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5巻
5-3
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「よろしくお願いします、ケントさん」
「こちらこそ……お願いします」
僕はいきなり色んな情報が流れてきたことに戸惑いながら、握手した。
話を聞くと、リークさんとミリスティアさんがSランク冒険者であり、アリシアさんはもう少ししたらSランクになれるほどの実力者とのことだ。
まさかこんな身近に腕利きの冒険者が集まっているなんて思わなかった。
「そ、そんな凄い方がどうしてギルドの受付を……?」
思ったことがスルリと口から出てしまう。
そこで、この世界に来た頃に『カメラ』という撮った人物のステータスが分かるアプリでギルド職員を撮った時、全然ランクが見られない人が多かったのをふと思い出した。
あれも自分より遥かに上の冒険者だから、僕のアプリの力が働かなかったってことだったのかな。
シーヘンズさんは僕の質問にさらっと答えてくれる。
「あはは、ここにいる子達は、元々どこのパーティにも属していない、単独行動を好む子達でね……依頼を受けない時は暇だって言うんで、こうしてギルド職員として働いてもらっているんだ。もちろん職員全員が高ランク保持者、と言うわけではないよ。戦闘経験が皆無の一般人もいるしね」
「あ、そうなんですね」
僕が三人を見ると、ミリスティアさんとアリシアさんがニッコリと笑いかけてくれた。
その雰囲気は、Sランクとは思えないほどのほほんとしたものだったけど、言われてみればどことなく歴戦の猛者の風格を感じさせる。
人は見かけによらないな。
そんな風に考えていたら、シーヘンズさんは手をパンッと叩いた。
「それで、このダンジョンに行く日程だね……だいたい長くても一週間滞在の企画をしているんだけど、ケント君はいつ頃なら都合がいいとかあるかな?」
「あ、出来れば早めに行ければいいな~と」
妖精族の国からの招待もあったし、あんまり遅いとそれと日程が被っちゃうからね。
「ふむ……皆は準備にどれだけ時間がかかるかな?」
シーヘンズさんが自分の後ろに立っている三人へと振り向いてそう聞くと、代表してミリスティアさんが口を開いた。
「準備は出来ているので、明日からでも行けますよ。ケント君の予定に合わせます」
「そ、そうですか……」
僕はそう言って、直近の予定を思い浮かべた。
ここ数日で、暁として何か依頼を受けている仕事はない。
問題は僕がいない間の食事の準備と妖精国に行くための用意、あとはお店に卸す魔法薬を作る時間が必要かな。全部合わせて三日くらい余裕は欲しい。
「あの、それでしたら三日後はどうでしょうか?」
僕がおずおずと提案すると、シーヘンズさんは頷いてくれた。
「こちらは問題ありません。では、三日後のギルド受付開始時間に来てください」
「分かりました。よろしくお願いします!」
僕はそう元気に返事をして、ギルドから出る。
暁に戻る途中、僕は魔法薬の素材のことを忘れてたことに気付いた。
すっかり旅行のことを話し込んでしまって、頭から抜けてたなぁ。
「そんなに量もないし、今回はサクッとお店で買うか」
そう呟き、お店に入った僕は、素材をいくつか購入する。
店を出ると、再び暁の家に向かう道を歩く。
家に戻った後、僕は早速執務室に入り、フェリスさんにギルドであったことを話した。
ひと通り話し終えた後、フェリスさんは椅子から勢いよく立ち上がった。
「えっ!? ケント君、あの『ギルマスおススメ! ギルド職員と行く快適ダンジョン旅行』に当たったの?」
フェリスさんはあの依頼書を見つけることで行ける旅行のことをそう呼んでいるのか。
「いえ、当たったと言うか……依頼書が張り付けられている掲示板の一番奥、それも隅っこの方に、依頼書とはまた違った紙があったので、それを持って受付に行ったんです」
フェリスさんは、力が抜けたようにそのままドカッと椅子に座り直すと、溜息を吐く。
「ケント君って……ほんと、いろいろと凄いわよね~。実はこれ、他の冒険者が見てもスルーしちゃうものなのよ」
「えっ、なんでですか?」
掲示板に依頼書とは全く違った紙が紛れ込んでいれば、悪戯かなにかかと思って無視してしまうのが普通だとフェリスさんは説明してくれた。
確かに、真面目な依頼の中にそんな紙が紛れてたら、そう思っちゃうのも仕方がないかもしれないよね。
「あとは……それ以前に、その紙にはある種の〝呪い〟がかけられていて、Bランク未満の冒険者はこの紙を見付けることが出来ないようになってるの」
「え、なんでですか?」
「Sランク冒険者が付くといっても、上級ダンジョンに行くわけだからね。最低限の安全対策として、戦闘経験がほぼない冒険者は連れて行かないことにしてるんだって」
じゃあ僕が当たったのは冒険者ギルドにとっては本当に異例中の異例だったんだな。
「へぇ~、そうなんですね……って……フェリスさん、なんでそんなに詳しいんですか?」
