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156.この願望は誰のもの?

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ルークの転移魔法もすっかり慣れたものだ。

慌てる事なく足を地面に着地させると見慣れない光景に頭が混乱してしまったが、目の前にいた人達がぱっとこちらを向いて嬉しそうな顔をしたため私も頬が緩んで笑顔になる。

「ルーク!ロティ!おかえり。」
「「おかえりっ!」」
「ただいま。」
「ただいまです!」

勇者パーティのメンバーが一斉に出迎えてくれて、ここが勇者パーティの隠れ家の中だと気付き一安心してしまった。

実に数日ぶりのこの場所だがなんだかとても懐かしく感じて辺りを見ていると少し離れた位置にいたアレックスが私達の方に歩いて来た。ルークの肩をポンポンと叩きながらアレックスは眉を僅かに下げて話す。

「お疲れ様。アレグリアの件は終わったのか?」
「正式には終わったとは言えないな。あの女のまだ遺体はあって5日後に遺体を葬送する事になった。アンデットにならない様にしてきたし心配はないだろう。」

「そうか。ならとりあえず…」
「ロティッッッ!!!」

アレックスを押し除け大声を出しながら私にタックルする様に飛び込んできた人に私も同じく大きな声で驚いてしまった。

「スザンヌッ!」
「ああっ!ああ!心配したっ…ごめんよ…私がついていながらっ…あんな奴に攫われるだなんてっ……。」

「ううん、大丈夫だよ…スザンヌ。心配掛けてごめんね…。」

悔しそうに声を震わせながらスザンヌは私の体をぎゅうと抱きしめてくれている。スザンヌがここにいる事に少し驚いたが会えた事が嬉しくて私も謝りながら抱き返した。

前に会ったのは私が攫われる直前だ。かなり心配をさせてしまっただろう、カタカタと震える体がそれを物語っている。

その震えた背中を撫でるとより一層力を込めて抱きしめられた後、ふっとスザンヌは私から離れて涙ぐみながら笑顔を見せてきた。

「とりあえずシーヴァには平手打ちはしておいたから…。後はロティが殴ってやりな。」
「えっ!?平手打ちっ…!?しちゃったの…。いや、あの…殴らないよ…私…。」
「ならワタシがやろうかね。あの女も殺してやりたかったけどワタシの手の届かないところで亡くなったようだしね…。
その分も含めてシーヴァのやつに…。」

「いやいや!スザンヌはシーヴァと会ったんでしょ…?記憶は読まなかったの…?」
「いや…読んだよ…、読んだけど…。………納得はしてない。」
「そ、そうなの…。」

シーヴァは私を攫いもしたが助けもしたのだ、悪い事ばかりではないはずだがそれは私の主観的な意見に過ぎないのだろう。

しかもスザンヌは納得がいっていないと来たものだ。攫われた事や騙していた事を怒っているのだろうか。私は困った顔でスザンヌを見ているとスザンヌは涙を拭ってルークに話し掛けた。

「ルークだって怒っているだろ?」
「…………。」
「ルーク…?」

「…どうしたんだい?黙って…。」
「あ…。」

黙ったまま目線を逸らしたルークを見てハッと気付いた。そういえばまだ私はシーヴァといた期間の話をルークにしていない。それどころじゃないくらい慌ただしくここまできたのだ。話す時間も余裕もなかったし、珍しくルーク自身も私に聞いてこなかった為失念していた。

ここからシーヴァと話し合いもするはずだ、けどその前にルークに今までの事を話すのが先だろう。私もルークとグニーが一緒に居た時のことが気になるし不安で仕方ないのだ。

お互いの居なかった時間を少し言葉で埋められれば少しくらい不安は解消出来るだろうと私は眉を下げながらスザンヌとアレックスに切り出した。

「ごめんね、スザンヌ…。まだ私ルークにシーヴァとの事を話せてないの…。アレックス…どこか部屋を借りてもいいですか?ルークと少し話しがしたくて…少し時間がかかるかもしれませんが…。」
「ああ、構わないよ。そっちの部屋、ルークの前に使っていた部屋だから使うといいよ。俺達はシーヴァを見ているからゆっくり話して?」

「ありがとうございます…。ルーク…話…聞いてくれる?」
「…ああ。」

「うむ、ならワタシはアイツをもう数発叩いておこうかね。」
「スザンヌッ!叩かないで待ってて!お願いだからっ!」

「…ッチ。ロティが言うなら我慢するか…。運のいい奴だね、ほんと。せめて睨み付けて待ってるから早くしな。」
「ゆっくりなのか早くなのかわからなくなるよっ!とりあえず待ってっ!ルーク行こうっ!」
「あ、わ、わかったっ!」

