チートなタブレットを持って快適異世界生活

ちびすけ

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1巻

1-2

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 次の日、僕はアッギスさんに教えてもらったギルドへと足を運んだ。
 そう、ギルド登録をする為だ。
 ギルドの場所が書かれた紙を片手に街を歩き、ようやく目的地へと着く。
 そこはいかにもゲームに登場するような見た目の、石造りの大きな建物だった。
 外壁がいへきの一部にガラス張りの掲示板があり、様々な色の紙が貼られている。
 建物の中に入ると、僕と同年代ぐらいの子供から見た目七十代ほどの老人など、老若男女ろうにゃくなんにょがひしめいていた。
 やはり目につくのは、魔法使いっぽいローブを着込んだ人だったり、長剣や大剣を腰や背中に差している剣士風だったり、ボディービルダーみたいな筋肉ムッキムキマンだったりだ。
 とはいえ、僕みたいなひょろっとした外見の男の子や女の子も、チラホラといるようだった。
 中に入って少し進むと受付の窓口が五箇所あり、ちょうど人が去って空いた所へと足を向ける。
 受付には可愛らしいお姉さんがいて、僕を見てにこりと笑いかけてきた。

「こんにちは。本日は何かご依頼などございましたか?」
「あの、ギルド登録をしたくて来ました」
「かしこまりました。今まで、他のギルドなどで登録されたことはございませんか?」
「いえ、今回が初めてです」
「それでは登録をいたしますので、この紙に右手を。水晶には左手を置いてください」
「分かりました」

 お姉さんは僕の前に薄い水色の紙を置き、その隣にハンドボールほどの大きさがある水晶を置いた。
 僕が言われた通りそれぞれに手を置くと、お姉さんはその場で不思議な呪文を唱える。
 すると、紙と水晶が淡く光り出し――
 手を置いていた紙が徐々に名刺サイズまで縮んだ。

「はい、手を離していただいて結構ですよ」
「あ、はい」

 僕が手を離すのを見て、お姉さんは一枚の紙と、今縮んだ水色の紙を手渡してくる。

「ケント・ヤマザキさん……ですね。これでギルド登録は終了いたしました。こちらはギルドの仕組みなどを記載きさいした説明書と、登録書――ギルドカードです」

 そう言って、お姉さんは説明してくれた。
 どうやら今の一瞬で、僕の個人情報が水晶とギルドカードに登録されたらしい。
 ギルドカードの初回発行は無料だが、二回目以降は有料。登録完了したのでこれ以降依頼を受けられるが、ランクによって制限がある……など、詳しい説明はギルドカードと一緒に渡された紙に書いてあるそうだ。

「ありがとうございます」

 僕はそうお礼を言って、ひとまず警ら隊の独身寮へと戻ることにした。


 独身寮へ戻る前に、先にアッギスさんの所に行って無事に登録書をもらえたことを報告しておいた。
 こんなに簡単に登録出来ていいのだろうかと聞いてみたら、登録する時に使われる水晶は特殊なもので、犯罪者や薬物依存者など、危険人物だと判断された者は登録出来ない仕組みになっているんだとか。
 その他にも色々あるみたいだけど、魔術師じゃないから詳しい仕組みは分からないと言われた。
 アッギスさんに報告した後、寮へ戻ってその日の仕事を終わらせてから、自室で受付のお姉さんからもらった説明書を見てみる。

