエルはエルで1人忙しく業務をこなしているとアウラとビノが気落ちしながら話していた。
エルもメリッサもバロワも、寝る間も惜しんで聴取と業務をしているみたいでここ4日間私は3人に会えていないのだ。私も手伝おうかとアウラとビノに伝えたがどうやらエルがそれを拒否したらしい。
前に言っていた″ ソフィアには面倒なことをさせないつもりではいる″が響いているのだろうか。切羽詰まった時位別にいいのにとむず痒い気持ちが私の顔を歪めてしまう。
2.3日寝なくとも平気な私達だがさすがにそろそろ心配にはなってくる。様子を見に行く位許されるだろうと今日の午後は鍛錬を休んでエルの元へ行く計画を練っているのだ。
幸いザザも多少回復した事だし、少しのんびりと休ませても暴挙に出る事なく大人しく休むだろう。とりあえず午後の鍛錬は休みだと言う事をザザに伝えておこうと私は眉間に皺を寄せているザザに話し掛けた。
「ね、ザザあのね…………。」
◇◇◇
「あっ。メリッサッ!バロワッ!」
「…ソフィア殿。」
「…おつかれさまぁ。」
「うわぁ…疲れてるね。2人とも…お疲れ様っ!」
「…ソフィア殿の元気が身に沁みますね。痛いくらいです…。」
「ふふ…丁度いいくらいじゃない…?」
エルの所へと向かおうとした最中、口から魂が抜けかけてるメリッサとバロワにばったりと出くわした。目の下のクマは凶暴程暴れているしここ4日でやつれた様な気もする。
聴取という位だ、ホレグレスがしてきた悪行の数々を聞いてきた結果なのだろうか。私の住んでいた村を襲って来ただけじゃあきっと済まない、数々の出来事に2人の心が削がれた感じだ。
「大丈夫…?2人とも…?無理せず休みなよ…?」
「とりあえず殆ど聴取は終わりましたので後は少しゆっくりでも大丈夫です。お気遣いありがとうございます…。」
「魔王様も俺達がいない分もやっててくれてるらしいからすっごい助かるよねぇ。とりあえずもう俺達も通常業務に戻るから魔王様にもそれを伝えないとと思って~……。」
「おーいおいおい!フラついてるよ!ちゃんと休みなよ!今から私エルの所行くからそれ伝えるからさ!今日は本当休んだ方がいい!」
普通に立っているだけなのにユラユラと揺れている2人は多分自分達が揺れている事にすら気付いていないみたいだ。つんっと突けば倒れそうな勢いの2人はどう足掻いても今日は休んだ方がいいだろう。休まないと返って非効率だ。
ぐらぐらと揺れる頭でメリッサは虚な瞳を私に向けて軽く頭を下げた。
「ありがとう…ございます…。ではお言葉に甘えさせて頂きますね…。魔王様への…伝言…よろしくお願い…致します。」
「ざーぁすっ……!」
「わかったから!早く自分の部屋に行きなよ!」
こんな所で倒れられても困ると何処かもわからない2人の部屋を指差しながら焦って話すと2人はへらっと笑って覚束無い足を絡ませながら廊下の奥へと消えていった。
「…大丈夫かな。まぁ…大丈夫か。それよりもしかしてエルもあんな感じ?」
自体は思ったよりも深刻かもしれない。エルにもちゃんと休息をさせねばと早足でエルのいる3階のエル専用の執務室へと向かう。
寝室からほど近い場所にある執務室の前へと来ると私はその扉を躊躇なくノックした。
「エルー?いるー?大丈うっわぁ?」
「ソフィアッッ!?」
「あれ?意外と元気そうだ?」
ノックと同時の声掛けに3秒位しか時間を要していないはずなのにエルが扉を開けるスピードの速い事。一瞬、勢いよく開けられた扉がそのまま飛んで行くのではないかと思った。
しかもメリッサとバロワとは違って目の下に薄いクマはあるものの元気そうな様子が見てとれて、もしかして杞憂だったかとホッとしそうになるとエルは何も言わずにグイッと私の手首を引っ張り部屋の中へと連れ込むのと同時に抱きしめてきた。
「ちょっとっ、エ」
「はぁーーー………………。ソフィア…………会いたかった………。」
ぐりぐりと頭を擦りながら深いため息を吐いて抱きしめる腕に力をこめてエルが話す。切なそうな物言いに4日振りに会った私の心臓は簡単にどきりと跳ねてしまった。
ドキドキと煩い鼓動を気付かれたくないと身を捩ろうとすると、エルの心臓の音に気付いて私は動くことができなくなってしまう。
(な…んで。エルもこんなに…はやい…のよ。)
口も素直だが心臓はもっと素直なエルらしい。私よりも速い心臓の音が私に振動してくるみたいでいやに心地がいい。それが私の鼓動と混ざるともうそれはどちらの鼓動が煩いのかわからなくなってどうでもよくなってしまう。
「ソフィア…。部屋に戻れなくてごめん。アウラとビノには伝言をしたから聞いていると思うが…。」
「えっああ!うん、聞いてたよ!2人の分までお仕事してるから実質3人分でしょっ…!?大変だったよねっ、お疲れ様…!」
