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第四幕・魔鏡伝説(中編-06)
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<スウゥゥゥッ!>
音も無く黒い影がヤミの間近へと舞い降りる。
(なっ、アレは!)
(まさかぁ!)
<ビシッ>
ヤミに向かって飛んでいた鈍い光は、黒い塊を貫くと勢いを失って落下した。
<カラーン・カラカラ>
(ジャベリン!)
ジャベリンとは、投げ槍類の総称である。古代ローマ軍のピルムに代表される様に投擲して敵を倒す事を目的として用いられる古代武器である。
「そんなっ!」
ヤミは自分を攻撃した物体を見て、ワナワナと震えだした。
一方、ヤミの無事を見た未羽はすかさず、ジャベリンが投擲された方向へと向き直ると、
そこに居た両手に何か棒状のモノを両手に持った人影に向けて、ベビー・イーグルの全弾を一気に打ち込むと同時に、次のマガジンを腰のベルトから引き抜き、やや後方上空へと投げる。
<ガーン・ガンガンガンガンガン・カガーン・ガンガン! カチッ>
<キンキンキンキンッ>
「何だと!」
未羽の放った銃弾はその影に届く寸前に何かによって全てが弾かれ、逆に影は手に持った何かを未羽に向けて投げ放つ。
(シールドか?)
そう思いながらも未羽はベビー・イーグルのラッチを押して空になったマガジンを床に落とすと同時に身体を半回転させ、影の放った物体を躱す。
<グサッ>
未羽が躱した物体はその重量を活かして、未羽の後ろの壁に突き刺さった。
「プギオか!」
プギオとは、短刀の名称である。
古代ローマ時代に多用され、全長約30cmと小型であるが、両刃の剣身は5cm以上と非常に幅広で、中央部分が膨らんだ「木葉型」と言われる特徴的な形状をしている。
鋭い先端が刺す攻撃に向いている。
横目でそれを確認した未羽の目前に、先程放り投げた次のマガジンが落ちて来る。
手首を返して落ちて来る位置に先回りさせると、<シャキッ>と音を立ててマガジンは銃床部へと吸い込まれる様に収まった。
(得物を手放したか。貰ったっ!)
未羽は構えを正位置に戻し、チャンバーを引くと一気に影へと向けて全弾を再び打ち込む。
<ガーン・ガンガンガンガンガン・カガーン・ガンガン! カチッ>
全弾を打ち尽くした未羽は影をジッと見据えていたのだが――
<カキン・キンキンキンッ>
影は片手を身体の周囲で振り回し、先程と同じ様に全ての銃弾を弾いたのである。
(そんな! 馬鹿な!)
未羽の顔に驚きと恐怖の色が浮かんだ。
「ジェリコ941(ベビー・イーグルの別名)、13発のマガジン。それで終わりか?」
影はゆっくりと歩み出る。
右手にグラディウスを持ち圧倒的な存在感をもって現れたその影は男であり、顔には左額から、右口元に掛けて刀傷の様な生々しい傷があった。
グラディウスとは、刀剣の一種である。
古代ローマ時代の兵士や剣闘士によって用いられた、刃渡りは50cm程度・柄を含めても70cm程度、刀身は肉厚・幅広の両刃で、先端は鋭角に尖っている剣である。
(グラディウスの重さは、約1キロ。それをこうも易々と使いこなすとは)
既に弾切れとなった未羽であるが、この戦いの中で冷静さを取り戻しつつあった。
「ホセの手の者か?」
「ホセ? 知らんな」
「では何故、ここに居る?」
「探し物をしに来ただけだったがな」
男はチラリとヤミを見た。
「ヤミを襲った理由を言え!」
「ふっ、それはヤミ本人に聞け」
「お前の名は?」
「ファッジ。ファッジ・バウリングだ。俺の探し物はここには無かったが思わぬ奴と再会した」
ファッジはジロリと未羽を見る。
