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第四幕・魔鏡伝説(前編-03)

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   ドルゴ14と聞いて、男達の顔に焦りの色が見えていた。
そして、もう1人――

「ドルゴ14って、もしかして。未羽姉ちゃん?」
「覚えていてくれたのか? ファナ、久しぶりだな」
ニヤリと笑みを見せる未羽。

「こんな小娘にビビったって知られたら、ホセ様に殺されるぜ」
「そ、そうだ。やっちまえ」
「ファナさえ連れて帰れば!」
男達は手に武器を持ったまま、未羽とファナの前に半円状に取り囲む。

(リボルバーが2、オートは、オブレゴンタイプが1か。後は、マチェーテ(大型の鉈)とコンバットナイフ。アイツがリーダーか)
未羽の目が取り囲む6人の男をサッと見回しながらそれぞれの武器を確認し、ほぼ中央で腕を組んだまま立っている男を見据えた。

(アイツ。俺がこいつらの頭って見抜いているのか?)
リーダーらしき男は焦りを感じていた。

(だが、6対2・・・。いや、ファナは戦力外だから6対1だ。しかも、アイツは丸腰。負ける訳がねぇ)
確かにこの男の分析は正しかったかも知れない。
たった一つの間違いを覗けば――

「動いたら、遠慮なくブッ放す。お前は避けたとしても、ファナに当っちまうぜ」
「あぁ、そうだ。その通りだ。ファナに当ったら、お前のせいだよなぁ」
銃を持った3人が未羽に銃口を向けた。

「よーしよし。良い子だ」
身動きしない未羽を見て、諦めたと思ったのであろうか。

<ザリッザリッ>
男達のブーツが砂を踏む音だけが聞こえていた。


「へっ、何がドルゴ14だ。こけおどしじゃっ・・・!?」
未羽に近づきこれ見よがしに銃を突きつけた男の顔色が変わった。

「銃の特製も知らないようだな。所詮、素人」
「な、何っ?」
未羽は自分に向けられていたリボルバーの弾倉部分を右手で掴んでいたのである。

「リボルバーは撃鉄を起こしていない限り、シリンダーを抑えられると発砲出来ない!」

そう言うと、未羽は右手で掴んだリボルバーの弾倉を起点に左手を添えると逆時計回りに回転させ体重を掛けた。

「ウギャッ!」
<ミシミシ、ベキッ>
未羽に銃を握られていた男の口から異様な悲鳴が上がり、骨の折れる鈍い音が聞こえた。

「ッ!」
「テメェッ!」
異常に気付いた他の4人が飛び掛かろうとするが、未羽は反転して地面へと転がり――

<ガーン・ガガーン>
立て続けに銃声が響き、2人の男の手から銃が弾け飛ぶ。

「何だと!」
慌てて銃を拾おうとした男達だが――

<ガーン・ガガーン>
再び銃声が響き、男達の銃は更に遠くへと弾け飛んだ。


「お見事、流石だ。ドルゴ14と言うのも嘘ではなさそうだ」
銃を構え直した未羽が声のした方向へと視線を向けた。

「クッ!」
未羽の目に映ったのは、リーダーらしき男に後ろ手にされ掴まっているファナの姿であった。

「全く、油断も隙もねぇ。おい!」
リーダーらしき男の隣には、コンバットナイフをファナに突きつけている男。
マチェーテを持った男はニタニタと笑いながら未羽へと近づいて来る。

「痛ぇ、痛ぇよぉ」
未羽が指関節を砕いた男は砂の上で蹲っているが、他の2人は弾き飛ばされた銃を拾い、砂を叩くと未羽へと向き直る。

「残弾は2発、こっちは5人。もう、さっきみたいな奇襲は通じないぜ」
リーダーらしき男が勝ち誇った様に余裕を見せる。

<ヒュンッ>
突然、何か黒い影がリーダーらしき男の頭に止まった。

「んっ? 何だ?」
リーダーらしき男が不可思議な塊を手につかみ取り、それを見る。

「コウ・・・モリ?」
男が手に取った蝙蝠らしきモノが一瞬、笑ったかの様に見えた時――

<ボーッ>
何と、蝙蝠の口から炎が噴き出されたのである。

「ウワァァァァッ!」
突然、現れた火吹き蝙蝠に男達は騒然となり、ファナを捕まえていた手を放した。


(パットじゃないか! だと、すれば・・・ )
火を噴き出した蝙蝠を見た瞬間、未羽は身を翻してファナへと走り寄る。

「何も言うな。黙って付いて来い」
そう言うと、ファナの手を取りジープに乗せた未羽は急発進させる。

「畜生、逃がすんじゃねぇぞっ」
慌てた男達も馬に跨り、その後を追いかけた。

「未羽姉ちゃん!」
傷が痛むのであろうか、言葉絶え絶えになりながら未羽を見つめるファナ。

「もう心配しなくていい、ファナ。アイツ等が来たからな」
軽く笑みを浮かべる未羽の視線の先には、砂塵を巻き上げ爆走して来る2台のオフロードバイク――



「もう、変装は要らないんじゃなぁい?」
「そうだな。出来の良いマスクで気に入ってたが!」
疾走する2台のオフロードバイクに跨った2人が下あごの辺りに指先を掛けて、一気にマスクを剥ぎ取った。

