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第三幕・邪教撃摧(げきさい)(前編-04)
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官邸・特別室――
「如月さん、何か打つ手は無いのでしょうか?」
「どうして俺に聞くんだ?」
「その、ミネルヴァ様のお力をお借り出来ないかと思いまして。貴方ならミネルヴァ様にお口添えして頂けるかと」
「俺の知った事かよっ! てめえの始末は、てめえで付けやがれ!」
一喝された岸本がすごすごと引き下がる。
「俺は、この国の為にならねぇんなら誰でもぶっ潰してやる。それが、アンタでもな」
「わ、私は何もやましい事は」
「だろうな。アンタは何もしないで平穏な時間が過ぎる事だけを考えている」
「そんな事は有りません」
「なら、なぜ息子を秘書にした? 私設ならまだ良いが公設ってのは、やりすぎだぜ」
「・・・」
押し黙る岸本。
「財蔵省の機嫌を取るのもいいが、気を付けねぇと」
「な、何がですか?」
「ブチ切れた輩に襲われる事だって、考えられなくも無ぇ事だぜ。せいぜい後ろに気を付けるんだな」
「え、SPを倍の人数にして」
「馬鹿か、アンタは? そんな事をするより、自分が胸を張って有権者の前に立てる様に仕事しろよ。それが議員ってモンだろ」
如月の言葉に岸本は何も言えない。
「例え不遇の死に見舞われたとしても、真っ当に生きてりゃ意志を継いでくれる若いヤツが現れるさ」
そう言って、如月は窓から空を見上げて居たのであった。
世間の話題の集まりつつある【キラナ・統率教】本部では、己の欲望にのみ正直な男が2人、教祖である冷泉翠と対面していた――
「ホンマ、ごっつう美人や・・・」
まるで催眠術にでも掛ったかの様に翠を見つめる八郎。
その隣では――
(大塩社長なら金貨100枚は固い。これで俺も第二階 大僧正に昇格して、金がガッポガッポ。翠さんとも更に親密な関係になれるってモンだぜ)
鼻の下を伸ばし、だらしなく頬を緩める三橋。
「流石、市郎さんですわ。こんな素晴らしい方をご紹介して下さるなんて」
妖艶な笑みを浮かべる翠。
「翠さんに喜んで頂けて良かったです。こちらの大塩社長は人格的にも才能的にも比類なき方です、私も安心してご紹介できますよ」
三橋は得意満面の笑みを浮かべる。
「そうそう、市郎さん。貴方の金貨が揃っておりますの。一度、ご覧になってはいかが?」
「おぉっ、そうですか。それは是非とも」
「如何でしょう、大塩様も一緒にご覧になられては」
「そうでんなぁ。まぁ、折角の機会やし拝見させて貰いましょ」
「では、こちらへ」
そう言うと、翠は先に立ち2人をエレベーターへと誘った。
「このエレベーターは?」
キンキラキンに光輝くエレベーターを見て、三橋が尋ねた。
「金貨の保管はお一方に一室をご用意して保管しておりますの。何と言っても金貨ですもの」
「万全のセキュリティシステムか」
「そう。では、このカードをお持ち下さいな」
翠はこれまたキンキラキンのカードを三橋へと差し出す。
「これは?」
「市郎さん専用の金貨保管室のカードキーです。これでいつでも金貨を確認して頂けますの」
「ほう、それは凄い」
思わず溜息を付く三橋。
「こちらのエレベーターに乗られましたら、このカードをココに差し込んで下さい」
「こ、こうですか?」
三橋がカードスキャナーらしき所へカードを差し込むと、音も無く扉が閉まりエレベーターが動き出す。
「このカードが無いとエレベーターは動きませんのよ」
「せやけど・・・。教祖はん」
「どうかなさいました? 大塩様?」
「このエレベーター、何階とかの表示が有れへんで?」
「流石ですわ。よくお気づきになられました」
「へっ?」
