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6巻
6-2
しおりを挟む ダンジョンから出て、リークさんと二人でこれからどんな料理を作ろうかと話していたら、あっという間に街に着いた。
途中でいろんなお店に寄って調味料や野菜などを調達し、そのまま僕達はリークさんのお家に向かう。
「おじゃましまーす!」
「どうぞっす」
リークさんの部屋に入ると、前回来た時よりかなり部屋の中が整っていた。
偉い偉いと心の中で感心している僕を、リークさんは冷蔵庫のそばへと呼び、中に何が入っているのか見せてくれた。
数種類の海鮮系や肉系の魔獣の材料があり、その他にも使いかけの野菜が多く入っているみたいだ。
「う~ん……何がいいかなぁ~」
これだけの食材を前に、僕は何を作ろうかと悩む。
調味料があるにはあるけど、こう……なんて言うか、あまり『美味しい』と思えるような物が少ない。
こちらの世界にも醤油や魚醤に似た調味料はある。
けど、地球産の物とは比べることも出来ないくらい匂いがキツイし、味も超絶しょっぱい!
あとマヨネーズもどきもある。
こちらのものは、見た目は日本でよく見るマヨネーズに似ている。けど、味がよろしくない。
ネチョッとした油のような口当たりで、後から甘ったるいような酸っぱいような、不思議な味がするんだよね……
この前リークさんにお裾分けしたように、また調味料を少し分けるのも悪くないんだけど、お互い仕事があるし、頻繁に会える訳じゃないからね。
だから今回は料理だけじゃなくて、僕達が手作り出来る範囲の調味料を作ってみようと思う。
手作り調味料――まずは先ほども話題に出ていた『マヨネーズ』を作ってみようかな。
リークさんと料理を作るようになってから、『時短家庭料理』という本や『簡単に作れる手作り調味料』なんていう本が『ショッピング』内にあるのを知って、即購入したんだよね。
マヨネーズの作り方なんて知らなかったんだけど、いろんなレシピ本を読んで僕も作れるようになった。
しかも、同じマヨネーズでも作る人によって材料や作り方が微妙に違うし、味も少し変わるのが面白い。
それに本に書かれている分量を調節して、自分好みの味にするのも楽しい。
「リークさん、よかったら今回はマヨネーズを作ってみましょう」
「マヨネーズって、あの野菜にかけて食べるやつっすよね?」
「そうです。作るのも簡単なんですよ。あると便利だと思いますし……」
「マジっすか!? ぜひお願いしたいっす!」
ということで、まずは調味料作りから始めることにした。
まず、卵と塩とお酢、そしてオリーブオイルのような、搾ったまま生で利用できる植物油を用意してもらう。
材料が冷た過ぎると分離しやすくなるみたいなので、まずは常温に戻さないといけないんだけど、そんな時間はないので、リークさんが魔法でパパッと常温に戻してくれた。
「うおりゃ~!」
そうしたら、割った卵から取り出した卵黄と塩とお酢をボウルに入れ、泡だて器で混ぜ始める。
そこに油を少量ずつ加えて、かき混ぜる。
ここで油を一気に入れちゃうと、お酢と油がちゃんと混ざらずに分離しちゃうみたいなので、注意が必要だとリークさんに説明した。
「……こんなもんでいいっすかね?」
泡だて器で混ぜていたリークさんがボウルの中を見せてくれたので、スプーンで少し掬って味見してみる。
……うん、美味しいマヨネーズだ。
「良い感じです!」
「よっしゃ!」
僕の評価に、リークさんがガッツポーズをする。
「これで完成……でもいいんですが、この中にレーモの汁とか、僕が作った『フレンチマスタード』を入れると、また違った味が楽しめていいですよ」
「へぇ~」
ちなみに、この『フレンチマスタード』も購入した本の中に書かれていたものだ。
この世界にもあるマスタードに似た香辛料の粒を粉状にしたものに、塩と砂糖と白ワインビネガーを入れて混ぜちゃえば、作れるのだ。
あいにく白ワインビネガーは手に入らなかったので、白ワインとお酢を別々に入れて代用したけど。
このレシピもリークさんに教えたら喜んでもらえた。
調べているうちに中濃ソースやケチャップも作れることを知ったんだけど……これは作るのに結構時間がかかるから、また時間のある時に一緒に作ることにした。
マヨネーズ作りが上手くいったので、続いてバターを作ることにする。
『振るだけで作れるバター』というレシピがあったから、簡単だと思っていろいろと確認したんだけど……バターを作れるミルクと作れないミルクがあることを知る。
試行錯誤した結果、この世界でバター作りに適したミルクは、牛に似た動物じゃなくて羊に似た『メンメェ』から出るミルクだと判明した。
しかも、メンメェのミルクは一般家庭でも普通に飲まれていて、手に入りやすいようだ。
馴染みがある分、リークさんも作りやすいかもしれない。
そこまで話がまとまったところで、リークさんが手を挙げた。
「……で、そのバターって、どうやって作るんすか?」
「ただひたすら振ればいいだけです」
「えっ、それだけっすか!?」
驚き顔のリークさんの前で、僕は冷蔵庫の中から出してもらったメンメェのミルクを、冷やした蓋付きの瓶に入れて振り始める。
ここからは振って振って振りまくるって感じなんだけど、流石に僕の腕が使い物にならなくなってしまうので、風葉蛇のハーネにバトンタッチする。
瓶を受け取ったハーネは、そのままクルリと巻きつき、高速で回転する。
「おぉ……俺も負けてらんないっす!」
ハーネの動きに触発されたリークさんは、自分の腕をまくって、メンメェミルクを入れた瓶を掴むと、目にも止まらぬ早さで振り出した。
流石Sランク冒険者、純粋な体力も規格外だ。
腕の動きが速すぎて見えません。
僕がやれば三十分以上はかかるバター作りは、ハーネとリークさんにかかれば十分足らずで終了した。
ちょっと二人とも息切れしているけど、瓶の中身は液体だったミルクがしっかり分離している。
ボウルの上にザルを置き、瓶の蓋を開けて中身をザルで濾せば……バターの出来上がりだ!
