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第一幕・天使爆誕(後編-04)
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「それで脱出作戦は?」
ゼンエンスキーがヤミに尋ねた。
「軍用車両で正面突破、ボク達3人とゼンちゃんでね」
ヤミの目がキラリと光る。
「たった1台で正面から出てくれば、普通に考えらるのは?」
「投降・・・?」
「そう見せかけた上で強引に突破するのさ。未羽ちゃん、対戦車ライフルは?」
「ここにあった『カールグスタフ pvg m/42』を借りるとしよう」
「オッケー、紅蘭ちゃんは?」
「この縄鏢 (じょうひょう)が2対と手裏剣が、ざっと20本・・・」
「んじゃ、頼んだよ」
「運転は?」
「それはボクの仕事!」
「それだけなのか?」
些か不安な表情を見せるゼンエンスキーにヤミは微笑みながら言った。
「それが、〈チャリーンズ・エンジェル〉なのさ!」
その両脇で紅蘭と未羽も笑みを浮かべていたのである。
「さぁーて、タイムリミットも近づいてるしぃ!」
「行くか!」
「そうだな!」
3人は円陣になり左手の腕時計を合せる。
「船が待機しているのは、後1時間と6分。タイムリミットは66分、オッケー?」
紅蘭と未羽も黙って頷く。
「んじゃぁ、3・2・1。マーク!」
3人の腕時計が66:00秒からカウントダウンを開始した。
ブォオォォォンッ! ブォオォォォンッ!
正面ゲート前に待機した『ジープ・グラディエイター』のエンジンが唸った。
屋根はフレームだけとなったピックアップタイプである。
運転席にはヤミ、助手席には紅蘭が座り、後部座席にはゼンエンスキーと未羽が陣取っている。
「それじゃ、行くよ! ゲート、オープン!」
ヤミの合図で製鉄所の正面ゲートが開かれた。
「ん? 何だ?」
〈ナットウポリ製鉄所〉を包囲していた軍の指揮官が双眼鏡を持ち直した。
「車が1台だけ? 投降か?」
勝ち目のない戦いと思えば、投降する事も珍しくは無い。
まして、ゼンエンスキーは首都・〈ケール〉に居る事が証明されたのである。
ここで玉砕する事を良しとしない者が出て来るのは、当然の成り行きとも言える。
「投降するなら、攻撃はしないと伝えろ」
指揮官の命により、ロシア語を始め考えられる各国の言葉でその旨がスピーカーから何度もアナウンスされる。
「さぁて、何処まで近づけるかが勝負だねぇ」
ニヤリと笑うヤミ。
「投降者からの返答がありません!」
速度を上げながら直進してくるジープに指揮官の顔が硬くなった。
「投降で無いとすれば・・・、無謀過ぎるが。迎撃用意!」
投降と思っていたものが攻撃される可能性が高まったのである、慌てて迎撃態勢を取る為に車両を再配置しようとしたのだが――
「射程距離内! 未羽ちゃん、頼むよっ!」
「任せろっ!」
後部座席から立ち上がった未羽は、フレーム軸にして『カールグスタフ pvg m/42』を構え、スコープを除く。
キラリと反射したスコープの光をみた指揮官は慌てるが、直ぐに落ち着きを取り戻した。
(この距離で、しかも走行中の車に乗って発砲だと・・・。無謀過ぎる、当る筈が無い)
そう、確かに相手が未羽で無ければこの指揮官の判断は間違ってはいなかっただろう。
だが――
「敵車両による進路封鎖・・・。最初に撃つべきはっ!」
未羽の指が『カールグスタフ pvg m/42』のトリガーを引いた。
轟音と共に射出された弾は、敵軍用車のエンジンを的確に打ち抜く。
ドォーン!
大地を響かせる様な轟音と共に、エンジンを打ち抜かれた軍用車が大破し炎を上げる。
「次は、そこっ!」
ゆっくりと転身していた戦車のキャタビラが打ち抜かれ、身動きの取れなくなった戦車から搭乗員が次々と這い出して来る。
「対戦車ライフルだと! しかも、不安定な車上からこんな狙撃を成功させるなんてありえない!」
指揮官の驚きは最もである。
だが、そうしている内にも未羽は着実に敵車両を次々と使用不能にして行ったのである。
「進路確保! オールクリア!」
未羽の狙撃により進路を塞ぐ敵車両が動けなくなった事を見届けると、ヤミは更にアクセルを踏み込みジープを加速させる。
後部座席に立っていた未羽も、愛用の〈AI L96A1〉に銃を持ち代える。
次々と現われる敵兵へとスコープ越しに狙いを付けると、瞬時にトリガーが引かれる。
「うわっ!」
「ぐわっ!」
未羽は神業の様な速度と正確さで敵兵の太腿や肩を打ち抜いて行く。
(これは・・・。全て致命傷にならない様に?)
