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第四幕・魔鏡伝説(後編-04)

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「それじゃあ、ケリを付けに行くぞー!」
ヤミの目が<キラリ>と光ると、<パタパタ>と羽を羽ばたかせたパットが右肩に止まった。

「ターゲットは現在、村長公邸と思われる」
未羽の手の上で<カシャン>と音を立て、13発のマガジンがベビー・イーグルに着装される。

「だが、どう攻める?」
<スッスッ・サッサッ>
紅蘭の手甲・脚絆に鏢が差し込まれ格納された。


「とーぜん! 真正面から、堂々と突っ込むに決まってんじゃん」
ヤミが拳を握りしめて、片手でファイティングポーズを取った。

「相変わらずの無鉄砲さだが・・・。今回は私も賛成だ」
未羽はホルスターに愛銃を入れ、腰のベルトを撒く。

「ヤレヤレ、帮不上忙(仕方ないの意)。ワタシも尽き合おう」
縄鏢を巻き取った紅蘭が笑みを浮かべる。

「1つ確認だが?」
「あのファッジと言う男が居たら?」
「ワタシが対峙する。心配するな」
「紅蘭ちゃん。恐らくだけど、アイツは居ないと思う」
「何故、そう思う? ヤミ?」
「あいつらは・・・。【ボーリング3兄弟妹】は、自分達の目的以外に興味を示さない。特に、ファッジは目的を達したら直ぐに姿を消すヤツさ。でも、何も仕掛けて来ないって事は」
「既に撤収した?」
「目的を果たしてね」
「目的? そう言えば、何かを探していたみたいだったが」
「恐らく、ロクなモノじゃないよ。さて、行きますかぁ」

「パットちゃんの恨みを!」
「ファナの為に!」
「ヴィオレーテの無念を!」
ヤミ・未羽・紅蘭が互いを見つめ合って大きく頷いた。

「ボク達、チャリーンズ・エンジェルが復讐を果たすよ!」
ヤミの言葉を合図に3人はそれぞれの時計を見る。

「現在、〇月×日。21:32分と少し。33分で皆の時計を合わせるからねぇ。3・2・1。マーク!」
3人の腕時計が同時にリセットされ、同じ時を刻みだした。



「棗によると、ファナちゃんが目覚めるのは今から凡そ270分後。それまでに、ちゃっちやっと終わらせて、【コミエンゾ・シウダッド】から撤収。日本に向かう!」
「收到(了解の意)」
「ラジャー!」

 母との夢を見ているのであろうか、笑みを浮かべて眠るファナを残し、3つの影が村長公邸へと向かって走り出したのである。



 村長・公邸――

賑やかな声が内側から響いていた。

「俺が、ついに神になる日が来たのだ!」
「ホセ様、かっけーっ!」
「村長、最高!」
どうやら、有り得ないヨタ話に酔ったホセが品の無い酒宴を催している様である。


「正面は、紅蘭ちゃん。右側面からの援護は未羽ちゃん、合図はパットちゃん。以上、宜しくぅ!」
インカムから聞こえるヤミの声に紅蘭と未羽は大きく頷く。

「突入は、180秒後。皆の検討を祈る! オーヴァー!」



紅蘭と未羽への通信の前の事である――

「それでは、手配を頼むぞ。アレハンドロ」
<承知致しました>

メキシコの鉄道会社最大手・ニャロメッドスの会長であり、ミケネスの7代将軍の一角を担う、アレハンドロ・ベリスタインは会長室で受話器を卓上に置く。

「【コミエンゾ・シウダッド】の医療施設屋上に、ユーロコプター・エキュレイユを待機、しかもパイロットは不要。村長公邸に、連邦警察・特殊作戦群を指定時刻に突入。メキシコシティ・フアレス国際空港に特別機を待機させろとは・・・。あの方の気紛れにも困ったものだ。だが・・・」

