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101.狡い…。

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スザンヌは化粧をして早々に街に繰り出して行った。
私達はスザンヌと共に家を出て屋敷に戻って遅い昼食を食べた。

夢の中でパンと林檎を食べた後だが、お腹はかなり空いていていつもよりかは少し多い量を食べたと思う。


ルークと住む様になってから明らかに食事量が増えたから体重が増えているのでは無いかと心配になったが、ルークが鞄整理と言って目の前に次々と出す料理に抗えず結局は食べてしまった。

満腹になったお腹を押さえながら、食器を魔法で綺麗にしているルークに話しかけた。

「ルークの鞄整理って中々終わらなそうだね…。いつからこの鞄持ってるの?」
「…6、いや70…ん?80年前…?」

険しい顔をして思い出そうとはしているものの、はっきりとは覚えていない様で軽く唸っている。
100年以上は生きているみたいだが実際の年齢がわからないためルークに尋ねた。

「ルーク実年齢何歳なの?」
「…正確にはわからないな。130歳そこらだと思うが…。途中から面倒で数えるのやめてしまった。ギルドに行けばわかるけれど、知りたいか?」

「うん、知りたいな。ギルドに行く用事があったときに一緒に聞こうかな。
あ、そういえば、ルークはギルドに行ったの?」

私が寝ているときに行くとは言っていたが、行ったのだろうか。
尋ねた私にルークは難しい顔をしながら答えた。


「ああ…行った。その事を話すからソファに移動しようか。」
「うん。」

椅子から立ち上がりソファまで移動する。
またルークの上に座ってとでも言われるのかと僅かに期待したが、ルークは普通にソファに座った為私も何も言わずにその隣に座った。

少し考え込む様な顔をしながらルークは膝に肘を付いて話し始めた。

「まずは、ギルドの話だな。
結果から言うと良い情報はなかった。
唯一分かったのは身長は俺くらいではあるのと言う位だ。

監獄の看守にそいつの似顔絵を描いて貰おうとしたら顔を思い出せなかったようだ。
認識阻害魔法かもしれないが、厄介な事だ。
髪色や瞳の色も証言がバラバラだし…。

あの女に連れて行かれた被害者だろうから王国としては身の安全を案じているところだが、それにしても謎が多い。
何がしたいのか全然わからない奴だ…。」
「そう…なんだ。本当不思議な人だね。
グニーがその人だけを連れて行ったのも謎だよね。グニーにとってその人は何か特別だったのかな?」

「顔が良いとかか?良くも悪くも顔は魔導具や魔法で変えられる。あの女にとって何が利益になる事があるから連れて行かれたのではないのか?まぁ…本人じゃ無いからわからないがな…。」
「そうだね…。グニーついでに…聞きたいんだけど…。

ルークって私が現れるまでグニーと同じパーティだったでしょ?
前世でも色々話す前に私死んじゃったから聞けなかったんだけど…。
グニーと…どういう関係だったの…?」

「………い、わなきゃ駄目か…。」
「言いたく無いなら無理しなくて良いけど……。私が知ってるのはグニーがルークを好きでべたべたしてて、抱きついたりキスするのを止めてなかったんだよね?
そりゃあグニーは見た目はかなり綺麗だもん。嫌な気は起きないよね。」

自分で言っていてなんだか腹が立ってきた。
知らない内に眉間にも皺が寄っていて軽く額の擦った。

ルークは顔色が悪く苦い表情をしている。
記憶がない時の事を責めたくはない。

また私の醜い嫉妬だ。傲慢で我儘な私がルークをグニーに取られたくなかった。
だからルークに当たって呪いを掛けてしまったのだから。

私は気が立った感情を沈めながらルークに落ち着いて話しかける。

「記憶がなかった時のことは責めないよ…。
でもグニーが狡いと思っちゃうの。何年一緒にいてそうしていたかはわからないけど、私だってそうしたかったのに…。
私は我儘だから…自分の為にルークを探したんだよ…。傲慢だから…ルークに呪いを掛けたの…。
そんな私でもルークは好きでいてくれる?」

