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さかきしん。君の名前だね?」
「はい」
「“榊”がどんなものかは知ってる?」
「神様に供える植物、ですよね。七五三のご祈祷でも、お供えしました」
「そう。では、“臣”は?」
「意味は上手く言えないですけど、家臣、とかって使いかたをすることはわかります」
「仕える者、とか、家来、とか。そういう意味がある」
「あ……」
 そこまで教えて貰えば、俺にだって察しはつく。
「名は体を表すっていうけど、あれはあながち根拠がない話でもなくてね」
 一瞬ためらってから、諏訪さんは言葉を続けた。
「そもそも君は、神に……僕に捧げられる、僕に仕える者として生まれてきたんだ」
 そう言葉にされた瞬間。ぐらり、と世界が揺らいだような気がした。
(最初から、全部決まっていた……? こうなることが……?)
「もしかして……」
「君がこの村へ越してきたことも、あれだけ迫害されてなお、ご両親がこの村を出ようとしないことも、全部必然だったってことだよ」
 そう告げる彼の顔には表情がなく、何を考えているのかを知ることはできない。
「俺が……俺たち家族が村に居続けたのは、俺が神様……諏訪さんの元に連れて行かれるためだったってこと……ですか……?」
「そうなるね」
 大きく揺らいだ世界は、そのまま足元から崩れて行くんじゃないかとさえ思えた。
(両親が俺を連れてこの村へ引っ越すことを選択したのは、彼らの意思ではなかったというのか? 俺が神様の元へいくために、親ごとここへ呼び寄せられた?)
 そんなこと、信じたくなかった。でも、そう言われれば納得がいくこともある。なんでこんな目に遭ってるのに引っ越さないのか、ずっと不思議だった。逃げられなかった、ということだろうか。
「俺は……俺たち家族は、俺が諏訪さんに呼ばれる運命だったから、村にいなきゃいけなかったってこと…?」
「そうだね」
 さらりと肯定されて、頭に血が上るのを感じた。
「ふざけないでください……! なんでそんな思いをさせられなきゃいけないんですか⁉」
 握られていた手を力一杯振り払う。
「馬鹿にするにもほどがあるでしょう‼ 人をなんだと思ってるんですか! ただ利用されるだけの人生? 冗談じゃない!」
 俺は、怒りに任せて怒鳴りつけた。
「俺たちは道具じゃないんです! 感情だってあるのに、よく平気でそんな軽んじるみたいなこと……っ!」
 俺が叫んでいる間、諏訪さんはただ黙って聞いていた。
 生まれてこの方、こんなに大きな声を出したことがあっただろうか。ましてや、それを他人にぶつけるだなんて。
 慣れない行為に体がついて行かず、喉に痛みを感じる。息も切れているし、めまいもする。
「うん、だからね」
 激昂している俺とは対照的に、諏訪さんが穏やかな調子で口を開く。
「僕は、臣があの時のことを覚えていないのなら、僕から解放しようと思っていたんだよ」
 臣は、君が舞った神楽のあらすじを覚えている? と尋ねられて思い出す。神様にその身を捧げるべく生まれてきて、近くへと召されるのは、若い男だ。
「奉納神楽で主役を務められるのは20歳になる前の男の子だけだよね。あれは単なる創作ではなくてね。早い話が、その歳をすぎると、僕の元へは来られなくなる。来年の誕生日を過ぎれば、君は僕からも村からも解放されるんだ」
「……っ」
 諏訪さんの言葉に沢山の疑問が浮かんできたけれど、全部が一度に口から出ようとするものだから、喉のあたりで詰まってしまって、結局何も訊くことはできなかった。
「そこまで考えていたのにどうして……って思ったろう?」
 知ってしまったから、と彼はぽつりと言った。