不思議に思ってそう聞けば、フェリスさんはあら、と口に手を当てた。
「あれ、言ってなかった? 私、ギルドマスターのシーヘンズとは長い付き合いなのよ」
フェリスさんの話によれば、シーヘンズさんとは小さい頃から一緒に育った幼馴染なんだとか。
フェリスさんが剣の修行をするために住んでいた森を出る時、シーヘンズさんも一緒に付いて来たんだって。
その頃を思い返すようにフェリスさんは色々と話してくれた。
「小さい頃のシーヘンズはどんくさくってね~。いっつも私の後を泣きながら歩いてたのよ」
「ほぉ……」
「森を出てから別々に行動するまでの間、私が剣術やその他のこともいろいろと面倒を見てあげていたんだけど……まさかあのひ弱なシーヘンズがギルドマスターになるなんて、夢にも思わなかったわ」
「そうだったんですね!」
「それなのにさー、『僕はもう君が作る食事には付き合いきれない!』とかなんとか言い出したと思ったら、その日のうちにどっかに行っちゃって~。薄情な奴よね~」
そう言ってフェリスさんは遠い目をした。
だけど、あの不思議物体Xとしか呼べない禍々しい物やクルゥ君にダークマターと言われるほどの料理を何年も食べさせられていたら、そういう反応になるのも無理はないだろう。
僕でもちょっとご遠慮したいと思うし、フェリスさんには失礼かもしれないが、むしろ何年もアレを食べていたシーヘンズさんが偉いとさえ思ってしまった。
それから長い間別々に生きていたが、シーヘンズさんがギルドマスターになった頃からまた交流を持つことになり、今でもたまにお酒を飲んだり、いろんなことを話し合ったりしているらしい。
「まぁ、この旅行はシーヘンズの元で企画されているものだから、かなり安全だと思うわ」
「それなら、安心して行けます」
「ただ、ケント君はこの旅行の他に来月も妖精国に行くじゃない? 忙しいとか疲れたとかを理由に、魔法薬師としての仕事を疎かにしちゃダメよ?」
「はい!」
「その代わりケント君がいない間、掃除や料理なんかは私がちゃ~んとやっといてあげるからね!家の中のことは気にせずにダンジョン旅行を楽しんできて!」
「あ……あははは、ありがとうございます」
掃除はいいとしても、料理は……皆が全力でフェリスさんを止める光景を簡単に想像出来てしまう。
以前カオツさんと二人の依頼で、長い間暁にいなかった時は食料不足になったこともあったし、作り置きの食事は多めに用意しよう。
僕はそう心に誓って、フェリスさんの部屋を出るのだった。
新アプリ『合成』と『影渡り』
自室に戻ってきた僕は、収納機能付きの腕輪の中から必要な素材を取り出し、魔法薬の調合を始めた。
ダンジョン旅行に行く前に、まずはお店に卸す用の魔法薬を作っておこうと考えたのだ。
僕の名前が刻印された瓶に魔法薬が全て入ったことを確認してから、蓋を閉めて専用の箱に詰める作業を黙々と続けていく。
パパッと作り終えた魔法薬は早めに納品しておこうと思い、僕は風羽蛇のハーネに乗って空を移動し、町へ向かった。
スムーズに各店に届けた帰り道、僕はハーネの上に乗りながら腕輪からタブレットを取り出し、腕輪の中に入っている金額を確認することにする。
このタブレット、実は腕輪の中に入れていたお金の額もちゃんと表示されるようになっているのだ。
手持ちのお財布のお金以外は全て腕輪に入れているし、その金額はタブレットにある『貯金』という機能で確認出来るので、凄く楽だ。
ここ最近、魔法薬の売り上げがかなり好調で、お財布の中がかなり潤っているので、いくらあるのかをこまめに確認するようにしている。
タブレットを見て、僕は感嘆の声を上げた。
「おぉ……自分で調合した魔法薬の売り上げも好調だけど、やっぱり帝国から入ってくる金額がとんでもないな……」
このお金は、先日からシェントルさん――暁のメンバーの一人であるラグラーさんのお兄さんが、僕が作る料理のレシピと引き換えに、ライセンス料として送ってくれるものなんだけど……その金額がとてつもなく大きい。
ちなみに、タブレットにある『貯金』の機能は元の世界の通帳と同じで、『年月日』『摘要』『支払い金額』『預かり金額』『差引残高』という項目がある。
どの魔法薬店からどの程度の金額が魔法薬師協会を通して入っているのか、それに帝国からいくら振り込まれているのかといったことが一発で分かるようになっているので、とても助かっている。
「う~ん。お金がかなり貯まったな。これなら……新しいアプリを使えるようにして、レベルもある程度上げてみるか」
今使っているアプリのレベルを上げることもいいけど、出来ればいろんなものを使えるようになった方が、ダンジョンでいろいろと戦えるんじゃないか。
ただ、新しいアプリになればなるほど、アプリを使えるようにするにもレベルを上げるにも、高額になってきている。
貯金がかなりあるからといって、ジャンジャン使っちゃえば、何かあった時に困るかもしれないので、慎重に使わなければ……
「ハーネ、悪いんだけど、ここからちょっと先の方で降ろしてくれる?」
《は~い!》
僕はハーネにお願いして、人が周りにいないところで降りる。
