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140.貴方の隣は私のもの。

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頬杖をやめたシーヴァはカップのお茶をごくりと飲んだ。まだ切なそうな表情をして眉を下げているシーヴァに、私は眉間に皺を寄せながら尋ねる。

「……血って…誰の…。」
「ん…?ああ…。スザンヌの。」

「どうしてスザンヌの血を…。」
「聞いたこと無い?魔女の血の話。」

ある。

スザンヌの血が欲しいと言ったのは魔女の血が欲しかったのか。魔女の血を自分の体内に取り込むと力を得られるという話が流れていたとルークに聞いていた話だ。

だがそれは間違いだったはずだ。
実験をしてもなんの効果も無かったと言っていたのも覚えている。

「ある…けど、それは…。」
「噂だって?それとも効果がないと?

あの噂を流していたのは俺だよ。
俺の前世のヨイの時の話かな。

ふと思い出して忘れそうだったから来世に思い出せる様に魔法を掛けて噂として流れるようにしておいたんだ。」

「なんで…そんなこと…。」
「……意味がわからないか。
魔女の血はね、魔女の願いと共に体の中に入ると願いを叶える力があるんだよ。まぁ無理な事もあるし、絶対叶うわけじゃないんだけど。

ロティが魅了の魔女の時に何度か死にかけた動物に使っているのをひっそりと見ていたから知っていただけ。
必ず叶う訳じゃないみたいだったけど、叶いそうな願いに血は反応していたみたいだったよ。

ただ血をもらうだけでも駄目だし、願いという条件があるからゆっくりとスザンヌを落として俺にスザンヌの魔法を少し使える様にでもして貰おうと思っていたんだけど…。

その前にロティが居たからそっちを優先して焦ったのがよくなかったよ。」

良くなかったといいつつ、にこりと微笑むシーヴァが怖い。
目的としては私をここに閉じ込める事ならそれが達成されたからかシーヴァは満たされているようにも見える。

グニーばかりに囚われ看守の存在をもう少し気を付けておくべきだったのか。
たが、シーヴァの目的が私を捕らえることならグニーはどうなるんだろう。

グニーはなんのためにシーヴァと手を組んだ?
シーヴァの使える転移魔法のため?
他の特殊魔法を使いたかったから?

今まで共に行動していたのはなんのためなのか。1人きりにしても、結局ルークはグニーを許す事はないだろう。
私よりもグニーを嫌うルークなのだから。


「種明かしが終わってスッキリした?
ロティに隠し事はもうないと思うけどどうだろう。」
「…種明かしとしてはまだ物足りないけど。
解術も使えるようになったし、ここを出たいかな。」

「ここが何処か知りたい、ここから出たい。
は、俺は叶えられない願いだよ。ロティ。
君が俺を愛してくれたら考えるかもしれないけどね。」
「私の気持ちはシーヴァに向く事はないと思うよ。」

「人の気持ちは変わるものだ。
ロティの想いだってきっと変わるよ。
だって俺とここにずっーといるんだ。
1年、5年、10年、100年。それ以上。
……君とならここにずっと居れる。
後は君の気持ちがこちらを向いてくれたら楽しく過ごせるよ…。」

うっとりと話すシーヴァにぞっとした。

この部屋にそれだけの時間閉じ込める気なのだろうか。部屋に篭ってばかりいたら感覚も気もおかしくなるだろう。

打開策を見つけなければ。
ずっとこんなところにいるのはごめんだ。

(そういえば、私の魔法鞄はどこだろう。
もしかして取られちゃった?)