「おっ、文字が読めるなんてラッキー!」

 転生特典か何かなのか、日本語ではない文字を苦も無く読めた。
 これはかなりうれしいな。

「え~っと、なになに……」

 説明書を読めば、こんなことが書かれていた。
 ギルドに登録した者は、『ギルド員』と呼ばれる。
 そのランクはDから始まり、C、B、A、S、S+、ゼロと、全7ランク。
 ギルド登録をしたばかりの初心者――つまり僕のランクはD。
 そして頂点のゼロは〝数字持ち〟とも呼ばれる。
 まぁ、DとCはほとんど同じようなもので、だいたいの人はすぐにDからCへ上がることが出来るらしい。ちなみに、Cランクへの昇級試験は、ギルド職員が選んだDランクの依頼を二週間の間に合計三十件連続で成功すれば合格になる。
 そして、DとC同士でのパーティは組めず、いわゆる個人プレーが必須ひっす。また、ダンジョンも浅い層しか入れない。
 もっとも、雑用係としてならBランク以上のパーティへの加入が認められている。
 だけどその場合、いわゆる非戦闘員となる為、依頼を達成したという評価はもらえない。依頼報酬の五パーセント分の金額が、ギルドから直接支払われるのは保障されているけど……多いのか少ないのかよく分かんないな。
 Cランクまでは、『駆け出し』と呼ばれ、Bランクからが『冒険者』という扱いになる。
 ここから、パーティを組んだり、ダンジョンの中層へ入ったり、旅人の護衛依頼を受けたり出来るようになるのだ。
 戦闘や攻撃魔法が得意な者ならば、すぐBランクになれる。
 が、ここからAへ上がるのが、かなり大変らしい。
 そのためBランクには弱い奴から、そこそこ強い奴まで幅広くいて、人数が一番多いランクだ。
 Aからは、貴族や裕福な商家の護衛依頼、凶暴な魔獣討伐の依頼を受けることが可能になり、ダンジョンも中層以上の、強いレベルの魔獣や魔草が発生する地下層へと潜れる。
 人数はそこそこいるが、命を落とす者が最も多いランクだ。
 依頼の性質上、ここから報酬金が跳ね上がる。
 その上のSには、かなりの実力者でなければなれず、ここから人数はグッと少なくなる。
 Sランクには、指名依頼や依頼達成率、依頼主の評価、倒した魔獣の素材や魔石などの売り上げ、そして個人の戦闘能力がずば抜けて高い、一握りの者がなれる。
 このランクになると、国から直接依頼が来ることもあるんだとか。
 S+は、各地に点在するギルドを運営する、ギルドマスターが持つランク。
 能力は計り知れない……としか説明書には書いていない。
 最後にゼロランク。
 このランクは〝数字持ち〟と呼ばれ、世界中で数人だけしかいない。
 国によっては〝勇者〟や〝英雄〟とも言われる。
 数字持ち一人だけで一国を滅ぼすことも出来るらしく、その能力のすさまじさに、〝悪魔の化身〟とささやかれることもあるんだとか。
 そして、体のどこかに特殊魔法で数字の『0』が刻み込まれているんだって。
 そうそう、それからダンジョンについても説明があった。
 ダンジョンは初級、中級、上級という分類があり、その中は表層、中層、深層と分かれ、深くなるほど敵が強くなるそうだ。この街の近くにも、各級のダンジョンがそろっているらしい。
 また、毒だらけだったり、モフモフだらけだったり、何かに特化している特殊ダンジョンというものもあって、突発的に発生するんだとか。危険度はピンキリって話だけど……危なくないやつだったらちょっと気になるな。
 その他にも説明書には色々と書いてあり、内容を読み終わった僕は考える。
 それなりに生活が出来るようになるには……当たり前だけどお金が必要だ。
 けれど、DランクやCランクでは報酬が微々びびたるものだから、それより上のランクを目指した方がいい。
 かといって、一人でせっせと依頼をこなしたとしても、Bランクになるには時間がかかるし、殴り合いの喧嘩けんかもしたことがない上に攻撃魔法とかの戦闘手段もない僕じゃ、昇級出来る気もしない。となると稼ぐのに手っ取り早いのは、説明書にも書いてあるように、雑用としてBランク以上のグループに入れてもらうしかない。

「一応、明日もう一度ギルドに行ってみるか」

 今の僕でも受けられる依頼があるかどうか確認して、それから、どんなパーティになら入れそうか、受付のお姉さんに聞いてみよう。


 翌日、寮の仕事を終えた僕は早速ギルドへと足を運んでいた。
 昨日部屋で読んでいた説明書には、パーティの増員募集や仕事の依頼は専用のボード――掲示板みたいなものに紙で貼り出されているらしい。その紙を持って受付に行けば、依頼を受けられると書かれていた。
 ちなみに、この世界でのお金の単位は『レン』。日本の『円』を『レン』と読み替える感じだ。
 また、硬貨は使われておらず、代わりに全て一万、五千、千、百、十のお札があり、日本のように一円単位では計算されないみたいだ。
 ゲームや小説なんかだと、よく貴金属の硬貨が使われているイメージだけど、こっちの方が覚えやすいし、重くもなくて助かる。
 何より、ギルドカードや市民登録証を持っていれば、そこから直接支払えるのがありがたい。いわゆるキャッシュレスってやつだね。おかげでお財布が札束でふくれる心配もない。
 依頼の確認をしている人達の間をすり抜けながら、ボードの前へ体をじ込む。
 体が若返ったのと同時に身長も低くなってしまった弊害へいがいで、ボードに貼られている紙が見えにくい。

「え~と……なになに?」

 顔を上げ、依頼書を見てみる。


 Dランク依頼
 《庭の雑草取り 1800レン》
 《犬の散歩(四匹) 2300レン》
 《子供のお守り(二十二時間ほど) 3000レン》

 Cランク依頼
 《家に住み着いた魔蟻まあり駆除くじょ 6500レン》
 《庭に生えた毒草の除去 7900レン》
 《猛犬のしつけ(調教師の資格保持者求む) 8800レン》

