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第三幕・邪教撃摧(げきさい)(中編-06)

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「それでは、【キラナ・統率教】が自らの奇跡と公言している現象をご紹介しましょう」

【誰もいない道に不思議な声が聞こえる道】 
 某県の海沿いの国道で、誰もいない道に響く不気味な声が聞こえていた。
街の人に話を聞いてみると、「何もない所なのに何処からか、人の声が聞こえてくる」「誰もいないのに男の人の話し声がする」「女性の声がいつも聞こえる」更に、笑い声や中国語・英語を話す声まで聞こえて来ると言うのである。

「この現象に付きまして、【キラナ・統率教】の冷泉教祖は以前、こう答えております」
茉依子が微笑むと、画面が変わって翠の映像が現れる。

<これは、私がこの地で呼び出した精霊たちです。ここには数多くの精霊たちが暮らしており、世界各地と繋がっているのです。ですから、外国語で話す妖精が遊びに来て、お祭りの様な事をする時もあります。皆さんは声をお聞きになるだけですが、私にはその姿もハッキリと見えているのです>



「すっげー、流石は翠さんだ」
噛り付く様にタブレットの画面に見入った三橋は、陶酔しきっている。


「では、この現象を不動院准教授に分析して頂きましょう」
画面が茉依子に戻り、そして神酒へと切り替わった。


「ここの現場の写真を拝見したのですが、ずっとガードレールが続いています」
神酒は数枚の写真を取り出しながら、説明を続ける。

「この声の正体は、ラジオ局の電波です。山の斜面の反対側に地元ラジオ局の電波塔が有る事が分かりました」
神酒は現場周囲の地図を持ち出し、電波塔の位置を赤ペンで書き加えると、電波塔の写真も画面の前に映し出す。
「ここから出た電波がガードレールで捉えられ共鳴し、空気の振動が音になっているだけです」
「つまり?」
茉依子が絶妙のタイミングで相槌を入れる。

「はい。この周辺のガードレールは、比較的に長く、連続して広い範囲となっているので電波を受け易い条件が整っています。しかも、先程の電波塔とガードレールの距離も直線距離にすると200メートル程しか離れておらず、見た所、近くに電波を遮る物体が何もありません。こう言った現象を引き起こし易い条件が揃っている場所です」



「え・・・。そんなにバッサリと・・・、不動院准教授・・・」
三橋は口をあんぐりと開けたままである。


「それでは、次の現象です」

【石像の首がスパッと切られている】
 某県の山中にある全高1メートル程の石像の首が、まるで鋭利な刃物で切られたかの様に切られていたというのである。
しかも、切り口が綺麗であり、石鋸で切った様な傷も石粉も全く無い事から人間業では無いと言われている。

「では、この現象に付いても、【キラナ・統率教】の冷泉教祖のお答えを見てみましょう」
茉依子が微笑み、先程と同じ様に画面が変わり翠の映像が現れる。


<実はこの石像には邪霊が住み着いておりました。偶然、ここを通りかかったのですが、もしかすると私の守護霊が導いたのかも知れません。そのままでは、大きな災いの元になると感じましたので持っていた宝剣で首を切り落として封印したのです>
そう言って、翠は側から大小の宝石と金銀で飾られた宝剣を持ち出し、画面に向かって構えを見せた。


「流石は、翠さんだ。一銭の特にも成らねぇ事でも、世の為人の為に悪霊と戦うなんざ」
再び満悦となった三橋は笑みを浮かべて画面に見入っている。

「それでは、この現象につきましても、不動院准教授に分析して頂きましょう。宜しくお願いします。」
画面の茉依子に微笑み、神酒へと画面が変わる。

「先ずこの石像ですが、ずっと以前にも1度首が切り取られる事件が起こっています」
そう言って、神酒は古い新聞記事のコピーを持ち出した。

「50年程前の地元の新聞ですが、その時の切り口は粗く叩き割った跡が有り、何者かが頭部を持ち去ったと書かれています。そして、地元の有志が新しい首を同等の石材を使って再生し載せて再接合したと言う事です」
「では、やはり切る事は不可能では?」
結末が分かっているのにワザと期待を持たせる言い方をする茉依子。

「この現象であれば、小学生の時の私でも十分に説明出来ますよ。正体は雨水です」
「まぁ、雨水ですか?」
茉依子は白々しい程の驚き声を上げる。

「物理レベルは小学4年程度。雨水による【凍結膨張】で全ての説明が付きます」
「【凍結膨張】ですね」
「はい。水は氷になると、体積が膨張する性質があります。この事を【凍結膨張】と言います。1度目、石像頭部は人によって切られて再生した頭部をつけたのです。つまり、頭部と体を付けた僅かな隙間に染み込んだ水が、凍った時に【凍結膨張】を起こして綺麗に割れたのです。見方によっては、切られたと見えなくも有りません」
「とは言っても、水が凍る力だけで石像が割れるなんて俄かには、信じられませんよね」
茉依子は嬉しそうに笑っている。

「偶然ですが、かつて西京大学で実験した映像があります」
その言葉を合図に実験当時の映像が流れ、神酒が口頭で説明を補足する。

「水を凍らせる筒状の装置の中に、御影石を入れます。そして、周りをセメントで固めて隙間を埋めた後に、液体窒素を送って筒の中の水を凍らせます」
画像では、水が凍る事で膨らんだ筒の圧力が石を真っ二つに割った様子が映し出されていた。
「今回の石像も種別的には、墓石等に使われる御影石と思われます。この御影石は非常に硬い石なので、人がハンマー等で叩いてもビクともしません。ですが、【凍結膨張】の力で、真っ二つになる事も多々報告されています。刀で石を切るのは、鬼退治の漫画の中だけの話で十分です」
「有難う御座いました」
茉依子は満足気な笑みを浮かべている。



 一方――

「駄目だ、翠さんの奇跡も不動院准教授の前では全部否定されちまう」
絶望に打ちひしがれた三橋に更なる不幸が訪れる。


<Rrrrrr Rrrrrr>
「誰だよ、こんな時に・・・。ひっ!」

スマホの着信画面を見た三橋の顔が見る見る蒼ざめていく。

「あの・・・。もしもし」
<市郎かえ。お前、あの金子を何用に使ったのじゃ>

(お、お母様っ! バレたのか、もしかして。あの金を使って金貨を買った事がバレてるのか?)
脂汗を流す三橋。

「な、何の事でしょう・・・。俺にはとんと・・・」
何とか話を誤魔化そうするが――

<お前ごときがあれだけの金子を一気に使うとなれば、想像は付く。どうせ、絶対に損はしないとか言われて見目の良い女子(おなご)の儲け話に乗ったのであろう>

「ぐっ!」
最早、言い訳無用となった三橋。
果たしてこの危機をどう乗り越えるのであろうか? 
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