濾してボウルに溜まった液体は低脂肪ミルクなので、そのまま飲んでもOK。
リークさんは、瓶の中身を見下ろしながら口を開く。
「この不揃いの塊が『バター』っすか?」
「はい。バターは料理の他にお菓子作りにも使える食材なんですよ」
「へぇ~!」
調味料系はこれくらいでいいかな。
リークさんに渡す為のストックも出来たし、次へ行こう。
リークさんの感心した声を聞きながら、僕はメニューを考え始める。
せっかくだから、今作った調味料を使った料理にしたいよね。
「そうだな……マヨトーストと海鮮サンドイッチ、それと果物とバターを使ったデザートにしようかな」
タブレットで『レシピ』を見ながら作るものを決めてから、僕はリークさんにパンを出してもらうようお願いする。
そして食べやすい大きさにカットしてもらった。
まずはマヨトーストを作ってみよう!
僕は、作ったばかりのマヨネーズの中に魔草『コロコロコロン』の実をたっぷり入れる。
ちなみにこの『コロコロコロン』は、ひまわりにすごく似ている魔草だ。
だけど、その魔草の〝種〟の部分は……まんま、とうきびのコーン。
ひまわりの種ならぬ、コロコロコロンの種は、茹でても焼いても美味しい。
それをカットしてもらったパンの上にたっぷりとのせて、焼いていく。
「マヨネーズって、野菜に付けて食べたりしてましたが……これを焼くんすか?」
リークさんは、僕の作業を半信半疑でじっと見る。
「ふふふ……実はマヨネーズは焼いてもめっちゃ美味しいんですよ」
「マジっすか……料理って奥が深いっすね」
感心しているリークさんに頷き返して、僕はもう一品の調理に入った。
使うのは、冷蔵庫の中にあったサラダの残りとヨーグルトだ。
それから町の魚屋さんで買ってきたサーモンに似た魚を燻製にしたスモークサーモンみたいなものがあったので、それも使おう。
フランスパンに似たパンの表面を軽く焼いてから、中に切れ目を入れ、表面にマヨネーズとフレンチマスタードを混ぜたものを薄く塗り、そこにサラダをのせていく。
それからリークさんに薄くカットしてもらったスモークサーモンを、たっぷり重ねた。
「これだけでも美味そうっすね」
「この上にソースをかければ、さらに美味しくなりますよ」
そう言って、ボウルの中にヨーグルトと植物オイル、それにこの世界で手に入れたスパイスやハーブ、岩塩や胡椒などを独自にブレンドしたオリジナル調味料を少量振りかけて混ぜる。
出来上がったソースを、お好みの量かければ完成だ!
マヨコーントーストの方もいい感じに焼きあがっていた。
出来たものをお皿に移してから、最後にリンゴに似た果物――リッコのデザート作りに取りかかる。
まずはリークさんに、リッコを洗ってもらい、皮付きのまま食べやすい大きさにカットしてもらう。
そこから熱したフライパンでバターを溶かし、カットしたリッコを並べて焼き色がつくまで焼く。
リッコが柔らかくなったところで砂糖を加え、さらに焼いていき――リッコの表面にとろみが出てきたらフライパンから取り出して、お皿に盛り付ける。
飴色になったリッコを眺めて、リークさんは声を上げた。
「うおぉぉっ、めっちゃいい匂いっす!」
「はいっ、これで全品作り終えました!」
リークさんの目が、出来上がった三品に釘付けになった。
今すぐにでも食べたそうな顔をするリークさん。
「それじゃあ、食べましょうか」
僕がそう言うと、彼は器用に全てのお皿を持って、食卓テーブルへと運んでいった。
ちなみに、ハーネとライは既にお行儀よくテーブルで待っている。
食べる準備が済んだところで、二人で挨拶する。
「それじゃあ、いただきまっす!」
「いただきま~す」
最初にサーモンサンドを一口。
魚の生臭さはハーブやスパイスなどがたくさん入ったヨーグルトソースによって綺麗に消えていたし、サラダやパンとの相性も抜群だった。
そのままマヨトーストを手に持って、口に運ぶ。
うまっ!