《あるじ~、ちょっとおさんぽしてきてもい~い?》
「うん、いいよ。行っておいで」
《すぐもどってくるねー!》
笑いながらハーネを見送った後、再びタブレットに目をやる。
「さてさて~、新しいアプリはどんなのかな?」
そう呟きながら、まだはっきりと表示されていない『■■』となっているアプリが二つあったので、それらをタップする。
すると、両方とも同じ内容が表示された。
【ロックの解除には500000ポイントが必要です。ロックを解除しますか?】
「ぬぁ! やっぱり解除だけでかなり高額になってるじゃん……」
解除だけでこんなに高いポイントが必要になってきたのか……これはレベルを上げるのも恐ろしい金額がかかりそうだな。
そんなことを思いながら、画面の『はい』をタップする。
【新しいアプリが使用出来るようになりました】
【New!『影渡りLv1』】
【『影渡り』――影の中に身を隠したり、影の中を自由に移動したり出来るようになります】
【※Lv1ですと体の範囲の広さ程度の影にしか入れませんが、レベルが上がれば上がるほど範囲は広がり、影の大小関係なく中に入り自由に移動出来るようになります】
【※影の制限はありません。自分以外の人間の影の中にはもちろんのこと、魔獣や魔草、建物など、全ての影の中に入ることが可能です】
【New!『魔獣合成Lv1』】
【『魔獣合成』――魔獣の能力などを一時的に使用することが出来ます】
【※例えば、飛行系の魔獣の体の一部を合成することにより、使用者の背中に翼が出現し、飛ぶことが可能となります】
【※使用者自身以外にも、武器や防具などといったものにも合成が可能です】
【※Lv1の場合、合成時間は短く、使用出来る能力も一つですが、レベルを上げることによって時間が長くなり、使用出来る能力の数も増えていきます】
なんか、すっごいアプリがきたんじゃない!?
どうせすぐにレベルを上げることにするんだからと思い、とりあえずどちらもレベルを3まで上げておくことにした。
【※『影渡り Lv3』にする為には、3800000ポイントが必要になります】
「高っ! え、レベル3でそんなポイントが必要なの……?」
ビビりながらも『同意』を押す。
【Lvを上げますか? はい/いいえ】
『はい』をタップする。
アプリに砂時計マークが出たのを見てから、続いて『魔獣合成』も上げることに。
【※『魔獣合成 Lv3』にする為には、4500000ポイントが必要になります】
「ほあぁぁっ!? 『影渡り』より『魔獣合成』の方がレベルを上げるためのポイントがめっちゃ高い。これは、かなり凄いアプリの登場なんじゃ……?」
いろんな意味でドキドキしながら『同意』を押す。
シェントルさんから入って来るお金がけっこうあるから、このくらいヘッチャラだいっ!
【Lvを上げますか? はい/いいえ】
こちらもすかさず『はい』をタップした。
「お、『影渡り』が使えるようになったな」
『魔獣合成』のレベルが上がるのを待っている間に、『影渡り』のレベルアップが完了したので、画面をタップする。
【※Lv3の『影渡り』では、使用者の手のひらサイズの小さな影から、半径200メートルほどの影であれば自由に出入りし、移動出来ます】
【※影の中には『影入り』と唱えると入れます。また、Lv3からは無詠唱でも入ることが可能です】
お知らせの表示を見ながら、僕はワクワクした。
「へぇ~、面白そう。じゃあ、ちょっとやってみようかな」
辺りをキョロキョロ見ていると、ちょうどいいところにハーネが帰って来た。
《あるじ~、たっだいまぁー!》
「おかえり――あっ、ハーネ、ちょっとそこで止まってくれる?」
僕が右手を上げてハーネにお願いすると、ハーネは不思議そうな顔をしながらも、その場にフヨフヨ浮きながら止まってくれた。
僕はハーネにお礼を言った後に、視線を自分の影に向ける。
影の中に入る、と思いながら右足で影を踏んだ瞬間、僕の全身がまるで水の中に入る感じで、沈んでいく。
《わぁっ!? あるじがきえちゃったぁー!》
影の中で閉じていた目を開けると、僕が立っていた辺りをハーネがグルグルと回っていた。
影というから周りは真っ暗で狭いと思っていたんだけど、まるで海の中に潜っているような感じだ。
ただ海の中に潜れば、上を見れば水面が光に反射して見えにくいけど、影の中ではそんなことはなく、まるで薄いガラスで隔たれたようにハッキリと地上の様子が見える。
「ハーネ」
影の中から、僕は地上に向かって声をかけた。
《あれ? あるじのこえがきこえる。どこ~?》
まるで泣きそうな声でハーネがそう言うものだから、ちょっと可哀想になってくる。
水の中から浮上するイメージをすると、簡単に影の中から出ることが出来た。
《あっ、あるじー!》
出てきた僕の周りを、安心したようにハーネがくるくる回る。
「ごめんごめん、ちょっと新しい能力を試していたところでさ」
《あたらしい、のうりょく?》
ハーネに『影渡り』のことを軽く伝えると、楽しそうな反応を示した。
《おもしろそ~!》
せっかくだし、ちょっと実験に付き合ってもらおうかな?