 Bランク依頼
 《幻覚キノコの討伐(出来高払い有り) 最低45000レン~》
 《ギスタント商会の運搬うんぱん護衛を六日間(募集人数は六名) 一日78000レン》
 《素材の収集(空魚くうぎょ幻視鳥げんしちょう) 一体につき156000レン》

 などなど、他にもいろんな依頼書が掲示されていた。
 上の方にあってよく見えないけど、Aランクからは、目にする限り依頼金は最低でも五十万。
 しかも、報酬金が高くなればなるほど『命の保証無し』の言葉が付け加えられている。
 そんな依頼書を見ながら、僕はDの中でどの依頼をやろうかと悩む。
 説明書には、受けた依頼は必ず達成した方がいいと書かれていた。

「ん~……よし、無難に部屋の掃除にしてみよう」

 僕はボードの端っこに貼られている《部屋の掃除 1500レン》という依頼書をがし、それを持って受付窓口へと歩いていった。

「すみません、これをお願いします」
「かしこまりました。それでは、ギルドカードの提示をお願いいたします」
「はい」

 僕は腕輪の中からギルドカードを取り出し、職員さんに渡す。
 そうそう、このタブレットが変化した腕輪は、収納ボックスにもなる。入れられるのは無機物だけだが、凄く便利だ。
 実は街中で、似たようなアイテムを見かけたんだけど、ものすごく高価だったんだよね。
 だから、先日ギルド登録をした後、タブレットの画面が光ったと思ったらお知らせマークが出て、腕輪の時は収納ボックスにもなると表示されたのを見て、ラッキーと思った。
 というわけで今は、失くしたらかなり困るギルドカードを入れて歩いている。
 本当に便利。

「ありがとうございます……カードをお返しいたします。こちらはDランク依頼――依頼者フェリス・ネリで、《部屋の掃除》ですね。お間違いありませんか?」
「はい、大丈夫です」
「こちらの詳細ですが、主に台所を綺麗きれいに掃除してほしいそうです。道具は依頼者が用意していますが、使いたいものがあれば持参も可とのこと。それと、日にちや出向く時間の指定はありませんが、所用時間は三時間を目安にと書かれております」
「あの、突然ですが……これから行っても大丈夫ですか?」
「少々お待ちください。こちらの方で依頼者に確認してまいりますので」
「よろしくお願いします」

 職員さんは立ち上がると後ろにあったドアを開けて出て行ったが、すぐに戻ってきた。

「お待たせいたしました。確認してみたところ、これからうかがっても大丈夫とのことです」
「本当ですか?」

 早いな、通信用のアイテムでもあるんだろうか。

「はい。依頼者のお住まいは少しここから離れていまして、手書きですが地図を書きましたのでこれを見ながら行ってください」
「わぁ~、何から何まですみません! ありがとうございます」
「いえ。初めての依頼、頑張ってくださいね」

 職員さんはそう言って微笑ほほえみを浮かべる。
 こうして僕は、ギルド登録してから初めての仕事をゲットした。




 依頼人は美人エルフ


 ギルドから出た僕は、そのまま街の外れまで足を運んだ。
 職員さん手書きの地図を見ながらしばらく歩いていると、街から少し離れた場所にボロっちい家が見えてくる。
 他に家があるかと周りを見回してみても、かなり離れた場所にポツポツと点在しているだけ。
 地図に赤い丸で囲われた目的地は……どう見てもあのボロっちい家を指している。
 本当にここかと首を傾げながら歩いていくと、すぐ目的の家の前に着いた。
 普通の一軒家みたいではあるけど、家をグルリと囲む石の塀にはヒビが入っていたり、崩れかけている部分があったりする。
 庭スペースに視線を向ければ、雑草が生え放題だった。
 一体、どんな人物が依頼人なんだ!?
 恐る恐るといった感じで玄関のドアを叩く。

「は~い」

 家の中から聞こえてきた声は、僕が想像していたものより随分若い女性の声。
 玄関のドアが開くと、中から現れたのは――
 めっちゃ綺麗なエルフの女性であった。
 長い白金色の髪はハーフアップにしていて、アメジストの瞳は引き込まれそうなほど澄んだ色をしている。
 美人なエルフ女性に見惚みとれてしまうが、彼女は華奢きゃしゃな見た目に反して僕より身長がデカかった。

「えっと……君は、ギルドから派遣されてきたケント君ですか?」
「え? あ、はい! ケント・ヤマザキです。今日はよろしくお願いします」

 生まれて初めて生で見たエルフに、口をポカンと開けてしまっていた。
 うわぁ~、恥ずかしい。

「私はフェリスよ。こちらこそよろしくお願いします」


 慌てて挨拶をすると、エルフの女性――フェリスさんは柔らかく微笑み、家の中に招いてくれた。
 一歩家の中に足を踏み入れると、外とは違ってそれなりに綺麗に使われている。
 しかし、そう思えたのもそこまでだった。

