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120.抉れた心の直し方?◆

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◆◆◆
ショックで中々動けなかったが、ここは安全地帯ではない。あまり長居するもんでもないだろう。

重い足を引き摺りながら表の道を目指してトボトボと歩く。

なんだが涙まで出てきそうなほど沈んでしまったが、後数歩も歩けば明るい道に出るため裾で目をガシガシと擦って耐える。

明るい道に出ると、人がちらほらと歩いていていつも通りの町の中に出た。

ホッと一安心するとフラついてしまい壁にもたれ掛かってしまう。

(…どうしよう。ゆっくり歩けばどうにかなるかな…。)

そんな事を考えていると私にバタバタと誰かが近づいて来た。
目の前に来た人の顔を見ると私は僅かに眉間に皺を寄せてしまった。


「あ!!ロティいた!もーどこ行ってたんだよ…。路地裏になんかいちゃだめだろ?ルーカスが血相変えて探してたぞー?
ま、ルーカスよりも俺のが先に見つけたけど。」
「……ケード。」

「ん?どうかしたのか?ロティ?大丈夫か?目の周り赤いよ。路地裏でなんかあったのか?」

「ううん…何もない。ちょっと疲れちゃっただけ。」
「ならほら、おんぶしてやるから。おいで。
抱っこよりもおんぶのがいいだろ?」

「……自分で歩く。」

壁にもたれ掛かった体を壁から離し歩こうとしたが、思った以上に足取りが重くフラついてしまい慌てて差し伸べられたケードの腕にしがみついた。

「そんなふらふらして歩けるかよ!
ほら、なんもしないよ、院までおんぶするだけだから。」
「……ごめんなさい。ありがとう…。」

「おう、いいよ。」

たまに嫌がる事をするケードだが、こういう時はちゃんと年長者の顔を見せてくれる。
フラついたままケードに背負われるとケードは黙って私を孤児院まで運んでくれた。




孤児院に着くと数人の子達とケードは会話を交わしている。どうやら私がいないことで何人かの子がルーカスの手伝いで私を探してくれていたらしい。

私がルーカスを探しに行ったはずなのにと少し恥ずかしくなってしまった。

肝心のルーカスはまだ外にいるようで私はケードの肩を叩いて話しかける。

「ケード、ありがとう。もう大丈夫だから降ろして。私はルーカス探しに行くよ。」
「そんな足取りでいけるか!
大人しく部屋で待ってなよ。部屋まで連れて行くから。ルーカスには帰ってきたらロティが戻った事も伝えるからさ。」

「でも…。」
「でもじゃなーい。年上の言う事は聞こうな。ほら、行くぞ。落ちるなよ~。」
「わっ!急に動くと危ないよ!」

「はいはいー。」

ケードが突然動いた為バランスが崩れそうになり慌ててケードにしがみつく。
心なしかケードは多少声を浮つかせていたが、気のせいだと思いたい。

ケードに背負われたまま私の部屋まで向かってもらうと何やら後ろからバタバタと足音が聞こえた。

「ロティ!!」
「っ!」
「お、早いな。戻ってきたのかルーカス。」

私の名前を呼んだルーカスに心臓がドキンと跳ねてしまった。
さっきの告白の会話が頭をよぎり顔が赤くなる感じがする。

ケードがルーカスに振り返ったため、ケードの背中から私もルーカスを見ると顔を顰め怒ったような表情をしていた。

(なんで怒ってるの…?)

訳がわからず、私はサッとケードの背に隠れた。路地裏で頑張って引っ込めた涙が出そうになってきてまた目を擦る。

スタスタと足音がこちらに近づくとルーカスの声がすぐそばで響いた。

「変わって。ケード。」
「え!?お前がおんぶすんの!?できんの…ってできるか。身体強化あるし。というよりもうすぐそこだから、さすがに歩けると思うけど…。」

「いいから変わって。」
「…わかったわかった。ロティ、降ろすよ?」
「え、あ。」

ストンとしゃがみ込むケードは私から手を離して降ろす準備は万端だ。
それに加えて、ルーカスは私を背負う気満々だ。

「ルーカス、私歩け」
「いいから乗って。」

「…。」

どこか怒ったようなルーカスが怖くて渋々私はルーカスの背中に手を掛けた。
ケードとは違い私の大差ない肩に手を掛けてもバランスが取りづらい為、首に手を回すとルークの手が私の太腿を支えたと思ったらぐんと立ち上がった。
思ったよりも安定していて、ルーカスだからか安心感があり首に回す手に僅かに力が篭る。