「ハーネ、もう一回影の中に入るから、僕が影の中から聞いたことを答えてくれる?」
《まかせて!》
僕が影の中に入り顔を上に上げると、ハーネが興味津々といった目で僕の方を見下ろしている。
「ハーネ、僕が立っていた場所に、僕の影はある?」
そう、まず僕が確認したかったのは、僕が自分の影の中に入っている時に、自分の影がその場にあるかどうかだった。
《あるよ~!》
「へ~、あるんだ。じゃあさ、これはどう?」
影の中で手を振ってしばらく待つが、ハーネからの反応はなかった。
《あるじ~、今何かしてるの~?》
ハーネのリアクションを聞くに、気付いてそうな感じはまったくなかった。
影の中でやったことは、地上からは何も見えないみたいだ。
それ以降もいくつかの実験を試し、この能力に関していろんなことが分かった。
まず、自分の影の中に入っても、その影自体が消える訳ではなく、動くこともない。そして他人にも僕の影の存在が分かること。
影にいる状態で移動するためには、周りに影がないと出来ないらしい。ただ、ハーネや誰かの影が僕の影と重なった場合は一緒に動くことが可能だ。
影が続いているところを移動するのは問題がないけど、途中影が切れている場所に行こうとする場合は、体がそれより先に移動することが出来なくなる。
魔力は影の中にいる間、常に消費するみたいだ。空中に浮かぶ画面に表示される魔力量を確認しなければならず、【魔力が5%以下です】と表示されると強制的に影の中から出されてしまう。
とりあえずある程度仕様は分かった。
「うん、ダンジョンでも結構使えるんじゃないかな?」
ただ、練習をしないと戦闘中に使いこなすには難しいかもしれないな。
そう思いながら、もう一つのアプリに視線を向ける。
『魔獣合成』――『影渡り』以上に高いポイントが飛んでいったけど、内容がめちゃくちゃ気になる。
早く使ってみたいということで、アプリをターップ!
【New!『魔獣と心を通わせる者』の称号を獲得】
【称号を獲得したことにより、『魔獣合成』を使用している間だけ、使役獣となった魔獣の種族と会話が可能になります】
【※Lv3では魔獣の能力を二つまで使用可能】
【※魔獣の一部を使いたい体の部分や、武器や防具に当て『合成』と唱えてください】
ほわわわっ!?
これは本当に凄くないか!
使役していない魔獣とも会話出来るって、どんなものなのかな……?
まぁ、それはダンジョンに行かなきゃ分からないことだけど……
とりあえず使える範囲で試してみよう!
そう思いながら、空中に浮かぶ画面を見る。
合成可能な魔獣の画像とともに、どんな能力を使えるのか表示されていた。
たぶん、レベルが上がれば上がるほど使用出来る能力の種類も増えるんだろうね。
ちなみに画面に表示されている魔獣は、腕輪の中に入っている魔法薬の素材や食材として僕が獲ったもの、あとは素材屋と『ショッピング』で購入したものだ。
もちろん合成出来ない魔獣もいて、それは魔獣自体のレベルがとても高いものが多かった。
そういった場合は、画面には表示されているんだけどグレーの色になっていて、タップしても『使用不可』と表示される。
栄えある最初の合成は、使役獣としても一番目なハーネに決めた。
能力を説明した後にお願いすると、ハーネは鱗を口でペリッと剥がし、僕に手渡してくれた。
痛くなかったのかな? と心配になってハーネに聞くと、特に痛みはないとのこと。
剥がしたところを見たら、そこには新しい鱗が生えていた。
「ありがとう、ハーネ。それじゃあ……『合成』!」
魔力を回復させる魔法薬を飲んでから、鱗を肩の後ろに当ててそう唱えると、肩甲骨の辺りからハーネと似た翼が生えた。
「うわぁ~! 翼だ、凄っ!」
《おぉ~!》
後ろを見ると、大きな白い翼が左右にゆっくりと動く。
人間、空を自力で飛ぶと言うのは、一生に一度はやってみたいことの一つではないだろうか?
