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第一幕・天使爆誕(後編-02)

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 ベレムビン宮殿を後にしたミラーナは迎えの車に乗り込むとスマホを取り出す。

「はい。仰る通りに・・・。えぇ、問題はありません」
先程迄の堂々とした態度とは打って変わって、相手の機嫌を損ねない様に気を使っているのが見て取れる。

「後の事は? ・・・承知致しました」
そう言うと通話を切る。

「通話の後ろで、何やら騒がしい音が聞こえたが・・・。あの方は何を考えているんだ」
果たしてミラーナが話していたのは一体誰だったのであろうか。



〈ナットウポリ製鉄所〉――

「それでどうやって大統領を脱出させるんだ?」
「入るには入ったが、出るのは至難の技だぞ」
紅蘭と未羽がヤミの顔を覗き込んでいた。


「簡単じゃーん。大統領は首都・〈ケール〉に居るって思わせたらいいじゃん。ね~、ゼンちゃん!」
ニコニコと笑うヤミ。

「確かに、ここに居ないと分かれば警戒も緩くなるだろうが」
「それでも、無条件に出て行ける訳じゃない」
「上手く海岸線へと脱出出来たとしても・・・」
「墨海艦隊・・・か」
「全くぅ、未羽ちゃんも紅蘭ちゃんも真面目だねぇ」
「どう言う事だ?」
「ヤミ、何を企んでいる?」
「細工は流流仕上げを御覧じろってね。よし、出来たよ!」
ヤミはノートパソコンにWEBカメラを装着し、ゼンエンスキーへと向けた。

「ゼンちゃん、笑って笑って」
ヤミに言われるがままにWEBカメラの前に立つゼンエンスキー。

「ほーら、こっち来て見てよ」
嬉しそうにパタパタと手招きするヤミに呆れ顔になった紅蘭と未羽がノートパソコンの画面を覗き込んだ。

「な、何?」
「こ、これは?」
2人が覗き込んだ画面には、首都・〈ケール〉の首相官邸前に立つゼンエンスキーの姿が映っていたのである。

「どう言う事だ?」
「合成画像?」
何度も画面とゼンエンスキーを見比べる2人。

「ふっふーん。普通の合成画像じゃないよ。〈ケール〉の首相官邸前の映像はボクが用意しておいた超高性能ドローンがリアルタイムで撮影してるんだ。それにここのゼンちゃんの画像をオートでコリレートさせているから見破るのは先ず不可能。更に・・・」
得意満面の表情を見せるヤミ。

「しかも、映像発信元のデータはドローンの現在地が表示される様にしているから、ゼンちゃんは〈ケール〉に居るって誰もが信じちゃうって訳さ」

「本当にそんな事が可能なのか?」
未羽は些か腑に落ちない表情を見せるが、その肩を紅蘭がポンっと叩いた。

「不可能を可能にする。それが、コイツだ」
「確かに・・・な」
顔を見合わせて笑う紅蘭と未羽。

「それで、これから何をするんだ?」
「そうそう、ここからが本番なんだよぉ。ゼンちゃんにここから演説して貰うよ」
「演説?」
「そう、全世界へ向けての一斉演説さ」
「それが何かに繋がるのか?」
「今を生きる事が、先々に繋がる様にね」
「成る程・・・」
しきりに頷くゼンエンスキー、どうやらヤミの意図を察した様である。

「原稿の準備してる暇ないから、ぶっつけ本番になるよ」
「その方が言いたい事が伝えられそうだ」
「さっすがゼンちゃん! 本番に強いのは変わってないね。んじゃ、行くよ!」

ヤミの指がエンターキーを叩くと、世界各国の国営放送がジャックされた。

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