マヨネーズとコーンの組み合わせは大正解だった。
リークさんも美味しそうに食べている。
「俺、こんな食べ物……初めて食べるっす」
「ちなみに、コロコロコロンもいいですが、ここに『ツナ』……えっと、『ツナ』という魚系の魔獣を使った食材があるんですが、それを混ぜても違った美味しさのものが出来ますよ」
「そんなのもあるんすね。今度教えてほしいっす」
「もちろんです!」
そしてあっという間にメインの二品を食べ終えた僕達は、食後のデザートに手を伸ばす。
『リッコのカラメルバター焼き』は作り方がとても簡単だから、リークさんなら食べたいと思った時にいつでも作れるはず。
柔らかくなったリッコをフォークで刺し、リークさんはパクリと一口で食べる。
「ん~っ!」
口に含んだ瞬間、目を見開いて驚いた表情をしたと思ったら、フォークを握り締めて喜び出す。
「「くぅ~、うめぇーっ! 師匠! リッコが……あの、ガツンと脳天に突き刺さるんじゃないかってくらい酸っぱいリッコが、こんなに甘くて美味しい食べ物になるなんて!」
「ふふふ、リッコはそのまま食べるより、火を通すと甘みが増して、美味しくなるんですよね」
「そうなんすね~。はぁー……やっぱ、師匠は天才っすね」
「あ、あははは」
いや……僕が天才というよりは、タブレットの『レシピ』のアプリや、地球の料理本のおかげなんだけどね。
《あるじ、おいしい!》
《むぐむぐ……ごしゅじん、てんさい》
どうやらハーネやライも気に入ってくれたようだ。
ひと通り食べ終えて、僕は、リークさんが淹れてくれたお茶を飲んで一息入れる。
それからしばらくして、ふと時計を確認したら、リークさんの会議の時間が近付いていることに気付く。
「わ、ごめんなさい! すごく長居しちゃいました!」
「いやいや、気にしないでください。師匠との話は本当にためになるんで。俺はありがたいと思ってるっすよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです。でも、これからギルドに行かなきゃですよね」
「確かに……面倒っす」
「あはは、お仕事頑張ってください」
「うぃ~っす」
そんなやり取りをしながら、帰る準備をする。
ライとハーネを連れて玄関に来た僕は、本日作った調味料を使ったレシピを何種類か書いたメモを、リークさんに手渡した。
「わっ! またこんなにいっぱい書いてくれたんすか!」
「今回は作りやすいものの他に、ちょっと手の込んだ料理もいっぱい書いてみました。そろそろ、リークさんも料理の腕が上がってきたので、そういうものにも挑戦したい頃かなと思って」
「流石師匠! あざっす!」
僕からレシピメモを受け取ったリークさんはニコニコ顔だ。
「次に来てもらう時まで、また料理の腕を上げてみせるっす!」
そして僕にそう約束してくれた。
それは楽しみだなと思いながら、僕達はリークさんに手を振って、家から離れていったのだった。
旅行が当たっちゃった!?
