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ダンジョンでの出会い 1

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 もきゅもきゅ、とくさんまパンを食べていると、食べる様子を見ていたネヴィルが「ウェルドも若い見た目とは違い、中身は高齢ですからね……どうしても今のリアム様を見ると小さな子供に感じてしまうのでしょう」と言った。

「……そんなものなのかな~?」

 パンを食べつつ、もう一つの包みに入っていた苺をネヴィルの口に持っていく。

「はい、ネヴィル。あ~ん」
「あ~」

 パカッと空いた口の中に苺を入れると、表情はあまり変わらないけど、少しネヴィルの纏う雰囲気が柔らかくなったような感じがした。
 基本悪魔は食べ物を食べなくても生きていけるけど、趣味の範囲で食べ物を食べたりするらしい。
 嗜好も様々でお酒が好きだったり、駄菓子が好きだったり、肉、魚、野菜などなどその悪魔によって好きな物が違うんだって。
 ネヴィルの場合は新鮮な果物が好きなようだった。

 見た目に反して可愛いと思ったけど、絶対口には出さないでおく。

 そんなことを言った日には、後からなにを言われるかわからないからな。
 昼食を食べ終えた僕達がまた歩みを進め、まだ攻略されていない場所がある方へ向かっていると――

「ん? なんか音が聞こえない?」

 地図を見ながら先を進んでいると、水滴が地面に落ちる音以外のものが微かに聞こえて来たように感じがしてそう聞けば、僕達が進む先を見詰めたネヴィルが「人が……数人こちらへ向かって走って来ているようです」と教えてくれた。
 魔獣討伐でダンジョンに入った冒険者かな? と思っていると、段々響く足音が大きくなってくる。
 立ち止まって真っ暗な通路の先を見詰めていると、その先から血だらけになりつつ焦りながらこちらへと走ってくる冒険者達が見えてきた。

 見た目三十代中頃の……冒険者というより破落戸ごろつきのように見える男性五人組が、僕達を認識すると「助けてくれ!」と叫びながら近付いて来る。

「ふむ……あれは……『ダンジョン荒らし』の連中でしょうか」
「ダンジョン荒らし?」
「はい。ダンジョンの中には、外にはない珍しい鉱物や宝石の原石などが稀に生まれることがあります。ですが、そればかりを獲ってしまうと強い魔獣がなぜか大量発生するといった現象が起きるんですよ」
「じゃあ、その鉱物や宝石を手に入れたいなら、近くにいる魔獣もちゃんと討伐しなきゃダメってこと?」
「そうなりますね。そうしなければ、強い魔獣で溢れるダンジョンになってしまい、誰も中に入れなくなってしまいますから」

 また新たな知識を得たと思いながら、ネヴィルが言う『ダンジョン荒らし』の人達を見ていると――彼らは助けてくれと言いながら目の前まで近付いて来たかと思えば、剣を取り出して僕達に向ける。
 それを見た使い魔達が僕の両肩に載り、警戒態勢を取る。

「おい、お前ぇーら、ここで死にたくねぇだろ?」
「そうそう、死にたくねぇーなら、俺らが来た道をそのまま真っ直ぐ進め」
「そうだ。俺達が見えなくなるまでな」

 汗だくで満身創痍といった状態の彼らに剣を向けられても、全く怖くはない。
 僕とネヴィルはお互い目を合わせてから、頷いた。

「そうですね……元よりこちらに用があったので、言われなくても私達はこちらへ行きますよ」

 ネヴィルはそう言うと、男達の横を通り過ぎて通路の先を進んで行く。
 一緒に歩きながら、そっと後ろを振り向けば――男達が笑いながらどこかへと走り去っていくのが見えた。

「はぁ、あの者達は分かっておりませんね」
「なにが?」
「あんな血だらけの状態でダンジョン内をウロチョロしていれば、血の匂いに惹き付けられた魔獣共に襲われる未来しかありません」
「あ~……確かに」

 まぁ、だからと言って人のことを剣で脅す人達にそのことを教えてあげる必要はないかもしれない。
 それに逃げ足だけは早いようで、もう姿形も見えないし。
 上手く逃げてくれ、としか言いようがないな。

 しばらく歩いていると、ネヴィルが「かなり強い魔獣の気配がします」と言って僕を地面に下ろした。

 目の前には二手に分かれている道があり、地図上では左方向がまだ攻略が出来ていない区域のようだった。
 普段だったらまだ攻略していない方の道を選ぶんだけど……右側の道の地面に血が数滴落ちているのを見付けてしまう。
 こっちの道からあの破落戸達がやって来たのだと分かる。
 ネヴィルが言う魔獣の気配は右側からしているらしく、地図には右側には弱い魔獣がいるとしか書かれてないけど、ネヴィルの話ではかなり強い魔獣っていっているから確認だけでもしておいた方がいいかな? と思った僕は、ネヴィルに「こっちの道へ進もう」と提案した。
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