アレックスにはゆっくりとスザンヌには早くと言われ慌てた私はルークの腕を引っ張りアレックスが指差しして教えてくれた以前ルークが使っていたという部屋に急足で向かった。

ドアノブを回し中に入るとそこにはベッドと物入れと机と椅子があるだけの簡易な部屋が広がっていた。まるでその部屋が孤児でいた時の部屋に似ていて心臓がドキリと跳ねる。

わざとこうしていたのか、物に興味がなく最低限のものしか置かなかったのかわからないがルーカスとの思い出が詰まった部屋に似せられた部屋に目に涙が滲む気がした。

けれど今は泣く時ではないとその涙を袖に染み込ませて拭い、くるっと振り返ってルークに向き直るとルークは私を正面から優しく抱きしめてきた。

「ルー」
「ごめん…。」

低いルークの声が頭の上で響く。しかもその言葉が謝罪である事に私の心は動揺を隠せずすぐさまルークに聞き返した。

「えっ…あ…の…な、何が…。ごめんなの…。」
「シーヴァと…いた時間の事…。聞けなくて…ごめん……。
シーヴァと何かあったんじゃないかって…怖くて…。聞きたかったのに…聞けなくて…。」

その事への謝罪かと揺らぐ心が少し落ち着き、ルークの背中に手を回して背中を撫でながらなるべく優しい声でルークに伝える。

「ううん…私も…グニーとルークが一緒にいた時の事まだ…聞けてないから…。
不安な気持ちはわかるよ…。ちゃんと話そうね…。

ねぇルーク…過程から聞きたい?結論から聞きたい?」
「………結論。ロティは…?」

「私は過程かな…。」
「…どちらから話す?」

「…なら私からでもいい?」
「……ああ。」

ルークの体が強張って硬い。多分緊張しているのだろう。その緊張の糸を緩めてほしいと再び背中に手を回し体を抱きしめながら切り出した。

「えっと…結論から言うと。
抱きしめられた以外何もされてないよ。
シーヴァは…極度に私に触れるのすら怖そうにしてたの…。襲われるかと思ったけど…そんな事はなかったし、寧ろメフィストからは守ってもらった…。

シーヴァが言うには無理に何かをしたりはしないとか体だけがほしいんじゃなく心が欲しいとかぅっんっっ!ル、ルーク苦しいっ!」
「ロティは俺のだ…。」

ぎゅうぅう、と効果音が頭で鳴るほどルークに力強く抱きしめられて息が苦しい。のに、嫌じゃないと思ってしまう私も結構重症だ。ルークがシーヴァに嫉妬してしまっているこの状況が嬉しいとすら思うだなんて。

だがこのままではまずいとぽんぽんと背中を叩きながらルークの力を緩めてもらおうと抗議した。

「そ、そうだよっ!でも潰れちゃうから少し力緩めてっ…ふぁっ、た、助かったっ…。」
「ごめん…、つい……。」

「ん…、大丈夫。」

力を緩めてと伝えた瞬間に対応してくれるくらいだ、少し頭に血が上った程度だと思いたい。ルークの胸を軽く押すとルークはさっきの反省からか腕に込めた力を緩めてくれた。

僅かに離れルークの顔を見ると眉を下げていてしょぼくれた顔が見える。本当に怒っていないのだと伝える為に首元に手を回してそっと頭を引き寄せて抱きしめた。

「ルーク…ごめんね、離れて…。」
「俺こそ守れなくてごめん……でももう絶対離れないで………。」

「うん……。」

すりっと頭を寄せるルークは大分落ち着いたのか体の強張りが消えて私を優しく抱き返してくれている。

ルーカスを思い出してからというもの、溢れるルークへの想いが止まなくてもっとくっつきたくなる。けれど今はあまり時間もないことだし、そろそろ離れてきちんと話をしないとならない。

そう思ってルークの首に回した手を引っ込めるとルークは屈んだまま私の顔に近づいて来た。その雰囲気と頬に寄せられた手に次の行動を察してしまい慌ててルークの頬を掴み止めにかかった。