数日が過ぎた、ある日のこと。
「ひ~ま~」
暁の家で、三人掛けのソファーにゴロリと寝転がっている暁のリーダーのフェリスさんが、だらけた様子でそう言い出した。
近くで本を読んでいたクルゥ君は、眉を顰める。
「……もぅ~、さっきから暇、暇って煩いなぁ。そんなに暇なら、なんか適当に依頼でも受けてきたらいいじゃん」
「だぁ~ってぇ~! ここ最近の依頼は、面倒な案件の割に報酬が安いものばっかりなんだもの」
「選り好みはダメでしょ」
「私……妥協はしない主義なのよ」
「……あっ、そ」
クルゥ君は、ダメだこりゃといった風に首を横に振った。
そして僕に目を向けると、声をかけてきた。
「ねぇ、ケントはこれから用事とか入ってた?」
「ん? 特に何も入ってないけど?」
「じゃあさ、これからギルドに何か良い依頼がないか見に行かない?」
「うん、いいよ」
クルゥ君の提案に、僕は頷く。
部屋の掃除も終わったし、今日はこれといった用事もなく、僕も少し退屈していたところだった。
「いってらっしゃ~い。良い依頼を見つけてきてね~」
居間から出ようとする僕とクルゥ君の後ろから、フェリスさんの声が聞こえてきた。
振り向くと、寝たまま右腕だけを上げて手を振っている。
「行こう、ケント」
クルゥ君は、そんなフェリスさんを半眼で見てから、はぁ……と溜息を吐いた。
「あのさ、フェリスさんはなんであんなに疲れ切った感じだったんだろうね?」
クルゥ君と二人で町を歩きながら、僕は首を傾げてそう問いかける。
そこで何かを思い出したのか、クルゥ君が「あ!」と口を開いた。
「どうしたの?」
「いやさ、なんかつい最近、とても面倒な個人依頼の仕事を終えたばかりだって……グレイシスに愚痴をこぼしていたのを思い出して」
……そういえば、ここ一週間は昼食はずっと外で食べていたようだし、帰りも遅かったような気がする。同じパーティメンバーのグレイシスさんも大変だなぁ。
「じゃあ、依頼を終えたから、あんなにダル~ッとしていたのかな?」
「たぶんそうかも。悪いことしちゃったかな」
フェリスさんが個人的に受けている依頼がどんな内容なのか、僕達にはいまだに分からない。
ただ、いつも飄々とした感じの彼女が、今回あんなに疲れた様子でいるのを見ると……よっぽど大変だったんだろうな。
そんな話をしながらクルゥ君とギルドまで歩いていると、噴水広場の周辺に人だかりが出来ているのに気付く。
「何か催し物でもあるのかな?」
その場から離れていく人々は一喜一憂している。
「……え、本当に何があるんだろう?」
「さぁ……でも、喜んでいる人は、何かをもらっているみたいだよ?」
「あ、本当だ……ねぇ、ケント。ちょっと近くに行ってみない?」
僕も少し気になっていたので、その言葉に迷わず頷いた。
クルゥ君に続いて、人だかりの近くに寄っていくと、小さなテントが目に入った。
そして、そこにいた顔の半分――額から鼻まで――を動物の仮面で覆った店員のような人達の姿が目に留まる。
店員さん達は、道行く人の足を止めようと、宣伝していた。
「さぁさぁ、皆さん! たった五百レンで豪華な景品が当たるくじを引いてみませんかぁ~!」
「三等の『半年分の高級お肉セット』と五等『一万レン相当の商品券』が当選しております!」
「まだ一等『あなたの疲れた心と体を癒す豪華な食事と温泉付き五泊の旅~高級ホテルでゆったり夢気分☆~』が残っております!」
「ハズレを引いても、プレゼントがありますよ~」
どうやら、皆はくじ引きに集まっていたみたいだ。
よく夏祭りとかで、当たりもしない景品のくじを引いていたよな~なんて思っていると、テントの近くで荷物の整理をしていた他の店員さんと目が合った。
「ん?」
「どうしたの? ケント」
「あぁ、いや……なんかそこにいる店員さんが僕を見た瞬間になんかビックリしていたから」
「知り合い?」
クルゥ君にそう言われて、僕は記憶を辿る。
思い出そうとしてみても、相手は顔の半分がお面で隠れていて、鼻から下しか見えないから、よく分からない。
「ん~……なんとなく、どこかで会ったような気がするような、ないような……」
町の中かギルドとかで出会っているのか、それともダンジョンの中でだろうか……
誰かに似ている気もするんだけどなぁ。
思い出せそうで思い出せない。
あともうちょっとで思い出せそう――という時、そのお兄さんの方が先に声をかけてきた。
「そこのお兄さん方! 良かったらくじを引いていきませんか?」
他の店員さん達もこちらに気付いて僕達に手を振っている。
くじの道具がある机の周りからは、いつの間にかお客さん達が消えていた。
さっきまではテーブルの周りに人が溢れていたのに……おかしいなぁ。
「あれ? 今の今まであんなに人がいたのに」
クルゥ君も不思議そうに首を傾げる。
そう話している間にも、テントの周りからはどんどん人が離れていく。
「いやぁ~、今までここにいた方はくじを引き終えたので、お帰りになられたんですよ」
「まだくじは数枚残っているので、もしよかったら引いていきませんか~?」
店員さん達はニコニコと笑ながら、手に箱を持って僕達に見せるように軽く振る。
「どうする?」
「ん~、はずれてもなにかもらえるようだし……せっかくだから引いていこっか」
僕とクルゥ君はお財布の中から五百レンを出すと、店員さんに手渡した。
まず初めに僕がくじを引いてみる。
箱の中に手を入れ、ガサゴソと中をかき回してから一枚の紙を手に掴み、引き上げる。
紙を店員さんに手渡すと、中身を見た店員さんが額に手を当てる。
「残念~! ハズレでした」
そう言って、ハズレ用の景品の文房具セットをくれた。
まぁ、そうですよね……簡単に豪華な景品が当たるはずがないよね。
うん、分かってた。
僕がもらった文房具セットを腕輪の中に仕舞っている横で、クルゥ君が箱の中に手を入れる。
そして――
途中でいろんなお店に寄って調味料や野菜などを調達し、そのまま僕達はリークさんのお家に向かう。
「おじゃましまーす!」
「どうぞっす」
リークさんの部屋に入ると、前回来た時よりかなり部屋の中が整っていた。
偉い偉いと心の中で感心している僕を、リークさんは冷蔵庫のそばへと呼び、中に何が入っているのか見せてくれた。
数種類の海鮮系や肉系の魔獣の材料があり、その他にも使いかけの野菜が多く入っているみたいだ。
「う~ん……何がいいかなぁ~」
これだけの食材を前に、僕は何を作ろうかと悩む。
調味料があるにはあるけど、こう……なんて言うか、あまり『美味しい』と思えるような物が少ない。
こちらの世界にも醤油や魚醤に似た調味料はある。
けど、地球産の物とは比べることも出来ないくらい匂いがキツイし、味も超絶しょっぱい!