思わず顔を見合わせる八郎と三橋。
「何階に行ったのかが分かったら、セキュリティの程度も半減してしまうので、わざと表示させていないんです」
三橋と八郎は、2人で〈ウンウン〉と頷き合う。
(全く、おめでたい2人だわ。こんな簡単に信用してくれるなんて)
翠の心の声に気付く事は無いであろう。
そうしているうちにエレベーターが停まり、扉が開いた。
靴の底が沈みそうな厚いカーペットを踏みしめ、エレベーターを降りると重厚なドアが立ち並び、奥から2番目の扉のライトが点灯している。
「あちらが市郎さんの専用保管庫ですわ」
そう言って先導する翠。
慌てて後を追った三橋と八郎がドアの前に立つと――
「市郎さん。先程のカードをこちらに」
翠の言葉に従いカードリーダーにカードをセットする三橋。
「ドアノブに【指紋認証システム】がセットされていますので握って下さいな」
〈ゴクリ〉と唾を飲み込んだ三橋がドアノブを握った瞬間――
〈ガチャリ〉と音が聞こえた。
振るえる手でドアノブを回し、ドアをあけて室内へと足を踏み込む三橋。
「おぉっ!」
三橋の驚きの声が上がった。
室内には、ガラスケースの陳列台が置かれ、中にはびっしりと並んだ金貨が輝いている。
「世界で最も信頼の有る金貨。【マイプルリーフ金貨・1/10オンス】100枚ですわ」
にっこりと微笑む翠。
三橋はガラスケースに走り寄って、端から一枚ずつガラスにへばり付く様にして金貨を数えて行く。
「97・98・99・100!」
数え終わった三橋の顔に恍惚の色が浮かぶ。
ガラスケースの金貨の前には、【三橋市郎様】と書かれたゴールドプレートが有り、更に金貨の輝きを引き立たせていたのである。
「あの金貨が全部・・・。俺のモノ」
【キラナ・統率教】の本部を出た三橋の顔はニヤケ付いたままであった。
「あないな金貨を見せられたら、わいも買うしかないやんけ。なぁ、三橋はん」
「そうでしょう、大塩社長!」
こうして【キラナ・統率教】のカモが増えて行ったのである。
「如月さん、何か打つ手は無いのでしょうか?」
「どうして俺に聞くんだ?」
「その、ミネルヴァ様のお力をお借り出来ないかと思いまして。貴方ならミネルヴァ様にお口添えして頂けるかと」
「俺の知った事かよっ! てめえの始末は、てめえで付けやがれ!」
一喝された岸本がすごすごと引き下がる。
「俺は、この国の為にならねぇんなら誰でもぶっ潰してやる。それが、アンタでもな」
「わ、私は何もやましい事は」
「だろうな。アンタは何もしないで平穏な時間が過ぎる事だけを考えている」
「そんな事は有りません」
「なら、なぜ息子を秘書にした? 私設ならまだ良いが公設ってのは、やりすぎだぜ」
「・・・」
押し黙る岸本。
「財蔵省の機嫌を取るのもいいが、気を付けねぇと」
「な、何がですか?」
「ブチ切れた輩に襲われる事だって、考えられなくも無ぇ事だぜ。せいぜい後ろに気を付けるんだな」
「え、SPを倍の人数にして」
「馬鹿か、アンタは? そんな事をするより、自分が胸を張って有権者の前に立てる様に仕事しろよ。それが議員ってモンだろ」
如月の言葉に岸本は何も言えない。
「例え不遇の死に見舞われたとしても、真っ当に生きてりゃ意志を継いでくれる若いヤツが現れるさ」
そう言って、如月は窓から空を見上げて居たのであった。
世間の話題の集まりつつある【キラナ・統率教】本部では、己の欲望にのみ正直な男が2人、教祖である冷泉翠と対面していた――
「ホンマ、ごっつう美人や・・・」
まるで催眠術にでも掛ったかの様に翠を見つめる八郎。
その隣では――
(大塩社長なら金貨100枚は固い。これで俺も第二階 大僧正に昇格して、金がガッポガッポ。翠さんとも更に親密な関係になれるってモンだぜ)
鼻の下を伸ばし、だらしなく頬を緩める三橋。