信じられないものを見ているかの様な表情を浮かべるゼンエンスキー。
「彼らも上官からの命令に従っているだけ。命まで奪う必要は無い」
ゼンエンスキーが何か言いたげなのを察知したのだろうか、未羽の口から独り言の様な言葉が聞こえた。
ゼンエンスキーがヤミに尋ねた。
「軍用車両で正面突破、ボク達3人とゼンちゃんでね」
ヤミの目がキラリと光る。
「たった1台で正面から出てくれば、普通に考えらるのは?」
「投降・・・?」
「そう見せかけた上で強引に突破するのさ。未羽ちゃん、対戦車ライフルは?」
「ここにあった『カールグスタフ pvg m/42』を借りるとしよう」
「オッケー、紅蘭ちゃんは?」
「この縄鏢 (じょうひょう)が2対と手裏剣が、ざっと20本・・・」
「んじゃ、頼んだよ」
「運転は?」
「それはボクの仕事!」
「それだけなのか?」
些か不安な表情を見せるゼンエンスキーにヤミは微笑みながら言った。
「それが、〈チャリーンズ・エンジェル〉なのさ!」
その両脇で紅蘭と未羽も笑みを浮かべていたのである。
「さぁーて、タイムリミットも近づいてるしぃ!」
「行くか!」
「そうだな!」
3人は円陣になり左手の腕時計を合せる。
「船が待機しているのは、後1時間と6分。タイムリミットは66分、オッケー?」
紅蘭と未羽も黙って頷く。
「んじゃぁ、3・2・1。マーク!」
3人の腕時計が66:00秒からカウントダウンを開始した。
ブォオォォォンッ! ブォオォォォンッ!
正面ゲート前に待機した『ジープ・グラディエイター』のエンジンが唸った。
屋根はフレームだけとなったピックアップタイプである。
運転席にはヤミ、助手席には紅蘭が座り、後部座席にはゼンエンスキーと未羽が陣取っている。
「それじゃ、行くよ! ゲート、オープン!」
ヤミの合図で製鉄所の正面ゲートが開かれた。
「ん? 何だ?」
〈ナットウポリ製鉄所〉を包囲していた軍の指揮官が双眼鏡を持ち直した。
「車が1台だけ? 投降か?」
勝ち目のない戦いと思えば、投降する事も珍しくは無い。
まして、ゼンエンスキーは首都・〈ケール〉に居る事が証明されたのである。
ここで玉砕する事を良しとしない者が出て来るのは、当然の成り行きとも言える。
「投降するなら、攻撃はしないと伝えろ」
指揮官の命により、ロシア語を始め考えられる各国の言葉でその旨がスピーカーから何度もアナウンスされる。
「さぁて、何処まで近づけるかが勝負だねぇ」
ニヤリと笑うヤミ。
「投降者からの返答がありません!」
速度を上げながら直進してくるジープに指揮官の顔が硬くなった。
「投降で無いとすれば・・・、無謀過ぎるが。迎撃用意!」
投降と思っていたものが攻撃される可能性が高まったのである、慌てて迎撃態勢を取る為に車両を再配置しようとしたのだが――
「射程距離内! 未羽ちゃん、頼むよっ!」
「任せろっ!」
後部座席から立ち上がった未羽は、フレーム軸にして『カールグスタフ pvg m/42』を構え、スコープを除く。
キラリと反射したスコープの光をみた指揮官は慌てるが、直ぐに落ち着きを取り戻した。
(この距離で、しかも走行中の車に乗って発砲だと・・・。無謀過ぎる、当る筈が無い)
そう、確かに相手が未羽で無ければこの指揮官の判断は間違ってはいなかっただろう。
だが――
「敵車両による進路封鎖・・・。最初に撃つべきはっ!」
未羽の指が『カールグスタフ pvg m/42』のトリガーを引いた。
轟音と共に射出された弾は、敵軍用車のエンジンを的確に打ち抜く。
ドォーン!
大地を響かせる様な轟音と共に、エンジンを打ち抜かれた軍用車が大破し炎を上げる。
「次は、そこっ!」
ゆっくりと転身していた戦車のキャタビラが打ち抜かれ、身動きの取れなくなった戦車から搭乗員が次々と這い出して来る。
「対戦車ライフルだと! しかも、不安定な車上からこんな狙撃を成功させるなんてありえない!」
指揮官の驚きは最もである。
だが、そうしている内にも未羽は着実に敵車両を次々と使用不能にして行ったのである。
「進路確保! オールクリア!」
未羽の狙撃により進路を塞ぐ敵車両が動けなくなった事を見届けると、ヤミは更にアクセルを踏み込みジープを加速させる。
後部座席に立っていた未羽も、愛用の〈AI L96A1〉に銃を持ち代える。
次々と現われる敵兵へとスコープ越しに狙いを付けると、瞬時にトリガーが引かれる。
「うわっ!」
「ぐわっ!」
未羽は神業の様な速度と正確さで敵兵の太腿や肩を打ち抜いて行く。
(これは・・・。全て致命傷にならない様に?)
信じられないものを見ているかの様な表情を浮かべるゼンエンスキー。
「彼らも上官からの命令に従っているだけ。命まで奪う必要は無い」
ゼンエンスキーが何か言いたげなのを察知したのだろうか、未羽の口から独り言の様な言葉が聞こえた。
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