あとマヨネーズもどきもある。
こちらのものは、見た目は日本でよく見るマヨネーズに似ている。けど、味がよろしくない。
ネチョッとした油のような口当たりで、後から甘ったるいような酸っぱいような、不思議な味がするんだよね……
この前リークさんにお裾分けしたように、また調味料を少し分けるのも悪くないんだけど、お互い仕事があるし、頻繁に会える訳じゃないからね。
だから今回は料理だけじゃなくて、僕達が手作り出来る範囲の調味料を作ってみようと思う。
手作り調味料――まずは先ほども話題に出ていた『マヨネーズ』を作ってみようかな。
リークさんと料理を作るようになってから、『時短家庭料理』という本や『簡単に作れる手作り調味料』なんていう本が『ショッピング』内にあるのを知って、即購入したんだよね。
マヨネーズの作り方なんて知らなかったんだけど、いろんなレシピ本を読んで僕も作れるようになった。
しかも、同じマヨネーズでも作る人によって材料や作り方が微妙に違うし、味も少し変わるのが面白い。
それに本に書かれている分量を調節して、自分好みの味にするのも楽しい。
「リークさん、よかったら今回はマヨネーズを作ってみましょう」
「マヨネーズって、あの野菜にかけて食べるやつっすよね?」
「そうです。作るのも簡単なんですよ。あると便利だと思いますし……」
「マジっすか!? ぜひお願いしたいっす!」
ということで、まずは調味料作りから始めることにした。
まず、卵と塩とお酢、そしてオリーブオイルのような、搾ったまま生で利用できる植物油を用意してもらう。
材料が冷た過ぎると分離しやすくなるみたいなので、まずは常温に戻さないといけないんだけど、そんな時間はないので、リークさんが魔法でパパッと常温に戻してくれた。
「うおりゃ~!」
そうしたら、割った卵から取り出した卵黄と塩とお酢をボウルに入れ、泡だて器で混ぜ始める。
そこに油を少量ずつ加えて、かき混ぜる。
ここで油を一気に入れちゃうと、お酢と油がちゃんと混ざらずに分離しちゃうみたいなので、注意が必要だとリークさんに説明した。
「……こんなもんでいいっすかね?」
泡だて器で混ぜていたリークさんがボウルの中を見せてくれたので、スプーンで少し掬って味見してみる。
……うん、美味しいマヨネーズだ。
「良い感じです!」
「よっしゃ!」
僕の評価に、リークさんがガッツポーズをする。
「これで完成……でもいいんですが、この中にレーモの汁とか、僕が作った『フレンチマスタード』を入れると、また違った味が楽しめていいですよ」
「へぇ~」
ちなみに、この『フレンチマスタード』も購入した本の中に書かれていたものだ。
この世界にもあるマスタードに似た香辛料の粒を粉状にしたものに、塩と砂糖と白ワインビネガーを入れて混ぜちゃえば、作れるのだ。
あいにく白ワインビネガーは手に入らなかったので、白ワインとお酢を別々に入れて代用したけど。
このレシピもリークさんに教えたら喜んでもらえた。
調べているうちに中濃ソースやケチャップも作れることを知ったんだけど……これは作るのに結構時間がかかるから、また時間のある時に一緒に作ることにした。
マヨネーズ作りが上手くいったので、続いてバターを作ることにする。
『振るだけで作れるバター』というレシピがあったから、簡単だと思っていろいろと確認したんだけど……バターを作れるミルクと作れないミルクがあることを知る。
試行錯誤した結果、この世界でバター作りに適したミルクは、牛に似た動物じゃなくて羊に似た『メンメェ』から出るミルクだと判明した。
しかも、メンメェのミルクは一般家庭でも普通に飲まれていて、手に入りやすいようだ。
馴染みがある分、リークさんも作りやすいかもしれない。
そこまで話がまとまったところで、リークさんが手を挙げた。
「……で、そのバターって、どうやって作るんすか?」
「ただひたすら振ればいいだけです」
「えっ、それだけっすか!?」
驚き顔のリークさんの前で、僕は冷蔵庫の中から出してもらったメンメェのミルクを、冷やした蓋付きの瓶に入れて振り始める。
ここからは振って振って振りまくるって感じなんだけど、流石に僕の腕が使い物にならなくなってしまうので、風葉蛇のハーネにバトンタッチする。
瓶を受け取ったハーネは、そのままクルリと巻きつき、高速で回転する。
「おぉ……俺も負けてらんないっす!」
ハーネの動きに触発されたリークさんは、自分の腕をまくって、メンメェミルクを入れた瓶を掴むと、目にも止まらぬ早さで振り出した。
流石Sランク冒険者、純粋な体力も規格外だ。
腕の動きが速すぎて見えません。
僕がやれば三十分以上はかかるバター作りは、ハーネとリークさんにかかれば十分足らずで終了した。
ちょっと二人とも息切れしているけど、瓶の中身は液体だったミルクがしっかり分離している。
ボウルの上にザルを置き、瓶の蓋を開けて中身をザルで濾せば……バターの出来上がりだ!