私が寝ていた部室にあっただろうか。ぱっと見はなかったような気がする。
指を確認すると指輪は無事に嵌められていて、腕輪も存在していることにホッとした。

「ねぇ、私の鞄は…ないの?」
「ああ、あるよ。ロティの魔法鞄だよね。危ないものでも入れてる?」
「ないかな。」

これは本心だ。
危ないものは多分入っていないだろう。
中身を知らないという事は確認されていないのだろうか、その方が好都合ではある。

魔法鞄の中には魔導具が入っている。
その中にこの状況を変えられる物もあるかもしれない。
その確認をしたいため魔法鞄はなんとしてでも返して貰いたいところではある。

私が伝えた事にまた笑顔を見せたシーヴァは椅子から立ち上がり、もう一つベッドが置いてあった部屋へとゆっくり歩いて行った。

少しして私の魔法鞄を持ちながら帰ってきたシーヴァは素直に私に鞄を手渡してくれた。


「ロティは人を傷つけるのが嫌いな事は初めから知ってるんだ。
ロティは俺を信用してないけど俺はロティを信じてるし、鞄はロティに返すよ。」

私が無言で受け取るとシーヴァはそう言ってまた椅子に座った。
ほんの少し疲れているかのようなゆっくりとした動きが僅かに気になったが、回復魔法を掛けてあげられるほど優しくなれない。

さっきのベッドの部屋がシーヴァの寝室になるのだろうか。本当にこの部屋で2人で過ごさなくてはならない状況らしく鞄をぎゅっと抱きしめた。

コトンッ。

テーブルに置かれたそれの音が響き、少し驚いて私は音の方を見た。
テーブルの上にはお菓子が沢山盛られた皿が置いてある。

シーヴァはそこからひょいと包みに入ったクッキーを取ると私に差し出してきた。

「ロティも少し食べない?甘くて美味しいと思うよ。」
「いらない…。」

「俺相手じゃ食欲湧かない…?
俺のこの姿が嫌ならさっきみたいに変身するけど、どうする?」
「っ……。そのままでいいよ。
さっきみたいにルークの姿になられたほうが嫌。」

「そっか。まあ俺もその方が助かるかな。」

シーヴァは私が受け取らなかったお菓子の封を開け、ひょいと自分の口に放り込んだ。
まるで毒でもないよと言うかのようにもぐもぐと咀嚼し、飲み込むともう一つお菓子を取りながら私に尋ねてきた。

「ね?ロティ、ルークのどこが好きなの?
ルーカスとは外見が違うのに好きなんだ?」
「私はルークの中身が好きなの。
外見なんて…。」

「グニーに聞かせたいね。
グニーはルークの外見が大好きだからさ。」

近くに居たからわかるのだろう。
グニーが召喚獣を出す手助けもしていたのなら、私が隠しているルークにつけられたキスマークだって知っているはずだ。

服で見えないがまだ消えていないと思いたい。今はこれがルーク代わりだ。

「…そういえば私ってどのくらい寝ていたの?」
「えっと、合計10時間くらいかな?」
「10時間…。」

「…ルークが気になる?」
「当たり前でしょう?」

「気にしなくともルークはきっと大丈夫だと思うけどなぁ。」
「…どういう意味。」

「ここに来たらさ。
ロティに隠し事は良くないなぁーって思って全部話したくなるんだ。
まあ話せないこともあるんだけど。

ルークはさ。
ロティが居ないことに気付いたら勿論探すよね。」
「それはそうだね。」

今だって居なくなって探されているのだろう。きっと心配しているはずだ。

不安で切なくなる心に心臓が痛い。
私は無事であるとルークに教えたい。

けれど、ルークだって魔導具を持っているのだ。宝石蜘蛛だったり、兎の人形も私の状態を知る事ができるはずだ。

ルークもそれらを使って探しにきてくれるだろう。そう思って安心したいのに、シーヴァが綺麗な顔でずっと微笑んでいるからか妙に不安心を刺激される。

その不安を飲み込もうとお茶を一口飲もうとするとシーヴァはゆったりと口を開いた。

「ならさっきの俺みたいにさ。
まんまの姿と声のロティがルークの前に現れたらどうかなぁ…。」
「………っ!?…ま…さか。」

「今頃ルークの側にはグニーがロティとしているはずだよ。
ロティは変装していてもバレてしまうけど、ルークはどうかな?鑑定魔法も使えないだろう?もうロティの帰る場所もないよ。」

私の手からするりと離れてしまった落ちたカップとお茶の溢れる音がする。
服も濡れてしまったが私は全くそれどころではなかった。

私だけの居場所が私以外に埋められようとされている事に絶望を感じてしまったのだから。
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