「ルーク…あ、や、ちょっと待ってっ…!」
「何故…。」

「まだ経緯も話してないしっ…それにルークとグニーがどうなってたのかもっ教えてもらってないし!」

もしかしてルークがグニーに襲われてキスとかされてる可能性だってあるわけだ、そうなれば今度は私が嫉妬してしまう。

それにルークとキスをしたいのはやまやまだがスザンヌに早くしろと言われてるし、一度キスしてしまったら自分を止められるか心配でもう頭の中が大混乱だ。

必死な私にルークの青い瞳が私をしっかりと捕らえられるともう目が離せず、私の顔の熱が上がっていく気がした。

おでこをコツンと当てられ、近い距離にいるルークに心臓が高鳴る。久々に見るルークのドアップに何も言えないでいると、ルークが僅かに微笑んで口を開いた。

「俺も抱きついてこられて少し服を脱がされた程度だ…。キスはされてない。ロティとしかしたくない……。」
「んっ…。」

そう言われて唇を塞がれると心臓がきゅうと締め付けられる感じがした。ルークとの久々のキスが嬉しくて堪らない。ずっとこうしたかったのにと欲望が溢れそうで怖い。

一度触れてしまった唇を簡単に離す事が出来ずにルークのキスに答えてしまう。何度も触れるキスをしてお互いを確かめ合った後、ルークのキスが深くなった。

なんだか泣いてしまいそうだ。

漸く全ての記憶が揃ってルークと想い合えることが嬉しくて、それがどこか悲しくて。死ぬか生きるかで生きていられて恐ろしいまでに安堵して。ルークの全部が欲しくて貪欲になる心が怖くて酷く居心地が良い。

色々な感情が混ざって溢れそう、それほどまでにルークを愛してる。

前まで少し苦しかったキスももう蕩けてしまうだけで、苦しさの欠片も無い。お互いの息がかかってくすぐったいのにそれでも止めれなくてまだ求めてる。

名残惜しくて何度もルークに縋って終わらないキスをした。2人離れる頃には唇に少しばかり違和感を残してそっと離れていく。

またルークの腕の中に戻って抱き着くと優しく抱き締めてくれたのに思わず感情が声で漏れた。


「ルーク………大好き…。」
「っ…、あまり可愛い事を言わないでくれ。ただでさえここじゃ好き放題出来ないし…おいうよりもまだ好き放題は出来ないけどっ…それにっ、アレックス達を待たせているのだから…。」
「あっ…そうだった…。うーん…一応…私もルークも結果は聞いちゃったから…経緯は後から話そうか…?」

「ん…そうしよう…話している時間分…キスしたい…。」
「えっ、ちょっ、それはっ…。」

「俺が付けた跡とかも…消えてしまっただろう…?だから…少しだけ…。」
「んっ、まってっルーク…んんっ。」

少し強引にされても嫌じゃない事に困ってしまう。気持ち良いキスで頭がくらくらしそうだ、もっとしていたいと私の本能が暴れて騒ぐのをなんとか理性を保って私の中で葛藤している。

角度を変えてキスをしてくるルークも同じことが言えるのだろう。余裕が無さそうな吐息が聞こえて心臓を抉らるような感覚だ。


「…ん…まだ足りないけどとりあえずいい…。」
「もぉ…少し我慢して…。」

「ごめん…ロティと離れて寂しくて…またこうして抱きしめたりキス出来るのが嬉しかったんだ…。」
「…うっ。私だって…嬉しいもん。だけど今は待たせてるから…ね?帰ったらしよう…?」

「っう…。心臓にきた…。駄目だ…もう一回キスだけさせて…。」
「やっ、今はふっ…ん…!」

私もだがルークの幸せの沸点がかなり下がってる。
これでは何か言う度に口を塞がれてしまうのではないかと混乱と喜びが入り混じった。

もはや終わらないキスにさすがに本能が勝ちルークの服を引っ張って止めにかかる。私の頭を手で押さえ塞がれた唇は中々離れてくれなくてルークの好き勝手にされているようで狡い。

いい加減スザンヌやアレックスに怒られると背中を軽くつねるとルークは渋々ながら離してくれた。不貞腐れた様な顔なのに嬉しさが隠しきれていない緩んだ表情で軽くため息を吐いている。

「はぁー…足りない…。」
「もう!本当にいくよっ!」

そう言ってまたルークの腕を引っ張ろうとするとするりと手を繋がれてルークの指と指が絡んだ。また手を繋げる日常に戻れるのだと思うとまたじわりと涙が出て来そうになりながら部屋を後にしたのだった。
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