「今日君にやって欲しい仕事は、依頼書にもあったように台所の掃除です。道具はこちらで用意したので、好きな物を使ってください」
「…………」

 フェリスさんに案内された台所を見た瞬間、僕の思考は一瞬止まる。
 使用後、洗いもせずに積み重ねられたのであろう鍋や食器の数々。
 いつ食べたものか分からない残飯。
 何が付着しているのか、もはや分からないぐらいに黒ずんだシミや汚れ。
 排水溝はいすいこうやゴミが入っている袋から漂ってくる、不快な匂い。
 ――腐海ふかいだ。
 ぞぞぞぞーっと鳥肌が立つ。
 腕を抱えながら心の中でぎゃーっと叫んでいると、フェリスさんは台所の中を見回しながらエヘッと笑う。

「本当は、私以外にもあと四人ほどこの家で共同生活をしているんですけど、み~んな掃除やものを洗うのが苦手で――」

 能天気に頭をきながら笑うフェリスさんに、僕は真顔で口を開く。

「フェリスさん」
「あ、はい」
「……僕、これからここの掃除をすぐにでも始めたいと思うんですが、いいですか?」
「え? えぇ、もちろん。バケツやタワシ、ゴミ袋、雑巾ぞうきんなどは用意しましたが、他には何か使いたいものはありますか?」
「それじゃあ、綺麗なタオルを一枚用意してもらえますか? そうしたら、すぐに取りかかりますので、その間は一人にしてもらえると助かります」
「は、はい、分かりました。ちょっと待っててくださいね?」

 それから、フェリスさんが持ってきた綺麗なタオルを受け取ると、フェリスさんは少し書類仕事をするからと言って台所から出ていった。
 彼女の後ろ姿を見送った後、受け取ったタオルで口をおおった僕は、仕事に取りかかるべく腕捲うでまくりをする。
 こんな汚い台所……だらだらやっていたら三時間なんかあっという間に経ってしまう!
 まずは食器や鍋に付着している汚れや残飯をゴミ袋に入れ、シンクや排水溝の中も綺麗にする。
 次に、汚れは上から撃退していくべし! と、壁に付着している汚れを取ろうと、洗剤を付けたタワシでゴシゴシとこするのだが……力を入れても全然取れない。

「んがーっ! 汚れが落ちないっ」

 しばらく汚れた壁と戦っていたが、汚れは全く落ちておらず、力を入れ過ぎてただ腕が痛いだけ。
 どれくらいの時間が経過したのかとタブレットを取り出して画面を確認してみれば、そろそろ一時間が経とうとしていた。
 時間はあっという間に過ぎていく……
 なのに、全く終わる気配がない。
 これじゃあ、初めての依頼は失敗に終わる――そう思ってタブレットを腕輪に戻した時、ふと、その腕輪が光っているのに気付いた。
 何だろうと、すぐに腕輪をタブレットに戻す。すると……


【『ショッピング Lv1』――起動しますか?】


 という表示があった。
 そういえば、使える状態にだけはしておいたけど、また一度も開いてなかったっけ。
 ホーム画面に移動すると、『ショッピング Lv1』の横にお知らせマークが付いていたのでタップする。


【お知らせ――『ショッピング』では、ポイントと交換で、地球で売られているものを何でも買うことが可能です】
【※100円の商品を買いたいなら、100ポイントが必要。ポイントが足りない場合、こちらの世界のお金をポイントに交換チャージ出来ます。交換方法は、現金をタブレットの画面に置くだけ】
【『ショッピング』のレベルが1の場合、地球上で100~300円(税はかかりません)の商品しか買えません。レベルを上げるとそれよりも高いお買い物が出来ますので、どんどんレベルを上げていきましょう!】


 なんて書いてあった。
 そこで、僕は『ショッピング』アプリの商品検索のらんから『超激落ちるよスポンジ君』があるか調べてみる。
 このスポンジは、僕が一人暮らしをしている時に大変お世話になったものである。
 小さなスポンジが一つの袋に大量に入っており、金額はめっちゃ安いのに汚れはガッツリ取れるすぐれものだ。
 検索の結果、お徳用のパックが100ポイントで買えるとあったので、迷わず購入。
 すると、僕の掌に魔法陣のようなものが浮かび上がり――『超激落ちるよスポンジ君』の袋が現れた。
 それを見て、本当に本物が出てきたと感動する。
 僕は早速袋の口を開いて小さなスポンジを取り出して、少し水をつける。そして頑固がんこにこびり付いた汚れを落とすべく、壁にスポンジを当てて擦ると……


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