「っ…。」
「ルーカスゥ、何怒ってんのか知らないけど喧嘩はするなよー。じゃ、俺また出かけるからな。」

「あ、ありがとうケード。」
「どーいたしまして。今度ハグのお礼でいーよ。」

「……それは嫌。」
「ガーン…。ロティ冷たっ…。」

そう言い残し、ケードはとぼとぼと廊下を歩いていった。
ケードが見えなくなると、ルーカスは無言で廊下の先を進んでいく。

まるで自分の部屋に入るように私の部屋に入ると狭い部屋の空いているスペースでしゃがみこんでくれた。
私を支える手も緩めてくれたため、すとんと降りる。

「ル、ルーカスありがとう。」

ルーカスの背中に向かってお礼を言ったが、ルーカスはすぐに立ち上がり私に向き直るとまだ怒ったような表情で口を開いた。

「どういたしまして。
凄い短い距離しか背負ってないけど。
ケードにはどこから背負われたの?
背負われただけ?抱っこもされたの?
と言うよりロティどこにいたの?いつもならここか玄関とか教会にいるはずなのに。
まさか町に1人で行ってたの?」

「ま、待って待って、どの質問から答えていいかわからないよ!」

私が焦りながら言うと若干ルーカスの顔から怒りが消え、気まずそうな顔を見せながら話す。

「……ごめん。焦ってたんだ。ロティがいなくて…。」
「…うん、えっと。一つ一つ答えるね。
ルーカスがいつもの時間になっても戻らないから町に探しに行ったの…。」

「うっ…、それは…ごめん。」
「そしたら……。お、怒らないで欲しいんだけど…。ニネットがルーカスに告白してるの聞いちゃって…。」

「っ!?」
「それで…なんか…あの…ショックで…。動けなくなっちゃって。
その時にケードに見つかって。フラフラして歩けない私をケードがおんぶしてくれたの…。抱っこはされてないよ…。

ルーカスが告白された辺りからここまでだからそんなに距離はないと思うけど…。」

「………。…ごめん。」

素直に話す私に、ルーカスは驚いたり、気不味そうにしたり、落ち込んだりと表情をコロコロ変えて、しまいには私に謝ってきた。

私が謝るならまだしも、何故ルーカスに謝られたかわからず私は首を傾げて尋ねる。

「何に謝ってるの…?」

「ショックでって…言ったから…。」
「…謝られるのもなんか違うとは思うけど。

なんか…ルーカスが他の人を好きになっちゃったり、私の前から居なくなったらって思ったら…。…ショックだったの。」

「っそれはない!!絶対ないから!!」
「絶対なんて…わからないじゃない…。」

「絶対ないよ…。僕…ロティの事好きなんだ…。ロティの前から消えるだなんて僕が嫌だ…。」
「私もルーカスがいなくなるのはやだ…。」


私は今まで何人の孤児とお別れをしただろう。
亡くなってここからいなくなるにしても、成人で出るにしても、記憶に無い別れだってきっとあるはすだ。

別れのたびに寂しい気持ちになるが、こんなにも離れたく無い人は初めてで、なのにこの気持ちの名前がわからない。

2人とも伏せ気味で目すら合わないままなのに、お互いそれ以上離れることもない。

少しの沈黙の後、ぽつりとルーカスが話し出した。

「さっきだって…ケードになんか背負われてるから…苛々しちゃって。つい…冷たくなちゃったけど…。ロティがケードにくっついてるの見たくなかったんだ。」
「…私だってニネットと手を繋いだルーカス見たくなかった。」

「っっ!?そこも見たのっ…!?」
「…見ちゃった…ごめんなさい。」

「…。いや、悪いのは僕だ。
ごめん、ロティ。だけど…これだけは変わらないから。僕が好きなのはロティただ1人で…。触りたいのもロティだけ…。」
「……私は…。」

(私もルーカスに触りたい…のかもしれない。)

だけどそんなこと恥ずかしくて言えやしない。顔に熱が篭る気がして頬に手を当てて伝えようかうだうだと迷ってしまう。
私の答えが決まらないからかルーカスが私の頭に触れ、撫でながら優しい口調で続けた。

「ロティ…無理に今すぐ言わなくていいよ。
だけど…ケードとはハグを嫌がってたけど…。僕とも嫌…?」

(いやじゃない。むしろ私がルーカスを抱きしめたい。)

「……ルーカスは……いいよ。」

「なら…ぎゅうさせて。」
「うん。」

私よりいつの間にか少し大きくなった体に、私はすぽっと埋まってしまう。
居心地の良いこの場所は私のものじゃない。
なのに他の誰かの場所になるのも許せそうにない。

今や隣に寝ていたうさぎのぬいぐるみだって服と一緒に閉まっている。

私の隣はルーカスがいて欲しい。
そんな気持ちを私はまだ伝えられないまま、名前を付けられない気持ちと共にルーカスを抱きしめていた。
◆◆◆
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