「臣の隣が心地いいってこと。今までもずっと見守って来たから、君のことは良く知っているよ。僕のせいであんな境遇に置かれたのに、折れることなく生きてきた。押しつけられた神楽だって、結局居残りをしてまでいいものに仕上げようとするような努力家だ。こんな子が人間として生きる道を、僕は奪いたくなかった。けれど……臣と関わるようになって、君とのちょっとした会話が楽しいことや、一緒にいるだけで気持ちが安らぐことに気づいてしまった」
 ……それは俺も同じだ、と思ったけれど、諏訪さんの話を邪魔したくなくて、口には出さずにいた。
「そうこうするうちに、このまま手を放してしまっていいのかと考えるようになった。20歳を過ぎて僕との縁が切れたら、君はこの村を出るだろうと思った。同時に、その方がいいとも思ったんだ。これは本当」
 信じられなくても無理はないけれどね、と目を伏せた諏訪さんに、俺は何も言えなかった。諏訪さんも俺の反応を待つことなく、言葉を続けた。
「だけどそうなったら、僕は君を諦めて、いつか現れる別の人間と暮らしていかなければならない。それを想像したら、とても辛かった。もしも一緒に過ごす相手を選べるのなら、僕は臣に側にいて欲しい。……だけど、無理強いはしない。どうするかは、臣が決めていいよ」
 確かに俺は“あの人”との再会を諦めて、村を出ようかと考えていた。一旦村を出てしまったら、嫌な思い出ばかりのここを訪れることは二度とないだろう。
 諏訪さんもそれを分かっているのだと知って、言葉に詰まる。
 頭の中を整理しようと言われたことを反芻しているうちに、とある引っかかりを感じて俺は尋ねた。
「ねぇ、諏訪さん。今、“暮らしていく”って言いました? 俺、殺されたり食われたりする訳じゃ……」
 俺の問いに、諏訪さんは驚いたように目をみはった。
「そうか……ごめん。僕にとっては当たり前のことで……」
 説明が足りなかったよね、と困ったように微笑む。
 その表情になんだか胸が痛んで、今日はこんな表情をさせてばかりだな、と思う。
「殺したり、食べたりするわけではないよ。僕と一緒に暮らしていくだけ。ただ、僕の元へ来れば君は人間ではなくなる。人間が君の姿を見ることはできなくなるし、臣から、君だと分かるような形で働きかけることもできなくなる。寿命はあってないようなものになって、二人で村や人間を見守りながら生きていく。ただ……君を迫害してきた村の人たちを見守り続けることは、酷なんじゃないかと思って……」
 ……そうか。
 諏訪さんはこの土地を守る神様だ。
 お参りに来るのはほとんど地元の人間に決まっているし、その人たちに御利益をもたらすように働きかけるのが彼の役目なのだろう。村の人々が願った事をどのくらい叶えてやるのか、見当もつかないけれど。
 そして俺は、それをずっと諏訪さんの側で見守っていくことになるのか。
(俺がどうなるかは分かった。けど、じゃあ……)
「俺がいなくなったら、家族はどうなるんですか?」
 村に残すことになってしまう両親のことが気になって、俺は尋ねた。
「臣の存在も、いなくなったことも、記憶に残るよ。臣にもご両親にも、間違いなく辛い思いをさせる。けれど縛るものがなくなるから、望めばこの村から出て行くこともできる。ただ、これは君が僕のところに来ないまま20歳を迎えても同じことだね」
 穏やかな口調ながら淡々と話すのを聞いて、この人は……と内心苦笑する。どうしてわざわざ自分に不利になるような情報まで寄越すのか。
 誠実に向き合ってくれていることをありがたいと思うけれど、諏訪さん自身のことを蔑ろにしすぎている気がして心配になる。
「諏訪さんのところに行くことを選んだとしたら、俺はそこで何をすればいいんですか?」
