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144.服の中は誰が見る?

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ピリピリとした空気の中、1人笑顔のその女は俺達全員の顔を見回した後俺をじっと見つめてながら口を開いた。

「冗談はここまでにして。この拘束を解かないなら本当に何も話す気はないよ。
聞きたい事があるなら聞きたい事1つに対して1つお願いを聞いてもらおうかな。
それで取引しよう?って言っても不利になることがあれば…わかってるよね?」

「……どうする?ルーク。」
「……。」

アレックスが俺に尋ねてきたが他のメンバーも俺の答えを静かに待っている。ここにいる限りは俺1人じゃない分、拘束を解いて襲われたとしてもすぐに対処出来るだろう。だがまだすることが残っている。
俺は魔法鞄に手を突っ込みながら話す。

「拘束を解く解かないの前にこれを使う…。」
「…魔導具ですか?どういったもので?」

宝石で出来た蜘蛛の形をした魔導具を出すとエドガーが興味ありげにそれを見てきた。
僅かな光にでもキラキラと光る蜘蛛は俺の手のひらでぴくりとも動かない。

「髪があればそれを糧に探したい人を辿れるものだ。念のためロティから髪を貰ってきたからそれで…。」
「くすっ…無駄だと思うけどなぁ。」
「アレグリア、黙れ。」

嘲笑気味に笑った女にリニが警告した。
リニはずっと短剣のグリップを手にして今にも切り掛かれると見せつけているようだ。しかし、女はそんな脅しには全く屈せずに顎を上げながら余裕の表情で話す。

「私に指図しないで?私が傷付けばあの子もそうなってもらうだけだからね?」
「……性悪だわ。リニ、辞めておきなさい。」
「…………チッ!」

冷静さをまだ残していたがノニアの言葉にリニは舌打ちをしながら残念そうに短剣のグリップから手を離した。流石の俺もロティの格好と声をした女を傷付けるのは極力避けたい。

これ以上その女が鳴く前に魔導具を使ってしまおうと宝石蜘蛛と一緒に取り出したロティの髪を蜘蛛に近づけた。

「…頼む。」

ギィィィ、カチカチカチカチッ…。

髪の毛にぴくりと反応した蜘蛛がロティの髪を宝石で出来た手足で掴むとそれを自身の口に持っていくとスルスルと全て食べてしまった。
最後まで食べ終わると俺の手からのそりと動き、金色の糸を糸いぼから出し始めカチカチと音を出して動いていく。

トンッと床に降りると真っ直ぐに向かったのはあの女の所で女の足によじ登りながら女の上を目指して這っていく。

「…ね?」
「どういうことなんだ?アレグリアはロティじゃないのに…。」

俺含めアレックス達も不可解そうな目で蜘蛛の動きを追っている。足から腹へ腹から胸へと移動して首の方まで来ると蜘蛛はまた胸の方へと移動したため服の中に入りそうになっている。

「服の中に入りそう……ルークとって?」
「私がとってあげますよ。」

「……あーあ…ルークが良かったのに。」

女の服に入りかけた蜘蛛をサイラスがスッと手で取ると、ギィと一瞬音が鳴った蜘蛛は少しジタバタと暴れた後サイラスの手のひらの中で静かになり止まった。

動かなくなった蜘蛛をサイラスが俺に向けて渡してきた為それを黙って受け取る。

ロティの状態は兎のぬいぐるみで簡易的には知れるものの、ロティを探す手段はなくなってしまったわけだ。
嫌でも蜘蛛を持つ手に力が篭る。

「ついでに身体検査もしましょうか。ルークさんは見ました?」
「見るわけないだろう。ロティと同じ服を着ていたが着替えは別のものに頼んだからな。」

「なら一応同性で確認しましょうか。
ね?リニさん、ノニアさん。」
「そうだな。化けの皮も剥げればいいのだが。」
「そうね、隅々まで見てやるわ。」

スッと立ち上がった女性陣達の鋭い目付きが女に集まるがそれでも表情を変えずソファにもたれ掛かりながら女が言う。

「勝手に話してるけど無理矢理何かするならあの子も同じ事を味わわせるからね。
私を裸にするならあの子も裸にさせようか。
誰かあの子の服を取るのかを…わかってるなら、いいけどね?」

ああ、まずい。苛立ちが溢れそうだ。
俺以外の奴にロティの服に手を掛けさせたくない。それを考えただけでも発狂しそうだと言うのに、今のロティと看守の状況はどう足掻いても知るよしもない。

看守は特殊魔法の使い手だったはずだ。
ロティを痛めつけたり殺せなくとも動きを止めたりは出来るはずだ。
嫌がっても迫る事など容易だろう。

せめてその看守がこの女に惚れ込んでいるが為に言う事を聞いているのだと願うしかない。


「…居場所に至っては教えるつもりがまだないと言ったな。」
「うん、ないね?」

「そういえば、攫われた時は魔女殿も一緒だったのではないのですか?どうやって魔女殿の結界の中に入ったとかも聞いたのですか?」
「いや……倒れた2人を見つけた時はこの女だと見抜けなくて倒れた詳細は後で聞きに来ると言ったまますぐに屋敷に戻ったんだ。
だからまだ詳しくは聞けていない…。
スザンヌに言ってここに来て説明してもらった方が手間が省けるが最も応じるかはわからないがな…。」