自分の体を浮かばせるイメージをすると、背中の翼が音を立てて動く。
ふわり、と足が地面から離れ、自分の体が宙に浮き出した。
そのことに「ほあぁ~!」と声を出しながら感動する。
《あるじ、はーねといっしょ!》
顔を上げれば、ハーネが嬉しそうに僕の周りをクルクルと回っていた。
ハーネと一緒に空を飛ぼうと、もう少し上昇しようとしたんだけど、まだ上手に翼を動かして浮かぶことに慣れていないためにバランスを崩してしまう。
そんな僕を見て、ハーネが咄嗟に尻尾を差し出してくれたので、それを掴んで体勢を整えた。
《あるじ、はじめてなのに、じょうずー》
「あはは、ほんと?」
ハーネに褒められて、僕は照れ笑いする。
最初はふらついてしまったけど、翼を動かす感覚に慣れたら飛び方も徐々に安定してきた。
「こちらこそ……お願いします」
僕はいきなり色んな情報が流れてきたことに戸惑いながら、握手した。
話を聞くと、リークさんとミリスティアさんがSランク冒険者であり、アリシアさんはもう少ししたらSランクになれるほどの実力者とのことだ。
まさかこんな身近に腕利きの冒険者が集まっているなんて思わなかった。
「そ、そんな凄い方がどうしてギルドの受付を……?」
思ったことがスルリと口から出てしまう。
そこで、この世界に来た頃に『カメラ』という撮った人物のステータスが分かるアプリでギルド職員を撮った時、全然ランクが見られない人が多かったのをふと思い出した。
あれも自分より遥かに上の冒険者だから、僕のアプリの力が働かなかったってことだったのかな。
シーヘンズさんは僕の質問にさらっと答えてくれる。
「あはは、ここにいる子達は、元々どこのパーティにも属していない、単独行動を好む子達でね……依頼を受けない時は暇だって言うんで、こうしてギルド職員として働いてもらっているんだ。もちろん職員全員が高ランク保持者、と言うわけではないよ。戦闘経験が皆無の一般人もいるしね」
「あ、そうなんですね」
僕が三人を見ると、ミリスティアさんとアリシアさんがニッコリと笑いかけてくれた。
その雰囲気は、Sランクとは思えないほどのほほんとしたものだったけど、言われてみればどことなく歴戦の猛者の風格を感じさせる。
人は見かけによらないな。
そんな風に考えていたら、シーヘンズさんは手をパンッと叩いた。
「それで、このダンジョンに行く日程だね……だいたい長くても一週間滞在の企画をしているんだけど、ケント君はいつ頃なら都合がいいとかあるかな?」
「あ、出来れば早めに行ければいいな~と」
妖精族の国からの招待もあったし、あんまり遅いとそれと日程が被っちゃうからね。
「ふむ……皆は準備にどれだけ時間がかかるかな?」
シーヘンズさんが自分の後ろに立っている三人へと振り向いてそう聞くと、代表してミリスティアさんが口を開いた。
「準備は出来ているので、明日からでも行けますよ。ケント君の予定に合わせます」
「そ、そうですか……」
僕はそう言って、直近の予定を思い浮かべた。
ここ数日で、暁として何か依頼を受けている仕事はない。
問題は僕がいない間の食事の準備と妖精国に行くための用意、あとはお店に卸す魔法薬を作る時間が必要かな。全部合わせて三日くらい余裕は欲しい。
「あの、それでしたら三日後はどうでしょうか?」
僕がおずおずと提案すると、シーヘンズさんは頷いてくれた。
「こちらは問題ありません。では、三日後のギルド受付開始時間に来てください」
「分かりました。よろしくお願いします!」
僕はそう元気に返事をして、ギルドから出る。
暁に戻る途中、僕は魔法薬の素材のことを忘れてたことに気付いた。
すっかり旅行のことを話し込んでしまって、頭から抜けてたなぁ。
「そんなに量もないし、今回はサクッとお店で買うか」
そう呟き、お店に入った僕は、素材をいくつか購入する。
店を出ると、再び暁の家に向かう道を歩く。
家に戻った後、僕は早速執務室に入り、フェリスさんにギルドであったことを話した。
ひと通り話し終えた後、フェリスさんは椅子から勢いよく立ち上がった。
「えっ!? ケント君、あの『ギルマスおススメ! ギルド職員と行く快適ダンジョン旅行』に当たったの?」
フェリスさんはあの依頼書を見つけることで行ける旅行のことをそう呼んでいるのか。
「いえ、当たったと言うか……依頼書が張り付けられている掲示板の一番奥、それも隅っこの方に、依頼書とはまた違った紙があったので、それを持って受付に行ったんです」
フェリスさんは、力が抜けたようにそのままドカッと椅子に座り直すと、溜息を吐く。
「ケント君って……ほんと、いろいろと凄いわよね~。実はこれ、他の冒険者が見てもスルーしちゃうものなのよ」
「えっ、なんでですか?」
掲示板に依頼書とは全く違った紙が紛れ込んでいれば、悪戯かなにかかと思って無視してしまうのが普通だとフェリスさんは説明してくれた。
確かに、真面目な依頼の中にそんな紙が紛れてたら、そう思っちゃうのも仕方がないかもしれないよね。
「あとは……それ以前に、その紙にはある種の〝呪い〟がかけられていて、Bランク未満の冒険者はこの紙を見付けることが出来ないようになってるの」
「え、なんでですか?」