顔色が戻ったルークはよくわからない表情をしていた。悲しいような嬉しいような泣きそうなような顔。

ルークの手が私に伸びたと思ったら優しく私を抱きしめてくれた。

「ルー」
「愛してやまない…。
ずっと前から…ロティを愛してる。ロティの我儘も傲慢も全て俺が貰いたい。
前世の時から俺はロティに全てを捧げたいし、貰いたくて堪らないんだ…。
ロティはそんな俺でも嫌わないでくれるか…?
嫌っても離してあげる事が出来ない…。」

「私だって…ルークを愛してるよ…。
だから20年もルークを探したんだよ…。
会いたくて、会いたくて、仕方がなかった。

好きで、大好きで、愛しているから、きっと会えると思って私はルークを探したの。

また会えて嬉しかった。同時に悲しかったけど、今こうして居られるのが幸せなの…。
だけど、やっぱりグニーが狡いと思っちゃうのは羨ましくてしょうがなかったんだよ。
私より先にルークに会って、触れられるのが羨ましかった。」

「…あの女からは、ロティに会うまでは抱きつかれたり腕を組まされたり、キスはされてはいたな…。
最も口は最初から駄目だと言っていたから頬や頭が多かったが…。

野営の時は勝手に隣で寝ていた事もあった…。
告白されて断ったが懲りずに俺の側にあの女は居続けたんだ。
他の女も俺の顔を見て近寄る奴が居たんだが、あの女が居れば勝手に追い払うから煩わしくなくてちょうど良かったのもある…。」

「口はキスされてないんだ…?」

「さすがに恋人でもないのに嫌だからな。
ロティに出会う前の俺は専ら冒険者を楽しんでいたから恋人を作る気もなかったし…。」

「じゃあ…キスは私だけ…?」

「そうだな。」
「…そう。」

内心嬉しくてしょうがないが、欲を言えば頬にキスをしたり抱きつかれたりするのも止めては欲しかった。だがそれを言っても今更だ。困らせるだけだろうからなんとか言葉にならない様飲み込む。

複雑な感情を隠す様に抱きしめられているルークにぐりぐりと頭を押し付けた。
そんな私の顔を見たいのかルークは体を離そうとしてくる。

「ルーク離れちゃやだ…。」
「ロティの顔見たくて…。」

そう言われてそっと押し付けていた頭を離しルークの顔を見た。

「…ロティ…物欲しそうな目をしてる。
前世を全て思い出してくれたからなのか、堪らなく反応が可愛い…。

…ロティキスさせて。」
「んぅっ。」

肯定も了承もしないままルークは私にキスしてきた。さっきの続きのキスの様で一瞬にしてとろんと心が解けてしまう。

少し前までは恥ずかしさと嬉しいさとでいっぱいいっぱだったのに、ルークの吐息や感触が感じられる余裕が出たのは急成長を感じてならない。

息を吸うのに必死だったのが今じゃ苦しくないし、ルークの吐息に当てられて顔が熱くなってしまう。

吐息とリップ音と水音で蕩けてしまいそうだ。


唇がそっと離されると体が熱くなっていた。
心臓が心地良い鼓動を打つ。
ぼーとしてルークを見ると息を乱したルークが困った様に眉を下げて私に言う。

「…余裕が全くない。どうにかなりそうで怖い…。」

そう言って私の肩に頭を下ろすルーク。
浅い呼吸が私にかかってくすぐったさを感じてしまう。
ルークの銀色の髪を撫でながら私はルークに言う。

「我慢させてごめんね…?」

本当なら今すぐ誓いを立ててもいい程だ。
私もルークが欲しい。だが、最初に言った事をコロコロと変えるのも申し訳ないし、前前世の私が今の私に嫉妬しそうだからまだ駄目だ。

穏やかな私にルークは私とは裏腹な声で少し恨めしそうに返事を返した。

「記憶が戻ったらその分覚悟しておいて…。暫く離してあげないから。」
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