「ならルークさんは急ぎで魔女さんのところに行ってみてください!魔法陣もまだ使えますから!魔女さんを説得してきてくださいっ!」
「っ…!わかった、行ってくる。その女を見張っていてくれるか?」

「勿論、逃がさないよ。」
「このメンバーから拘束状態で逃げるのは無理だろうよ。では、いってくる。」

急遽決まったスザンヌへの訪問だが、先程の事を考えればスザンヌも理解してくれるだろう。記憶を司る魔女なのだ、もう倒れた時の記憶も思い出しているはずだ。

俺は関を急いで立つとすぐに転移魔法を発動させてスザンヌの家の前へと移動した。
少し荒めに玄関をノックしながら外からでも聞こえるように話す。


「スザンヌ、いるか?先程は怒鳴って悪かっ」
「ルークッ!!すまないっ!!思い出した…!」

「何が…あったんだ…。」
「ティハ…いや…ワタシがここに呼ぶと言っていた…彼にやられた…。奴が時間より早く来てロティと合わせたら…。
ワタシはロティより先に倒れてしまったみたいで…。」

「っ!?」

ゆうなればスザンヌの相手はあの女の攫った看守ということか。
なんのためにスザンヌに近づいたのだろう。
それがわからないが嫌な予感が止まらない。

だがここでうだうだしてられないだろう。
とりあえずスザンヌをアレックス達の元へ連れて行き、一気に説明せねば。

「スザンヌ、すまないが経緯を伝えたい奴が他にもいる。勇者パーティのメンバーには前に何度かあっているだろう、そいつらだ。」
「あ、ああ。覚えているよ。
「すまない、ここではなくあいつらの拠点に行って話すことはできるか…?

「出来るというか!やらなきゃだめだろう!!ロティは大丈夫なのかい!?」

無事とは言い難い。
だがそれはここで伝えることではないため俺は苦い顔をしながらもスザンヌに手を差し伸べた。

「……色々説明する。俺に捕まってくれ。」
「っ………。……ああ、頼むよ。」

何かを察したスザンヌの表情は焦りに悲しみの色が混ざったような気がした。
今にも泣きそうな顔をしたスザンヌは俺の手をとったため、またすぐに転移魔法を使いこの場所を後にする。

拠点に戻るとアレックスがビクッと動き俺達を見ながらホッとした顔をして席を立ち、スザンヌへ向けて頭を下げた。

「おかえり、ルーク。それに記憶の魔女殿。ここまで来て頂きありがとうございます。」
「スザンヌでいい。って…ロティッ……。」

一瞬顔を綻ばせたスザンヌはつまらなそうな顔をする女を見て顔を曇らせた。じっと女を見つめた後、鋭い眼差しを女に向け吐き捨てるように言う。

「ロティじゃないね。
私が殺したい相手じゃないか。なんでこんな奴がここにいてロティがいないんだ!!」
「スザンヌ!抑えろ!」

飛びかかりそうなスザンヌを後ろから押さえて止めた。押さえてなかったら絶対手を出しているだろう。この細身の体のどこにそんな力があるのか息を荒げて前に進もうとしている。

「この女が前世でもロティを殺したんだ!!
1発打たなきゃ気が済まない!
姿も声もロティの真似しやがって…!」
「あの子がルークを取ったからでしょ……。
あの子の代わりになろうとしただけだよ。」

「っこの性根腐りがロティになれるか!!
あの子は人が傷付くのすら嫌いな子なんだ!
アンタみたいな奴がすり替わろうだなんて傲慢にも程があるよ!」

まずい。スザンヌから微量だが魔力が漏れ出している。このままだと魔力暴走に繋がりかねない。グッとスザンヌの体を引き寄せ、静かなトーンでスザンヌに伝える。

「スザンヌ…頼むから落ち着いてくれ、その女を今殴ればロティもどうなるかわからない。2人が倒れた経緯を知りたいんだ……。
それとスザンヌが言っていた奴について…。」

「………っ!

……。
はー………そうだった。取り乱して…すまないね。」

スザンヌの体から力が抜けた為俺も手を離す。ふと俺を見るスザンヌは少し申し訳なさそうにしながら自分の目をごしごしと腕で擦っていた。

息を軽く吐くと女をまたじっと見つめ睨みながら話す。


「一気にそいつの記憶を見たからそれも踏まえて話すよ…。本当なら普段ここまで記憶を見ないようにしてるけどロティのためとなれば別だ。感情も音の記憶も全て読ませてもらったからね……。」

そう言い終えたスザンヌは冷たい表情をしていた。
だがその瞳の奥に燃えたぎる程の怒りが見えたのはきっと俺だけではないのだろう。
味方であるはずのスザンヌに僅かに恐怖を感じたアレックスとエドガーの身震いした姿が横目に映ったのだから。
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