濾してボウルに溜まった液体は低脂肪ミルクなので、そのまま飲んでもOK。
リークさんは、瓶の中身を見下ろしながら口を開く。
「この不揃いの塊が『バター』っすか?」
「はい。バターは料理の他にお菓子作りにも使える食材なんですよ」
「へぇ~!」
調味料系はこれくらいでいいかな。
リークさんに渡す為のストックも出来たし、次へ行こう。
リークさんの感心した声を聞きながら、僕はメニューを考え始める。
せっかくだから、今作った調味料を使った料理にしたいよね。
「そうだな……マヨトーストと海鮮サンドイッチ、それと果物とバターを使ったデザートにしようかな」
タブレットで『レシピ』を見ながら作るものを決めてから、僕はリークさんにパンを出してもらうようお願いする。
そして食べやすい大きさにカットしてもらった。
まずはマヨトーストを作ってみよう!
僕は、作ったばかりのマヨネーズの中に魔草『コロコロコロン』の実をたっぷり入れる。
ちなみにこの『コロコロコロン』は、ひまわりにすごく似ている魔草だ。
だけど、その魔草の〝種〟の部分は……まんま、とうきびのコーン。
ひまわりの種ならぬ、コロコロコロンの種は、茹でても焼いても美味しい。
それをカットしてもらったパンの上にたっぷりとのせて、焼いていく。
「マヨネーズって、野菜に付けて食べたりしてましたが……これを焼くんすか?」
リークさんは、僕の作業を半信半疑でじっと見る。
「ふふふ……実はマヨネーズは焼いてもめっちゃ美味しいんですよ」
「マジっすか……料理って奥が深いっすね」
感心しているリークさんに頷き返して、僕はもう一品の調理に入った。
使うのは、冷蔵庫の中にあったサラダの残りとヨーグルトだ。
それから町の魚屋さんで買ってきたサーモンに似た魚を燻製にしたスモークサーモンみたいなものがあったので、それも使おう。
フランスパンに似たパンの表面を軽く焼いてから、中に切れ目を入れ、表面にマヨネーズとフレンチマスタードを混ぜたものを薄く塗り、そこにサラダをのせていく。
それからリークさんに薄くカットしてもらったスモークサーモンを、たっぷり重ねた。
「これだけでも美味そうっすね」
「この上にソースをかければ、さらに美味しくなりますよ」
そう言って、ボウルの中にヨーグルトと植物オイル、それにこの世界で手に入れたスパイスやハーブ、岩塩や胡椒などを独自にブレンドしたオリジナル調味料を少量振りかけて混ぜる。
出来上がったソースを、お好みの量かければ完成だ!
マヨコーントーストの方もいい感じに焼きあがっていた。
出来たものをお皿に移してから、最後にリンゴに似た果物――リッコのデザート作りに取りかかる。
まずはリークさんに、リッコを洗ってもらい、皮付きのまま食べやすい大きさにカットしてもらう。
そこから熱したフライパンでバターを溶かし、カットしたリッコを並べて焼き色がつくまで焼く。
リッコが柔らかくなったところで砂糖を加え、さらに焼いていき――リッコの表面にとろみが出てきたらフライパンから取り出して、お皿に盛り付ける。
飴色になったリッコを眺めて、リークさんは声を上げた。
「うおぉぉっ、めっちゃいい匂いっす!」
「はいっ、これで全品作り終えました!」
リークさんの目が、出来上がった三品に釘付けになった。
今すぐにでも食べたそうな顔をするリークさん。
「それじゃあ、食べましょうか」
僕がそう言うと、彼は器用に全てのお皿を持って、食卓テーブルへと運んでいった。
ちなみに、ハーネとライは既にお行儀よくテーブルで待っている。
食べる準備が済んだところで、二人で挨拶する。
「それじゃあ、いただきまっす!」
「いただきま~す」
最初にサーモンサンドを一口。
魚の生臭さはハーブやスパイスなどがたくさん入ったヨーグルトソースによって綺麗に消えていたし、サラダやパンとの相性も抜群だった。
そのままマヨトーストを手に持って、口に運ぶ。
うまっ!