 質問した途端、ピクッと彼の体が小さく震える。
「あー……」
 何を聞いてもすぐに答えてくれていた諏訪さんが、初めて伝えづらそうに言い淀み、言葉を探すように視線が泳いだ。
「僕たち神が、側に置いた人間に願うことは多くはないよ。共にあること。あとは……力をくれること。神は人間に求められないと存在することができない。だから人間の少ないところに祀られている神なんかは、積極的に誰かを側に置くことが多いよ。ただ、僕は力が不足するほどかというと、幸い今はそうではないかな」
 だから、臣は僕に力を与える必要はないよ。一緒にいてくれるだけでいいんだ、と諏訪さんは言った。この話を始めてから何度目かの、困ったような、切ないような表情で。
「力をあげる……って……」
 歯切れの悪さから、言い出しにくいこと、つまり俺にとってあまりよいことではないのだろうと、察しはついていた。けれどあえてハッキリさせようと、俺は尋ねた。
「……僕と交わるってこと」
 言った後、諏訪さんは自分の方が傷ついたような顔で微笑んだ。
「交わ……る?」
「人間もするだろう? 子をなす時に。同じ事を、臣が僕とするってことだよ」
「いや、俺も諏訪さんも男……」
 言いかけて、気付く。
 だから諏訪さんは、性別を気にしていたのか、と。
 俺が女ならよかったのに、と言うのではなく、自分が女であれば……と考えるところが、彼らしい。
(俺が諏訪さんとそういうことをする……?)
 ダメだ、全然想像が出来ない。
 激しく動揺したまま、俺はもう一つ、気になっていることを尋ねた。
「もし……俺が諏訪さんの側に行くことを選ばなかったら、どうなるんですか……?」
「君は、全て忘れて日常に戻ることになる。僕にはいつか、同じ役目を負った人間が生まれてくるよ。それがどのくらい先なのか、どんな人物なのかは、僕にもわからない」
(だから、別の人間……って言ったのか。でも……)
「もし、次の人が生まれてくるまでの間に諏訪さんの力が足りなくなったら……?」
「それは、臣が考えなくていいことだよ」
 ポン、と頭に手のひらが乗る。
 作り物のように細く長い指が、優しく髪を梳いた。
「臣は自分のことだけ考えて、どうしたいか決めてほしい。僕は……我慢できずに側にいてほしいと言ってしまったけれど、君に無理させたいわけではないんだ」
 諏訪さんは、穏やかな声でそう告げる。
 神様なんだから、有無を言わせずさらってしまうことだってできるだろう。
 ……というか、きっとそれが普通なんじゃないかと思う。
 自分に不利になるようなことまで全部さらけ出して、その上で俺に決定権をくれるなんて、やり方が下手にもほどがある。諏訪さんの得になることなんて、何もないじゃないか。
 でも、そんな諏訪さんだからこそ、愛しく感じてしまうのだろう。

「諏訪さんって……」
 俺は、しばらく考え込んだのちに口を開いた。
「ん?」
「この村に住んでいるわけじゃない人にも、何かをしてあげることはできますか?」
「何かをしてあげる、というと?」
「俺の両親……あと、啓……俺の幼なじみなんですけど……その3人を、俺がいなくなった後も守ってくれますか? 多分、俺がいなくなれば両親は村を出て行くだろうし、啓も、今進学で村を出ていて、卒業しても戻っては来ないと思うんです。だから、村に住んでいなくても、御利益ごりやく……っていうか、そういうのは授けられるのかなって」
「臣は……自分が大事な人たちと引き離されることより、残された人たちのことを真っ先に気にかけるの? さっき僕にお人好しだといったけれど、君だって相当なものだね」
 諏訪さんは、臣がそんなだから僕なんかに求められてしまうんだ、と切なそうに呟き、そっと大切なものに触れるように俺の頬を撫でる。