「Sランク冒険者が付くといっても、上級ダンジョンに行くわけだからね。最低限の安全対策として、戦闘経験がほぼない冒険者は連れて行かないことにしてるんだって」
じゃあ僕が当たったのは冒険者ギルドにとっては本当に異例中の異例だったんだな。
「へぇ~、そうなんですね……って……フェリスさん、なんでそんなに詳しいんですか?」
不思議に思ってそう聞けば、フェリスさんはあら、と口に手を当てた。
「あれ、言ってなかった? 私、ギルドマスターのシーヘンズとは長い付き合いなのよ」
フェリスさんの話によれば、シーヘンズさんとは小さい頃から一緒に育った幼馴染なんだとか。
フェリスさんが剣の修行をするために住んでいた森を出る時、シーヘンズさんも一緒に付いて来たんだって。
その頃を思い返すようにフェリスさんは色々と話してくれた。
「小さい頃のシーヘンズはどんくさくってね~。いっつも私の後を泣きながら歩いてたのよ」
「ほぉ……」
「森を出てから別々に行動するまでの間、私が剣術やその他のこともいろいろと面倒を見てあげていたんだけど……まさかあのひ弱なシーヘンズがギルドマスターになるなんて、夢にも思わなかったわ」
「そうだったんですね!」
「それなのにさー、『僕はもう君が作る食事には付き合いきれない!』とかなんとか言い出したと思ったら、その日のうちにどっかに行っちゃって~。薄情な奴よね~」
そう言ってフェリスさんは遠い目をした。
だけど、あの不思議物体Xとしか呼べない禍々しい物やクルゥ君にダークマターと言われるほどの料理を何年も食べさせられていたら、そういう反応になるのも無理はないだろう。
僕でもちょっとご遠慮したいと思うし、フェリスさんには失礼かもしれないが、むしろ何年もアレを食べていたシーヘンズさんが偉いとさえ思ってしまった。
それから長い間別々に生きていたが、シーヘンズさんがギルドマスターになった頃からまた交流を持つことになり、今でもたまにお酒を飲んだり、いろんなことを話し合ったりしているらしい。
「まぁ、この旅行はシーヘンズの元で企画されているものだから、かなり安全だと思うわ」
「それなら、安心して行けます」
「ただ、ケント君はこの旅行の他に来月も妖精国に行くじゃない? 忙しいとか疲れたとかを理由に、魔法薬師としての仕事を疎かにしちゃダメよ?」
「はい!」
「その代わりケント君がいない間、掃除や料理なんかは私がちゃ~んとやっといてあげるからね!家の中のことは気にせずにダンジョン旅行を楽しんできて!」
「あ……あははは、ありがとうございます」
掃除はいいとしても、料理は……皆が全力でフェリスさんを止める光景を簡単に想像出来てしまう。
以前カオツさんと二人の依頼で、長い間暁にいなかった時は食料不足になったこともあったし、作り置きの食事は多めに用意しよう。
僕はそう心に誓って、フェリスさんの部屋を出るのだった。
新アプリ『合成』と『影渡り』
自室に戻ってきた僕は、収納機能付きの腕輪の中から必要な素材を取り出し、魔法薬の調合を始めた。
ダンジョン旅行に行く前に、まずはお店に卸す用の魔法薬を作っておこうと考えたのだ。
僕の名前が刻印された瓶に魔法薬が全て入ったことを確認してから、蓋を閉めて専用の箱に詰める作業を黙々と続けていく。
パパッと作り終えた魔法薬は早めに納品しておこうと思い、僕は風羽蛇のハーネに乗って空を移動し、町へ向かった。
スムーズに各店に届けた帰り道、僕はハーネの上に乗りながら腕輪からタブレットを取り出し、腕輪の中に入っている金額を確認することにする。
このタブレット、実は腕輪の中に入れていたお金の額もちゃんと表示されるようになっているのだ。
手持ちのお財布のお金以外は全て腕輪に入れているし、その金額はタブレットにある『貯金』という機能で確認出来るので、凄く楽だ。
ここ最近、魔法薬の売り上げがかなり好調で、お財布の中がかなり潤っているので、いくらあるのかをこまめに確認するようにしている。
タブレットを見て、僕は感嘆の声を上げた。
「おぉ……自分で調合した魔法薬の売り上げも好調だけど、やっぱり帝国から入ってくる金額がとんでもないな……」
このお金は、先日からシェントルさん――暁のメンバーの一人であるラグラーさんのお兄さんが、僕が作る料理のレシピと引き換えに、ライセンス料として送ってくれるものなんだけど……その金額がとてつもなく大きい。
ちなみに、タブレットにある『貯金』の機能は元の世界の通帳と同じで、『年月日』『摘要』『支払い金額』『預かり金額』『差引残高』という項目がある。
どの魔法薬店からどの程度の金額が魔法薬師協会を通して入っているのか、それに帝国からいくら振り込まれているのかといったことが一発で分かるようになっているので、とても助かっている。
「う~ん。お金がかなり貯まったな。これなら……新しいアプリを使えるようにして、レベルもある程度上げてみるか」
今使っているアプリのレベルを上げることもいいけど、出来ればいろんなものを使えるようになった方が、ダンジョンでいろいろと戦えるんじゃないか。
ただ、新しいアプリになればなるほど、アプリを使えるようにするにもレベルを上げるにも、高額になってきている。
貯金がかなりあるからといって、ジャンジャン使っちゃえば、何かあった時に困るかもしれないので、慎重に使わなければ……