「次にヤミと一緒に居るなら、死ぬ事になるぞ」
そう言うと、ファッジは無表情のままクルリと踵を返し、影の中へと消えて行ったのであった。
<パチ・・・。パチッ>
ジャベリンに貫かれた黒い塊が開いた穴から火花を散らしている。
「パットちゃあぁぁぁぁんっ!」
ヤミの悲壮な叫び声が邸内に響いた。
「ヤミっ!」
慌てて振り返った未羽が走り寄ると、ヤミは胴体に風穴を開けて動かないパットを両手で抱き締めて号泣している。
「パットが、やられたのか?」
「違わいっ!」
ヤミは両目から大粒の涙を流しながら動かなくなったパットを両手で抱え、未羽を見上げる。
「パットちゃんは、全方向に指向性電波を発生させてるんだ。どんな攻撃も当たる訳が無いんだよっ!」
「じゃあ。パットはお前を守った?」
「・・・、馬鹿だよ」
未羽の言葉にヤミは涙声で応える。
「パットちゃん・・・。ボクは、そんな機能付けてないのにっ。大馬鹿野郎だよぉぉぉっ」
ヤミの絶叫が響いた――
「撤収するよ」
パットを抱えたまま立ち上がるヤミ。
「ヤミ、済まない。私が取り乱したばかりに」
「違うよ、未羽ちゃん」
「しかし」
未羽も顔を上げてヤミを見る事が出来ない。
「あの時、ボクが暁蕾に変わっていたら。きっと、避けられた筈。ボクの甘さが招いた結果・・・」
「ヤミ、1つ聞かせて欲しい、あの男は何者なんだ?」
未羽は恐る恐る尋ねた。
「ボーリング3兄弟妹(きょうだい)、【能面男のファッジ】」
「ボーリング? バウリングと言ってたみたいだぞ?」
「あんな奴等は、ボーリングで十分なんだよ!」
ただ事ではないヤミの怒りを感じる未羽であった。
「ヴィオレーテを連れて、撤収。後の事は改めて考える」
「分かった」
こうして、未羽はヴィオレーテの肩を支え、ヤミはパットを両手で大切に包み込み、村長公邸を後にしたのであった。
音も無く黒い影がヤミの間近へと舞い降りる。
(なっ、アレは!)
(まさかぁ!)
<ビシッ>
ヤミに向かって飛んでいた鈍い光は、黒い塊を貫くと勢いを失って落下した。
<カラーン・カラカラ>
(ジャベリン!)
ジャベリンとは、投げ槍類の総称である。古代ローマ軍のピルムに代表される様に投擲して敵を倒す事を目的として用いられる古代武器である。
「そんなっ!」
ヤミは自分を攻撃した物体を見て、ワナワナと震えだした。
一方、ヤミの無事を見た未羽はすかさず、ジャベリンが投擲された方向へと向き直ると、
そこに居た両手に何か棒状のモノを両手に持った人影に向けて、ベビー・イーグルの全弾を一気に打ち込むと同時に、次のマガジンを腰のベルトから引き抜き、やや後方上空へと投げる。
<ガーン・ガンガンガンガンガン・カガーン・ガンガン! カチッ>
<キンキンキンキンッ>
「何だと!」
未羽の放った銃弾はその影に届く寸前に何かによって全てが弾かれ、逆に影は手に持った何かを未羽に向けて投げ放つ。
(シールドか?)
そう思いながらも未羽はベビー・イーグルのラッチを押して空になったマガジンを床に落とすと同時に身体を半回転させ、影の放った物体を躱す。
<グサッ>
未羽が躱した物体はその重量を活かして、未羽の後ろの壁に突き刺さった。
「プギオか!」
プギオとは、短刀の名称である。
古代ローマ時代に多用され、全長約30cmと小型であるが、両刃の剣身は5cm以上と非常に幅広で、中央部分が膨らんだ「木葉型」と言われる特徴的な形状をしている。
鋭い先端が刺す攻撃に向いている。
横目でそれを確認した未羽の目前に、先程放り投げた次のマガジンが落ちて来る。
手首を返して落ちて来る位置に先回りさせると、<シャキッ>と音を立ててマガジンは銃床部へと吸い込まれる様に収まった。
(得物を手放したか。貰ったっ!)