マヨネーズとコーンの組み合わせは大正解だった。
リークさんも美味しそうに食べている。
「俺、こんな食べ物……初めて食べるっす」
「ちなみに、コロコロコロンもいいですが、ここに『ツナ』……えっと、『ツナ』という魚系の魔獣を使った食材があるんですが、それを混ぜても違った美味しさのものが出来ますよ」
「そんなのもあるんすね。今度教えてほしいっす」
「もちろんです!」
そしてあっという間にメインの二品を食べ終えた僕達は、食後のデザートに手を伸ばす。
『リッコのカラメルバター焼き』は作り方がとても簡単だから、リークさんなら食べたいと思った時にいつでも作れるはず。
柔らかくなったリッコをフォークで刺し、リークさんはパクリと一口で食べる。
「ん~っ!」
口に含んだ瞬間、目を見開いて驚いた表情をしたと思ったら、フォークを握り締めて喜び出す。
「「くぅ~、うめぇーっ! 師匠! リッコが……あの、ガツンと脳天に突き刺さるんじゃないかってくらい酸っぱいリッコが、こんなに甘くて美味しい食べ物になるなんて!」
「ふふふ、リッコはそのまま食べるより、火を通すと甘みが増して、美味しくなるんですよね」
「そうなんすね~。はぁー……やっぱ、師匠は天才っすね」
「あ、あははは」
いや……僕が天才というよりは、タブレットの『レシピ』のアプリや、地球の料理本のおかげなんだけどね。
《あるじ、おいしい!》
《むぐむぐ……ごしゅじん、てんさい》
どうやらハーネやライも気に入ってくれたようだ。
ひと通り食べ終えて、僕は、リークさんが淹れてくれたお茶を飲んで一息入れる。
それからしばらくして、ふと時計を確認したら、リークさんの会議の時間が近付いていることに気付く。
「わ、ごめんなさい! すごく長居しちゃいました!」
「いやいや、気にしないでください。師匠との話は本当にためになるんで。俺はありがたいと思ってるっすよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです。でも、これからギルドに行かなきゃですよね」
「確かに……面倒っす」
「あはは、お仕事頑張ってください」
「うぃ~っす」
そんなやり取りをしながら、帰る準備をする。
ライとハーネを連れて玄関に来た僕は、本日作った調味料を使ったレシピを何種類か書いたメモを、リークさんに手渡した。
「わっ! またこんなにいっぱい書いてくれたんすか!」
「今回は作りやすいものの他に、ちょっと手の込んだ料理もいっぱい書いてみました。そろそろ、リークさんも料理の腕が上がってきたので、そういうものにも挑戦したい頃かなと思って」
「流石師匠! あざっす!」
僕からレシピメモを受け取ったリークさんはニコニコ顔だ。
「次に来てもらう時まで、また料理の腕を上げてみせるっす!」
そして僕にそう約束してくれた。
それは楽しみだなと思いながら、僕達はリークさんに手を振って、家から離れていったのだった。
旅行が当たっちゃった!?