「ハーネ、悪いんだけど、ここからちょっと先の方で降ろしてくれる?」
《は~い!》
僕はハーネにお願いして、人が周りにいないところで降りる。
《あるじ~、ちょっとおさんぽしてきてもい~い?》
「うん、いいよ。行っておいで」
《すぐもどってくるねー!》
笑いながらハーネを見送った後、再びタブレットに目をやる。
「さてさて~、新しいアプリはどんなのかな?」
そう呟きながら、まだはっきりと表示されていない『■■』となっているアプリが二つあったので、それらをタップする。
すると、両方とも同じ内容が表示された。
【ロックの解除には500000ポイントが必要です。ロックを解除しますか?】
「ぬぁ! やっぱり解除だけでかなり高額になってるじゃん……」
解除だけでこんなに高いポイントが必要になってきたのか……これはレベルを上げるのも恐ろしい金額がかかりそうだな。
そんなことを思いながら、画面の『はい』をタップする。
【新しいアプリが使用出来るようになりました】
【New!『影渡りLv1』】
【『影渡り』――影の中に身を隠したり、影の中を自由に移動したり出来るようになります】
【※Lv1ですと体の範囲の広さ程度の影にしか入れませんが、レベルが上がれば上がるほど範囲は広がり、影の大小関係なく中に入り自由に移動出来るようになります】
【※影の制限はありません。自分以外の人間の影の中にはもちろんのこと、魔獣や魔草、建物など、全ての影の中に入ることが可能です】
【New!『魔獣合成Lv1』】
【『魔獣合成』――魔獣の能力などを一時的に使用することが出来ます】
【※例えば、飛行系の魔獣の体の一部を合成することにより、使用者の背中に翼が出現し、飛ぶことが可能となります】
【※使用者自身以外にも、武器や防具などといったものにも合成が可能です】
【※Lv1の場合、合成時間は短く、使用出来る能力も一つですが、レベルを上げることによって時間が長くなり、使用出来る能力の数も増えていきます】
なんか、すっごいアプリがきたんじゃない!?
どうせすぐにレベルを上げることにするんだからと思い、とりあえずどちらもレベルを3まで上げておくことにした。
【※『影渡り Lv3』にする為には、3800000ポイントが必要になります】
「高っ! え、レベル3でそんなポイントが必要なの……?」
ビビりながらも『同意』を押す。
【Lvを上げますか? はい/いいえ】
『はい』をタップする。
アプリに砂時計マークが出たのを見てから、続いて『魔獣合成』も上げることに。
【※『魔獣合成 Lv3』にする為には、4500000ポイントが必要になります】
「ほあぁぁっ!? 『影渡り』より『魔獣合成』の方がレベルを上げるためのポイントがめっちゃ高い。これは、かなり凄いアプリの登場なんじゃ……?」
いろんな意味でドキドキしながら『同意』を押す。
シェントルさんから入って来るお金がけっこうあるから、このくらいヘッチャラだいっ!
【Lvを上げますか? はい/いいえ】
こちらもすかさず『はい』をタップした。
「お、『影渡り』が使えるようになったな」
『魔獣合成』のレベルが上がるのを待っている間に、『影渡り』のレベルアップが完了したので、画面をタップする。
【※Lv3の『影渡り』では、使用者の手のひらサイズの小さな影から、半径200メートルほどの影であれば自由に出入りし、移動出来ます】
【※影の中には『影入り』と唱えると入れます。また、Lv3からは無詠唱でも入ることが可能です】
お知らせの表示を見ながら、僕はワクワクした。
「へぇ~、面白そう。じゃあ、ちょっとやってみようかな」
辺りをキョロキョロ見ていると、ちょうどいいところにハーネが帰って来た。
《あるじ~、たっだいまぁー!》
「おかえり――あっ、ハーネ、ちょっとそこで止まってくれる?」
僕が右手を上げてハーネにお願いすると、ハーネは不思議そうな顔をしながらも、その場にフヨフヨ浮きながら止まってくれた。
僕はハーネにお礼を言った後に、視線を自分の影に向ける。
影の中に入る、と思いながら右足で影を踏んだ瞬間、僕の全身がまるで水の中に入る感じで、沈んでいく。
《わぁっ!? あるじがきえちゃったぁー!》
影の中で閉じていた目を開けると、僕が立っていた辺りをハーネがグルグルと回っていた。
影というから周りは真っ暗で狭いと思っていたんだけど、まるで海の中に潜っているような感じだ。
ただ海の中に潜れば、上を見れば水面が光に反射して見えにくいけど、影の中ではそんなことはなく、まるで薄いガラスで隔たれたようにハッキリと地上の様子が見える。
「ハーネ」
影の中から、僕は地上に向かって声をかけた。
《あれ? あるじのこえがきこえる。どこ~?》
まるで泣きそうな声でハーネがそう言うものだから、ちょっと可哀想になってくる。
水の中から浮上するイメージをすると、簡単に影の中から出ることが出来た。
《あっ、あるじー!》
出てきた僕の周りを、安心したようにハーネがくるくる回る。
「ごめんごめん、ちょっと新しい能力を試していたところでさ」
《あたらしい、のうりょく?》
ハーネに『影渡り』のことを軽く伝えると、楽しそうな反応を示した。
《おもしろそ~!》
せっかくだし、ちょっと実験に付き合ってもらおうかな?