未羽は構えを正位置に戻し、チャンバーを引くと一気に影へと向けて全弾を再び打ち込む。
<ガーン・ガンガンガンガンガン・カガーン・ガンガン! カチッ>
全弾を打ち尽くした未羽は影をジッと見据えていたのだが――
<カキン・キンキンキンッ>
影は片手を身体の周囲で振り回し、先程と同じ様に全ての銃弾を弾いたのである。
(そんな! 馬鹿な!)
未羽の顔に驚きと恐怖の色が浮かんだ。
「ジェリコ941(ベビー・イーグルの別名)、13発のマガジン。それで終わりか?」
影はゆっくりと歩み出る。
右手にグラディウスを持ち圧倒的な存在感をもって現れたその影は男であり、顔には左額から、右口元に掛けて刀傷の様な生々しい傷があった。
グラディウスとは、刀剣の一種である。
古代ローマ時代の兵士や剣闘士によって用いられた、刃渡りは50cm程度・柄を含めても70cm程度、刀身は肉厚・幅広の両刃で、先端は鋭角に尖っている剣である。
(グラディウスの重さは、約1キロ。それをこうも易々と使いこなすとは)
既に弾切れとなった未羽であるが、この戦いの中で冷静さを取り戻しつつあった。
「ホセの手の者か?」
「ホセ? 知らんな」
「では何故、ここに居る?」
「探し物をしに来ただけだったがな」
男はチラリとヤミを見た。
「ヤミを襲った理由を言え!」
「ふっ、それはヤミ本人に聞け」
「お前の名は?」
「ファッジ。ファッジ・バウリングだ。俺の探し物はここには無かったが思わぬ奴と再会した」
ファッジはジロリと未羽を見る。
「次にヤミと一緒に居るなら、死ぬ事になるぞ」
そう言うと、ファッジは無表情のままクルリと踵を返し、影の中へと消えて行ったのであった。
<パチ・・・。パチッ>
ジャベリンに貫かれた黒い塊が開いた穴から火花を散らしている。
「パットちゃあぁぁぁぁんっ!」
ヤミの悲壮な叫び声が邸内に響いた。
「ヤミっ!」
慌てて振り返った未羽が走り寄ると、ヤミは胴体に風穴を開けて動かないパットを両手で抱き締めて号泣している。
「パットが、やられたのか?」
「違わいっ!」
ヤミは両目から大粒の涙を流しながら動かなくなったパットを両手で抱え、未羽を見上げる。
「パットちゃんは、全方向に指向性電波を発生させてるんだ。どんな攻撃も当たる訳が無いんだよっ!」
「じゃあ。パットはお前を守った?」
「・・・、馬鹿だよ」
未羽の言葉にヤミは涙声で応える。
「パットちゃん・・・。ボクは、そんな機能付けてないのにっ。大馬鹿野郎だよぉぉぉっ」
ヤミの絶叫が響いた――
「撤収するよ」
パットを抱えたまま立ち上がるヤミ。
「ヤミ、済まない。私が取り乱したばかりに」
「違うよ、未羽ちゃん」
「しかし」
未羽も顔を上げてヤミを見る事が出来ない。
「あの時、ボクが暁蕾に変わっていたら。きっと、避けられた筈。ボクの甘さが招いた結果・・・」
「ヤミ、1つ聞かせて欲しい、あの男は何者なんだ?」
未羽は恐る恐る尋ねた。
「ボーリング3兄弟妹(きょうだい)、【能面男のファッジ】」
「ボーリング? バウリングと言ってたみたいだぞ?」
「あんな奴等は、ボーリングで十分なんだよ!」
ただ事ではないヤミの怒りを感じる未羽であった。
「ヴィオレーテを連れて、撤収。後の事は改めて考える」
「分かった」
こうして、未羽はヴィオレーテの肩を支え、ヤミはパットを両手で大切に包み込み、村長公邸を後にしたのであった。
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