「まあ…大変だが仕方ないさ。あいつらも頑張っているなら俺も頑張らないとな。あいつらが休める様に少し前倒しで進めてはいたからホレグレスの聴取が終わったら」
「あっ!それっ!さっき殆ど終わったっていってたよ!もう2人ともフラフラだったから休んでって言っちゃった。」
「お、そうだったのか、なら良かった。前倒しだ分も休めるならでかいな。」
嬉しそうなエルの声で私の頭を撫でるエル。やはり元気そうに見えても疲れは溜まっているものだろうとエルを気遣いながら尋ねた。
「食事はしてたの?睡眠は…とれてないよね?」
「食事は摂ってたよ、簡単に食べれるものを。食事にしろ睡眠にしろ最低1週間はしないでも持つからまぁ…。ただ書類整理作業が多くて気が滅入ってしまっていただけで…。」
「そっか…疲れただろうし、今日はメリッサもバロワも休むからエルも休みなよ。ゆっくり寝たいなら私今日違う所で寝るからさ?」
「…やっと4日振りにソフィアと寝れるのに違い所で寝てと言うと思ったの…?」
「えっ!?いや、あの、エルを気遣ったつもりなんだけど……。」
広いベッドとはいえ私がいたら気になって近くに寝に来てしまうのではないかとの提案だったのに、そんな不機嫌そうな声を出さなくても良いと思うのだが。抱きしめられている分表情は見えないがきっと顰めっ面だろう。
選択を間違えた様でどうしようかと考えているとふとエルは抱きしめている腕を緩めた。
「気遣ってくれるのは有難いがそれならそばにいて貰った方が嬉しいよ。」
「ぅ…え、エルッ…。」
にこりと微笑んだエルが私の頬に手を当ててきたのに咄嗟に私は目を閉じてしまった。
「くす…ちゃんと目を閉じて可愛いね…。」
キスをされるのを薄々勘づいてしまったからと恥ずかしくて言えもしないのに私の体は私が思っている以上にエルに慣れてしまったみたいだ。
言い終わると共に唇を塞いでくるエルに私の唇は馴染む様にピッタリと合わさり、触れただけのキスからエルの舌が私の唇を割って入ってくる。
「っ…ん…。」
4日振りのキスは私の体を簡単に振るわせてしまう。絡ませた舌を軽くエルに吸われると背筋がぞくぞくして、つい立っているのを忘れそうになる。
「…ふ……はぁっ………んんっ…!」
私の体に這う手が腰やお尻を撫でられて塞がれた口から息と声が漏れてしまう。まだ離される事のない口は息が苦しいし、なのに撫で回すのを辞めない手がくすぐったいし恥ずかしいしで限界だ。
「っっはぁ…!はっ…え、エル!ス、ストップ!!」
「ん?何が?」
「ひぁっ!?何がじゃない!この手!ストップ!!止めて!?」
鍛錬用のショートパンツの脇からお尻を直に触る手を掴みながら私はエルに抗議した。じゃないとこの流れ的に言えばエルは間違いなく止まらなくなりそうだからだ。
疲れているのだし、休める時は休むべきだろうとやわやわと動かすエルの指に反応しないよう、睨みつつエルを見るとエルの顔にまたもドキリと心臓が跳ねてしまった。
頬を少し赤らめ、真剣な瞳をして眉を下げたその表情はなんとも色っぽくて見つめられさっきの怒りがポンとどこかに飛んでいってしまったようだ。
この表情は知ってる。エルが私を求めてる時の顔だ。というより顔だけじゃなくエルの手も雰囲気も言いたい事が溢れている。
そのなんとももどかしい空気を耐えられずエルから目を逸らすと私の頬を撫でながらエルがボソリと呟いた。
「ソフィア…俺は休むよりソフィアとシたい……。4日もソフィアに会えなかったし触れられなかったんだ……。今すぐ抱きたい…。」
「でっ、でもっ!あんまり寝てないしっ…んっ…!っあ…、っ、寝て休んでからでもっ…ふっ。」
「ソフィアが可愛くて無理……。それにほら…もうソフィアに反応してしまったから…これを治めないと寝るに寝れない……。」
「やっ、ちょっ!っ!」
グリグリと押し付けてくる硬いモノとエルが触ってくる手に私の体がカッと熱くなる。少し息が荒いエルがこうなってはもう止まることは無理だろう。無遠慮に立ったまま私を触るエルの指も止める気などなく動かしているのだ、いくら私が喚いてもどのみち抱かれる未来しかなさそうだ。
「っ…!わ、わかった…わかったからっ…ここじゃやだっ…んっ、せめて…ベッドに行きたっ…ふ、あ…。」
「立ったままが嫌なの?ここが嫌なの?」
「ここがっ、や、やだっ…んっ、わっ!!」
だってここ執務室で仕事をする場所じゃない、人が来るかもしれない、と言いたかったのにスッと体が離されたと思ったら次の瞬間にはエルに抱き上げられていた。エルにしがみつくと下がった眉を上げ、にこっと笑顔を見せた後スタスタと歩き出して執務室を出る。
もうこの後、エルが向かう先は絶対寝室なわけで。エルを休ませるためにも出来るだけ早く満足させようと密かに私は思うのだった。
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