「ハーネ、もう一回影の中に入るから、僕が影の中から聞いたことを答えてくれる?」
《まかせて!》
僕が影の中に入り顔を上に上げると、ハーネが興味津々といった目で僕の方を見下ろしている。
「ハーネ、僕が立っていた場所に、僕の影はある?」
そう、まず僕が確認したかったのは、僕が自分の影の中に入っている時に、自分の影がその場にあるかどうかだった。
《あるよ~!》
「へ~、あるんだ。じゃあさ、これはどう?」
影の中で手を振ってしばらく待つが、ハーネからの反応はなかった。
《あるじ~、今何かしてるの~?》
ハーネのリアクションを聞くに、気付いてそうな感じはまったくなかった。
影の中でやったことは、地上からは何も見えないみたいだ。
それ以降もいくつかの実験を試し、この能力に関していろんなことが分かった。
まず、自分の影の中に入っても、その影自体が消える訳ではなく、動くこともない。そして他人にも僕の影の存在が分かること。
影にいる状態で移動するためには、周りに影がないと出来ないらしい。ただ、ハーネや誰かの影が僕の影と重なった場合は一緒に動くことが可能だ。
影が続いているところを移動するのは問題がないけど、途中影が切れている場所に行こうとする場合は、体がそれより先に移動することが出来なくなる。
魔力は影の中にいる間、常に消費するみたいだ。空中に浮かぶ画面に表示される魔力量を確認しなければならず、【魔力が5%以下です】と表示されると強制的に影の中から出されてしまう。
とりあえずある程度仕様は分かった。
「うん、ダンジョンでも結構使えるんじゃないかな?」
ただ、練習をしないと戦闘中に使いこなすには難しいかもしれないな。
そう思いながら、もう一つのアプリに視線を向ける。
『魔獣合成』――『影渡り』以上に高いポイントが飛んでいったけど、内容がめちゃくちゃ気になる。
早く使ってみたいということで、アプリをターップ!
【New!『魔獣と心を通わせる者』の称号を獲得】
【称号を獲得したことにより、『魔獣合成』を使用している間だけ、使役獣となった魔獣の種族と会話が可能になります】
【※Lv3では魔獣の能力を二つまで使用可能】
【※魔獣の一部を使いたい体の部分や、武器や防具に当て『合成』と唱えてください】
ほわわわっ!?
これは本当に凄くないか!
使役していない魔獣とも会話出来るって、どんなものなのかな……?
まぁ、それはダンジョンに行かなきゃ分からないことだけど……
とりあえず使える範囲で試してみよう!
そう思いながら、空中に浮かぶ画面を見る。
合成可能な魔獣の画像とともに、どんな能力を使えるのか表示されていた。
たぶん、レベルが上がれば上がるほど使用出来る能力の種類も増えるんだろうね。
ちなみに画面に表示されている魔獣は、腕輪の中に入っている魔法薬の素材や食材として僕が獲ったもの、あとは素材屋と『ショッピング』で購入したものだ。
もちろん合成出来ない魔獣もいて、それは魔獣自体のレベルがとても高いものが多かった。
そういった場合は、画面には表示されているんだけどグレーの色になっていて、タップしても『使用不可』と表示される。
栄えある最初の合成は、使役獣としても一番目なハーネに決めた。
能力を説明した後にお願いすると、ハーネは鱗を口でペリッと剥がし、僕に手渡してくれた。
痛くなかったのかな? と心配になってハーネに聞くと、特に痛みはないとのこと。
剥がしたところを見たら、そこには新しい鱗が生えていた。
「ありがとう、ハーネ。それじゃあ……『合成』!」
魔力を回復させる魔法薬を飲んでから、鱗を肩の後ろに当ててそう唱えると、肩甲骨の辺りからハーネと似た翼が生えた。
「うわぁ~! 翼だ、凄っ!」
《おぉ~!》
後ろを見ると、大きな白い翼が左右にゆっくりと動く。
人間、空を自力で飛ぶと言うのは、一生に一度はやってみたいことの一つではないだろうか?
自分の体を浮かばせるイメージをすると、背中の翼が音を立てて動く。
ふわり、と足が地面から離れ、自分の体が宙に浮き出した。
そのことに「ほあぁ~!」と声を出しながら感動する。
《あるじ、はーねといっしょ!》
顔を上げれば、ハーネが嬉しそうに僕の周りをクルクルと回っていた。
ハーネと一緒に空を飛ぼうと、もう少し上昇しようとしたんだけど、まだ上手に翼を動かして浮かぶことに慣れていないためにバランスを崩してしまう。
そんな僕を見て、ハーネが咄嗟に尻尾を差し出してくれたので、それを掴んで体勢を整えた。
《あるじ、はじめてなのに、じょうずー》
「あはは、ほんと?」
ハーネに褒められて、僕は照れ笑いする。
最初はふらついてしまったけど、翼を動かす感覚に慣れたら飛び方も徐々に安定してきた。
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