 アレハンドロは、ふと考え込む。

「【萬度】の孫紅蘭以下2名がそれ程、気に為される存在だと言うのか」
既に事態は彼の手に負える範疇を超えたと感じていたのであろうか――



「パットちゃん。GO!」
ヤミの声を合図にバットが村長公邸へ向かって静かに飛んで行く。
片脚には、何か細長い筒の様な物体を掴んでいる。

<パタパタ・パタパタ>
微かな羽音を立てて公邸内部へと侵入したパットが見た光景がヤミの眼鏡レンズに映し出される。

「ほうほう、これまた見事に品の無いアホ面ばかりが揃ったもんだ。ざっと見て、30人かぁ。んじゃ、そろそろ!」
ヤミの瞳がキラリと光った。


<キュッキュッキユッ・キュッキュッ>
ヤミの言葉が聞こえたかの様にパットは大きく翼を広げると、酒宴に夢中になっている男達の上空で天井から吊り下がっているシャンデリアに片脚を掛け、頭を下にして止まった。

「んっ? 何だ、アレ?」
微かな光の揺れに気付いた男が目線を上に移すと、回りの数人もそれに倣う――

「蝙蝠・・・か」
酔った目をゴシゴシと手の甲で擦った男が改めてパットを見上げた時であった。


<キュッキュッ>
パットが鳴き声を上げると同時に羽を大きく広げ、天井近くを旋回する様に飛びながら、片脚の持っていた筒の先端を反対側の脚で器用に回して開けた。


<サラサラ・サラサラ>
微粒子パウダーの様なモノが筒の先から少しずつ撒かれて落ちて行く。

「何だ・・・。コレ?」
男が振って来る何かを見て見ようと掌で受けた瞬間――

<ボンッ。ボンポンッ!>
男の掌で小さな火の手が無数に上がった。

「うわっち!」
「何だ! あっつっ」
パットが振り撒いたパウダーは男達の身体に触れると、瞬時に発火したのである。


「パーティクル・ボンバー(粒子の爆撃機)。あの、ヴァニラの発案したのを転用するのは気に食わないけど・・・。なかなか使えるじゃん」
ヤミは一瞬だが、不本意そうな笑みを浮かべた。

「うわあぁぁぁっ。何だあぁぁぁ」
「どうしたんだ? 熱っつっっっっ」
男達は逃げ回るが、風の流れで不規則に振り撒かれたパウダーはアチコチに落下し、その下に居た男達に触れると発火を繰り返した。


「そのパウダーは、人体に触れた時にだけ発火するんだよ。例え一瞬でも、発火温度は260度。マッチを皮膚で擦られている熱さと同じさ」


「おい? 何だ? 何を騒いで・・・。あっ、熱っ!」
部下達の大騒ぎの様子にホセも何事かと慌てるが、パットの攻撃の餌食になっていた。


「くそっ! アイツを打ち落とせ!」
ホセの叫び声に部下達が一斉に銃を持ち出してパットを打ち落とそうとするが――

<ガーン。ガンガンガンガン>
<ドキューン>
<バキューン>
数十発の銃弾がパットに向かって飛ぶが、バットはまるで空中でアイスダンスを踊っているかの様なアクロバティックな動きで全ての銃弾を難なく躱していく。


「爆撃終了、パットちゃん戻れ!」
ヤミの声が聞こえたかの様にピクリと耳を動かしたパットは、空になった筒を離すと一直線に玄関へと向けて飛ぶ。


「逃がすな!」
「舐めやがって!」
殺気だった男達がパットを追って玄関へと駆け寄った――


「だ、誰だ?」
パットを追って外へと飛び出そうとする男達の行く手を遮るかの様に立つ人影。

軽く拭いた風がその主の黒髪を軽く靡かせる。

「流氓成功(悪党成敗の意)、不要退缩(遠慮はしないの意)」
風に髪を靡かせた紅蘭が男達の前に立ちはだかっていたのであった。

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