砂混じりの風がショートカットのヤミの髪をはためかせ、紅蘭の黒髪が風になびく。

「目標、補足! 正面、敵影5!」
「右の2人は、任せるぞ。ヤミ」
「んじゃぁ、左の3人は紅蘭ちゃんかぁ。今度は【星後珈琲】、奢って貰うよ~ん」
「いゃ、今回は未羽の奢りだ」
「なーるほどぉ」
「行くぞ、ヤミ」
「ラジャー! 頼んだよ、暁蕾(しゃおれい)!」
ヤミの瞳が眼鏡のレンズに反射し、ヤミの顔つきが変わった。

「今度は、砂漠で騎乗戦か・・・。まったく、楽しませてくれる」
暁蕾は微笑み、オフロードバイクのアクセルを全開にした。

<グオォォォォッン!>
けたたましい音を立てて、暁蕾は爆走する。


「未羽!」
未羽のジープとすれ違いざまに、紅蘭は片手で持った何かを未羽へと投げ渡した。

「っ! ベビー・イーグル!」
キラリと光って投げ渡されたその物体を手にした未羽の頬が緩む。

「サンキュー、紅蘭」



「何だ、あのバイク! 突っ込んで来るぞ!」
「ヤバイッ! ぶつかる!」
暁蕾のバイクが馬の鼻先にぶつかると思った瞬間――

「そんなっ!」
「馬鹿なっ!」
暁蕾のバイクは、ほぼ垂直にジャンプしたのである。

「ワタシの乗ったモノはどんな動きでも出来る!」
キラリと目を輝かせた暁蕾は空中で手を放した。

<ガサッ! ザザザァァァッ!>
上空から落下したバイクが砂煙を立てる。

「ア、 アイツは何者なんだっ?」
「グッ・・・。グフッ!」
空中でバイクから手を放した暁蕾は落下し、着地する寸前に2人の男の首筋に一撃を加え、昏倒させていたのであった。

<ズザッ>
砂地に着地した暁蕾は眼鏡のフチを持ち、軽く持ち上げると――

「終わったぞ。ヤミ」
そう呟いたのであった。


 一方、未羽に銃を投げ渡した紅蘭は――

「な・・・、何してやがるんだぁ!」
男達が驚きの声を上げる。

何と、紅蘭はオフロードバイクを走らせたまま、そのシートの上に立っていたのである。

「クソッ! やってやるぜ!」
1人目の男が騎乗で拳銃を構え、2人目の男がマチェーテを振りかざして迫りくる。

「お前達では、役不足だ」
そう言うと、紅蘭は右手を頭上に掲げ、左手を腰の後ろへと回す。


 1人目の男が紅蘭へと銃を向けた瞬間、紅蘭の右手が頭上から振り下ろされ、何かがキラリと光った。

<カツッ>
ほんの小さな音を立てて、紅蘭の手から放たれた鏢が男の構えた銃口に突き刺さった。

「死ねぇ!」
その僅かな異常に気付かなかった男が引き金を引く――

<バーンッ>
激しい爆発音を立てて、暴発した男の銃がバラバラに弾け飛ぶ。

「ウギヤァァァァァッ!」
銃の暴発で自らの手を裂傷した男が馬から転げ落ちた。

「畜生、やりやがったなぁ!」
2人目の男が、マチェーテを振りかざしたまま迫って来る。

<ヒュッ>
微かな音と共に、紅蘭の左手が腰の後ろから何かを投げる様に伸びる。


(何だ? 赤い・・・光?)
一瞬見えた赤い何かを確認する間も無く、紅蘭の放った縄鏢が2人目の男の持った手綱を正確に射抜いた。

<ブチッ>
「な、何が起きたんだあぁぁぁっ!」
手綱の切れる音が聞こえ、2人目の男がバランスを崩し、マチェーテを手にしたまま馬上から放り出される。


(どうなってるんだ? 何が起きているっ?)
ついさっきまで一緒に居た4人の仲間を失ったリーダー格の男は、すれ違った紅蘭へと振り向く。

<ヒュッ>
縄鏢を手繰り戻した紅蘭が手首を返した。

<グサッ>
「ギャアァァァッ!」
紅蘭の手元から再び繰り出された縄鏢は、リーダー格の男の右肩を射抜き、その痛みでリーダー格の男も馬上から放り出されたのであった。 


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