「君が望むのなら、いくらでも。臣が大切に思う人を僕も大切にしたい」
「父さんや母さんは、俺の巻き添えをくらってここに来ちゃったんですよね? 啓も、俺といるせいで村の人たちから色々言われてるのを見たことがあって……。それでも、距離を置かれたりはしなかったんです。3人とも、本当に大切にしてくれたのに、俺のせいで辛い思いをさせちゃったなって。だからその分、これからは幸せになってほしい、です」
 俺の存在が、両親の人生を大きく変えてしまった。それも、限りなく悪い方へ。俺なんかが子供だったばっかりに、と申し訳なさで胸が潰れそうになる。
 しかも幸せになってほしいと願ったところで、それすら諏訪さんに頼るしかない。結局俺は、自分ではなにもしていないのだ。それがとても情けないし、悔しい。
 そんな俺の心の内を読んだかのように、諏訪さんは言った。
「……臣のせいではないよ。ご両親を巻き込んだことへの償いが必要だというのなら、それは僕が負うべきだ。さっき君が言った通り、僕はもっとそれぞれの人生を大事に考えなければいけなかったし、人間にも感情があるということを理解していなければならなかったよね」
 彼は言葉を切ると、おもむろに姿勢を正した。
 きちんと正座しなおし、背筋を伸ばす。
 急にどうしたのだろうかと思いながら見ていると、再び口を開いた。
「そもそも人間には僕の事情なんて何の関係もない。なのに、たくさん辛い思いをさせてしまった。本当に申し訳ない」
 諏訪さんは、俺以上に苦しそうな声で詫びながら、深々と頭を下げた。黒くて長い美しい髪が、肩から流れ落ちて白い床に模様を描く。
 俺は、何が起こっているか分からず、それを呆然と眺めるだけだった。
「臣がどんな選択をしても、今後ご両親やご友人には幸せでいて頂けるよう力を尽くすよ。もちろん、臣自身に対しても。それが少しでも償いになるなら」
 頭を下げたままの諏訪さんの手が、震えるほどきつく握られているのに気付いて、俺は直視できなくなってしまう。自分の知らないところでいいようにされていたことに腹を立て、彼に向かって怒鳴ったのは自分だというのに。
(……あぁもう。神様というのはもっと不遜なものではないのだろうか)
 圧倒的に優位な立場であるはずの神様が、人に謝罪するなんて、考えもしなかった。
 真実を告げられたあの瞬間、俺は今まで村の人たちから受けてきた仕打ちを思い出して、脊髄反射で沸き上がった怒りをぶつけただけだ。5歳から今まで、15年近くもこの人の言葉に、笑顔に、支えてもらってきたというのに。
 なんて恩知らずなんだ、と自己嫌悪で吐き気がする。けれどそれを自覚した途端に、強い決意が生まれるのを感じた。
 俺の意思を尊重し、対等に向き合ってくれる。こんなに誠実な彼を傷つけてはダメだ。俺を大切にしてくれるように、俺も諏訪さんを大切にしたい。
 そう思う一方で、これからのことに想像を巡らせると、不安が頭をもたげる。
(俺に……務まるのか?)
 諏訪さんと一緒にいることを選べば、死ぬことも老いることもなく、二人で長い時間を過ごしていくことになるのだと聞いた。
 その間に村の高齢化は進み、人口は確実に減少していく。
 もし、それに伴って諏訪さんの力が弱まっていったとしたら……。
 さっき彼は、神様は人に求められないと存在できないと言っていた。村の人口が更に減って参拝者もいなくなったら、諏訪さんは誰にも知られることなく弱り、そして……。
 嫌な想像が脳裏に浮かび、ぞくりと悪寒がした。
 反射的に自分の体を抱きしめるように丸めた俺に気付いた諏訪さんが、心配そうにこちらを見やる。
(……諏訪さんが、消える……?)