数日が過ぎた、ある日のこと。
「ひ~ま~」
暁の家で、三人掛けのソファーにゴロリと寝転がっている暁のリーダーのフェリスさんが、だらけた様子でそう言い出した。
近くで本を読んでいたクルゥ君は、眉を顰める。
「……もぅ~、さっきから暇、暇って煩いなぁ。そんなに暇なら、なんか適当に依頼でも受けてきたらいいじゃん」
「だぁ~ってぇ~! ここ最近の依頼は、面倒な案件の割に報酬が安いものばっかりなんだもの」
「選り好みはダメでしょ」
「私……妥協はしない主義なのよ」
「……あっ、そ」
クルゥ君は、ダメだこりゃといった風に首を横に振った。
そして僕に目を向けると、声をかけてきた。
「ねぇ、ケントはこれから用事とか入ってた?」
「ん? 特に何も入ってないけど?」
「じゃあさ、これからギルドに何か良い依頼がないか見に行かない?」
「うん、いいよ」
クルゥ君の提案に、僕は頷く。
部屋の掃除も終わったし、今日はこれといった用事もなく、僕も少し退屈していたところだった。
「いってらっしゃ~い。良い依頼を見つけてきてね~」
居間から出ようとする僕とクルゥ君の後ろから、フェリスさんの声が聞こえてきた。
振り向くと、寝たまま右腕だけを上げて手を振っている。
「行こう、ケント」
クルゥ君は、そんなフェリスさんを半眼で見てから、はぁ……と溜息を吐いた。
「あのさ、フェリスさんはなんであんなに疲れ切った感じだったんだろうね?」
クルゥ君と二人で町を歩きながら、僕は首を傾げてそう問いかける。
そこで何かを思い出したのか、クルゥ君が「あ!」と口を開いた。
「どうしたの?」
「いやさ、なんかつい最近、とても面倒な個人依頼の仕事を終えたばかりだって……グレイシスに愚痴をこぼしていたのを思い出して」
……そういえば、ここ一週間は昼食はずっと外で食べていたようだし、帰りも遅かったような気がする。同じパーティメンバーのグレイシスさんも大変だなぁ。
「じゃあ、依頼を終えたから、あんなにダル~ッとしていたのかな?」
「たぶんそうかも。悪いことしちゃったかな」
フェリスさんが個人的に受けている依頼がどんな内容なのか、僕達にはいまだに分からない。
ただ、いつも飄々とした感じの彼女が、今回あんなに疲れた様子でいるのを見ると……よっぽど大変だったんだろうな。
そんな話をしながらクルゥ君とギルドまで歩いていると、噴水広場の周辺に人だかりが出来ているのに気付く。
「何か催し物でもあるのかな?」
その場から離れていく人々は一喜一憂している。
「……え、本当に何があるんだろう?」
「さぁ……でも、喜んでいる人は、何かをもらっているみたいだよ?」
「あ、本当だ……ねぇ、ケント。ちょっと近くに行ってみない?」
僕も少し気になっていたので、その言葉に迷わず頷いた。
クルゥ君に続いて、人だかりの近くに寄っていくと、小さなテントが目に入った。
そして、そこにいた顔の半分――額から鼻まで――を動物の仮面で覆った店員のような人達の姿が目に留まる。
店員さん達は、道行く人の足を止めようと、宣伝していた。
「さぁさぁ、皆さん! たった五百レンで豪華な景品が当たるくじを引いてみませんかぁ~!」
「三等の『半年分の高級お肉セット』と五等『一万レン相当の商品券』が当選しております!」
「まだ一等『あなたの疲れた心と体を癒す豪華な食事と温泉付き五泊の旅~高級ホテルでゆったり夢気分☆~』が残っております!」
「ハズレを引いても、プレゼントがありますよ~」
どうやら、皆はくじ引きに集まっていたみたいだ。
よく夏祭りとかで、当たりもしない景品のくじを引いていたよな~なんて思っていると、テントの近くで荷物の整理をしていた他の店員さんと目が合った。
「ん?」
「どうしたの? ケント」
「あぁ、いや……なんかそこにいる店員さんが僕を見た瞬間になんかビックリしていたから」
「知り合い?」
クルゥ君にそう言われて、僕は記憶を辿る。
思い出そうとしてみても、相手は顔の半分がお面で隠れていて、鼻から下しか見えないから、よく分からない。
「ん~……なんとなく、どこかで会ったような気がするような、ないような……」
町の中かギルドとかで出会っているのか、それともダンジョンの中でだろうか……
誰かに似ている気もするんだけどなぁ。
思い出せそうで思い出せない。
あともうちょっとで思い出せそう――という時、そのお兄さんの方が先に声をかけてきた。
「そこのお兄さん方! 良かったらくじを引いていきませんか?」
他の店員さん達もこちらに気付いて僕達に手を振っている。
くじの道具がある机の周りからは、いつの間にかお客さん達が消えていた。
さっきまではテーブルの周りに人が溢れていたのに……おかしいなぁ。
「あれ? 今の今まであんなに人がいたのに」
クルゥ君も不思議そうに首を傾げる。
そう話している間にも、テントの周りからはどんどん人が離れていく。
「いやぁ~、今までここにいた方はくじを引き終えたので、お帰りになられたんですよ」
「まだくじは数枚残っているので、もしよかったら引いていきませんか~?」
店員さん達はニコニコと笑ながら、手に箱を持って僕達に見せるように軽く振る。
「どうする?」
「ん~、はずれてもなにかもらえるようだし……せっかくだから引いていこっか」
僕とクルゥ君はお財布の中から五百レンを出すと、店員さんに手渡した。
まず初めに僕がくじを引いてみる。
箱の中に手を入れ、ガサゴソと中をかき回してから一枚の紙を手に掴み、引き上げる。
紙を店員さんに手渡すと、中身を見た店員さんが額に手を当てる。
「残念~! ハズレでした」
そう言って、ハズレ用の景品の文房具セットをくれた。
まぁ、そうですよね……簡単に豪華な景品が当たるはずがないよね。
うん、分かってた。
僕がもらった文房具セットを腕輪の中に仕舞っている横で、クルゥ君が箱の中に手を入れる。
そして――
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