「流石、市郎さんですわ。こんな素晴らしい方をご紹介して下さるなんて」
妖艶な笑みを浮かべる翠。
「翠さんに喜んで頂けて良かったです。こちらの大塩社長は人格的にも才能的にも比類なき方です、私も安心してご紹介できますよ」
三橋は得意満面の笑みを浮かべる。
「そうそう、市郎さん。貴方の金貨が揃っておりますの。一度、ご覧になってはいかが?」
「おぉっ、そうですか。それは是非とも」
「如何でしょう、大塩様も一緒にご覧になられては」
「そうでんなぁ。まぁ、折角の機会やし拝見させて貰いましょ」
「では、こちらへ」
そう言うと、翠は先に立ち2人をエレベーターへと誘った。
「このエレベーターは?」
キンキラキンに光輝くエレベーターを見て、三橋が尋ねた。
「金貨の保管はお一方に一室をご用意して保管しておりますの。何と言っても金貨ですもの」
「万全のセキュリティシステムか」
「そう。では、このカードをお持ち下さいな」
翠はこれまたキンキラキンのカードを三橋へと差し出す。
「これは?」
「市郎さん専用の金貨保管室のカードキーです。これでいつでも金貨を確認して頂けますの」
「ほう、それは凄い」
思わず溜息を付く三橋。
「こちらのエレベーターに乗られましたら、このカードをココに差し込んで下さい」
「こ、こうですか?」
三橋がカードスキャナーらしき所へカードを差し込むと、音も無く扉が閉まりエレベーターが動き出す。
「このカードが無いとエレベーターは動きませんのよ」
「せやけど・・・。教祖はん」
「どうかなさいました? 大塩様?」
「このエレベーター、何階とかの表示が有れへんで?」
「流石ですわ。よくお気づきになられました」
「へっ?」
思わず顔を見合わせる八郎と三橋。
「何階に行ったのかが分かったら、セキュリティの程度も半減してしまうので、わざと表示させていないんです」
三橋と八郎は、2人で〈ウンウン〉と頷き合う。
(全く、おめでたい2人だわ。こんな簡単に信用してくれるなんて)
翠の心の声に気付く事は無いであろう。
そうしているうちにエレベーターが停まり、扉が開いた。
靴の底が沈みそうな厚いカーペットを踏みしめ、エレベーターを降りると重厚なドアが立ち並び、奥から2番目の扉のライトが点灯している。
「あちらが市郎さんの専用保管庫ですわ」
そう言って先導する翠。
慌てて後を追った三橋と八郎がドアの前に立つと――
「市郎さん。先程のカードをこちらに」
翠の言葉に従いカードリーダーにカードをセットする三橋。
「ドアノブに【指紋認証システム】がセットされていますので握って下さいな」
〈ゴクリ〉と唾を飲み込んだ三橋がドアノブを握った瞬間――
〈ガチャリ〉と音が聞こえた。
振るえる手でドアノブを回し、ドアをあけて室内へと足を踏み込む三橋。
「おぉっ!」
三橋の驚きの声が上がった。
室内には、ガラスケースの陳列台が置かれ、中にはびっしりと並んだ金貨が輝いている。
「世界で最も信頼の有る金貨。【マイプルリーフ金貨・1/10オンス】100枚ですわ」
にっこりと微笑む翠。
三橋はガラスケースに走り寄って、端から一枚ずつガラスにへばり付く様にして金貨を数えて行く。
「97・98・99・100!」
数え終わった三橋の顔に恍惚の色が浮かぶ。
ガラスケースの金貨の前には、【三橋市郎様】と書かれたゴールドプレートが有り、更に金貨の輝きを引き立たせていたのである。
「あの金貨が全部・・・。俺のモノ」
【キラナ・統率教】の本部を出た三橋の顔はニヤケ付いたままであった。
「あないな金貨を見せられたら、わいも買うしかないやんけ。なぁ、三橋はん」
「そうでしょう、大塩社長!」
こうして【キラナ・統率教】のカモが増えて行ったのである。
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