 そんなの考えたくもない、と俺は引き寄せた膝に顔を埋める。
 消えて欲しくない、諏訪さんの近くに行く、というのなら、そう遠くない将来、俺は彼と交わることになる。
(……できるか? 諏訪さんと、その……そういう、こと)
 いなくなってしまうことを想像すると恐怖を感じるのだから、諏訪さんのことは大切だし、好き……なんだと思う。
 けれど、それが恋愛という意味での好きなのか、俺には分からない。今まで、誰にもそういう感情を持ったことがないのだから。
 役目さえ果たせれば、恋愛感情はなくてもいいのかもしれない。
 だけどそういうのって、好きな相手だからしたいと思うのではないだろうか。気持ちが伴わないのに、想像も出来ないほどに長い時間、何度も体を重ねられるものだろうか。
 諏訪さんは優しすぎるから、自分が消えてしまうことになったとしても、俺にそういう行為を強いたりはしないだろう。
 けれどだからこそ、その行為を受け入れられないのであれば、俺は側にいるべきじゃない。
 このまま20歳をすぎればいつか次の相手が生まれてくるということは、同時に複数の人が候補として存在するわけではないのだろう。つまり俺が諏訪さんを選べば、おそらく次の相手が生まれてくることはない。将来、諏訪さんに力が不足した時、彼の運命を左右するかもしれない立場だ。側にいたいけれど、体を繋ぐことはできないなんて、中途半端なことは許されない。
(……あれ? ちょっと待てよ?)
 そこまで考えて、俺はとある可能性に思い至る。
(さっき、諏訪さんは“君は、全て忘れて”って言ってた。ということは、そもそも拒否なんてしたら、二度と会えないどころか、出会ったことすらなかったことになる……?そんなんじゃ、諏訪さんに何かあっても知ることさえできないんじゃ……?)
 力が足りなくなった時も、それによって諏訪さんが消えてしまう時も、俺は知ることも気付くこともなく、ただ日常を生きていくのだ。
(それは嫌だ!)
 弾かれるように顔を上げて、諏訪さんを見る。俺が考え込んでいる間もずっと見守っていてくれたようで、すぐに目が合う。
 すると彼は、いつも通りにふわりと微笑んだ。
(……この人は……自分の行く末を大きく左右するような局面に立っているというのに、こんなにも優しく微笑んでくれるのか。俺の答え次第では、自分にとっては良くないことになるかもしれないというのに)
 そう思った途端、愛しいような苦しいような感情がこみ上げて、胸がぎゅうっと掴まれたようになる。
 諏訪さんは、どうして自分の事情よりも俺の気持ちを優先しようとするのだろう。命に関わることなんだから、もっと強引に迫られても不思議じゃない。なのに彼は、俺に選択権をくれた上に、自分で答えを出すのを待ってくれている。
 とてもありがたいことなはずなのに、俺は咄嗟に淋しい、と思った。
 諏訪さんが、自分が存在することすら諦めようとしているみたいに感じることが。
 俺は諏訪さんに、俺なんかよりも彼自身を大切にして欲しい。
 そこまで考えて、ふと気付く。諏訪さんが神様だとか、俺が人でなくなるとか、……諏訪さんとそういうことをするだとか。あまりに現実感のない話だったので、そっちにばかり気を取られていたけれど、そもそも、側にいてほしい、と言われなかっただろうか。
 話していて楽しい、一緒にいるだけで気持ちが安らぐ、と。
(あれ……?)
 それが、もし恋愛の好きと同じ意味だったとしたら……。
 自分より相手を優先しようとするのが、好きということであったなら……。
 ついさっき、俺自身も、諏訪さんには俺の気持ちより自分の事情を大切にして欲しいと思ったのではなかったか。
側にいたい、話していて楽しい、一緒にいるだけで安らぐ……。
 ……そんなのは、俺だって同じだ、と意図せずこぼれた言葉は、果たして音になっていただろうか。
 諏訪さんが消えてしまうなんて絶対に嫌だ。
 痛いことも、辛いことも、悲しいことも、そんなものは全て取り除いてあげたい。
 さっきから何度も目にしているような切なそうな笑顔じゃなくて、心から幸せそうに笑ってほしい。
(……あぁ、そうか。俺……、諏訪さんが好きだ)
 ようやく、わかった。
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